#杉原千畝プロジェクト 第3弾 ブラック事務所撲滅のために
1. はじめに
「 #杉原千畝プロジェクト 」、すなわち、ブラック法律事務所から、可哀想な被害者であるイソ弁を救済するプロジェクトに関するエントリは、望外のご好評を頂いた。
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なんとか多くの人に知っていただき、一人でもアウシュビッツから解放される一助になりたいと、広報活動を行ったところ、ツイートを拡散していただいた。
その意味では、なんとかブラック事務所によるパワハラ被害者をなくしたい、という強い思いで、 #杉原千畝プロジェクト のアドバルーンを上げる、という目的が相当程度成功したので、大変嬉しいところである。
ただし、これは、逆にいうと、これほどブラック事務所問題は深刻だ、ということも暗示しており、法令を一番遵守すべき弁護士の業界で、なぜこんなにパワハラが多いのか、という本質的な問題に対し「紺屋の白袴」等と言ってお茶を濁すのではなく、いつか正面から切り込む必要があると感じたところである*1。
今回は第三弾として、第1弾、第2弾で伝えきれなかったブラック事務所対応の補足をエントリとしたい。
2.「引き継ぎがあるので」は死亡フラグ
ヤバイ事務所に入って一度は「辞める」と決めたのに、なぜか「ズルズル」辞められず「嵌る」タイプの人がいる。
そういうタイプの人の頭によぎるのは、「今すぐに辞表を書いたら、迷惑をかけるのではないか」「この依頼者を放り出せない」「内容証明を書くところまではやってあげた方がいいのではないか」等々である。
確かに、法曹になる人には、責任感ないし使命感が強い人が多い気がする。こういう「乗り掛かった船である以上、最後まで!」という強い思いは、まさにその意識の反映であろう。しかし、その責任感や使命感が命取りになりかねない。無責任に聞こえるかもしれないが、あえて言おう。
そんなの全てボスが考えることである。
イソがいなくなった後、どうやって事務所や案件を回すのか、というのはボスが考えることで、大体、①自分で引き取る、②残ったイソにやらせる、③友達の弁護士に頭を下げるで、なんとかなる。なんとかならなくてもボスの自己責任である*2。
どこかキリのいいところまで、という判断は、ある意味では「様子見」の判断である、このような様子見をしているうちに、事態をますます悪化していく。むしろ、「XXするまでは」というのは、ある種の「死亡フラグ」である。
内容証明を出すところまでやって、それから辞めよう
↓
返事が来た。反論をするまでやって、それから辞めよう
↓
交渉決裂だ。訴訟を提起するまでやって、それから辞めよう
↓
訴訟提起した。和解するまでやって、それから辞めよう
↓
和解できなかった。2ヶ月後の尋問自分しかできないからそこまでやって、それから辞めよう
↓
負けた控訴しないと/勝ったが控訴された
等々と貴重な時間が過ぎていく。裁判を控訴審までガチでやれば2年程度の時間が浪費されてもおかしくない。「辞めると決めたらさっさと辞める」これ以外にない。
3.「変わる」ことを期待するな!
例えば、ブラック事務所でブラックな仕事をして倒れたイソに、友人が「倒れるような事務所はダメだよ、早くやめなさい」と助言すると、イソが「確かにボスに問題はありますが、今回の件で反省して、少しは変わってくれると期待しています」みたいな世迷い言をいうことがある。今「世迷い言」と書いたが、これは決して誤記ではない。もう一度言おう。
世迷い言
である。むしろ断言してもいい。そんな、変わってくれるようなまともなボスなら、倒れるまで働かせないわけである。決してボスが変わってくれることを期待して、ブラックな環境で働き続けるようなことはしていけない。
(なお、ブラックボスが最初は「ブラック」だったのが、しばらくしてから「ダークグレー」の対応をすることで、「対応が良くなっている!」等とイソに思わせて、長く仕事を続けさせるというテクニックもあるそうである。すなわち、「間違った基準」を先にすりこみ、その後はその当初の基準よりもベターなら、「まし」だと思わせるというのは、ブラック事務所特有の「洗脳」というパターンである。)
4.条件明示の補足
第1弾と第2弾の内定辞の労働条件明示については、
という貴重なご意見をいただいた*3。私の意図としては、「可能な範囲」でいいと考えている。第1弾では、鬼舞辻法律事務所の内定という事例で、主要な労働条件を全て網羅したメールを「お礼メール」として送る例を挙げた。要するにこれをやったら内定取り消しになるだろう、という恐怖を感じている人もいるということであり、それ自体は理解できる*4。例えば、Lineで「会費事務所負担で月給40万円+年末ボーナスと理解しました。ありがとうございます!」とメッセージを1通送るだけでかなり違います。
つまり、ブラック事務所だと、事前に月40万で合意していても
・入所直前のもう他の事務所を選べないない時期に「30万円ね」という
・入所直後に「30万円ね」という
・サイレントで何も言わないのに、振り込み額が30万円
等というパターンがまま見られる。その際に、元々月40万であることを自認した上で、コロナ等何かの理由をつけて約束を破るパターンもあるが、シレッと
「えっ、40万だっけ? うちの事務所の新人イソは、昔から30万でやってもらってるよ。」
等と嘯くパターンが本当に存在するのである。。。
Lineで「会費事務所負担で月給40万円+年末ボーナスと理解しました。ありがとうございます!」とメッセージを1通送るだけで、このシレッと条件変更をしてくる輩を牽制することができる。
5.「ボスの期待に応えられない瞬間」がチャンス
ボスの期待とイソの実力の間にギャップがある、それは「当然」のことである。もちろん、0.1%くらいの超天才は、ボスの期待を遥かに超えてくる*5のであるが、そうではない普通の我々にとって、働き始めて数日以内に必ずこの、「ボスの期待に応えられない」というイベントが生じる。そしてその瞬間に「ボスの本性」が明らかになる。そう、ある意味では大チャンスなのである。
運良くホワイト事務所に入ると、期待に応えていないことがわかると、「それなら、どうすればできるようになるか」を考えて丁寧に指導してくれる*6。
これに対し、ブラック事務所では、
・暴力ー最悪
・怒鳴るー大声が出る
・キレるー(大声を出さないまでも、侮辱・罵倒等切れ散らかす。)
・見捨てるー放置する(重要な客の仕事を与えるのをやめて、安く受けた筋悪の事件を丸投げする等も含む)
等の対応が生じる。そう、うまくいくと「数日でブラックと見抜けるチャンスが来る」のである。
6.「自己肯定感」が鍵!?
このように、ブラックかどうかの判定は、そこまで難しくないはずである。また、むしろ就活のやりとりの中で既にブラック臭が漂ってくるところもある。例えば、事務所訪問の際にお茶が出るのが遅い等といって、秘書に電話でキレる弁護士がいれば、これは「他人にキレているところを見られて恥ずかしくない」ということで、それだけでブラック認定しても差し支えないところである。そういうところでなぜ働こうとし、働き続けるのか。この点はあくまでも仮説に過ぎないが「自己肯定感」が鍵の可能性がある。
自己肯定感が高い人であれば、「自分はいける」と思う。そうすると、怪しい事務所なら、そもそも内定を受諾せず、別の事務所を探す。ミスをしたことが原因でパワハラを受けても「自分は頑張っているのに、そんな酷いこというボスが悪い」と思える。そして、ヤバイと思えば「自分ならもっといい事務所に転職できる」と転職活動をして抜け出せる。
ところが、自己肯定感が低いと、ヤバそうなカヲリがする事務所でも、他の事務所で採用してもらえないだろうからと、内定が出たら受諾してしまう、働き始めてからパワハラを受けても、自分がミスをしたのだからとこの仕打ちもしょうがないと思い、しかも、転職もどうせうまくいかないだろうと抜け出せない。。。
このような分析をしたところで、単に「自己肯定感を高めればいい」といった簡単な話にはならないだろう。しかし、「被害者になりやすい」人がどういう人なのかを可視化することで、同期等にとって声をかけやすくなるとか、「嵌りやすい」人のパターンを先に知ることで少しは気を付けられる等の意味があるだろう*7。
7.「怒鳴らない」からパワハラではない!?
「怒鳴らない」からパワハラではない、という超解釈は、「新しい彼氏は私を殴らないの!」的な話であって、論外である。「怒鳴る」以外にもパワハラの方法は多数存在する。
例えば、「丁寧な口調で、淡々と、落ち着いて述べる」ものの、その内容が
・修習生以下の書面ですよね。
・弁護士というか法曹に向いていないと思います。
・こういうの読ませられる方の身になって考えてみてください、他人に苦痛を与えていることを自覚してほしいですね。
・下らない質問をするということは、他人の時間を奪っていることだ、ということすらご存知ないのですか。
といったものであれば、「パワハラ」である。
第一弾でも述べたが、「正当な指導」というのは、起案等の「成果物」に関してそれをどのように修正すべきか、そしてそれはどうしてかを説明するものである。「これではダメだ、直せ」という気持ちは「成果物」に向けるべきであって、それを作成者の「人格」に向ける、というのは、(そういう感情を持ちたくなることがあること自体は理解できるが、)令和の時代の指導方法としては不適格である。
第1弾から第3弾まで、色々なブラック事務所対策を述べてきた。これを参考にブラック事務所が撲滅することを切に願うが、ブラック事務所はしぶとい。また第4弾を書く日は近いのではないか、と考えているところである。