- 作者: 山口幸雄,難波孝一,三代川三千代
- 出版社/メーカー: 判例タイムズ社
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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この本の特徴は、事件類型ごとに「要件事実」「争点」「早期に確定すべき事実関係と提出すべき書証」「訴訟運営のポイント」等がわかりやすく説明されていることである。例えば「16歳なのに18歳と偽ったせいで解雇されたよどうしよう!」という場合には、懲戒解雇の問題になるが、第1章の地位確認等請求事件では、この類型について、どういうことを原告・被告双方が主張立証すべきかの「要件事実」を指摘し、さらに、典型的争点として、「解雇事由の存否」がよくあるよと指摘し、早期に「解雇の意思表示、解雇の理由」等を確定すべきだよと指摘し、訴訟運営上、例えば解雇期間中の賃金支払請求がある場合どうすればいいのか等について言及している。このため、本書は、労働事件の専門家の間においては、旧版の段階から非常に人口に膾炙していたということである。
さらに、新版では、労働審判に対応したのみならず、要件事実の基礎的な話しまでかかれている。これは、単なる労働法の専門家だけではなく、ロースクール生等にもわかるようにという趣旨なのだろう。
この本を読んでいて思ったのは、条文から要件事実を導く練習に使えるということである。第一回新司法試験の民事系第2問設問1*1等からわかるように、要件事実の問題が新司法試験では出題される。しかも、典型的な売買とか消費貸借ではない。すると、要件事実マニュアルを暗記して、全ての類型に対応する勉強が必要かとも思えるが、そんなことをしていたら、他の勉強の時間がなくなってしまう。だからこそ、未知の条文から、要件事実を導く練習が必要である。通説は法律要件分類説であり、「本文ならその効果を求める者が主張すべき、但し書きや附款は反対当事者が主張すべき」というのが基本なのだから、条文さえ見れば要件事実を導けるはずである。とはいえ、学説等が要件を加重したりすることもあるので、少し訓練が必要になる。その訓練の教材として適している。
本書には、各類型毎の要件事実のみならず、ブロック・ダイアグラムもついている*2。各類型について、労働法の条文(学説がわからなければ教科書も)を読みながら、考えられる請求原因・抗弁・再抗弁を組んでみて、それを本書に照らしてあっているかを確かめてみよう。これが、未知の条文から要件事実を導く訓練として適しているだろう。
「労働事件審理ノート」は、労働法の本としても優れているが、要件事実の練習としても優れている。労働法選択者はもちろん、要件事実関係を強化したい人にとっておすすめである。