アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

Ashitano Buddha!〜民法ガール第1話(司法試験平成18年)


本小説は、ライトノベルで司法試験問題を解説する「法学ガール」プロジェクトの一環として、民法の司法試験問題をAngel Beats!のSS(同人小説)によって解説するものです。元ネタである「Angel Beats! (AB!)」を未見の方は、「成仏」がキーワードとなるこの名作をぜひご覧になって頂きたいと存じます。
なお、

を拝読して、これまで何のつながりも感じなかった、AB!と司法修習の間のつながりを連想することができたことが、本小説につながりました。ありがとうございました。



他の「法学ガール」シリーズについては
法学ガール(◯法ガール)まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
参照。




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司法研修所グラウンド
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「あ、あれ?」


薄闇に包まれる中、僕はグラウンドに立っていた。ここはどこなのだろうか。いや、そもそも僕はいったい誰なのだろうか


血界戦線へ、ようこそ。」


 少女の声に、振り返ると、そこには、アニメの涼宮ハルヒの髪の毛を紫にしたようなセーラー服姿の少女が立っていた*1


 「せ、戦線って??」


 突然のことに混乱する僕に、少女は畳み掛ける。



「天使が、来る。」


彼女の指差す中層のアパート風の建物から、一人の少女が出て来てグランドの方に歩き出した。


「天使って?」


当然の疑問を尋ねると、目の前の少女は遠くを睨みつけながら吐き捨てる。


「敵よ。」


「敵って?」


「彼女はクラス連絡委員*2として、私たちに対し、司法修習生の本分に従って、2年間*3真面目に司法修習を受けさせようとしているのよ。」


そうか、僕は司法修習生だったのか。すっかり忘れていた。

 
「えっと、司法修習生なら、真面目に修習するのは当たり前なんじゃないのか?」


と、当然のツッコミを入れると、少女の顔から突然笑みが消えた。グラウンドから照り返す月明かりが少女の顔を下から照らす*4


成仏しちゃうのよ。私たちはもう死んでるんだけど、研修所で真面目に勉強していると、ある日突然消えちゃうの。」


死んでいる? 僕たちが、既に?


「おい、僕はまだ生きている。お前は何を言っているんだ。」


彼女の言う事が信じられない、いや、信じたくない。僕は彼女が「天使」と呼んでいる女性の方にかけ寄った。近くで見ると、長門有希の髪を長くした感じの子だ*5


「お前は、天使なのか? 僕はもう死んでいるなんて、嘘だろ。本当に死んでいるなら、それを証明してくれ。」


天使は、表情1つ変えなかった。


「私は天使じゃない、ただの人。あなたが死んでいるか否かは、死の定義による。三徴候説ならば瞳孔も動くし呼吸もしているから生きているけど、社会通念上ならもう死んでいる。自分の脈を取ってみればすぐ分かるわ。」



そう言われて手首の脈を取る。



「脈が、ない。。。嘘だっ!



頸動脈もない、心臓も。。。。ない!



「僕はもう死んでいるのか。。。」


意識を失う前にこう呟いたことと、天使が一瞬微笑んだように見えたことだけを覚えている。




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司法研修所本館
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ねぇ、即日起案さぼってとんでん*6に行こうよ!




 民裁の即日起案*7の問題が難し過ぎるので、合議でもしようと、喫煙所*8の近くに行くと、昨晩の少女に声をかけられた。昨日と同様セーラー服を着ていて、スーツ姿の修習生の中で悪目立ちしている。


「えっと、今って起案中じゃないの?」



「だ〜か〜ら、」



こう言うと、一瞬彼女が真剣な表情をした。



「あなた、消えるわよ。」


そうだった。真面目に起案なんかしたら、僕は消えてしまうのだ。


「じゃあ、起案用紙になんて書けば?」


「そんなの簡単よ。好きな声優の名前でも適当に書けばいいじゃない。」



それで成仏を免れるなら、そうするしかないかないのか。。。頭を抱えながら、彼女に手を引かれて研修所の門を出ようとすると、目の前に「天使」が現れた。その後ろにはムキムキの守衛5人を連れている。



「即日起案中よ。」


「天使」が無表情につぶやく。


「だから何? ロシア人妹侵入事件を思い出してご覧なさい*9、無能な守衛を何人連れても、私たちを止められないわ*10。」


威勢良く叫んだ少女は、僕の手を掴むと、一気に跳躍し、研修所の門を飛び超えた。


、だな」


と僕は誰にも聞こえない声で呟いた。



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とんでん
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平日の朝のとんでんには、僕たち以外誰もいなかった。


「今は起案が始まったばかりだから、まだ他のメンバーが来ていないだけで、本当はもっとたくさんメンバーがいるのよ。」


ちょっと恥ずかしそうに弁解する、少女。


「私はユリよ、戦線のリーダー。ゆりっぺって呼んでね。君の名前は?」


「僕の、名前?」


突然頭が痛くなる。あれ、僕はなんていう名前だっけ?? 



「まあ、いいわ。司法研修所は東京と埼玉の境界線上にあるわ*11正負双方のエネルギーが流れ込む力の均衡点、言って見れば「異界」ね。」



それを言い出すと、町田だって異界になっちゃうんじゃ。。。


「そこ、黙りなさい。」


気付かぬうちに声が出ていたらしい。


「神が死人をこの異界に集めて成仏させようとしている、これが私たちの仮説よ。そして、神の意向に沿って我々を成仏に導くのがあの「天使」よ。だから、戦線は、一致団結して、天使の活動を妨害しようとしている。」


「妨害って、まさか、手荒い事を?」


「まさか、法曹の卵がそんなことをするわけないじゃない。皆で無視したり、椅子に画鋲を置いたり、洗濯物を隠したりする*12だけよ!


「いや、それだけで十分ヤバイでしょう。」


「とにかく、私は神にたどりつきたいの。天使なんかに負ける訳にはいかないのよ!」






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司法研修所本館教室
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  民裁の即日起案の返却日。うちのクラスの民裁教官、岡田基二裁判官は閻魔大王のような表情をしていた。


「Aは立華カナデ、椎名、竹山の3人。」


教官の目線の先には「天使」がいた。あの子、カナデって言うのか。


「Bは20人、Cが21人。Dの5人は深く反省するように。そして、お前はE。立て、この起案は何だ!


突然僕は岡田教官に立たされた。


なんで起案用紙に声優の名前だけ100人分も書かれているんだ! こんなひどい起案は研修所初まって以来だぞ! 明日までにAレベルの起案を提出しないと、非違行為で罷免*13にするぞ。」


僕に声優の名前を書かせた「犯人」であるゆりの方を見たが、ジト目で「馬鹿ねぇ」という顔をするだけだった。適度に不真面目な答案を書いてDを取ったのだろう。


「とにかく、ふざけた事は絶対に許さないからな! 後、坂木しずかは千菅春香にしないと平仄が合わないぞ。」


岡田教官の最後の言葉はすごく小さい声だったが、僕にははっきりと聞き取れた。



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司法研修所食堂
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 成仏して消えるのも嫌だが、流石に罷免されてしまうのは困る。ただ、ゆりにA答案のコツを聞いても「不動産には即時取得を適用しちゃだめよ。」とか「猫の保管契約は猫を生きて返すことがその債務の本旨となっているわ。」といったよく分からないアドバイス*14しか返ってこない。


 頭を抱えながら、麻婆豆腐を一人でかき込んでいると、肩を叩かれた。振り向くと、そこには、白いブラウスに、胸の下から始まる黒いふわふわのスカートという、いわゆる「童貞殺し」の服を来た「天使」、カナデがいた。カナデは無言で、僕の麻婆豆腐を指差した。


「何だ? 自分も食べたいなら、注文しろよ。」


「売り切れ。」


ぼそっと呟くカナデ。


「じゃあ、半分こしようか。」



 いつも無表情なカナデの表情が一瞬だけ明るくなる。向かいに座ってハフハフと麻婆豆腐をかき込むカナデの姿に、この子にも可愛いところあるんだなぁと思いながら、ついつい服で強調される胸に目が行ってしまう。Angel Busts!だな。



「食べないの?」


とカナデに言われて気付く。お皿の上には、もうほとんど麻婆豆腐がなくなっていた。


「そういえば民裁起案Aだったんだってな、あんな難しい記録、どうやって起案するのか全然想像つかないよ。」


「要件事実に基づいて整理すればいい。貸して。」


そう言うと、カナデは僕の手元の記録を奪った。


〔第2問〕(配点:200〔設問1から設問4までの配点の割合は,4:4.5:7:4.5〕)
次の文章を読んで,以下の1から4までの設問に答えよ。
I 民事裁判実務修習中の司法修習生K(以下「K修習生」という。)は,配属先の裁判所で,Xが Yに対して提起した保証債務の履行を求める訴えの訴状等を検討して,以下の【メモ】を作成し た。なお,X,Y,A,Bはいずれも株式会社である。後記は,その内容に関する担当裁判官J (以下「J裁判官」という。)とK修習生の会話である。
【メモ】
1. Xは,平成16年9月13日,Aに対し,3600万円を次の約束で貸し付けた(以下,この消費貸借契約に基づくXのAに対する貸金債権を「本件貸金債権」という。)。
弁 済 方 法 等 平成17年1月20日,同年5月20日,同年9月20日及び平成1
8年1月20日に各800万円並びに同年5月19日に400万円 利 息年9%
遅延損害金 年14%期限の利益喪失 Aが前記弁済を1回でも怠ったときは,Aは当然に期限の利益を喪失する。
2. Aは,平成15年10月6日,Bとの間で,AがBに対して3年間継続して機械部品を販売する旨の契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,Yは,同日,Aとの間で,本件基本 契約に基づいてBがAから購入した機械部品の売買代金債務について,連帯保証する旨の契約 書を作成した。
3. XとAとは,平成16年9月13日,本件貸金債権を担保するために,本件基本契約に基づく将来の売買契約によって発生する代金債権をAからXに譲渡する旨合意し,その旨の債権譲渡登記をした。上記債権譲渡の際,XがAに対して譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは, Aに代金の受領権がある旨をも合意した。
4. Aは,Bに対し,本件基本契約に基づいて,平成17年6月14日に代金500万円で,同 年7月15日に代金1200万円で,同年8月10日に代金1500万円で,同年9月5日に 代金400万円で,それぞれ機械部品を売った。
5. Aが,上記1の平成17年9月20日にするべき弁済を怠ったため,Xは,Aに対し,同年 10月8日,譲渡担保を実行する旨の通知をした。
6. Xは,Bに対し,同日,債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて, 登記事項証明書を交付して通知をした上,上記4の売買代金の支払を求めたところ,Bは,こ れに応じなかった。
7. 平成17年11月下旬,Xは,Yに対し,Bの売買代金債務についての保証債務の履行を求 めたが,Yは支払わなかった。
8. Xは,Yに対し,保証債務の履行を求めて本件訴訟に及んだ。
【J裁判官とK修習生の会話】
J裁判官: 訴訟物はXのYに対する保証債務履行請求権ですね。保証債務の履行請求をするための請求原因事実は,一般的には,(ア)主債務の発生原因事実,(イ)保証契約の締結とされ ているので,本件では,(ア)AとBが売買契約を締結したことと,(イ)YとAとが保証契 約を締結したことになりますね。
AのYに対する保証債務履行請求権を,Xが取得して行使できることを基礎付けるための請求原因事実が何かを検討してみましょう。
K修習生: 債権譲渡担保の法的構成をどのように考えるかによって違いそうです。
J裁判官: それでは,あなたの考える法的構成を前提として,本件事案の契約について請求原因事実を考えましょう。 本件においてXA間で債権譲渡担保の契約を締結したとの事実はもちろん必要だとし て,そのほかにも要件事実として必要か否かが問題となる事実が幾つかありますが,そのうち,例えば,
1 本件貸金債権の発生原因事実
2 債権譲渡登記をしたこと
3 譲渡担保を実行する旨の通知をしたこと
4 債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて,登記事項証 明書を交付して通知をしたこと
が,それぞれXのYに対する本件請求の請求原因事実になるか否かについてはどう考え ますか。
〔設問1〕 あなたがK修習生であるとして,あなたの考える本件債権譲渡担保の法的構成を簡潔 に説明した上,J裁判官が示した前記1から4までの各事実がXのYに対する本件請求の請求原 因事実として必要か否かについて論じなさい。
III J裁判官は証拠調べを終え,平 成18年5月12日,口頭弁論を終結した。弁論終結後のある日,K修習生は,J裁判官との間 で以下のような会話をした。
J裁判官: 先日,本件証拠調べの結果,認定し得る事実の内容をレポートにして提出してもらい ましたが,なかなか頑張りましたね。一通り見せてもらい,適宜修正してみました。私 としては「認定事実の概要」のとおりの事実が認定できると考えています。
K修習生: 証拠から事実を認定するのもなかなか難しいですね。
J裁判官: そこで,次に,この事実が証拠上認められる事実であるとして,証明責任の所在は考慮しないで,実体法的観点から検討してみてくれませんか。
【認定事実の概要】
1. Xはいわゆる総合商社である株式会社,Aは機械部品の製造販売を目的とする株式会社,Y は大型機械の製造販売を行う株式会社,Bも同種の中型・小型機械の製造販売を行う株式会社 で,YはBの親会社である。もともとAとYとは,Aが製造販売する機械部品をYに販売する という取引関係があった。
2. Aは,Yからの紹介を受け,Bとの間でもAが製造する機械部品を売買することになった。 しかし,AにとってBは初めての取引先であり,いまだ信用が不十分であったこともあり,親 会社であるYがBの売買代金債務を連帯保証することとされた。
そこで,Aは,平成15年10月6日,Bとの間で,継続的に機械部品を売買する契約を締 結した。契約期間は3年間とし,機械部品はBからの発注後1週間以内に納品し,代金は納品 の3か月後に支払うものとされた。AとBのそれぞれの代表取締役が同日に上記内容の基本契 約書に署名押印した。その際,上記基本契約に基づく売買契約によって生ずるBのAに対する 売買代金債務について,Yがこれを連帯保証するとの合意がされ,Yの代表取締役が上記基本 取引契約書の連帯保証人欄に署名押印した。
AとBとの間の機械部品の取引は,以後概ね一月に1回行われたが,取引額は300万円か ら2000万円くらいまで様々であった。Aは,契約どおり,Bからの発注後1週間で注文さ れた機械部品を納品し,Bも納品の3か月後には約定どおりAに代金を支払ってきた。
3. Xは,Aから運営資金の融通を依頼され,前記I【メモ】1記載のとおり,Aに対し,平成 16年9月13日,3600万円を,利息年9%,遅延損害金年14%とし,5回の分割返済 (1回目から4回目までは各800万円,5回目は400万円,1回目は平成17年1月20 日,2回目は同年5月20日,3回目は同年9月20日,4回目は平成18年1月20日,5 回目は同年5月19日,利息は各分割金の支払期日にそれまでの利息を支払うものとし,Aが 分割金の弁済を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を喪失するものとする。)の約定で, 貸し付けた。
そして,Aは,Xとの間で,前記I【メモ】3記載のとおり,平成16年9月13日,上記 借入金債務を担保するため,上記A・B間の機械部品の継続的売買契約の契約期間中これに基 づく売買契約によって将来生ずべきAのBに対する売買代金債権をXに譲渡する旨の契約を締 結し,A及びXはその旨の債権譲渡登記をした。なお,本件譲渡担保契約では,XがAに対し て譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは,Aに代金の受領権がある旨の合意がされた。
Aは,Xに対し,平成17年1月20日と同年5月20日にはそれぞれ元金800万円を支 払うとともに,それまでの利息も支払った。
4. Aは,上記2の契約に基づいて,さらに合計4回にわたって,Bに対し,機械部品を代金合 計3600万円で売った。前記I【メモ】4記載のとおり,第1回は平成17年6月14日に代 金500万円(同月21日に機械部品引渡し),第2回は同年7月15日に代金1200万円(同 月22日機械部品引渡し),第3回は同年8月10日に代金1500万円(同月17日機械部品 引渡し),第4回は同年9月5日に代金400万円(同月12日機械部品引渡し)であった。
5. Aは,平成17年に入ったころから業績が思わしくなくなっていたが,上記のとおり同年5 月20日にXに元利金を支払ったものの,そのころから資金繰りが苦しくなり,Bに対して機 械部品を売却するたびに,生じた代金債権をすべて金融業を営むZに売り,代金を得て事業資 金に充てざるを得なくなった。
すなわち,同年6月14日付売買契約に基づく代金債権500万円については,同年7月8 日代金450万円で,同年7月15日付売買契約に基づく代金債権1200万円については, 同年8月1日代金1000万円で,同年8月10日付売買契約に基づく代金債権1500万円 は,同月20日代金1200万円で,同年9月5日付売買契約に基づく代金債権400万円は, 同月12日に代金200万円で,それぞれZに売却した。そして,Aは,Bに到達した各内容 証明郵便(順に同年7月11日,同年8月3日,同年8月22日,同年9月14日到達)で各 債権譲渡の通知をした。
6. Bは,上記合計3600万円の売買代金債務のうち,第1回売買分500万円については, 平成17年9月21日,Zに弁済した。また,第4回売買分400万円については,AからZ への債権譲渡の内容証明郵便の送付を受けた後,同年9月22日,Zから受けた電話に対し, 特に何も考えないで特に何の留保もせずその譲渡を承諾した。
7. Xは,Aが平成17年9月20日に支払うべき借入金の分割金800万円を支払わなかった ことから,Aに対し,数回にわたりその支払を催告したものの,Aの担当者からもう少し待っ てほしいとの言い訳しか得られなかったため,同年10月8日到達の書面で,Aに対し,譲渡 担保を実行する旨の通知をするとともに,併せて,同日,Bに対し,AのBに対する4回分の 売買代金債権すべてについて,債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことを債権 譲渡登記の登記事項証明書を交付して通知した(前記I【メモ】5及び6記載のとおり)。
8. ところで,第4回売買(代金400万円)については,BはAから目的物である機械部品す べての引渡しを受けたものの,売買目的物に直ちに発見することができない瑕疵があり,しか も,その瑕疵は,商品としての価値自体を失わせるような重大なものであった。Bは,第4回 の売買の商品の納入後1か月程経って,この瑕疵に気付き,平成17年10月19日,Aに対 して第4回の売買契約を解除するとの意思表示をした。
〔設問3〕 あなたがK修習生であるとして,
1XA間の法律関係を検討し,
2Xは,Y及びZに対し,それぞれどのような請求をすることができるかについて,それぞれ金額を明示して論じなさい。なお,利息及び遅延損害金(遅延利息)の問題は省略してよい。

「これは長いなぁ。。。」



「研修所の記録という意味では大したことはない。設問1の範囲では、登場人物は原告Xと被告Y、そしてAとBのわずか4人XがAにお金を貸した。Xは、AがBに対して持つ売買代金債権をAから譲渡担保として譲り受けた。この売買代金債権にはYの保証がついていた。それだけの話。」



どこかから紙とペンを取り出してさらさらと4者の関係を図解したカナデ。



「この紙とペンってどこから!?」



ヒラヒラした服に武器を隠すのは戦いの常道。



「え?」


まじまじとカナデの姿を上から下までみつめてしまう。


「口が滑った。訴訟物は?」


カナデは少し恥ずかしそうにうつむいて、話題を変えた。


「保証債務履行請求権」



「正確に。AとYの間の根保証契約に基づく保証債務履行請求権。XとYの間には根保証契約はない*15。」


「確かに。」


「ブロックダイアグラムを作る。まずはKgから。」


「ケー、ジー?」



「ドイツ語だとカーゲー、請求原因のことね。」


「その、請求原因って?」


「まさか、記憶喪失?」


「そうだけど、悪いかよ。」



「これ、読んで。」


要件事実入門

要件事実入門



帯に岡田教官によく似たマッチョな男性の姿が描かれた本を渡される。


「これは!」


要件事実の本質が、分かり易い言葉とマンガによって頭の中にすっと入って行く。ワクワクして心がせり上がっていく。
 要件事実論の前提は、裁判規範としての民法である。つまり、「大前提→小前提→結論」という法的三段論法でいうと、民法等の規定が裁判官に対して与える「裁判においてどのように裁くべき」かという準則が大前提を提供し、裁判において小前提としての事実が証明されると、それに基づき結論(判決)が出て、判決が確定することで法律効果が発生するという考え方である*16。そして、だからこそ、大前提である裁判規範に証明責任を組み込んで民事裁判の効率化を図ることができる。そして、それぞれの当事者が自分が立証責任を負う法律要件についてのみを自己の大前提として攻撃防御方法を展開するのだ*17


「そういうこと。例えば無権代理人に対する損害賠償請求(民法117条1項)でいう、『代理権を有していなかったこと』という要件は、実体法上の要件ではあるけど、原告が主張立証する必要はなく、代理権の存在をむしろ被告側が主張立証する必要がある。」


カナデが具体例で僕のいいたいことをまとめてくれる。


「そうか、要件事実でいう、請求原因(Kg)→抗弁(E)→再抗弁(R)→再々抗弁(D)→再々々抗弁(T)は、こういう裁判規範としての民法に基づいて当事者の攻撃防御方法を整理しているってことか。」


エロ童貞*18


「えっ?」


まさか、さっき胸をジロジロ見ていたのを気付かれたか?


独り言。とにかく、第三者と被告の間の根保証契約に基づく保証債務履行請求権を主張するためには、何を主張すればいい?」


「訴訟物である保証債務履行請求権の発生原因事実と、Xへの移転。」


カナデがさらさらと

1 根保証契約の成立
2 1の主債務の発生原因事実(AとBとの間で、機械部品の売買契約の成立)

と書いていく*19


あ、そうか。やっと問題の位置づけが分かってきたぞ。


「後半の、『Xへの移転』の部分が設問1の債権譲渡担保の話ってことか。」



「そう」


明るくなった僕の顔を見て、カナデの声も幾分か明るさを帯びる。


「債権譲渡担保って、確かいろんな類型があったような気がしたけど、よく覚えていないなぁ。」



「一定の事由が発生した時点で債権譲渡の効果が発生する停止条件型、債権譲渡の予約を内容とする予約型がある*20。」


「あれ、問題文には『本件貸金債権を担保するために,本件基本契約に基づく将来の売買契約によって発生する代金債権をAからXに譲渡する旨合意し,その旨の債権譲渡登記をした。』つまり基本契約締結と同意に、譲渡担保契約を締結し、当該譲渡担保契約時に、将来債権を含めて、『本件基本契約に基づく債権』を一括して譲渡しているんだけど*21、これは、停止条件型でも、予約型でもないような。。。」



「いわゆる本契約型。将来債権の譲渡も債権が明確に特定されていれば有効(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁)であるところ、本件では、『本件基本契約に基づく債権』という形で特定がされているから、このような債権譲渡担保契約も有効。」


そうか、第三の類型かぁ。


「そうすると、それを前提に、(1)本件貸金債権の発生原因事実、(2)債権譲渡登記をしたこと、(3)譲渡担保を実行する旨の通知をしたこと、(4)債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて,登記事項証明書を交付して通知をしたことの4つが請求原因事実になるかを判断すればよいのか。」



「うん、債権譲渡担保契約の成立による債権移転の要件事実は?」



「えっと、譲渡担保契約は絶対必要だよね。後、担保だから被担保債権(債務)、本件でいうと貸金債権(債務)の成立が必要。」



「要件事実的に言うと、債務の発生原因事実と、これを被担保債務とする債権譲渡担保契約の成立となる。これで全て?」



カナデは几帳面な字でブロックダイアグラムにさらさらと書き込んで行く。


「う〜ん、なんか足りない気がするなぁ。」


「譲渡担保の目的物は有体物?」


このヒントで分かった。


「そうか、担保のために譲渡された債権の発生原因事実を主張しないと、いけないのか。」



「3600万円の貸し付けと、これを担保にするための将来の売買代金債権を譲渡する旨の約定を主張しただけでは、契約後口頭弁論終結時までに具体的に発生し、(譲渡担保契約に基づき)原告に譲渡された売買代金債権が具体的に何かが分からない。これでは、保証債務履行請求権として具体的にいくらの請求権が発生したかが不明になる。」


 カナデは、こう言いながら

3 債務の発生原因事実
4 3を被担保債務とする債権譲渡担保契約の成立
5 4により譲渡される債権(本件売買代金債権1〜4)の発生原因事実


 といわゆる簡易ブロックダイアグラム*22の形式でメモをする*23。本件売買代金債権1が500万円の、2が1200万円の、3が1500万円の、4が400万円の債権だ。



「あれ、そうすると、(1)は必要だけど(2)〜(4)は不要ということで終わりなのかな? でも、問題文には『上記債権譲渡の際,XがAに対して譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは, Aに代金の受領権がある旨をも合意した。』とあるなぁ。」



司法研修所の起案はそんなに簡単にはいかないだろう。



「記録に現れている事実の中には、要件事実的に意味がある事実と、意味がない事実がある。意味がある事実だけを取り上げて整理するのも法曹としての能力。」


顔色一つ変えないでカナデはこう言うが、それって、僕のこと整理能力がないってディスってるってことだよね?



「えっと、確か最高裁判例があった。この受領権に関する合意はXA間の内部的合意に過ぎず、債権譲渡自体は契約時に確定的に効果が発生するというもののはず*24。」


「そう、だから、設問1は(1)のみが必要で、(2)〜(4)は不要。」


おお、思ったより簡単に正解が出た。



「じゃあ、設問3は、各債権につき抗弁以下を検討すればいいのか。要件事実の枠組みで検討すると理解が容易になるね。」



「大事なのはフレームワーク。美味しい麻婆豆腐のフレームワークができれば、麻婆茄子にしても美味しい。」



何か分かったような、分からないような。。。



「まずは、この売買代金債権はZに売ってしまったという主張だけど、いわゆる二重譲渡の話だよね。」



三者対抗要件具備の抗弁



カナデが要件事実論の用語に直してくれる。


「そうそう、AZ間の本件売買代金債権の売買契約の成立と当該債権譲渡につき第三者対抗要件を具備したことを主張すると、Zが確定的に債権者となってその結果Xへの債権の移転の効力が否定されるという抗弁になるはずだね*25。」



カナデは

1 AZ間で本件売買代金債権1〜4の売買契約の成立
2 1の債権譲渡につき第三者対抗要件具備

とメモをしていく*26


「この抗弁につき再抗弁は?」


カナデの質問にハッとする。


「そうか、Xも登記をしているから、これが第三者対抗要件になる。そしてZの通知よりXの登記が早いから、Xが勝つってことか*27。」


カナデは無言で、

1 Xへの債権譲渡につき第三者対抗要件具備

とメモをしていく*28


「再々抗弁以下は?」



カナデの声にもう一度問題文を見る。


「通知以外に『承諾』があるけれども、これも登記より後の話だから特に法的な意味はない。二重譲渡の関係では、これで終わり。つまり、再抗弁が証明されてXが勝つということだ。」


カナデがこくりと、うなずく。


「次が、本件売買代金債権1に関する弁済の抗弁だ。要するに、YはZに弁済したから債務は消滅したってこと。」


カナデは、

1 ZA間で本件売買代金債権1の売買契約の成立
2 BがZに本件売買代金債務1の弁済をしたこと

 と書き込む*29


「再抗弁は?」



う〜ん、ここが困ってしまう。


「Xは登記を既に経ているから、Zに優先するよね。そうすると、第三者対抗要件具備が再抗弁になるのかなぁ?」


馬鹿。」


カナデのキツい一言。



「じゃあ、どう考えるんだよ。」



対抗要件にも種類がある。」


あっ。カナデの言葉で記憶が溢れ出す。



「そうか、登記は第三者対抗要件今問題となっているBの弁済は債務者対抗要件の問題だ。そうすると、債務者対抗要件である通知がBに来たのは10月8日。そして、7月11日の通知を受けて9月21日に弁済しているから、債者は有効にZに弁済することができる。あれ、そうすると、この500万円ってXは第三者対抗要件を経ているのに回収できないのか。」


「BやYから回収できないというだけ。後はZに対し、第三者対抗要件において劣後しており、Bから回収したのは不当利得だとして返還を求めるべきことになる。」


カナデの説明は明快だ。


「最後は瑕疵担保責任による解除の抗弁か。隠れた瑕疵があって、解除すると意思表示したことだ。」


カナデは、

1 当該売買契約の締結時に、その目的物に、通常人の普通の注意では発見できない隠れた瑕疵があったこと
2 解除の意思表示

 と書き込む*30


「債務者は、債務者対抗要件備前*31に債権譲渡人に対抗し得た事由を譲受人にも対抗できるから(民法468条2項)、Yはこの抗弁を主張できる。」


カナデの説明するこの話は、いわゆる民法の知識だな。


「そして、今回解除の主張は債務者対抗要件具備後にされているが、民法468条2項の趣旨からは、解除原因が対抗要件備前に発生していれば、その事由を譲受人にも対抗できると解すべきであり、再抗弁は成立しない。つまり、本件売買代金債権4についても、XはYに請求できない。まとめると、本件売買代金債権2と3はYに請求できるが、1と4は請求できず、請求できる金額は2700万円だ。」


「よく整理できたわね。」


カナデが嬉しそうだ。


要件事実の勉強って、面白いかも。


人生で初めて、そう思えた。


「そう。じゃあ、一生懸命勉強して、一緒に成仏しよっ!」


カナデは、これまでで一番の笑顔で、これまでで一番物騒なことを言い放った



第一話完

*1:これは、別に作者の妄想ではなく、元ネタのAB!のキャラクター設定が本当にこんな感じなのです。

*2:【なぜなにAB!】説明しよう! クラス連絡委員とは、司法研修所(当局)と司法修習生の間の連絡を受け持つ重要な役割を果たす修習生である。しかし、クラス連絡委員が修習生を組織して当局と対立することを避けるため、全修習生に交代で連絡役を務めさせることになってしまった。この物語では、一応その弱体化前のクラス連絡委員を前提としているのだ。

*3:【なぜなにAB!】説明しよう! 現在司法修習は1年間だが、これは、2年→1年半→1年4ヶ月→1年とどんどん短縮された経緯がある。2年修習だった頃は、修習は牧歌的で楽しかったと聞く。

*4:まるで法の光が世の隅々を照らすように。

*5:これも、別に筆者の趣味ではなく、元ネタであるAB!のキャラクター設定がこうなのです。

*6:【なぜなにAB!】とんでんとは、埼玉県和光市に実在するレストランである。研修所から近い。「戦線」の作戦本部の設定である。

*7:【なぜなにAB!】即日起案とは、朝から晩まで長い記録を読んで、質問に答えるという非常に大変なテストのようなものである。一応意見交換は禁止されている。

*8:【なぜなにAB!】意見交換は禁止されているが、二回試験と違って監視は緩い。だから、喫煙所等で「合議」をすることができる。しかし、合議のメンバーだけが変な回答を書く等弊害も多い。誰と友達になるかが勝負だ。なお、とりあえず、全員タバコは吸っていない設定です。

*9:今週のなぜなにAB!は事情によりお休みです。

*10:【なぜなにAB!】実際には守衛さんも含めて司法研修所のスタッフ様は頑張って研修所の平和を守って下さっている。ユリのような態度を取ってはいけないぞ!

*11:【なぜなにAB!】説明しよう! 研修所は和光市に存在するが、研修所のすぐ隣は東京都練馬区大泉学園である。本文中では格好良く描写されているが、違う側面から見ると、大泉学園駅からも、和光市駅からも遠いということ。元は湯島にあったが、そこも湯島天神の近くの「気」が集まるところだった。

*12:【なぜなにAB!】説明しよう! 天使はいずみ寮に住んでいる。女性階のランドリーはもちろん男子禁制。

*13:【なぜなにAB!】説明しよう! 司法修習生が罷免されると大変なことになる。ある修習生は実務修習中に犯罪を犯して罷免され、予備校講師に転身したそうだ。

*14:http://www.moj.go.jp/content/000036356.pdf参照

*15:岡口基一「要件事実問題集」397頁

*16:この点については、岡口基一「要件事実入門」30〜31頁参照。

*17:岡口基一「要件事実入門」32頁参照

*18:岡口基一「要件事実入門」18頁

*19:岡口基一「要件事実問題集」398〜399頁参照

*20:岡口基一「要件事実問題集」399頁

*21:岡口基一「要件事実問題集」399頁

*22:事実摘示の形で書く方がポピュラーと思われる。岡口基一「要件事実問題集」404頁参照

*23:岡口基一「要件事実問題集」399頁参照

*24:最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁

*25:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*26:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*27:岡口基一「要件事実問題集」402頁

*28:岡口基一「要件事実問題集」402頁。なお、債権譲渡登記がされた日を主張することになるので、優先関係が事実上現れることから、あえて「先」に対抗要件を具備したとの主張は不要である。同上。

*29:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*30:岡口基一「要件事実問題集」401頁参照

*31:この前後関係は再抗弁に回る

民訴ガール第14話 全国大会のサバイバル 平成24年その2

民事訴訟法の論争

民事訴訟法の論争



模擬裁判全国大会は、一応東京で開催されることになっているが、地理的には都内ではない。法務省総合センター、旧司・予備試験の口述試験会場で行われる。会場には、全国の高校の応援団が集まって熱気に溢れている。その中でも、深い色のワンピースのセーラー服の少女達が集まった星海学園の応援団は異色を放っていた。


全国大会のレフェリーは、日弁連副会長、民事訴訟法学会長、そして、最高裁判事と、大御所が揃う。


「では、一回戦、星海学園対祥鳳高校! 先攻は祥鳳高校」


有名な民事訴訟法の教授がレフェリーとなって、開会を宣言する。


祥鳳高校は、東京の強豪男子校だ。層が厚く、出場者は三年生、しかも全員予備試験合格者をそろえている。


「予備試験受験生が司法試験合格しか考えていないわけでも、その勉強しかしていない訳でもないことを証明してみせましょう!」


スポーツ刈りの男子の声に、黒の学ランで固めた祥鳳高校側の応援団が湧く。

【事例(続き)】 第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請 求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結について の代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。
第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結することについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件となる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。
同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,C は,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。
Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結した ことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして, Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。
〔設問2〕
訴訟2においてBが,
1CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,
21の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと
,を主張した場合において,Cは,上記1又は2の各事実を否認することができるか。 Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考えられる法律上の主張とその当否を検討せよ。
【事例(続き)】 以下は,訴訟1の判決が確定した後に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にBに敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこ で,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避ける ため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるため の制度があることを知っていますか。
修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。 弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある
共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告 が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案 ではどうなるでしょうか。
(事案)
XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債 務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判 の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,B に対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。
〔設問3〕
同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ, 原告の「両負け」を避けることができるか。上記(事案)の第一審の判決に対し,1Cのみが控訴 し,Xは控訴しなかった場合と,2C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範 囲との関係で論じなさい。
【資料】
金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書
住 所 ○○県○○市・・・(略) 貸主X印
住 所 ○○県○○市・・・(略) 借主A印
住 所 ○○県○○市・・・(略) 連帯保証人 B 印
1 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。
弁済期 平成○○年○月○日
利 息 年3パーセント(各月末払)
平成○○年○月○日
損害金 年10パーセント
2 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,元利金を一時に支払わなければならない。
(1) 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき
・・・・(略)

3 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務を負う。


「さあ、お答えを頂きましょう! Cは否認できるのか。」



「まず、第1訴訟でBはCに対して訴訟告知(民事訴訟法53条)をしているので、参加的効力が発生します(同法53条4項、46条1項)。」


志保ちゃんが指摘する。


「補助参加というのは、例えば保証人が債権者から訴えられた時に、主債務者も訴訟に参加して、『もう弁済した』等と主張して保証人を助けるということですね。ここで、保証人が負けた際に、主債務者に求償した場合に、また『もう弁済した』と言われてまたこの点について争わないといけないというのは不当です。一度参加をして争って敗訴した以上、その公平な責任分担*1として、前訴で確定された事項について争うことができなくなる。このような、主たる当事者が敗訴した場合において、補助参加人(被告知者)の法的地位の前提となる訴訟上の事項について生じる効力*2が参加的効力(民事訴訟法46条)です。このような趣旨であることから、既判力のように、判決主文に記載された事項に限られず、参加人(主債務者)と被参加人(保証人)との間の紛争解決に必要な事項*3、例えば、この事案なら主債務が発生し、消滅していないこと等について拘束力が及ぶと解されています。」


沙奈ちゃんが議論を展開する。


「それを前提とすると、BとCの関係はどうなる?」


柔道選手のようなガッチリした肉体の男が尋ねる。



判例は、主文中の判断の前提として判決理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶ(最判昭和45年10月22日民集24巻11号1583頁)とするものの、そこには当然限界があるわ。訴訟告知により効果が生じるのは、参加をする機会が与えられたのにそれを尽くさなかったことにより生じた不利な判断を蒸し返すのは信義則に反するという趣旨によるわよね。そうならば、そのような告知がされた段階で予測可能な範囲*4、つまり、判決の主文を導きだすために必要な主要事実に係る認定及び法律判断について及ぶのであって、それ以外の傍論には及ばないと考えるのが相当ね(最判平成14年1月22日金判1645号49頁)。訴訟1では、表見代理が認定されたので、以下の表見代理の各主要事実が認定されたものと解されるわ*5。」




五月ちゃんがさらりと答える。

(1) XA間における貸金返還債務の発生原因事実,
(2) 代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),
(3) (2) の際に、Xが、代理人Cに(2)の代理権があると信じたこと
(4) (3)につき正当な理由があること
(5) (2)の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,賃貸借契約締結についての代理権を授与したこと
(6) (2) の保証契約が書面によること及び
(7) (1) の貸金返還債務の弁済期の到来


「第2訴訟でこれに反する事実をCが主張することはできません。だから、『CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと』については、参加的効力が及びます。」

律子ちゃんが続ける。

「それでは、『保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと』について、参加的効力は及ぶんでしょうか?」

眼鏡の男が尋ねる。


「この点は、代理権の不存在を表見代理の実体要件と見る見解もありますので*6、その見解によれば、この点についても参加的効力が及ぶことになります。しかし、通説・実務は、有権代理・表見代理・追認は全て代理の効果発生として等価値であり、代理権の不存在は実体要件ではないとします*7。」


「そうすると、保証契約の締結については、参加的効力が及ぶということですね?」


だめ押しをするかのように、スポーツ刈りの男が聞く。


「その手には乗らないわ。もう1つの視点は、本件では、参加的効力が認められる基礎があるかってことよね。本件では、有権代理ならば訴訟2でCが勝ち、無権代理であれば訴訟2でBが勝つという関係にあり、Bとは対立関係にあるところがその特殊性よ。このような対立関係にある場合には、補助参加が期待されておらず、参加的効力を及ぼすべきではないのではなくて*8?」


会長は、どうも一枚上手のようだ。



「訴訟告知をされて参加をしなかった。これは権利放棄であり、欠席判決と同様に扱うべきだろう。」


柔道選手のような男が唸り声を上げる。



憲法は裁判を受ける権利を定めています。それを逆から言うと、国民は応訴する義務を負います。だから、欠席判決もやむを得ないと思うんです。でも、訴訟告知については、その目的は補助参加の機会を与えるためのものです。そしてこの補助参加というのは、『当事者の一方を補助するため』の参加を(民事訴訟法42条)をするためのものです。」


沙奈ちゃんが議論を展開する。


「告知者と被告知者の間の利害が対立している本件では、Bは『無権代理だ』と主張し、Cが『有権代理だ』と主張することになるわね。こういう抵触行為をすることを目的として参加するのは、補助参加の本来の姿なのか、大いに疑問ね*9。 だから、BとCの間に利害が対立しているならば、参加的効力を及ぼしてはならないという議論には十分に説得力があります。」


五月ちゃんが議論を羽ばたかせる。



「ここまで。それでは、攻守を交代して下さい。」


レフェリーの一言で折り返し点に来たことがわかる。



「まずは、同時審判申出による共同訴訟とは何かについて、説明してもらおうかしら?」


五月ちゃんがジャブから入る。


「そもそも、講学上、被告の一人に対する請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として、別の被告(予備的被告)についての審理及び判決を求める、主観的予備的併合が主張されていました*10。しかし、最高裁はこれを否定*11してしまった。でも、主観的予備的併合の必要性自体はなくならない。このような状況を踏まえ、その手続上の困難をできるだけ解消し、実体法の予定する救済形式をできるだけ訴訟手続上の反映するための立法上の工夫として設けられた制度が同時審判申出による共同訴訟です*12。」


スポーツ刈りが滔々と述べる。



「本当に主観的予備的併合は死んだ、のかしらね?」


五月ちゃんがにやりと笑う。


「ど、どういう意味だ?」


道家が顔を赤らめる。



「主観的予備的併合を禁止する最高裁の立場に批判的な学説があるばかりか、下級審でも、最近主観的予備的併合を認めたものがあります。例えば、東京地判平成24年1月13日は、解雇後の事業譲渡の事案で、労働者が、主位的に譲受先、予備的に元の勤務先に対して立てた請求を適法としています。これによって、両負けを防ごうとしています。」


志保ちゃんが説明する。





「でも、元の勤務先は被告ではあるが、自分についての判断がされるかは、譲渡先との間の訴訟の結果次第だ。こんな不安定な地位に立たせる訳にはいかないだろう。」


眼鏡が指摘する。


最高裁が主観的予備的併合を否定したのは主にこの点を根拠としているわ。でも、実はそんなに重要な問題ではないという学説の批判は根強く、下級審判決も一部は学説にシンパシーを感じているわね*13。ただ、立法は、主観的予備的併合の代わりに、当事者の申し出により、2人の被告との間の裁判を分離してはいけないとすることで、事実上『両負け』を防ごうとしている、これが同時審判申出による共同訴訟ね。じゃあ、控訴によってどうなるのかお聞きしましょうか。」


五月ちゃんが指摘する。


「まず、双方が控訴された場合には、併合されます(民事訴訟法41条3項)。でも、一方しか控訴されない場合が問題になります。この場合、共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)により、Bとの関係での敗訴が確定し、Cとの関係だけが控訴の移審効と確定遮断効によって控訴審で争われるので、もし、控訴審が、代理権があったとしてCを勝たせると、『両負け』になりますね*14。」


スポーツ刈りが答える。


「それは、ひどいです。Xはどうすればよかったのですか?」


律子ちゃんが思った事を自然に口に出したようだ。


「対策は1つある。Xの方でBに対して控訴をしておいて、もしCが控訴しなかったら、Bへの控訴を取り下げる*15ってことだ*16。」


道家が野太い声を出す。


「自分で印紙代を払って訴訟を起こさないといけない、そんな結論でやむを得ないのかな。」


沙奈ちゃんも疑問を持ったようだ。


「この点は、客観的予備的併合の判例との整合性という観点から整理できるでしょう。客観的予備的併合は、複数の請求に順位を付け、第一次請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として、第二次請求(予備的請求)について審理及び判決を求める併合形態です*17最判昭和58年3月22日*18は、主位的に立替金、予備的に不当利得金を請求した事案になります。第一審は、主位的請求を棄却し、予備的請求を認容しました。ポイントは、控訴したのが被告側だけで、原告側は控訴しなかった、つまり、不当利得でもなんでもお金がもらえればそれでいいと考えたのです。そうしたら、控訴審は、原告は控訴していないんだから、主位的請求は控訴審の判断の対象にはならず、予備的請求だけを判断するといって、不当利得はないからといって原告敗訴の判決を下しました。最高裁はこの控訴審の判断を是認したのです。結局、本件のXも、BでもCでもお金をもらえればいいと思って、Bに対する関係で控訴しなかったのですから、控訴審の判断の対象はCだけになっている以上、Cについて負けたら両負けというのは、ある意味しょうがないのではないでしょうか*19。」



スポーツ刈りがすらすらと述べる。

「ふ〜ん、皆様は、附帯控訴民事訴訟法293条)をご存知なくて? 昭和58年最判の事案は、原告は、雲行きが怪しくなったらば、控訴審の『口頭弁論の終結に至るまで』いつでも附帯控訴できたわ。昭和58年最判の事案の結論を正当化できるのは、漫然と附帯控訴を怠った原告の自己責任といえるからに過ぎないのではなくて。同時審判申出による共同訴訟制度では、あくまでも共同訴訟人独立の原則が残るから、Bとの関係で控訴をしなければ、この時点でBとの関係では判決が確定してしまい、後でCとの間で雲行きが怪しくなっても、Bに対する附帯控訴はできなくなってしまうわね。その意味で、同時審判申出による共同訴訟制度は、Xに対し両負けを避けるためには、印紙代が無駄になることを覚悟で自ら控訴することを義務付けているといえ、この点は、昭和58年最判からも正当化することができない、不十分な立法と言わざるを得ないのではないかしら*20*21



「勝者、星海!」


星海の応援団から黄色い歓喜の声が上がると共に、黒い学ランの集団から、低いうなり声が響く。



「先生、よろしいですか?」


勝利の興奮も醒めやらぬまま、僕のホテルの部屋に、ノックの音が響いた。

*1:伊藤638頁

*2:伊藤638頁

*3:藤田462頁

*4:河野正憲「民事訴訟法」748頁

*5:岡口基一要件事実マニュアル1」第4版194頁

*6:並木茂「要件事実論概説契約法」385頁等参照

*7:要件事実マニュアル1・199頁

*8:伊藤646頁

*9:重点講義下486頁

*10:リーガルクエスト532頁

*11:最判昭和43年3月8日民集22巻3号551頁

*12:河野702頁

*13:重点講義390頁参照

*14:重点講義402頁

*15:なお、民訴費用法9条3項1号により口頭弁論期日前に取り下げることで半額が帰ってくる

*16:重点講義402頁

*17:リーガルクエスト495頁

*18:判時1074号55頁

*19:竹下・青山・伊藤『研究会新民事訴訟法』67頁

*20:重点講義下402〜403頁参照

*21:もちろん、ここは見解が分かれているが、主観的予備的併合の論者の一部は、上訴の関係でも統一を試みており(重点講義下391頁)そのような論者からすれば、本文記載のような議論になるだろう。

民訴ガール第13話 交際をかけた地区予選? 平成24年その1

基礎演習 民事訴訟法 第2版

基礎演習 民事訴訟法 第2版



「先生、今日、もし私が活躍できたら、私とつき合って下さい!」


秋の模擬裁判大会地区予選の朝、法学研究室にやってきた律子ちゃんが、いつものような元気なトーンでこういった。


「えっと、何を言っているのかな?」


耳を疑って、その真意を正す。


「先生、あの時、私が壇上で『選んで』ってお願いしたのに、結局棄権しちゃったじゃないですか。私って、そんなに魅力ないですか?」


あの時というのは、学園祭の時を指しているのだろう。あのミスコンでは、みんそ部の顧問がみんそ部員を一人選ぶのもどうかと思って棄権したところ、3人の同率二位にわずか一票差をつけた志保ちゃんが優勝していたっけ。


「律子ちゃんに魅力がないなんて誰も言ってないじゃない。いつも元気で、みんそ部を明るくしてくれているし、しかも、この半年ですごく頑張って民事訴訟法の勉強をしたよね。」


「だって、民事訴訟法を勉強すれば、先生にもっと近づけると思って。私じゃ、だめですか?」


律子ちゃんが、僕の方を上目遣いで見ながら、瞳を涙で潤ませる。


「分かったよ。試合、頑張ってね。」


「はい!」


さっきとはうってかわって、満面の笑顔になった律子ちゃん。



外から、「バスが着たよ〜。」と僕たちを呼ぶ五月ちゃんの声がする。ミスコンの成果か、学内でみんそ部を応援する声が高まり、応援団と一緒に貸し切りバスで会場に向かうことになったのだった。これは、五月ちゃんの戦略の勝利というべきだろう。


地区予選といっても、高裁所在地が1つの地区になっているから、この予選を勝ち抜くだけでも1苦労だ。


今日の相手は千石高校。練習試合で惜しくも負けた相手だ。あの後みんそ部は大分レベルアップしているが、千石も腕を磨いているだろう。

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事例】
Xは,Aに対し,300万円を貸し渡したが,返済がされないまま,Aについて破産手続が開始された。Xは,BがAの上記貸金返還債務を連帯保証したとして,Bに対し,連帯保証債務の履行を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。
第1回口頭弁論期日において,被告Bは,保証契約の締結の事実を否認した。原告Xは,書証として,連帯保証人欄にBの記名及び印影のある金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書(資料参照。以下「本件連帯保証契約書」という。なお,その作成者は証拠説明書においてX,A及びBとされている。)を提出した。Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の印影は自分の印章により顕出されたものであるが,この印章は,日頃から自分の所有するアパートの賃貸借契約の締結等その管理全般を任せている娘婿Cに預けているものであり,押印の経緯は分からないと述べた。Xが主張の補充を検討したいと述べたことから,裁判所は,口頭弁論の続行の期日を指定した。以下は,第1回口頭弁論期日の後にXの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:証拠として本件連帯保証契約書がありますから,立証が比較的容易な事件だと考えていましたが,予想していなかった主張が被告から出てきました。被告の主張は,現在のところ裏付けもなく,そのまま鵜呑みにすることはできませんから,当初の請求原因を維持し,本件連帯保証契約書を立証の柱としていく方針には変わりはありません。もっとも,Xによれば,本件連帯保証契約書の作成の経緯は「主債務者AがCとともにX方を訪れた上,連帯保証人欄にあらかじめBの記名がされ,Bの押印のみがない状態の契約書を一旦持ち帰り,後日,AとCがBの押印のある本件連帯保証契約書を持参した」ということのようですから,こちら側から本件連帯保証契約書の作成状況を明らかにしていくことはなかなか難しいと思います。
修習生P:二段の推定を使えば,本件連帯保証契約書の成立の真正を立証できますから,それで十分ではないでしょうか。
弁護士L:確かに,保証契約を締結した者がB本人であるとの前提に立てば,二段の推定を考えていけば足りるでしょう。他方で,仮にCがBから印章を預かっていたとすると,CがBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したということも十分考えられま
す。
修習生P:しかし,本件連帯保証契約書には「B代理人C」と表示されていないので,代理人Cが作成した文書には見えないのですが。
弁護士L:代理人が本人に代わって文書を作成する場合に,代理人自身の署名や押印をせず,直接本人の氏名を記載したり,本人の印章で押印したりする場合があり,このような場合を署名代理と呼んでいます。その法律構成については,考え方が分かれるところですが,ここでは取りあえず通常の代理と同じであると考え,かつ,代理人の作成し
た文書の場合,その文書に現れているのは代理人の意思であると考えると,本件連帯保証契約書の作成者は代理人Cとなります。そこで,私は,念のため,第2の請求原因として,Bではなくその代理人Cが署名 代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加し,敗訴したときには無権代理人Cに対し民法第117条の責任を追及する訴えを提起することを想定して,Cに対し,訴訟告知をしようと考えています。
修習生P:訴訟告知ですか。余り勉強しない分野ですのでよく調べておきます。しかし,本件連帯保証契約書を誰が作成したかが明らかでないからといって,第2の請求原因を追加する必要までありますか。裁判所が審理の結果を踏まえてCがBの代理人として保証契約を締結したと認定すれば足りるのではないでしょうか。最高裁判所の判決にも,傍論ながら,契約の締結が当事者本人によってされたか,代理人によってされたかは,その法律効果に変わりがないからとして,当事者の主張がないにもかかわらず契約の締結が代理人によってされたものと認定した原判決が弁論主義に反しないと判示したもの(最高裁判所昭和33年7月8日第三小法廷判決・民集12巻11号1740頁)があるようですが。
弁護士L:その判例の読み方にはやや難しいところがありますから,もう少し慎重に考えてください。先にも言ったとおり,本件連帯保証契約書の作成者が代理人Cであるという前提に立つと,本件連帯保証契約書において保証意思を表示したのは代理人Cであると考えられ,その効果がBに帰属するためには,BからCに対し代理権が授与されて
いたことが必要となります。そうだとすると,第2の請求原因との関係では,Bから
Cへの代理権授与の有無が主要な争点になるものと予想され,本件連帯保証契約書が
証拠として持つ意味も当初の請求原因とは違ってきますね。なぜだか分かりますか。
修習生P:二段の推定が使えるかどうかといったことでしょうか。
弁護士L:良い機会ですから,当初の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,
(1)XA間における貸金返還債務の発生原因事実
(2)XB間における保証契約の締結
(3) (2)の保証契約が書面によること
(4) (1) の貸金返還債務の弁済期の到来であり,
第2の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,
(1) XA間における貸金返還債務の発生原因事実,
(2) 代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),
(3) (2) の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)
(4) (2) の保証契約が書面によること及び
(5) (1) の貸金返還債務の弁済期の到来である
として,処分証書とは何か,それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考えてみましょう。
〔設問1〕
(1) Xが当初の請求原因(2)の事実を立証する場合と第2の請求原因(3)の事実を立証する場合とで,本件連帯保証契約書が持つ意味や,同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることが持つ意味にどのような違いがあるか。弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明せよ。
(2) Xが第2の請求原因を追加しない場合においても,裁判所がCはBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したとの心証を持つに至ったときは,裁判所は,審理の結果を踏まえて,CがBの代理人として保証契約を締結したと認定して判決の基礎とすることができるというPの見解の問題点を説明せよ。

「それでは、設問1(1)は千石が質問、星海が立論で、(2)は星海が質問、千石が立論とします。始め!」


白髪が交じった眼鏡の裁判官が審判員として試合開始を宣言する。審判員は、高裁部長クラスが揃っている。


「それでは、設問1(1)を始めましょう。Xが当初の請求原因(2)の事実を立証する場合において、連帯保証契約や、Bの印影はどういう意味を持つのでしょうか。」


微笑みを浮かべた眼鏡の千石部長が口火を切る。今日はこの前と違う縁なし眼鏡だが、いわゆる勝負眼鏡なのだろうか。

「契約書は処分証書です*1。処分証書とは、作成者のした法律行為が記載された文書であり、作成者の経験した事実認識を記載した報告証書と区別されます*2。ここで、処分証書は、その形式的証拠力が認められると、証書に記載された法律行為がその証書の作成者によってなされたことになり、反証を挙げて争う余地がなくなります*3。」


立て板に水で志保ちゃんが答える。


「形式的証拠力ってなんですか?」


千石の一年が突っ込む。彼も、髪の毛が少し伸びたようだ。


「文書の内容が真実であるかの判断をする前提として、そもそもその文書が誰の思想内容を表明したものかを確定しなければなりません。提出された文書が、その文書の作成者として提出者が主張している人の思想表明であるといえれば、その文書が真正に成立したといえ、形式的証拠力があります*4。例えば、偽造の場合には、手形に表明されているのが、作成者とされている人の意思表示ではなくなります。そして、その場合には、形式的証拠力が欠け、そもそも証拠とすることができないとなります。」


律子ちゃんの声に少し緊張が混じっている。


「そうすると、本件の契約書はどうなるのかな?」


副部長が挑発的な声を出す。


「XB間における連帯保証契約の締結を立証する場合、本契約書、特にその保証欄は、まさに法律行為が記載された文書といえます。そこで、契約書が真正に成立したといえ、形式的証拠力があれば、そこから、XB間における連帯保証契約の締結が原則として証明されるということです。」

五月ちゃんが即答する。


「そうすると、問題は、文書の真正な成立ですね。Cが押印したという主張が出てるみたいですが。」


千石の部長がストレートに聞いて来る。

「ここで出て来るのが、二段の推定なのよ。書面の作成過程がビデオ録画でもされていればともかく、後になって、書類に誰の思想内容が表明されているかを直接に立証することは困難だわね。そこで、二段階の過程を経て推認をすることで立証の負担が軽減するってことよ *5。」

五月ちゃんが説明する。

前提事実:本書に本人の印影あり
第一段の推定:経験則の適用による事実上の推定
推定事実:印影は本人の意思によって押印された
第二段の推定:民事訴訟法228条4項による推定(法定証拠法則)
推定事実:当該文書が真正に成立した
クロスリファレンス209頁より

「お姉、あ、五月先輩の言う通りです。二段の推定のゴールは形式的証拠力、つまり当該文書が真正に成立した、ってこと。スタートは印影があること。そこから、印影の本人の意思による押印を推定し(第1段)、更に文書の真正な成立(第2段)を推定する、こんな感じですね。」

沙奈ちゃんも加勢する。

「まず、第1段目の推定は、印鑑を重視する国民気質から、みだりに印鑑を他人に預けないだろう、だから、自分で押したか、自分の意思によって他人に押してもらったかのどちらかであるという経験則によるものです*6。そして、第2段目の推定として、そのような本人意思に基づく押印があれば、押印以外の部分も含め、文書全体が本人の意思によるものだと推定するのが228条4項です*7。」

律子ちゃんがそれぞれの「推定」の根拠を説明する。

「あらあら、そうすると、Bの署名押印があるから、今回も二段の推定が働き、請求原因2の事実を直接証明するための証拠となるということでいいのかしら。」


千石の部長が不敵な笑みを浮かべ、律子ちゃんがついついうなずきそうになる。




「大変、トリッキーな質問をなさいますね。ショートアンサーは、エスであってノー、ということになります。イエスというのは、二段の推定があてはまる事案なので、原則としてそうなるということです*8。ノーというのは、二段の推定はあくまでも、『推定』にすぎないという事です。つまり、推定を覆す事は可能であるところ、アパートの管理を任せるために、Cに印鑑を預けたという主張が出ており、これは、『みだりに印鑑を他人に預けないだろう、だから、自分で押したか、自分の意思によって他人に押してもらったかのどちらかである』という第一弾の推定の基礎となる経験則を揺るがすものです。そこで、Cへの預託に関する具体的主張立証によっては、反証が可能となります*9。」


志保ちゃんがタイミングよく切り返す。


「まあ、いいでしょう。じゃあ、代理権授与はどうですか。」


副部長が仕切りなおす。

「代理権授与構成であれば、連帯保証人欄の作成者をCと見る前提に立ちます。つまり、Bの思想内容はこの契約書には表明されていないと考える訳です。そこで、Bの単独行為である代理権授与を直接証明する証拠にはなりません。」


あっさりと言い切る沙奈ちゃん。


「ふ〜ん、代理権授与を直接証明しないといっても、間接的に証明するんじゃないですか。」


千石の一年が意味深な顔をする。


「ここは、先ほどの二段の推定で出て来た経験則の話が出てくるわ。厳格に管理されているBの印章の印影が顕出されているから、BとCの間に何もないはずがないという議論ね。Bが連帯保証契約書締結前にCに印章を交付していることから、代理権の授権も推認されるという議論だわ。この点は、あくまでも、代理権授権に関する1つの間接事実に過ぎない点に留意が必要よ*10。」



「(1)はこれまで。次は攻守交代して(2)に入って下さい。」


審判が高らかに宣告する。


「第1の請求原因のみの場合に裁判所が代理人による契約成立という心証どおりに認定した場合の問題点はなんでしょうか。」


律子ちゃんが質問する。


「これは簡単な問題ですね。Pの見解を批判的に検討するという、よって立つべき立場が指定されている以上、一言で終わります。弁論主義から、主要事実について裁判所は、当事者の主張しない事実に基づいて判決をしてはなりません。請求原因1に関する事実(1)〜(4)のみが主張されていれば、請求原因2についての事実(2)(3)は主張されていないところ、この(2)(3)の事実は主要事実である以上、裁判所は当事者の主張もないのにこのような判断をすることはできないのであって、Pの見解は弁論主義を誤解した誤ったものとなります。」

すらすらと話す部長。

「主要事実は法律関係の発生等に直接必要として法律が定める要件に該当する具体的事実なので、代理との関係だと授権と顕名民法99条)が、本人へ効果帰属という法律関係の発生等に直接必要として法律が定める要件に該当する具体的事実な事実として主要事実にあたります。」


副部長が髪の毛をかき上げる。


「これは、弁論主義と自由心証主義の間の綱引きですね。確かに、主張のレベルでは、当事者の自由を認めるべきです。でも、例えば、先ほどの例だと、代理権授与を、別の印鑑を預けたという事実から推認するということになります。間接事実には、こういう証拠類似の機能があるわけです。証拠については、自由心証主義で裁判所が判断すべきなんだけど、そういう間接事実について、弁論主義を適用してしまって、当事者が主張しない限り使えないとか、当事者が合意すると自白として裁判所を拘束するとかそういう規律にしてしまえば、裁判官は、自由な心証に基づき判断することができなくってしまいますから、主要事実についてのみ弁論主義が適用されるんです*11。実際、本人と代理人で争点も変わってくるのであって、Pの見解だと被告にとって大きな不意打ちとなりますね。」

いつになく饒舌な一年。


「そうすると、昭和33年最判はどう考えるんですか?」志保ちゃんが聞く。


「この事案は、弁論主義違反という意味では誤った判決と評されています*12。ただし、その事案の訴訟の経緯を見ると、結論として、両当事者の不意打ちにならなかったとは評価できます*13。この事案では、代理人として認定された人が証人として尋問されていることから、両当事者にとって代理人との認定を十分に予測できたのです。最高裁は『弁論主義に反することはなく』と表現しているけど、ここは筆が滑ったものであって、弁論主義には反するけれども、破棄差戻しにはしないと言う趣旨と理解すれば、整合的に解することができます*14。」


千石の部長がさくっと切り返す。


「部長の議論は、司法試験レベルでは通用するのでしょうが、これでいいのかおおいに疑問です。そもそも、判例の見解を整合的に整理する枠組みとして、主要事実と間接事実の区別を弁論主義の適用基準としないという見解も有力です*15。この点を措くとしても、事実の主張のレベルのはずである弁論主義第1テーゼの問題について、証人が証言しているから不意打ちにならず、実質的に問題がないという議論は、主張と証拠の区別(訴訟資料と証拠資料の峻別)ができていないものであって問題がありましょう*16。」


志保ちゃんが部長の目をまっすぐに見つめる。


「田辺*17先生や山本弘先生は、不意打ちはないという見解を取っているじゃないですか。」


慌てる副部長。


「そうね、部長の見解が『誤っている』とは言わないわ。でも、一般的な弁論主義第1テーゼについての理解によれば、主要事実である授権や顕名は、当事者の主張として出されなければならず、証言等の中で出ているだけでは足りないと解されているわけよね。個別の議論としては1つの議論として成立し得るけど、『民事訴訟法の体系』という意味では、このような一般的な理解と整合的な議論になっていないという批判は免れないわ。」


五月ちゃんがピシャリと締める。



「試合終了。勝者星海!」



みんそ部にとって幸先の良いスタートを告げる審判の声。その時、僕に目線を送る律子ちゃんを、僕は、目の端で捉えていた。

*1:京野哲也「クロスリファレンス民事実務講義」202頁。ただし、346頁参照

*2:クロスリファレンス202頁

*3:クロスリファレンス202頁。なお同206頁のとおり、そもそも法律行為の意味の解釈の余地はあるし、錯誤無効といった議論も可能である。

*4:クロスリファレンス205頁

*5:なお、クロスリファレンス208頁にはこの「緩和」が本当に良いのかというコラムがあり、参考になる。

*6:藤田254頁

*7:クロスリファレンス209頁のとおり「本文を含めた文書全体」についての真正な成立が推定されるところに意味がある。

*8:なお、署名代理について、いわゆる代理人説を取ると、二段の推定は働かない可能性がある。もっとも、実務の大勢は、本人説に立っているとされる。クロスリファレンス214頁

*9:このような他目的預託事案については、当該文書の作成以外の目的で印鑑を預託したこと、それを奇貨として当該第三者が印鑑を妄用する動機の存在などを立証するとする藤田255頁参照

*10:先立つ授権の「時的範囲」を画する意味を有する、つまり、「追認の事案ではない」ということを示す意味を持つということにも留意が必要であろう。

*11:藤田42頁以下。

*12:重点講義上427頁

*13:同上

*14:重点講義430頁

*15:重点講義427頁

*16:重点講義430頁参照

*17:公二

民訴ガール第12話「夏合宿は遊園地で民事訴訟法の勉強?」その2 平成23年その2

民事訴訟法

民事訴訟法

「次のアトラクションは、全員が楽しめるのがよさそうですね。メリーゴーランドに行きませんか?」


志保ちゃんの提案で、みんなでメリーゴーランドの列に並ぶ。



メリーゴーランドに入り、大きな馬車に5人で乗る。メリーゴーランドが回りだすのにつれ、周りの乗り物が、上下に、左右に、僕たちの馬車と違う方向に動き出す。


「メリーゴーランドといえば、共同訴訟に関するメリーゴーランド論というのが有名だよね。原告が被告に請求を定立することを矢印としてとらえると、伝統的通説は、共同訴訟もやはり単独訴訟の集まりとして、『各当事者間で矢印がどこに向いているのかを考えよう』という方向性だった。ただ、メリーゴーランドのように、『色々な方向を向いてもいいんじゃないか』、これがこの学説の面白いところだね *1。」


「じゃあ、メリーゴーランドついでに、後発的共同訴訟の本問について検討してみましょうか。」


志保ちゃんも乗ってきた。

【事例1(続き)】 F銀行は,Aの言わばメインバンクであり,Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金などを貸し付けてきた。現在,Fは,Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。訴訟 1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ,BがBA間の消費 貸借契約締結の事実(1の事実)やAの無資力の事実(5の事実)の立証に難渋している,との 情報が得られた。そこで,Fは,Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,自らも訴訟1 に関与することはできないかと,弁護士Sに相談した。Sは,Bの原告適格が否定される可能性 があることを考慮すると,補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならな いと考えたが,どのような参加の方法が適当であるかについては,結論に至らなかった。
〔設問2〕 Fが訴訟1に参加する方法として,独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについ て,認められるかどうかを検討しなさい。ただし,民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参 加を検討する必要はない。
【事例2】 Kは,乙土地上の丙建物に居住している。Kの配偶者は既に死亡しているが,KにはLとMの2人の嫡出子があり,共に成人している。このうち,Lは,Kと同居しているが,遠く離れた地 方に居住するMは,進路についてKと対立したため,KやLとほとんど没交渉となっている。 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり,丙建物の所有権登記名義はKにある。
Nは,Kを被告として,平成22年9月2日,乙土地の所有権に基づき,丙建物を収去して, 乙土地をNに明け渡すことを請求して,訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。 なお,訴訟2において,NにもKにも訴訟代理人はいない。
平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において,次の事項については,Nと Kとの間で争いがなかった。
・ 乙土地をNがもと所有していたこと。

・ Kが,丙建物を所有して,乙土地を占有していること。

・ 平成10年5月頃,Nが,Kに対して,期間を定めないで,乙土地を,資材置場とし
て,無償で貸し渡したこと。

・ 平成22年9月8日,Nが,Kに対して,乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと。
同期日において,Kは,平成17年12月頃,NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結されたと主張し,Nは,これを否認した。さらに,Kは,KとNとの間で乙土地をKが所有することの 確認を求める中間確認の訴えを提起した。
平成22年10月16日,Kは交通事故により死亡し,LとMがKを共同相続し,それぞれに ついて相続放棄をすることができる期間が経過した。平成23年3月7日,NがLとMを相手方 として受継の申立てをし,同年4月11日,受継の決定がされた。平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Lは争う意思を明確にした が,Mは「本訴請求を認諾し,中間確認請求を放棄する。」旨の陳述をした。
以下は,第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。 T:今日の期日で,Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。 U:はい。しかし,Lは認諾も放棄もせず,Nと争うつもりのようですね。
T:Lがそのような態度をとっている場合に,Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべきかは,一考を要する問題です。この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。 なお,LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したこと によって,本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが,当然 承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに,本訴請求の趣旨は「L及びMは,丙建物を収 去して,乙土地をNに明け渡せ。」に,中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で,乙土 地をL及びMが共有することを確認する。」に,それぞれ変更される,という見解を前提としてください。 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に,この陳述
がどのように扱われるべきか,考えてみてください。その際には,判例がある場合にはそれを踏まえる必要がありますが,それに無批判に従うことはせずに,本件での結果の妥当性な どを考えて,あなたの意見をまとめてください。
〔設問3〕 あなたが司法修習生Uであるとして,裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。

「じゃあ、設問2からはじめますわ。律子ちゃん、どう考えるのかな?」

五月ちゃんも、やっと調子が出て来たようだ。

「えっと、BはAの債権者として、債権者代位権に基づき、法定訴訟担当として、原告として、AのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権に基づきCを訴えているってことですよね。Fは、Aの債権者であり、Bが債権者代位訴訟を提起していなければ、自らも債権者代位権に基づき、法定訴訟担当として、原告として、AのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権に基づきCを訴えることができる立場にいました。」

律子ちゃんも大分力がついてきた。

「『Bが債権者代位訴訟を提起していなければ』というのがポイントね。問題の指示により、検討するのは、共同訴訟参加ね。これは、類似必要的共同訴訟が異時的に提訴された場合なんだけど、分かる、沙奈?」

五月ちゃんが沙奈ちゃんに聞く。


「な、何を言っているのかにゃ〜?」

猫化する沙奈ちゃん。


「前に、合一的確定が必要な訴訟については、必要的共同訴訟ということで、特別な審理が適用されるという話が出たよね。ここで、必要的共同訴訟には2つある。1つは固有必要的共同訴訟で、訴訟の開始時点から全当事者がそろっていなければならず、一人でも欠ければ却下される。もう1つは、例えば原告であれば、一人で訴訟を起こすこともできるけど、2人が訴訟を起こすなら、固有必要的共同訴訟と同様に特別な審理をしないといけないというもので、これを類似必要的共同訴訟というよ。例を出してあげようか。」

事例1 甲社の総会決議が違法だとして、甲社の株主乙と丙が取消の訴えを提起した。

沙奈ちゃんが「人間」に戻れるように、少し優しく噛み砕く。

「えっと、乙との関係では、総会決議は取消されるけど、丙との関係では決議は有効というのはおかしいので、必要的共同訴訟だと思います。」


律子ちゃんが即答する。


「うん、よくできているね。会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する(会社法838条)から、合一確定が要請されるね。じゃあ、これは類似必要的共同訴訟かな、それとも、固有必要的共同訴訟かな?」


「あ、これが類似必要的共同訴訟訴訟なんですね。乙だけでも訴訟を起こすことができるから。」


沙奈ちゃんの調子が戻って来た。

「そして、もしも、乙が先に訴訟を起こした後、期間内に丙が訴訟を提起したのであれば、丙は甲乙間の訴訟に原告として参加することになります。このような参加を共同訴訟参加と言います。」

志保ちゃんが補足する。


「じゃあ、この問題で考えるべきは、共同訴訟参加と、もう1つは何、沙奈?」


「え、独立当事者参加?」


沙奈ちゃんの発言に一同がずっこける。


「問題文には『民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参加を検討する必要はない』とあります。独立当事者参加には、詐害防止参加、つまり、自分に権利はないけれども、訴訟の結果によって権利が害されるとして参加するものもありますが、もう1つ、自分に権利があると主張して参加する、権利主張参加があります。」

志保ちゃんが整理する。


「この、2つの違いがわかりにくいなぁ…。」


沙奈ちゃんがぼやく。

事例1 Yの債権者Zは、Yの土地を差し押さえ、そこから債権の回収をしようと狙っていた。ところが、XがYに対し登記移転請求訴訟を提起したところ、Yは期日を欠席して、積極的に応訴をしようとしない*2
事例2 甲土地の登記上の所有者はQであるが、Rは、甲土地はRのものだと思っている。PはQを被告に、当該土地の所有者はPだと主張して、登記移転請求訴訟を提起した*3


「こんな事例はどうかしら?」


五月ちゃんが助け舟を出す。



「事例1と事例2を比較してみると、事例2のRが、自分に所有権があると思っているのに対し、事例1のZとしては、自分には土地の所有権があると思っているのではないですよね。そっか、事例2が権利主張参加、事例1が詐害防止参加ですね*4!」


沙奈ちゃんが気づく。


「そのとおりです。権利主張参加の場合は、概ね、その要件は、第三者が訴訟の目的たる権利関係の全部または一部が自己の権利と主張する場合*5と解されていますが、詐害防止参加については、その要件について諸説があって混沌としていることに注意が必要です*6。」


志保ちゃんが補足する。

「権利主張参加を検討するので、その要件である、第三者が訴訟の目的たる権利関係の全部または一部が自己の権利と主張する場合の意義が問題となるけど、要するに、訴訟物たる権利と第三者自らが主張する権利とが法律上両立しえない関係にある場合だわ*7。」


即答する五月ちゃん。


「五月先輩! どうして非両立が要件なんですか?」


律子ちゃんの素朴な疑問。


「それは、わざわざ他人間の訴訟に当事者として介入をさせる以上、一定以上の利害関係が必要ということではないかしら。例えば、既判力は原則として当事者にしか及ばないから(民事訴訟法115条1項)事例2では、PQ間の判決の既判力はRには及ばないわ。でも、Pが裁判所のお墨付きを得たことが、自分こそ所有者だというRの主張にとって裁判外、裁判上で不利益に作用するわよね*8。そういう不利益がある場合にはじめて、他人間の訴訟に当事者として介入をさせる必要があるのよ。」


五月ちゃんが即答する。


「具体例には、最判平成6年9月29日*9があります。この事案では、事例2と類似している事案で、QがPとRに二重譲渡した事案なのですが、Rが先に仮登記を得ていたという特殊性がありました。」


「か、仮登記ってなんでしょうか?」


律子ちゃんが尋ねる。


「〜です。仮登記を先に得ておけば、後で本登記の承諾請求(不動産登記法105条)をすることで、登記を得る事ができる。これを順位保全効といいます。Pが仮にQに勝っても、Rは、Qに対し、本登記の承諾請求訴訟を提起することで、自らへの登記がなされ、裁判外・裁判上の不利益はないという特殊性がありました。その意味で、PのQに対する『移転登記請求』と、RのQに対する『仮登記の本登記請求』は論理的に両立するので、非両立とはいえず、独立当事者参加をすることはできないとされたのです*10。」


「既に存在する訴訟で争われている請求と、独立当事者参加を希望する当事者の請求が矛盾するかを考えるんですよね。あれ、Bが訴える場合でも、Fが訴える場合でも、訴訟物はAのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権ですよね。BもFもAにはCに対する権利があるんだといっていて…、なんか矛盾はしなそうなんですが。」


沙奈ちゃんが指摘する。



「これは、民法についてまず考えてみたらどうかな。実体法上、債権者代位権が行使されると、どういう法的効果を生むかから議論を展開してみたら。」



少し顧問らしいコメントをしてみる。


債権者代位権が行使されると、債務者の当該権利に対する管理処分権が失われる、ということをおっしゃっているのですね*11。」


志保ちゃんが一瞬で返してくる。



「どういう意味ですか…?」


議論についていけていない律子ちゃん。


「もし、BもFも当事者適格がある、つまり、Bが提訴した後も依然としてFが訴訟を提起することができるとしようか。そうすると、その訴訟はどういう審理が行われるべきだろうか。」


律子ちゃんにも分かるように噛んで含めるように説明する。


「審理、ですか? 確か、通常共同訴訟と必要的共同訴訟で審理に適用される原則が違うはず。えっと、二人ともAの同じ権利を行使するのだから、Bとの関係とFとの関係で矛盾する結論を導くことはできない。」


沙奈ちゃんが議論を積み上げる。


「そうか、法定訴訟担当の場合、判決の効力は被担当者にも及ぶんでした(民事訴訟法115条1項2号)。もしもBの訴訟で、B勝訴、Fの訴訟でF敗訴だとすると、Aに矛盾する2つの効力が及び得るという意味で、矛盾した結果になります。そこで、合一確定が要請されるとして必要的共同訴訟になります。」


律子ちゃんがひらめく。


「そうだね。だから、このように考えれば、Fのすべき訴訟参加の態様は共同訴訟参加になるよ。でも、果たして実体法の解釈として、このように考えるべきなのかな。」


「先生も、もったいぶった言い方をしないで、ストレートにおっしゃればいいのに。民法上、一人の債権者が債務者の持つ権利について債権者代位権を行使した時点で、債務者自身もその権利についての管理処分権を行使できなくなると解されているわ。だから、Bが行使してしまえば、Aも管理処分権を行使できません。Aに管理処分権がない状態で、Aの管理処分権を前提としたFの債権者代位権行使もできないと考えるのが素直でしょう。その意味で、Fは共同訴訟参加をすることはできないと考えるべきです。」


五月ちゃんが一気に説明する。


「じゃあ、Bの債権者たる資格を争いたいFはどうすればいいのでしょうか?」


律子ちゃんが心配そうに言う。


「Fの救済ができなくなるということではないよ。そもそも、Bの原告適格が否定される可能性がある場合には、Fは、Bには訴訟担当をする資格はないといってこの訴訟に参加をしていく必要性があるよね。参考になるのは、最判昭和48年4月24日民集27巻3号598頁かな。この事案は、債務者、つまりAが、自称債権者Bは債権者ではないとして独立当事者参加するのを許したものなんだ。債務者A自身が代位債権者Bの当事者適格を争う限りでは独立当事者参加できるなら、この問題でも、Fが代位債権者Bの当事者適格を争う限りでは独立当事者参加できると解するのが相当じゃないかな。こういう、ある意味不思議な関係も、共同訴訟のメリーゴーランド論を理解すると少し納得できるかもしれないね。


僕の言葉に律子ちゃんがうなずく。


「先生、この場合は、『訴訟物の非両立』ではなくて、『当事者適格の非両立』になりませんこと? 本当に権利主張型の独立当事者参加ができるんですか?」

五月ちゃんは非常に鋭い指摘をする。


「普通の独立当事者参加では、全ての請求について本案判決が下されます。これに対し、最判昭和48年4月24日の事案では、代位債権者(B)に当事者適格があれば*12、参加者(A)の訴えを却下し、逆に参加者(A)に当事者適格があれば*13、代位債権者(B)の訴えを却下せよといっています。その意味で、これは判例によって認められた特殊な独立当事者参加と解すべきでしょう*14。」


志保ちゃんが加勢してくれる。

「志保ちゃんが分かりやすく説明してくれているね。こういう、実体法的にどうなるかという視点を持っておくと、理解が進むね。設問3も同じだよ。」

「こ、これって、共有と必要的共同訴訟の問題じゃないですか、これ一番苦手なんです。」



頭を抱える沙奈ちゃん。


「大丈夫だよ。ただの民法の問題だから。まずは、当然承継前だけど、これは、NがKに対して建物収去土地明け渡しを求め、Kは逆に中間確認訴訟として、乙土地Kが所有するという点の確認を求めたというだけの単純な事案だよ。ところが、建物の所有者のKが死亡したことから、Kの子ども2人のLとMが当然に承継したのよ*15。そして、本訴請求であるNのLとMに対する乙土地の所有権に基つづく丙建物収去乙土地明渡請求に加え、乙土地をL及びMが共有するという中間確認訴訟が係属しているということになるわ。」

「この2つの訴えについて、共同訴訟人の一人のした放棄や認諾の効果を問う本問は、これが通常共同訴訟か、それとも、必要的共同訴訟かという問題なんですよね。」



律子ちゃんが恐る恐る尋ねる。


「そのとおりです。共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)の働く通常共同訴訟なら、認諾や放棄も本人の自由ということになりますけれども、『一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる』(民事訴訟法40条1項)必要的共同訴訟では、一人だけの行う認諾や放棄は無効ということになります。」


志保ちゃんが整理する。

「えっと、実体法の問題って、どういうことなんだろう…。なんか良くわからないんだけど…。」



まだ理解できていない沙奈ちゃん。


「じゃあ、ABCの3人が共有していた1件の建物をDに売却するって事案を考えてみたらどうかな。ここでABCの負う建物の引渡し債務は民法上どのように考えられる。」

不可分債務です!


律子ちゃんが即答する。

「そうだね。複数の者が分割不可能(不可分)な給付を目的とする債務を負うことが不可分債務だ。この場合、建物の3分の1を引き渡しても意味がないから、性質上不可分だね。さて、Dは誰に対して何といえるのかな?」

「確か、各不可分債務者は債務の全部について履行する義務を負い、債権者は各不可分債務者に対して同時または順次に全部または一部の履行を請求することができる(民法430条によって準用される民法432条)っていっていたような…。」


沙奈ちゃんが記憶を喚起する。


「そう、Dは全員に対して全部引き渡せということもできるけど、例えば、Aだけに引き渡せということもできるということだよ。」


「そうすると、本訴請求も不可分債務ですから、Mだけに引き渡せと言えます。そこで、通常共同訴訟と解し、Mのした認諾を有効と解していい、こういうことをおっしゃりたいんですね。」



志保ちゃんが、僕の意図を見抜く。


「そうすると、次の中間確認の訴えも、民法で考えればいい訳ですか? つまり、共有関係の確認ですから、そういう共有権を処分できるのは誰かってことでしょうか?」



律子ちゃんが思いつく。


「良く理解できているね。保存行為に基づく行為であれば、各共有者に単独で当事者適格が認められる(民法252条但書)けれど、共有権そのものは、共同でしか処分ができないから、共有者全員でしか訴え、訴えられることができない、固有必要的共同訴訟になる*16。だから、Mのした請求の放棄は無効だ。」


「あれ、そうすると、中間確認の訴えについては、請求の放棄とは関係なくそのまま訴訟が続く訳ですから、LとMが勝つという事はあり得ますよね。でも、建物収去明渡し訴訟ではMの認諾は有効なんですよね。つまり、Lが乙土地の所有者だけど、建物は収去して明け渡さないといけないということになりそうです。それはどう考えればいいんですか。」


沙奈ちゃんがいい疑問を投げかける。


「先生、民事訴訟は確かに実体法を実現するための手続ですが、訴訟法の観点でも考えるべきではありませんか。広く固有必要的共同訴訟を認めるというのは、被告側が共有の場合、『全共有者を訴えないと訴え却下』になってしまい、むしろ実体法が実現されなくなってしまいかねませんわ。」


五月ちゃんが指摘する。

「でも、共有者が誰かって、登記を見れば一発じゃないのかな…。」


律子ちゃんが突っ込む。


「登記簿は正確じゃありません。日本法は公信の原則を採用していないので、登記と権利関係は必ずしも一致しません。例えば、2代前位から相続登記をしていないという事例では、兄弟が多ければ相続で10人以上の共有になっている事案もあり、全員を探し当てるのは一苦労です。そこで、判例は、共有者が被告の場合は固有必要的共同訴訟ではないと解する傾向にあります*17。」



志保ちゃんが解説する。


「みんな通常共同訴訟だとすると、Mの関係では明渡が必要だが、Lとの関係では明渡が必要ないなんてことになりませんか?実体法上の矛盾はどう考えればいいんですか?」


律子ちゃんが疑問を投げかける。

最高裁*18、実際に建物収去土地明け渡しの強制執行をする場面では、Lについても勝訴判決(債務名義)を得ていなければならないので、執行段階で解決できると考えているようです。」


志保ちゃんが解説する。

「要するに、Mが積極的にLを排除して明け渡してくれるならばそれでいいけれども、Lが明け渡しを拒絶すれば、KはLに対して明け渡しを認める判決を持ってくるまで明け渡しはできないってことね。中間確認でLが勝つ場合、この判断は本案の先決的な権利関係についての判断なので、通常は、本案判決もLの明け渡し義務はないということになるでしょうから、結局Mに対する債務名義は空手形になるということね。」


五月ちゃんが微笑む。

「まあそういうことだね。ただ、訴訟法上の考察を重視して、通常共同訴訟を認める考えに対しては、通常共同訴訟として、Mを訴え、その後Lを訴えるということを認めてしまうと、Mに勝っても、次のLに対する訴訟で負ければ、Mとの間の訴訟が無駄になり、かえって無駄な手続を産むだけという指摘が可能だ*19。そうすると、仮に訴訟法上の考慮をするにせよ、本当に通常共同訴訟にした方がいいのかについては、よく考えてみる必要があるね。」

僕の発言にみんながうなずく。ふと気がつくと、既にメリーゴーランドは止まっていて、降りていないのは僕たちだけだ。

「じゃあ、次行きましょう!」


律子ちゃんと沙奈ちゃんが僕の腕を取って駆け出す。僕達は、日が暮れるまで、遊園地で、民事訴訟の問題を解いた。

*1:民事訴訟法の論争241頁〜243頁

*2:最判昭和42年2月23日民集21巻1号169頁参照。但し、判例の事案は所有権移転登記抹消請求。

*3:藤田468頁参照

*4:リーガルクエスト565頁参照

*5:伊藤650頁

*6:伊藤549頁

*7:伊藤650頁

*8:重点講義下489〜490頁

*9:判タ867号175頁

*10:重点講義下499〜500頁

*11:重点講義下552頁参照

*12:つまり、Bに債権があれば

*13:つまり、Bに債権がなければ

*14:重点講義553頁

*15:民事訴訟法124条参照

*16:伊藤622頁、最判昭和46年10月7日民集25巻7号885頁

*17:伊藤623頁参照

*18:最判昭和43年3月15日民集22巻3号607頁

*19:重点講義下328頁参照

民訴ガール第11話 「夏合宿は遊園地で勉強!?」その1 平成23年その1

民事訴訟法

民事訴訟法

「お姉様、私、ジェットコースターがいいわ。」


「私も乗りたい!」


「皆さんが乗りたいのであれば、それもよいかと思います。」


「わ、分かりましたわ。え、私ともあろうものが、ジェットコースターが怖いなんて、そ、そんなことはありませんからね?」


 夏も盛りのある日、みんそ部のみんなは遊園地にやってきた。


 そもそも、夏合宿をするにも予算が足りないということが始まりだった。だからといって、法学科研究室に集まるのも、いつもの活動と代わり映えがしない。


 そんなとき、


「お姉様、そういえば、私、お姉様と遊園地行った事がないわ。」


と、沙奈ちゃんが発案したのだった。


「遊園地、行きたい、行きたい!」


律子ちゃんがすぐに賛同する。


「確かに、真夏の遊園地はものすごく混むことが予想されます。1時間待ち、2時間待ちということもあるのではないでしょうか。そうすると、待ち時間に民事訴訟法の勉強をして、順番が来たらアトラクションに乗るというのは、気分を変えて長時間集中して民事訴訟法の勉強をする良い方法ではないでしょうか。」


と志保ちゃんが言って、遊園地行きが確定したのだった。


僕たちは、今、「最後尾」という大きな看板を持った雄兎の着ぐるみと、「180」という大きな看板を持った雌兎の着ぐるみが立っている、ジェットコースターの列の末尾に立っている。


天気予報では35度と言っていたが、体感温度は40度といってもいい、うだるような猛暑。律子ちゃんの発案で、並ぶ前にみんなが棒アイスを買ったのはいいが、早く食べないと溶けてしまう。


「問題を読んでいると、アイスが溶けちゃうから、食べるのに集中しますね。」


といって、舐めるというよりも、むしろ齧ることで、猛スピードでアイスを小さくしている律子ちゃんの口元は、ほんのりと白くなっている。


「お、お姉様、アイスが服に落ちてしまいましたわ。」


慌てふためく沙奈ちゃん。


「これでお拭きなさい。私にとっては、食べる事と民事訴訟の問題の双方に同時に集中すること位、なんてことありませんわよ。」


と言って自分のハンカチを沙奈ちゃんに渡すと、問題文を左手に、右手に持ったアイスを頬張る五月ちゃん。


「皆様、こういうものは、口を開けずに食べるものではありませんでしょうか。」


と言いながら、舌先だけで上品に舐める志保ちゃんは、食べる速さが猛暑に追いつかないことを予想して、既にハンカチを用意し、溶けたバニラが流れ落ちるのをガードしようとしている。


四人の少女達が個性豊かにアイスを食べるのをずっと見ていたいが、ジロジロ見て、周りの客に不審者に思われるのもなんなので、問題文に目を落とす。

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。【事例1】Aは,医師であり,個人医院を開設しているが,将来の値上がりを期待して,近隣の土地を購入してきた。しかし,同じ市内に開設された総合病院に対抗するために,平成19年5月に借入れをして高価な医療機器を購入したにもかかわらず,Aの医院の患者数は伸び悩み,Aは,平成21年夏頃から資金繰りに窮している。Bは,Aの友人であり,Aが土地を購入するに際して,購入資金を貸与するなどの付き合いがある。Bは,かねてAから,甲土地は実はAの所有地である,と聞かされてきた。Cは,Aの弟D(故人)の子であり,Dの唯一の相続人である。甲土地の所有権登記名義は,平成14年3月26日に売買を原因としてEからDに移転している。
Bは,弁護士Pに依頼し,Dの単独相続人であるCを被告として,Aの甲土地の所有権に基づき,甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求して,平成22年12月8日に訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。平成23年1月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において,Pは,次のような主張をした。
1 Bは,平成17年6月12日に,Aに対して,平成22年6月12日に元本1200万 円に利息200万円を付して返済を受ける約束で,1200万円を貸し渡した。
2 平成22年6月12日は経過した。
3 Aは,甲土地を現に所有している。
4 甲土地の所有権登記名義はDにある。
5 Aは,無資力である。
6 CはDの子であるところ,Dは,平成18年5月28日に死亡した。
これに対して,Cは,同期日において,「2346は認めるが,15は知らない。」旨の陳述をした。 裁判官が,Pに対して,1の消費貸借契約について契約書があるかどうか質問したところ,Pは,「作成されていない。」と返答した。裁判官は,Pに対して,次回の口頭弁論期日に1と5の事実を立証するよう促した。
第1回口頭弁論期日が終了した後,Cは,弁護士Qに訴訟1について相談し,Qを訴訟代理人に選任した。平成23年3月8日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Qは,次のような陳述をした。
7 甲土地は,Eがもと所有していた。

8 平成14年2月26日,Aは,Eとの間で,甲土地を2200万円で購入する旨の契約を締結した。

9 Aは,8の契約を締結するに際して,Dのためにすることを示した。

10 同年2月18日,Dは,Aに対して,甲土地の購入について代理権を授与した。
裁判官がQに対して,新たな陳述をした理由をただしたところ,Qは,次のように述べた。 Dが死亡した後,Cは,事あるごとに,Aから,「甲土地は,Dのものではなく,Aのものだ。」と聞かされてきたので,それを鵜呑みにしてきました。しかし,私が改めてEから事情を聴取したところ,新たな事実が判明したので,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへと移転したと主張する次第です。
Pは,1と5の事実を証明するための文書を提出したが,78910に対する認否は,次回の口 頭弁論期日まで留保した。以下は,第2回口頭弁論期日の数日後のPと司法修習生Rとの会話である。
P:第2回口頭弁論期日でのQの陳述について検討してみましょう。
Qが,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへと移転したと主張したので,Aに問い合わせてみました。すると,Aからは,Dから代理権の授与を受けたことはないし,Aが甲土 地の購入資金を出した,という説明を受けました。Aによると,EはDの知人で,AはDの 紹介でEから甲土地を購入したが,後になって思うと,DとEは共謀してAをだまして,甲 土地の所有権登記名義をDに移したようだ,とのことでした。しかし,Aは,弟や甥を相手 に事を荒立てるのはどうかと思い,Cに対して所有者がAであることを告げるにとどめ,登記は今までそのままにしていたそうです。以上のAの説明を前提にすると,次回の口頭弁論期日では,9と10を争うことが考えられます。しかし,そもそもQの9と10の陳述は,Cが第1回口頭弁論期日で3を認めたことと矛盾しています。そこが気になっているのです。
R:第1回口頭弁論期日で「甲土地は,Aが現に所有している。」という点に権利自白が成立し ているにもかかわらず,第2回口頭弁論期日でのQの陳述は,甲土地をAが現に所有してい ることを否定する趣旨ですから,権利自白の撤回に当たるということでしょうか。
P:そのとおりです。もしそのような権利自白の撤回が許されないとすると,9と10について の認否が要らないことになります。ですから,私としては,被告側の権利自白の撤回は許さ れない,と次回の口頭弁論期日で主張してみようかと思っています。そこで,あなたにお願 いなのですが,このような私の主張を理論的に基礎付けることができるかどうか,検討して いただきたいのです。
R:はい。しかし,考えたことのない問題ですので,うまくできるかどうか・・・。 P:確かに難しそうな問題ですね。事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要かもしれません。「理論的基礎付けは難しい。」という結論になってもやむを得ませんが,ギリ ギリのところまで「被告側の権利自白の撤回は許されない。」という方向で検討してみてください。では,頑張ってください。
〔設問1〕 あなたが司法修習生Rであるとして,弁護士Pから与えられた課題に答えなさい。


「みんな、アイスも食べ終わったことだし、そろそろ始めようか。」



「はい!今日は私を特訓してください。最近沙奈ちゃんが勉強が進んでいるので、一人だけ置いてかれている感じなんです。」


律子ちゃんが手を挙げる。


「私もまだまだなので、律子ちゃんと一緒に特訓させてください。」


沙奈ちゃんも特訓を志願する。


「じゃあ、二人に考えてもらおうか。まずは事案の概要を整理してもらえるかな。」



「えっと、原告はB、被告はDです。Bが債権者代位権の行使として、真実の権利者であるAに対する移転登記を求めて、登記名義人Dの相続人Cを提訴したところ、Cは当初はA所有の点につき自白をしました。ところが、実はAは代理人として購入しただけで、Dが真の所有者で、Dの死亡によりCが相続をしたとして、A所有の点についての自白を撤回したという事案です。」


律子ちゃんが整理する。



「自白は昔やった気がするなぁ。前回は、確か証明責任が誰にあるかが問題となっていたっけ。今回は、移転登記を求める原告側が、Aの所有を主張しなければいけないから、証明責任の問題はないはず。そうすると、自白の効果の不撤回効が生じるんでしたよね。自白によって相手は有利な地位を得るので、それを信じて訴訟活動を遂行することから、そのような相手方の信頼を保護するために撤回が否定されます*1。だから、原則として、撤回できず、反真実と錯誤とか、そういう例外的な場合にだけ撤回できるってことですね。」


沙奈ちゃんが指摘する。


「沙奈、そこが、そうは簡単にはいかないのが民事訴訟法ね。だって、今回の問題は、権利自白であって、単なる自白じゃないんだもの。」


五月ちゃんが優しく教え諭す。



「権利自白、ですか?」



沙奈ちゃんが目を回す。


「権利自白って何かわかる?」


丁度いいので、ちょっと確認してみる。



「はい、相手方が権利を持つ事を自認することです!」


律子ちゃんが即答する。



民事訴訟法では、権利といえば、まず訴訟物たる権利が思い浮かびます。でも、訴訟法について相手の主張を認める、それは請求の放棄または認諾(民事訴訟法264条)になってしまい、自白の問題ではなくなります。そこで、権利自白は、請求その物に関するものではなく、訴訟物たる権利関係の前提となる権利関係についての自白をいう*2と一般に解されています。今回の場合は、所有権という権利関係についてBが主張したところ、Cがこれを認める陳述をしたという意味で、権利自白になります。」


志保ちゃんが解説する。



「あれ、原告は、請求原因事実として権利を基礎付ける主要事実(要件事実)を主張すべきであり、権利そのものを主張してはだめなのではないでしょうか?」


律子ちゃんが鋭い指摘をする。


「あら、律子ちゃん、面白いこというじゃない。確かに、民事訴訟法においては、訴訟物たる権利そのものは見えないから、それを発生等させる『事実』を主張して、事実の存在を証拠で証明するという構造だわ。じゃあ、本件では、権利を主張しないのであれば、どういう事実を主張するのかしら?」




五月ちゃんがにやりと笑う。



「えっと、えっと、Eから購入したなら、EA間の売買契約とか、そういうAの所有権取得原因事実でしょうか?」


律子ちゃんが頭にはてなマークを飛ばしている。


「でも、それだけでは、どうしてEに所有権があるのかが分からないわよね。」



五月ちゃんは明らかに、この状況を楽しんでいる。



「えっと、Eが、Fから買ったのであれば、EF 間の売買契約とか、そういうEの所有権取得原因事実でしょうか?」




「じゃあ、どうやってFの所有権を証明するの?」



「え、え、えっと。FがGから…」



「五月先輩、あまり律子ちゃんをいじめないでくださいませ。不動産について、事実を主張するという原則を貫徹すると、論理的には、建物新築や土地の時効取得のような原始取得が成立した時点まで遡って、そこからAの所有まで、所有権移転を基礎付ける事実を全て主張する必要が生じることになります*3が、そのような主張立証が実際上困難なことがあり、実務上は、当事者に争いのない点に権利自白を認めた上で、その後の所有権移転を基礎付ける事実を主張させています。権利自白を認めない見解からは、要件事実の省略形としての記載ということになるでしょう*4。」


「どの段階についても権利自白がない場合はどうすればいいんだろ。」




沙奈ちゃんが疑問を口にする。


「そもそも、契約関係や親族関係というような感じで、当事者間に何らかの関係があるから紛争になっているはずだよね。だから、どの段階でも権利自白がないという場合はあまり考えれないね*5。ただ、本当に権利自白がない場合には、登記簿の記載から事実上の権利推定をすることも可能だよ*6。」


「それじゃあ、権利自白の撤回の可否だけど、沙奈ちゃんは撤回は許されるというCの立場から主張する、律子ちゃんは、撤回は許されないという主張を組み立ててもらうわ。」


会長がどんどん話を進める。



「えっと、まずは、自白はあくまでも、一方当事者が口頭弁論または弁論準備手続において行う『事実』の陳述です。そこで、定義上、権利自白は撤回禁止効のある、『自白』に該当しません。」



「所有権は日常的な概念なので、一般人による判断が比較的容易です*7。そこで、所有権に関する陳述は、事実に関する自白と同視することができます。また、所有権の承継を全て具体的に陳述させることには問題があり、権利自白を認めことが適切です。」



律子ちゃんは応用力がある。


「その、権利自白を『認める』というのは、法的にみて、どういう意味があるのかな?」


沙奈ちゃんの素朴な疑問。


「えっと、その権利関係についての異なる判断を認めないという意味で、裁判所を拘束して、撤回を認めないという意味で、当事者を拘束するということじゃないんですか。」


律子ちゃんがぽかーんとする。


「例えば、弁論主義第2テーゼは、権利自白には適用されないのではないかしら。法律判断は裁判所の専権よね。そうすると、権利自白によって、特に具体的な取得経緯を主張する必要がないという効果を認めたとしても、裁判所がその当事者の合意に拘束されるかは別の話だわよね。そして、裁判所が拘束されないとすると、有利な地位が後で揺るがされないようにするという信頼保護の必要もなくなるから、逆に後で主張を変えたいという場合には自由に撤回を認めていいはずよね。」



会長がさらりと沙奈ちゃんに加勢する。


「五月先輩の議論は、一般論としてはなかなか説得力があります。しかし、そもそも、BがAの所有権についての中間確認の訴えを起こして、Cが認諾をすれば、裁判所はその結論を前提とせざるを得ない訳ですから、この点についての当事者の決定権能を尊重せざるを得ません*8。また、当事者間に争いがないのに事実の提出を強要するのは無理*9であり、所有権については、先ほどの例でもわかるとおり、全ての事実の提出さえ不可能な場合もあります。そのような点に鑑みると、少なくとも所有権については、権利自白が成立すれば、裁判所を拘束すると考えるべきです。」



志保ちゃんが丁寧に反論する。



「そうです。裁判所が拘束されるのですから、それによって、Bは所有権に関する証拠保全をしなくなることも考えられる訳で、撤回は、一般の自白について撤回が認められるような例外的場合以外は認められません!」



律子ちゃんも同調する。



「律子ちゃんの議論でいいように思うんだけど、お姉様?」



沙奈ちゃんは、律子ちゃんに同調する。


「沙奈、判例は、反真実かつ錯誤が必要だけれども、反真実の証明があれば錯誤に出たものと認めて良いとしている*10わよね?」


「はい、お姉様。でも、だから、どうだということでしょうか?」


沙奈ちゃんはまだ分かっていない。


反真実性を証明するっていうのは、具体的には、Aが所有権を持たないことを証明させることになるわ。Aが所有権者であることの反真実は、Aが所有権者であることを権利推定する場合の反対証明と同じ構造、つまり、Aが所有権を取得するあらゆるルートの否定をしなくてはいけないのよ。売買もないし、時効取得もない、そして相続もない*11。こんな証明責任を権利自白者に課すというのは、自白者にとって酷ではありませんと?」


得意気な五月ちゃん。



「お姉様のおっしゃるとおりです。だから、Cは自由に自白を撤回することが認められるべきです。あ、私たちの番ですね。」



五人でジェットコースターに乗り込む。ガタガタガタといいながら、コースターは少しずつ上に上にと登って行く。後ろを振り向くと、五月ちゃんが青い顔をしている。



「今日は、沙奈ちゃんも律子ちゃんも色々と考えているね。この問題はなかなか難しくて、例えば、撤回は自由ではないと言った上で、撤回の要件を緩める、具体的には、反真実性の内容を、当該法律効果の存在と相容れない一つの事実の証明で足りるとすることで解決する見解もあるよ*12。この見解に立てば、具体的には、Bに権利取得の根拠、例えばEからの購入を主張させ、Cが、当該購入時に、AがDのためにすることを示した事実を証明すれば撤回が可能ということだね*13。いずれにせよ、正解はないから、どれだけ説得的に論じられるかだね。おっと、一番上まで来たね。」


「「「キャー」」」「ギ、ギャー!?」


楽しげな黄色い声と、苦しげな声がブレンドした叫びをまき散らしてコースターが走り去る。出口にたどりついて、思い出に僕たちの写真を買おうとしたら、


『大変申し訳ございませんが、不適切な写真のため、表示できません。』


という断り書きが書かれており、五月ちゃんがほっとした顔をしていたのはまたその後の話。

*1:基本的に重点講義上476頁の論旨に沿ったもの。ただし、このような相手方の信頼保護を重視する見解に対して異論がないではないことは、河野413頁特に注36を参照のこと。なお、禁反言のみを理由とする見解に対し、試験委員は「訴訟行為の撤回が原則として自由であることから すれば,禁反言だけから事実の自白の撤回制限効を根拠付けることは難しい」と批判している。

*2:伊藤336頁

*3:民事訴訟法から考える要件事実65頁

*4:要件事実マニュアル1・277頁以下参照

*5:民事訴訟法から考える要件事実65頁

*6:同上67頁

*7:これに対し、レント教授は「素人は単純な法律概念を持ち出す際にしばしば大きな誤りを犯」すとする。重点講義上513頁

*8:重点講義下508〜509頁

*9:重点講義下509頁

*10:最判昭和25年7月11日民集4巻7号316頁

*11:重点講義下514頁

*12:重点講義上510頁

*13:重点講義上514頁

民訴ガール第10話 「閑古鳥の鳴く法律相談会」平成22年その2

新民事訴訟法講義 第2版補訂2版 (有斐閣大学双書)

新民事訴訟法講義 第2版補訂2版 (有斐閣大学双書)

「ちょっとそこのお兄さん、いかがですか? 制服を着た可愛い女子高生がいますよ? 寄って行きませんか?」


若い男が黒い背広を着て、パステルカラーのチラシを配りながら、こんな台詞で客を誘う姿は、どう見ても悪質風俗のキャッチセールスである。


「先生、朝から誰も来ないんですけどぉ…。」


「だめよ沙奈、先生は頑張って下さっているのだから。」


沙奈ちゃんの不満に、五月ちゃんがフォローを入れてくれる。


みんそ部は、伝統の法律相談会を開催していた。


ところが、毎年3000人の規模で増加した弁護士が、テレビやインターネットで無料法律相談等を盛んに宣伝する。高校の部活の無料相談会なんかに興味を持ってくれる人はほとんどいなくなってしまっていた。みんそ部は、昔は地方に出張相談会等にも行っていたそうであるが、地方に行っても弁護士が顧客獲得にしのぎを削っており、高校の部活が入り込む余地はない。そこで、経費節減の意味も含め、事件を抱えた人が多そうな裁判所の近くに拠点を置き、僕が道行く人にチラシを渡して相談に来るよう説得することになったのだが…。朝から一人の相談者も獲得できていない。



ああ、法の光が、世の中の隅々まで照らしていることだなぁ。



「えっと、相談に乗って下さるのですか。」


5時になっても誰も捕まらず、今日はもう解散かなと思ったところで、後ろから、似合わない背広を着た学生風の若い男が声をかけてくる。



「はい、法律相談を無料でしております。」



振り向いて良く見ると、襟元には、赤、白、青3色のバッヂが輝いている。


司法修習生なんですけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫です。依頼者の秘密はお守りします。」


やっと、今日一人目のお客様を捕まえることができた。


「何でも、遠慮なくお話し下さい。」


五月ちゃんがうながすと、その修習生は、重い口を開いた。

1.印刷や製版の工場を個人で営むAとその妻であるBとの間には,昭和58年8月20日にC 男が生まれた。やがて平成5年にBが病没すると,Aは,平成6年2月にDと婚姻した。この時, Dには子としてE女があり,Eは,昭和60年2月6日生まれである*1
Aには,主な資産として,工場とその敷地のほかに,当面は使用する予定がない甲土地があ り,また,甲土地の近くにある乙土地とその上に所在する丙建物も所有しており,丙建物は,事 務所を兼ねた商品の一時保管の場所として用いられてきた。これら甲,乙及び丙の各不動産は, いずれもAを所有権登記名義人とする登記がされている。
2.Cは,大学卒業後,いったんは大手の食品メーカーに就職したが,やがて,小さくてもよい から年来の希望であった出版の仕事を自ら手がけたいと考え,就職先を辞め,雑誌出版の事業を 始めた。そして,事業が軌道に乗るまで,出版する雑誌の印刷はAの工場で安価に引き受けても らうことになった。
3.そのころ,Aは,事業を拡張することを考えていた。そこで,Aは,金融の事業を営むFに 資金の融資を要請し,両者間で折衝が持たれた結果,平成19年3月1日に,AとFが面談の上, FがAに1500万円を融資することとし,その担保として甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を 設定するという交渉がほぼまとまり,同月15日に正式な書類を調えることになった。なお, このころになって,Cの出版の事業も本格的に動き出し,そのための資金が不足になりがちで あった。
4.ところが,平成19年3月15日にAに所用ができたことから,前日である14日にAはF に電話をし,「自分が行けないことはお詫びするが,息子のCを赴かせる。先日の交渉の経過を 話してあり,息子も理解しているから,後は息子との間でよろしく進めてほしい。」と述べ,こ れをFも了解した。
5.平成19年3月15日午前にFと会ったCは,Fに対し,「父の方で資金の需要が急にできた ことから,融資額を2000万円に増やしてほしい。」と述べた。そこで,Fは,一応Aの携帯 電話に電話をして確認をしようとしたが,Aの携帯電話がつながらなかったことから,Aの自宅 に電話をしたところ,Aは不在であり,電話に出たDは,Fの照会に対し「融資のことはCに任 せてあると聞いている。」と答えた。これを受けFは,同日に,融資額を2000万円とし,最 終の弁済期を平成22年3月15日として融資をする旨の金銭消費貸借の証書を作成し,また, 2000万円を被担保債権の額とし,甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設 定契約の証書が作成され,Cが,これらにAの名を記してAの印鑑を押捺した。
6.この2000万円の貸付けの融資条件は,返済を3度に分けてすることとされ,第1回は平 成20年3月15日に500万円を,次いで第2回は平成21年3月15日に1000万円を, そして第3回は平成22年3月15日に500万円を支払うべきものとされた。また,利息は, 年365日の日割計算で年1割2分とし,借入日にその翌日から1年分の前払をし,以後も平成 20年3月15日及び平成21年3月15日にそれぞれの翌日から1年分の前払をすることと した。なお,遅延損害金については,同じく年365日の日割計算で年2割と定められた。
7.同じ3月15日の午後にAの銀行口座にFから2000万円が振り込まれた。これを受けCは,同日中に,日ごろから銀行口座の管理を任されているAの従業員を促し500万円を引き出 させた上で,それを同従業員から受け取った。
また,甲,乙及び丙の各不動産に係る抵当権の設定の登記も,同日中に申請された。これら の抵当権の設定の登記は,甲土地については,数日後に申請のとおりFを抵当権登記名義人とす る登記がされた。しかし,乙及び丙の各不動産については,添付書面に不備があるため登記官か ら補正を求められたが,その補正はされなかった。その後,【事実】9に記すとおり,AF間に 被担保債権をめぐり争いが生じたことから,乙及び丙の各不動産について抵当権の設定の登記 の再度の申請がされるには至らなかった。
8.翌4月になって,甲,乙及び丙の各不動産の登記事項証明書を調べて不審を感じたAは,C を問いただした。Cは,乙及び丙の各不動産について手続の手違いがあって登記の手続が遅れて いると説明し,また,自分の判断で2000万円の借入れを決めたことを認めた。
9.借入れの経過に納得しないAは,弁護士Pに相談した。そして,Aは弁護士Pを訴訟代理人 に選任した上で,平成19年6月1日,Fに対し,平成19年3月15日付けの消費貸借契約(以 下「本件消費貸借契約」という。)に基づきAがFに対して負う元本返還債務が1500万円を 超えては存在しないことの確認を求める訴え(以下「第1訴訟」という。)をJ地方裁判所に提 起した。
18.第1訴訟の第1回口頭弁論期日は,平成19年7月27日に開かれ,訴状の陳述などが行わ れた。その後数回の期日を経て,平成20年4月11日に口頭弁論が終結し,同年6月2日にA の請求を全部認容する旨の終局判決が言い渡され,この判決が確定した。
19.平成21年4月23日に,Aは,弁護士Pを訴訟代理人に選任した上で,Fに対し,被担保 債権(被担保債権は,【事実】9に記した本件消費貸借契約上の貸金返還請求権のみであるとす る。)の全額が弁済により消滅したことを理由として,J地方裁判所に,甲土地の所有権に基づ き甲土地に係る抵当権の設定の登記の抹消登記手続を求める訴え(以下「第3訴訟」という。) を提起した。
20.第3訴訟の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,被担保債権に関し,「本件消費貸借契 約に基づきAがFに対して負う元本返還債務の金額は1500万円であるところ,AはFに対 し,平成20年3月15日に500万円,平成21年3月15日に1000万円をそれぞれ弁済 した。」と主張した。
この期日において,弁護士Pは,裁判長の釈明に対し,「平成20年3月15日にされた弁済 が第1訴訟において主張されなかったのは,Aが,同弁済が第1訴訟において意味がある事実だ とは思わなかったので,私に連絡を怠ったためである。」と陳述した。
これに対し,Fの訴訟代理人である弁護士Qは,弁護士Pの被担保債権に関する主張のうち, 平成20年3月15日の弁済については次回の口頭弁論期日まで認否を留保し,その余は認め る旨の陳述をした。
〔設問4〕 【事実】1から9まで及び18から20までを前提として,第3訴訟に関する次の(1)及び (2)に答えなさい。
(1) 第3訴訟の第1回口頭弁論期日後数日してされた次の弁護士Qと司法修習生Sの会話を読んだ上で,あなたが司法修習生Sであるとして,弁護士Qが示した課題(会話中の下線を引いた部 分)を検討した結果を理由を付して述べなさい。
ただし,信義則違反については論ずる必要がない。 なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。
Q: 第1訴訟の確定判決の既判力が第3訴訟で作用することは理解できますか。
S: 第3訴訟の訴訟物は,所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消 登記請求権ですから,抵当権が消滅したかどうかが争点になります。そして,抵当権 が消滅したかどうかを判断するためには,抵当権の付従性から,被担保債権が消滅し たかどうかを判断しなければなりません。つまり,被担保債権である本件消費貸借契 約上の貸金返還請求権の存否が,訴訟物である抵当権設定登記抹消登記請求権の存否にとって,いわゆる先決関係にあるということになります。
Q: そのとおりです。ですから,第1訴訟の確定判決の既判力の作用によって,私たち は,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論が終結した平成20年4月11日の時点で,本 件消費貸借契約上の元本返還請求権の金額が1500万円を超えていたことを主張で きなくなります。この点は分かりますか。
S: はい。
Q: ところが,Aは,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論終結前の平成20年3月15日
にされた弁済を主張してきましたね。このような主張は許されてよいものでしょうか。
S: 確かにそうですね。信義則に反すると思います。
Q: いきなり信義則違反に飛び付くのは,いかがなものでしょうか。最終的には,信義則違反の主張をすることになるかもしれませんが,その前に,Aの弁済の主張が第1訴訟で生じた既判力によって遮断されるかどうかを検討すべきではないでしょうか。
S: すみません。先走り過ぎました。
Q: 第1回口頭弁論期日が終わってから,私なりに既判力について考えてみました。その結果,二つの法律構成が残ったのですが,そこから先の検討がまだ済んでいないの です。第2回口頭弁論期日のための準備書面をそろそろ書き始めなければなりません ので,あなたにも協力してほしいのです。
S: 分かりました。
Q: では,二つの法律構成を説明します。
第1の法律構成(法律構成1)は,第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であっ て,Aの「1500万円を超えては存在しない」ことの確認を求めるという請求の趣 旨は,例えば「1200万円を超えては存在しない」というような,より原告に有利 な判決を求めないという意味において,原告が自ら,請求の認容の範囲を限定したものにすぎない,というものです。このように考えると,既判力の対象はあくまでも, 元本返還債務の全体ですから,第1訴訟の確定判決の既判力によって,「平成20年 4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ということが確定されること になります。
第2の法律構成(法律構成2)も,やはり第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体 であるとするのですが,同債務のうち1500万円についてはAが請求を放棄したた めに,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分だというものです。こ のように考える場合には,第1訴訟の確定判決の既判力の客観的範囲は元本返還債務 のうち1500万円を超える部分だけになりますが,請求の放棄,正確には請求の一 部放棄の既判力により,元本債務の金額が1500万円であったことが確定されることになります。理解できましたか。
S: はい。
Q: それでは,これから,あなたにお願いする課題を説明します。法律構成1と法律構 成2のそれぞれについて,長所と短所を検討してください。ただし,最高裁判所の判 例に適合的であるから良い,あるいは,最高裁判所判例に反するから駄目だ,とい うような紋切り型の答えでは困ります。
S: 分かりました。頑張ってみます。
(2) 審理の結果,被担保債権の元本が500万円残っているとの結論に至った場合,裁判所は, Fに対し,AがFに500万円を支払うことを条件として,抵当権の設定の登記の抹消登記手続 をすることを命ずる判決をすることができるか,Aの請求を全部棄却することと比較しながら, 論じなさい。なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。


「要するに、指導担当の弁護士から課題をもらったけど難し過ぎて私たちの手を借りたいってことかしら。」


五月ちゃんが一言でまとめる。


「せっかくですから、私たちで一緒に一部請求、既判力、そして債務不存在確認について復習いたしましょう。」


志保ちゃんは優しい。


「ありがとうございます。」


思わず感謝する修習生。

「まずは、一部請求からだわ。」


「い、一部請求って、あ、あれですか。」


露骨に嫌な顔をする律子ちゃん。


「そう、金銭その他の不特定物の給付を目的とする債権にもとづく給付訴訟において、原告が債権のうちの一部の数額についてのみ給付を申し立てる行為だね*2。苦手意識があるのは分かるけど、基本的にはシンプルだよ。こういう事例を考えてみようか。」


事例1 XはYに対し、1億円の債権のうち100万円を請求した。


「これ、いつも分からないのは、どうして一部だけ請求するのかなんですよ。本当に1億円債権があると確信していれば、全額請求すればいいのに。」


不満顔の律子ちゃん。


「1000万円の債権を1円ずつに分割するみたいな濫訴が不適法なことには争いはございません*3。実際に争いとなっているのは、Xにお金がない場合には、印紙代を節約するために、まずは低い金額で訴訟を起こす(試験訴訟)必要があるのではないかといった側面になります。」


志保ちゃんが説明する。


「でも、訴訟救助がありますよね*4。」



沙奈ちゃんが加勢する。


「沙奈、訴訟救助では解決できない事案もあるわ。例えば、福島の原子力損害とか、全損害の算定が困難な場合があるわよね*5。その場合に、1回で訴訟をしなければならないとすると、絶対にこれ以上は上回らないだろうという高額を請求することになるけど、その場合に『勝訴の見込みがないとはいえないとき』(民事訴訟法82条1項)という訴訟救助の要件を満たせるのかしら。まずは一部のみを訴えて勝訴した後に改めて残部を訴えるという必要性は高いわよね*6。」


五月ちゃんが沙奈ちゃんをたしなめる。


「確か、一部請求は肯定説、否定説、判例の3つに分かれているんですよね*7。」


律子ちゃんが話を進める。


「一部請求の議論の対立の中心は、原告に訴訟物を分断する権限を認めるかという点になるわね *8。」


「処分権主義って確か、原告が請求を自由に立てられるということで、そうであれば、存在する債権の一部を訴訟の対象にする事も許される気がします*9。実体法的に言えば、債務者にお金がなさそうなので、一部だけの弁済を求めるというのも債権者の権利ですよね*10。」



沙奈ちゃんが素朴な疑問を投げかける。


「これは有力説である、全面肯定説の論拠だね。でも、処分権主義というだけで1つの結論は出ないよ。一部請求否定説の立場からは、処分権主義は、『訴訟を提起するかどうか』の問題で、いざ訴訟を提起するならば全額を請求すべきであり、後で再度訴訟を提起して残部を請求することは許されないと考えられているよ。つまり、処分権主義という言葉をマジックワード的に使おうとしたところで、そこから一義的に答えが出て来る訳ではなく、処分権主義の実質的な内容を考える必要があるというのが大事だね。」



修習生への教育も含め、ちょっと補足する。


「一部請求否定説は、先ほどの、損害賠償請求における試験訴訟の必要性といった点に鑑みると、やや説得力を欠きますね。」


律子ちゃんがつぶやく。


「結局、この問題は、全額について訴える前に、少額についての裁判所の判断を知りたいという原告の利益と、紛争解決の効率性・応訴の煩という裁判所・被告の利益をどう衡量するかの問題と考えることができるでしょう*11。一部請求否定説も、判決が確定してから再度訴訟を提起してはいけないというだけであって、訴訟の途中で勝ち目がありそうだと思ったら途中で請求を拡張すればいいという限りで、原告の利益も考えているのです。」



志保ちゃんが応じる。



「この衡量の結果の1つとして、判例*12。」



「お姉様、どうして、明示をすると、被告の利益が保護されるのでしょうか。」


沙奈ちゃんがついていけない。


明示があれば、被告として、残債務不存在確認の反訴等の対応ができるじゃない。じゃあ、次は既判力ね。」



五月ちゃんが即答する。



「既判力は訴訟物に及ぶ(民事訴訟法114条1項)んですよね。なら、既判力は、前訴で請求した一部についてのみ既判力が生じるというのが自然です。」


律子ちゃんが答える。


「そうすると、例えば、事例1で負けた原告が、9900万円を再度請求してもいいのかな。」


沙奈ちゃんが疑問を口にする。


「具体的に考えてみたらどうかな。例えば、事例1で被告が、100万円の弁済と9900万円の債務の不存在の双方を主張した場合、前訴の裁判所はどういう判断をするのかな。」


民訴を楽しく学ぶには具体例で考えるのが一番だ。無味乾燥な理論ばかり考えても、嫌いになるだけだ。


「100万円が弁済されていれば、100万円の請求はできなくなりますよね。もしも、弁済の有無さえ争いがなければ、9900万円の債務の不存在については判断するまでもなくそこで請求を棄却するってことかなぁ。」


うんうんうなる沙奈ちゃん。


「沙奈、外れよ。もし、1億円のうち100万円が弁済されていても、それだけなら、9900万円が残るのではないかしら。一部請求の『100万円』というのは、少なくとも100万円はあるという趣旨ね、この9900万円が残っている限り、100万円についての認容判決を下すことになるわね。」


五月ちゃんが説明する。


「五月先輩のおっしゃるとおりで、一部請求の当否を判断するためには、おのずから債権全部を判断する必要があります。つまり、一部請求をして敗訴したということは、債権全部が存在しなかったという判断がなされているということになります。そこで、一部訴訟をして敗訴した原告が再訴できるというのは、実質的には一度判断された訴訟の蒸し返しという評価ができるのではないでしょうか*13。ですから、最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁は、一部請求をして敗訴した原告の再訴を原則として許されないとしています。」


志保ちゃんがまとめる。



「でも、判例のように、一部請求を認める考えからは、既判力は100万円の部分についてしか生じていないんですよね*14。どうして、既判力の生じない9900万円について再訴が認められないんですか?」


律子ちゃんが疑問を述べる。


「だからこそ、最高裁は、信義則を使ったわ。信義則により、特段の事情がない限り一部請求をして敗訴した原告の再訴を封じるってことね。」


五月ちゃんが答える。


「あのぉ…、この議論が私の質問とどう関係するのでしょうか。」



修習生が、遠慮がちに質問する。



関係、おおありよ。第1訴訟は、債務が1500万円を超えて存在しないことの確認を求めるという、自認部分がある債務不存在確認請求ね。判例によれば、この事案は、債務不存在確認の訴えの局面における一部請求*15と考えているわ。その意味は、債権者は2000万円の債務のうち1500万円の支払いを請求するという『一部請求訴訟』を提起することができ、また、債務者は、その裏返しとして、問題となっている計2000万円の債務のうち1500万円を超えては存在しないという債務不存在確認の訴えを提起することができるということね*16。」


前提問題についての議論が終わり、五月ちゃんが生き生きとしてくる。


判例は、明示した場合の訴訟物の分断を認める訳ですから、債務者が起こした債務不存在確認請求の訴訟物はあくまでも、1500万円を超える部分(残存債権は1500万円か2000万円か)であって、自認部分は訴訟物ではないと考えられます*17。すると、判例の枠組みを前提として素直に考えれば、第1訴訟の既判力は1500万円自認部分については生じていない(民事訴訟法114条1項)ので、第1訴訟の口頭弁論終結時点における残債務額が1500万円以下のいくらであったかについて、Aは第3訴訟において既判力に縛られず自由に主張することができるということになります。指導担当の先生が検討を求めた2つの法律構成は、判例をどのように克服するかについての試みといえるでしょう。


志保ちゃんが問題の所在を整理する。


「これで、相談との関連が明らかになってきたかな。せっかくだから、みんそ部のみんなと一緒に考えてみない?」


修習生へ、議論への参加を呼びかける。



「えっと、法律構成1は、訴訟物を問題となっている元本債権(2000万円)全体とみる考えです。この考えを取れば、第1訴訟の既判力は、元本債権全体について生じていることになります。具体的には、単に1500万円を超えて存在しないだけではなく、1500万円までは存在することについて既判力が生じているということになります*18。こう考えれば、第3訴訟において、平成20年3月15日の弁済という第1訴訟の口頭弁論終結時(民事執行法35条2項参照)以前に生じた理由をもって、元本債権が1500万円ではなく(弁済により)1000万円になったとの既判力と矛盾する主張をすることは制限されることになります。」


迷いながらも自分の意見を言う修習生。



「あら、問題意識をきちんと理解されているのね。本件のような自認部分がある債務不存在確認請求は明示のある一部請求の裏返しであるところ、この見解は、要するに明示のある一部請求について訴訟物の分断を認める判例と立場を異にする訳だから、この長所も短所もこの点に集約されるってことね。」


五月ちゃんが褒めるので、修習生の顔がほころぶ。


「短所としては、そもそも、判例に反するということでしょうか。」


修習生が饒舌になる。



「指導担当の先生は、最高裁判所判例に反するから駄目だ,とい うような紋切り型の答えでは困ります。』と言っていなかったっけ?」


五月ちゃんと親しげな修習生に対して、沙奈ちゃんは手厳しい。



「指導担当の先生の問題意識に答えるという意味では、判例を前提とする実務における審理の実情に目配りする事が必要になるでしょう。つまり、判例を前提とすると、自認された部分については訴訟物ではない、つまり審理の対象外になりますから、第1訴訟では『1500万円以下』の部分について一切審理がされていなかったといえます*19。つまり、少なくとも第1訴訟は現在の実務に従って審理の範囲を決めていたはずであり、審理されていない部分に既判力をなぜ認められるかという点は、訴訟物を全体と考えるべきだという法律構成1に対して投げかけられる疑問といえましょう。」



志保ちゃんが説明する。


「まあ、この点は、法律構成1を採る論者からは、第1訴訟においても、訴訟物を全体として考えて全体を審理すべきだったのであり、『第1訴訟の裁判官が審理の方法を間違えた』だけだと反論されるところね。この見解の長所は、訴訟物に既判力が生じるという理論から、比較的シンプルに第3訴訟における弁済の主張を封じられるというところにあるわ。あとは、一部請求否定説の論拠を参照すれば、明示さえすれば何度でも訴求できるということが理論的に釈然としない*20判例の見解を克服し、被告の利益を守ることができる議論だということも指摘できるかしら。」


五月ちゃんが華麗にまとめる。


「じゃあ、法律構成2はどうかな。」


修習生に回答を促す。


「法律構成2は、審判対象が1500万円を超える部分であると認める点では、判例と軌を一にします。しかし、1500万円以下の部分については、原告が自認したことにより、請求が放棄されたという構成を取ることで、1500万円以下の部分について審理がされていないという法律構成1への批判に応えながら、第3訴訟における弁済の主張を封じることができる利点があります。もちろん、欠点としては、請求の放棄だというにもかかわらず、調書に記載されていないこと(民事訴訟法267条)をどのように説明するかという点でしょうか。」


まあ、修習生なら答えられるべき最低限のラインは押さえているな。


「そもそも、『1500万円を超える債務がないこと』の判断を求める原告は、1500万円以下の部分について自認しているのかな。むしろ、とりあえず1500万円以下の部分については判断を求めないというだけはないのかな*21。」


沙奈ちゃんが噛み付く。


「この構成2の場合、本当に、第3訴訟での弁済の主張は封じられるかを考える必要がありそうな気がします。請求の放棄に既判力は認められるのでしょうか?」



志保ちゃんが修習生に尋ねる。


判例は、制限既判力説、つまり、既判力を肯定しながら、それは必ずしも確定判決と同様に解する必要はなく、意思表示たる訴訟行為について詐欺、脅迫、錯誤などの取消無効事由がある場合には、既判力の排除を求めることができるという考えに立っています*22。本件の意思表示に瑕疵があることを示す事実はないのですから、既判力を肯定していいのではないでしょうか…。」


修習生がとまどう。


「既判力って、請求の放棄が調書に記載された時点で生じるのではないでしょうか。そもそも、調書に記載されない点を置くとしても、構成2が仮に、訴訟提起か第1回口頭弁論における訴状の陳述をもって請求の放棄とみなすのであれば、その基準時は平成19年6月1日ないしは7月27日。つまり、平成20年3月15日の弁済は基準時後の行為であって、主張は制限されないですよね。」



沙奈ちゃんが追求する。「五月ちゃんに色目を使う人は許さない!」という気概が感じられる。



「結局、調書への記載がない請求の放棄について、どの段階で、調書へ記載したと『みなす』のかという問題かな。もちろん、本件における調書に準じるものは、主文に『原告が被告に対して負う元本返還債務が1500万円を超えては存在しない』と確認した判決書だと考えれば、基準時の問題はないけれど、判決の記載を調書とみなすというのが相当か、そして、そもそも、本件のように何を調書への記載とみなすかで、基準時の前後がずれる事案が生じてしまい、ある意味、『基準時逃れのための恣意的な議論』が可能になる構成2そのものが相当かという問題があるね。」



最後は僕が引き取る。



「ふ、深いですね…。」



修習生が簡単のため息をつく。


「もう大分遅くなっちゃったから、(2)はさくっと行きましょうか? 無条件の給付(登記抹消請求認容判決)を求めている原告に対し、条件付給付判決を下すことができるかだけど。」


五月ちゃんが最後の問題へと進む。


「この問題は、訴えの利益と処分権主義の問題です。訴えの利益の問題というのは、条件がつくことで、一種の将来給付になることから、『あらかじめその請求をする必要がある場合』(民事訴訟法135条)かということですが、訴えの段階で、債務額の確定とその弁済を条件とする抵当権設定登記抹消登記請求をする場合には、この意味の訴えの利益が認められており*23、判決段階でも同様に考えられるということでいいのではないでしょうか*24。より重要な、処分権主義の問題というのは、裁判所が、厳密に言うと原告の求めた物と違う判決を下していいのかということですね。」


志保ちゃんの的確な立論。


民事訴訟法246条は、処分権主義から『裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。』としています。そうすると、条件付き給付判決は同条違反であって、裁判所は、原告の求める、無条件給付判決ができない以上、請求を棄却すべき、こういうことでしょうか?」


律子ちゃんが発言する。



「そもそも、民事訴訟法246条って何かを考えてみてはいかが? 申立て事項は処分権主義から原告の意思によって決められるべきであり、また、何が申立て事項かが明確にされることで被告に対する攻撃防御対象を示し不意打ちを防止するという機能があることからは*25、原告の合理的意思に反せず、被告の不意打ちにならない場合には、原告の申立てと異なる判決をすることが許容されるのではないかしら。」


五月ちゃんが条文の趣旨から議論する。


「全面敗訴よりも、条件付給付の方が原告に有利であるから、原告の意思に反せず、また、被告も自ら500万円の未払いを主張して争っている以上、被告の不意打ちにならない以上、条件付給付判決は認められるということですね*26。」




修習生が嬉しそうに話す。



「きちんと、原告は、条件付給付判決を望んでいるのか、条件付給付判決の場合と、請求棄却判決の場合で、その後どうなるかについて検討しておいた方がよろしいのではないでしょうか。主文に記載された事項について既判力に準じた効力が生じるとする最高裁判例を前提とすると*27、条件付給付判決の場合には、後訴で500万円の債務の存在について争うことができなくなるでしょう。これに対し、全部棄却判決であれば、この点に既判力はもちろんそれに準じた効力は生じない訳です*28。ただし、判例は、前訴で敗訴した原告の蒸し返し的再訴は認められないとしています*29。例えば、全部棄却判決を得た後、500万円につき債務不存在確認の訴えを起こすことは信義則に反し許されないでしょう。」


志保ちゃんがより深い議論を展開する。


「どちらの判決であっても、原告にとって500万円を争えないという結論には違いがない一方、全部棄却判決を得た後に500万円を弁済して改めて抵当権設定登記抹消登記手続を求めて訴えるのはむしろ迂遠であって。本件の原告の合理的な意思としては、全部勝訴できないならば、条件付給付でも良いものと解釈すべきであり、被告も500万円の未弁済を主張して争っており、条件付給付判決であればこの判断に既判力に準じた効力が生じるのですから、被告にとっての不意打ちもない、だから、条件付給付判決が認められるということですね。」



修習生が納得した様子を見せる。


「まあ、大体こんな答えをしておけばいいんじゃないかな。でも、そもそも、被告側の立場をよく考えてみると、抵当権設定登記抹消登記手続訴訟の認容を防ぐためには債務が1円以上残存することを主張すればいい訳で、例えば、被告が『平成21年3月15日の1000万円の弁済についても争うが、より確実な500万円の弁済に力点を置こう』と考えて訴訟遂行をした場合には、500万円を払うだけで抵当権設定登記の抹消を認める条件付き給付判決は、被告側にとっての不意打ちになる可能性も否定できないよね。だから、被告がこの点を自認する等争わない意思を明確にする場合以外は、裁判所は、被告に対し釈明をすることが望まれる、この辺りまで考えられれば、修習生から実務家へと1つレベルアップしたということになるのかな。」



感嘆する修習生。沙奈ちゃんも、修習生と張り合う中で、1つレベルアップできたようだ。

*1:ここは額面通りに受け取ると、この物語が2000年頃の物語になるが、司法改革の進展が速過ぎるので、却下。

*2:伊藤212頁

*3:重点講義上97頁、東京地判平成7年7月14日判タ891号260頁

*4:民事訴訟法82条

*5:この問題についての文献は多いが、取り急ぎ判例時報誌における野山宏「原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解の実務」(連載中)を参照の事。

*6:河野613頁。なお、リーガルクエスト435頁は、シニカルに、試験訴訟や被告の資力を考慮した一部請求訴訟は一部であり、「多くの場合には、むしろ立証の困難や、不合理な請求であるとの外観を回避したいといった動機の方が重要な要因となっている」としている。

*7:なお、リーガルクエスト435頁以下は、「一部請求訴訟が、それ自体適法であることにつては、現在では異論がない」とした上で、一部請求訴訟の訴訟物の問題と、一部請求訴訟確定後の再訴の問題であると、問題を整理していることに留意が必要である。

*8:河野614頁

*9:藤田364頁参照

*10:重点講義上98頁

*11:重点講義上98頁、102頁参照

*12:藤田364頁等。但し、重点講義上100頁は、以下の平成10年最判を念頭に(同106頁)、この立場を「かつての判例」としていることに留意が必要である。なお、明示要件については、最判平成20年7月10日判時2020号71頁等が文字通りの「明示」でなくてもよいとしている。リーガルクエスト439頁参照)。)は、前訴で請求金額が全体の一部であることを明示した場合にのみ、後訴で残額請求をすることが許容されるという立場だわ。一部請求を認める一方、被告の利益の保護のため、一部と明示を要求したという、現実に即した柔軟な立場ね ((河野616頁

*13:藤田365頁

*14:藤田367頁

*15:重点講義下261頁

*16:重点講義下264頁、遠藤賢治「事例演習民事訴訟法」第3版279頁参照

*17:最判昭和40年9月17日民集19巻6号1533頁

*18:なお、これは必然ではない。訴訟物を請求全体として考える立場からも、既判力についてどの範囲で認められるかについて様々な考えが分かれていることについては、リーガルクエスト437頁参照

*19:異なる文脈だが、「留保額(注:自認額)300万円のうちで残債務が200万円であるのか100万円であるのかの審理をすることは無用である。」とする重点講義下265頁参照。

*20:重点講義上106頁

*21:重点講義下264頁、特に「自認しているわけではない」を参考にした

*22:伊藤454〜455頁

*23:大判昭和7年11月28日民集11巻2204頁

*24:この要件は、弁論終結時に訴訟物たる給付請求権の履行期が到来していないにもかかわらず、本案判決を求める地位を認めるためには、それを正当化するに足る利益が原告に存在しなければならないことを意味するところ、(伊藤172〜173頁)。債務者の言動や態度から見て履行期に履行する意思がないと推論できる場合にはこの要件が満たされる(松本・上野148頁) 。

*25:リーガルクエスト405頁

*26:藤田318頁、リーガルクエスト408頁を参考にした。なお、このような単純な議論をすると問題がある例として事例演習141頁参照

*27:最判昭和49年4月26日民集28巻3号503頁。重点講義下243頁参照

*28:実は、「一次的棄却判決」論、「差し当たり棄却判決」論といって、期限未到来等を理由とする棄却判決について特別な既判力を認める見解があり、これを条件未成就の場合に拡張すれば、本文と違う結論になる可能性がある。リーガルクエスト421頁。

*29:最判昭和51年9月30日民集30巻8号799頁

民訴ガール第9話「身代わり裁判の行方」平成22年その1

民事訴訟マニュアル上-書式のポイントと実務-

民事訴訟マニュアル上-書式のポイントと実務-

うららかな初夏の昼下がり、僕は、いつものように、法学科研究室で重点講義を読んでいた。

規範分類説(二重規範説)
これから手続を進めるにあたって誰を当事者として扱うかの行為規範の問題と、既に進行した手続を振り返ってその手続の当事者は誰であったかを懐古的に考える評価規範の観点とを自覚的に分離し、行為規範としては明確な基準を提供する表示説を採り、評価規範としては紛争解決に適する者で、かつ、手続の結果を帰せしめても構わない程度に関与する機会が与えられていた者を当事者と確定するという説である(新堂一三七頁)

(中略)

では、どのように考えるのが妥当だろうか(略)そうだとすれば、現時点では、新堂説のように、伝統的処理の延長上に評価規範としての当事者の確定で考えるというのも一つの考え方だということになりうる。理論としては過渡期のものであり多少の不純物を含むものになるにせよ、現時点では、解釈論としてはむしろこの方が通りがよいはずである。


重点講義上155頁〜160頁


学説を比較して、新堂説以外の学説の問題点を指摘し、そして、現時点では新堂説に行き着くという、典型的な重点講義の論理展開にうっとりとしてしまう*1



トントン


「どうぞ。」


そういって振り向くと、そこには、五月ちゃんと、沙奈ちゃんが不安そうな顔を浮かべていた。


「今日は、ご相談があって来たんですの。」



五月ちゃん、今日はいつもの元気がない。



「法律相談だけではなくて、『人生相談』も大歓迎だよ。」



「実は、私、裁判に巻き込まれているんです。今はお父さんにもらった土地に家を新築して五月ちゃんと同居しているんですけど、その家を立てる時に壊した古い家に抵当権がついていたって、お父さんと関係のあるサラ金が主張して、私を訴えたんです…。」



沙奈ちゃんが絞り出すような声を出す。


「それで、古い家を壊したことが抵当権侵害の不法行為になるかを相談したい、ってことかな。」


「そうじゃないんです。実は、こういう事情なんです。」



五月ちゃんが補足する。


1.印刷や製版の工場を個人で営むAとその妻であるBとの間には,昭和58年8月20日にC 男が生まれた。やがて平成5年にBが病没すると,Aは,平成6年2月にDと婚姻した。この時, Dには子としてE女があり,Eは,昭和60年2月6日生まれである*2
Aには,主な資産として,工場とその敷地のほかに,当面は使用する予定がない甲土地があ り,また,甲土地の近くにある乙土地とその上に所在する丙建物も所有しており,丙建物は,事 務所を兼ねた商品の一時保管の場所として用いられてきた。これら甲,乙及び丙の各不動産は, いずれもAを所有権登記名義人とする登記がされている。
2.Cは,大学卒業後,いったんは大手の食品メーカーに就職したが,やがて,小さくてもよい から年来の希望であった出版の仕事を自ら手がけたいと考え,就職先を辞め,雑誌出版の事業を 始めた。そして,事業が軌道に乗るまで,出版する雑誌の印刷はAの工場で安価に引き受けても らうことになった。
3.そのころ,Aは,事業を拡張することを考えていた。そこで,Aは,金融の事業を営むFに 資金の融資を要請し,両者間で折衝が持たれた結果,平成19年3月1日に,AとFが面談の上, FがAに1500万円を融資することとし,その担保として甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を 設定するという交渉がほぼまとまり,同月15日に正式な書類を調えることになった。なお, このころになって,Cの出版の事業も本格的に動き出し,そのための資金が不足になりがちで あった。
4.ところが,平成19年3月15日にAに所用ができたことから,前日である14日にAはF に電話をし,「自分が行けないことはお詫びするが,息子のCを赴かせる。先日の交渉の経過を 話してあり,息子も理解しているから,後は息子との間でよろしく進めてほしい。」と述べ,こ れをFも了解した。
5.平成19年3月15日午前にFと会ったCは,Fに対し,「父の方で資金の需要が急にできた ことから,融資額を2000万円に増やしてほしい。」と述べた。そこで,Fは,一応Aの携帯 電話に電話をして確認をしようとしたが,Aの携帯電話がつながらなかったことから,Aの自宅 に電話をしたところ,Aは不在であり,電話に出たDは,Fの照会に対し「融資のことはCに任 せてあると聞いている。」と答えた。これを受けFは,同日に,融資額を2000万円とし,最 終の弁済期を平成22年3月15日として融資をする旨の金銭消費貸借の証書を作成し,また, 2000万円を被担保債権の額とし,甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設 定契約の証書が作成され,Cが,これらにAの名を記してAの印鑑を押捺した。
6.この2000万円の貸付けの融資条件は,返済を3度に分けてすることとされ,第1回は平 成20年3月15日に500万円を,次いで第2回は平成21年3月15日に1000万円を, そして第3回は平成22年3月15日に500万円を支払うべきものとされた。また,利息は, 年365日の日割計算で年1割2分とし,借入日にその翌日から1年分の前払をし,以後も平成 20年3月15日及び平成21年3月15日にそれぞれの翌日から1年分の前払をすることと した。なお,遅延損害金については,同じく年365日の日割計算で年2割と定められた。
7.同じ3月15日の午後にAの銀行口座にFから2000万円が振り込まれた。これを受けCは,同日中に,日ごろから銀行口座の管理を任されているAの従業員を促し500万円を引き出 させた上で,それを同従業員から受け取った。
また,甲,乙及び丙の各不動産に係る抵当権の設定の登記も,同日中に申請された。これら の抵当権の設定の登記は,甲土地については,数日後に申請のとおりFを抵当権登記名義人とす る登記がされた。しかし,乙及び丙の各不動産については,添付書面に不備があるため登記官か ら補正を求められたが,その補正はされなかった。その後,【事実】9に記すとおり,AF間に 被担保債権をめぐり争いが生じたことから,乙及び丙の各不動産について抵当権の設定の登記 の再度の申請がされるには至らなかった。
8.翌4月になって,甲,乙及び丙の各不動産の登記事項証明書を調べて不審を感じたAは,C を問いただした。Cは,乙及び丙の各不動産について手続の手違いがあって登記の手続が遅れて いると説明し,また,自分の判断で2000万円の借入れを決めたことを認めた。
9.借入れの経過に納得しないAは,弁護士Pに相談した。そして,Aは弁護士Pを訴訟代理人 に選任した上で,平成19年6月1日,Fに対し,平成19年3月15日付けの消費貸借契約(以 下「本件消費貸借契約」という。)に基づきAがFに対して負う元本返還債務が1500万円を 超えては存在しないことの確認を求める訴え(以下「第1訴訟」という。)をJ地方裁判所に提 起した。
10.Eは,AとDが婚姻して以来,A,D及びCと同居しており,その後は,Cと年齢が近かっ たこともあって,お互いに様々な悩みについて相談し合ったり,進路についてアドバイスをし合 ったりしていたが,平成19年6月中旬ころ,Cの勧めもあって,Eは,Aらとの同居をやめて 独立し,幼なじみのG女を誘って一緒に事業を始めることを決意した。そして,Eは,同月,ア パートを借りてGと同居生活を始めた。
11.平成19年7月,Aは,乙土地及び丙建物につきFを抵当権者とする抵当権の設定の登記が されていないことに乗じて,Eに対し,「いつもCの相談相手になり,励ましてくれてありがとう。私としては,今後もCにとって信頼できる友人として付き合ってほしいと願っている。また, 独立して自分の道を歩もうとする君を大いに支援したいので,乙土地及び丙建物を君に贈与し たい。」と述べた。
12.Eは,AがFから金銭を借り入れた事情や,その担保として甲土地,乙土地及び丙建物にF のための抵当権を設定する契約が結ばれたものの,乙土地及び丙建物については抵当権の設定の登記がされていないことなどについて,平成19年4月ころにAとCが話しているのを耳に しており,同年7月の時点でも,乙土地及び丙建物については抵当権の設定の登記がされてい ないことを知っていた。
13.しかし,Eは,Aから乙土地及び丙建物の贈与を受けることができれば,丙建物を取り壊し て自分の住居を建築することができると算段し,乙土地及び丙建物にFのための抵当権の設定 の登記がされていない事情を十分に認識した上で,Aによる乙土地及び丙建物の贈与の申出を 受け入れ,平成19年7月27日,乙土地及び丙建物につき,贈与を登記原因としてAからE への所有権移転登記がされた。
14.平成19年8月19日,Eは,乙土地上に自己の居住用建物を建築するため,同土地上にあ った丙建物を取り壊した。これを知ったFは,弁護士Qを訴訟代理人に選任した上で,Eに対し, 抵当権の侵害による不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起することとした。
15.平成19年9月10日,Fは「被告E」と訴状に記載して,【事実】14に記す訴え(以下「第 2訴訟」という。)をJ地方裁判所に提起した。第2訴訟は,被告側に訴訟代理人が選任されな いまま進行した。第1回口頭弁論期日が開かれた後,口頭弁論が続行され,第3回口頭弁論期日 までの間に,双方から事実に関する主張及びそれに対する認否が行われた。
16.弁護士Qは,第4回口頭弁論期日にこれまでどおり出頭し,J地方裁判所の法廷入口に用意 された期日の出頭票の原告訴訟代理人氏名欄に自らの名前をボールペンで書き入れようとした 際,これまでの口頭弁論期日にEとして出頭していた人物が,同じく出頭票の被告氏名欄にボー ルペンで「G」という氏名を記載した後に,慌ててその名前を塗りつぶして,「E」と記載した ところを目撃した。
そこで,弁護士Qは,不審に思い,第4回口頭弁論期日の冒頭において,Eとして出頭した 人物に対し,「あなたは,先ほど,出頭票に「G」という今まで見たことがない名前を書いてい ませんでしたか。訴状には,「被告E」と記載されています。あなたは,本当にEさんですか。」 と問いただした。すると,Eとして出頭した人物は,「実は,私は,Eと同居しているGです。」 と述べ,次回期日には,Eを連れてくる旨を確約した。裁判所は,口頭弁論を続行することとし, 第5回口頭弁論期日が指定された。
17.その後,第2訴訟に係る経緯をGから聞いたEは,訴訟代理人として弁護士Rを選任した。 そして,第5回口頭弁論期日には,弁護士Q並びにE,G及び弁護士Rが出頭した。
第5回口頭弁論期日においては,E本人が訴状の送達を受け,Gに対応を相談したところ,G が,「この裁判は,あなたの身代わりとして私がするから任せてほしい。」と申し出たので,Eが Gに対し「任せる。」とこたえた,という事実が確認された。
そして,弁護士Rは,「これまでにGがした訴訟行為は,すべて無効である。」と主張し,裁判所に対し,これを前提として手続を進めることを求めた。 これに対し,弁護士Qは,「弁護士Rの主張は認められない。Gがした訴訟行為の効力はEに及ぶ。」と主張した。
〔設問3〕 【事実】1から17までを前提として,第2訴訟において,訴状の送達後,Gが第3回 口頭弁論期日までの間にした訴訟行為の効力がEに及ぶかどうかについて,理由を付して論じな さい。


「えっと、沙奈ちゃんは事業をやってるの?」


「はい。法学がこれからの生活でも大事なので、中学生向けの法律解説講座を発信してるんです。あ、クラスのみんなには内緒だよ。」


「えっと、僕は一応先生なんだけどなぁ…。まあ、いいや。結局、五月ちゃんが沙奈ちゃんの振りをして裁判所に出ていたのがバレたってことね。」


「はい…。私にはまだ弁護士資格がないから、地方裁判所では代理人ができないので…*3。」


「弁護士代理の原則というのは、いわゆる『三百代言』と言われる、劣悪な代理人により当事者の利益が損なわれるとともに、手続の円滑な進行を図るためのものだ*4。弁護士資格がない五月ちゃんは代理人をしてはいけないというこの規定を潜脱してはだめだよ。特に五月ちゃんは生徒会長なんだから、模範とならないといけないよ。」



どうしても語気が強くなる。



「悪いのは、お姉様じゃないんです。私が、法律知識がないから、お姉様に助けてとお願いしたのが悪いんです。」



沙奈ちゃんが泣き出す。


「いいえ、悪いのは私です、沙奈は悪くはありません。」



五月ちゃんは泣きながら、沙奈ちゃんの肩を抱く。



「困ったなぁ。女の子を泣かせるつもりはないんだけど。とりあえず、君たちのやるべきだったことは、最初から弁護士に相談するか、事情を正直に裁判官に話して補佐人申請をする(民事訴訟60条)ことだった訳*5だけど、とりあえず、もうやってしまったことはしょうがない、僕は一応弁護士だから、代理人になってなんとかしてみるよ。」


不純同性交友が禁止される学園において、教師が、「五月ちゃんと沙奈ちゃんが結婚すれば成年とみなされるから訴訟能力を持てるよ」*6というアドバイスをするというのは流石にできないだろう。


「それで、私のやった行為は、無効となるのでしょうか。それとも、有効なのでしょうか。できれば、無効として、一から先生に訴訟追行して頂きたいのですが。」



「要するに、五月ちゃんの行為の中には、今振り返ってみれば不利な行為もあるから、その全てが有効ではないと主張し、有利なものだけをセレクトしたいということかな。」


「まあ、それができないならしょうがないんですけど…。」



決まりが悪そうな五月ちゃん。



「まあ、これは、三者から見れば、自分で身代わり出廷しておいて、後で、それを無効だというのは、ずいぶん虫のいい話だと思われるんじゃないかな。まあ一応検討してみようか。まず最初に、誰が当事者かを考えてみようか。つまり、当事者は訴状に記載された『沙奈(E)』ちゃんなのか、それとも実際に行動した『五月(G)』ちゃんなのかという問題だよ。」


「確か、学説がいっぱいあって訳が分からなくなった気がします…。」


沙奈ちゃんがため息をつく。



「基本的には、学説と実務は、理論的整合性と結論の妥当性を指向する。こういう学説が多岐にわたっている論点は要するに、全ての事例を整合的に説明しながら妥当な結論を導くことができる見解がないということだよ。だから、基本的な考え方の軸を理解しておけばいい。」



「考え方の『軸』ですか?」



「基本的には、『当事者の確定という問題はどの局面を処理するのか』という軸だね。例えば、訴状に『大統領』と記載されていた場合、それがいったい誰のことか、分からないよね*7。実際には、そういう明白な事例*8ではなくて、より複雑な事案が問題となっているんだけど、少なくとも訴状が第一回口頭弁論期日で陳述されるまで*9に、原告が誰で、誰を訴えるのかをはっきりさせるべきではあるよね。」


「そうすると、当事者の確定というのは、第一回口頭弁論期日までの作業だということでよいのかな。」


「その沙奈ちゃんの疑問はいい視点だね。実は、こういう見解は1つの極であって、こういう見解を取る教授は、伊藤眞教授をはじめとして結構いるよ*10。でも、もう1つの極として、『判決が確定するまでは、訴訟の進行の各段階毎に当事者が違う人として確定されることもあり得る』という見解もあるね*11。」


「この見解は、訴訟の始めから終了までを通じて必要があれば常に繰り返して行われる作業であって、その都度暫定的になされるという見解ですよね*12。でも、この見解は、その立論の基礎を、紛争解決を与えることが適切な主体が当事者だという、いわゆる適格説に置いていて、形式的当事者概念とは大分離れるという問題があるんじゃないかしら*13。」



五月ちゃんがツッコミを入れる。


「適格説? 形式的当事者概念?」


沙奈ちゃんが混乱する。


「その具体的紛争において、誰が原告や被告といった当事者になるのが相応しいかを考える訴訟要件は何かな?」


早速、助け舟を出してあげる。


当事者適格です。当事者適格とは、特定の訴訟物について当事者として訴訟を追行し、本案判決を受ける事ができる資格をいいます*14。」



即答する沙奈ちゃん。


「そうだね。例えば、XがYに貸したお金が返ってこない場合に、いくらZがYの行為に憤っても、Zは貸金債権の当事者じゃないから、原告としての適格がないとかそういうことだよ。そうすると、当事者適格があるかは、一度ある人(例えばZ)が『当事者』であると確定された上で、その『当事者』と、その事案(例えばXY間の貸金請求訴訟)の関係で判断される訳だよね。ところが、紛争解決を与えることが適切な主体が当事者だといってしまうと…。」


当事者適格の考え方を当事者の確定の段階で先取りしてしまう!


沙奈ちゃんが気づく。


「そう、だから、当事者の確定段階では、請求の定立者とその相手方又は判決の名宛人を当事者という風に、紛争の内容と関係なく、形式的に当事者が誰かを決めようというのが形式的当事者概念だね*15。その意味では、いわゆる『適格説』を取るのはなかなか難しいところがあるかもしれないね。ただ、『判決が確定するまでは、訴訟の進行の各段階毎に当事者が違う人として確定されることもあり得る』という見解の論者の少なくとも一人は、適格説をその議論の基礎に置いているものの、適格説を取らない限りこういう考えを取ることができない訳ではないことには留意が必要だ*16。」


「そうすると、当事者の確定という作業を訴訟の初期にやってしまうという考えと、訴訟の進行中に徐々にも判断する考え方がある訳ですが、どのような考えの方向性がいいのかしら。」


五月ちゃんが首をひねる。



「これは難しいところだね。例えば、既に死んだ人を被告として訴状が送達されて、この訴状を唯一の相続人が受け取って、被告として応訴したとしようか。それで、原告は勝利を収めていざ執行しようとしたら、相続人は『被告は被相続人であって、自分は被告ではないから判決の効力は及ばない』という。これは不当だよね。」


「あれ、当事者の『承継人』に判決効は当然拡張されるのではないですか?」


沙奈ちゃんが指摘する。


「沙奈、民事訴訟115条1項3号は『口頭弁論終結後』の承継人に拡張するだけよ。」


五月ちゃんがたしなめる。


「この場合に、1つの解決は、応訴した相続人が当事者だと言ってしまい、被告の表示が誤っていたからといって表示を訂正するという対応をすることだね。でも、これが唯一の解決ではなくて、例えば、当事者は訴訟の初期に(被告として表示された死者=被相続人が被告として)確定されるけど、判決効をどこまで拡張するかという問題の中で、手続過程を実質的に支配していた者にも判決効が及ぶと考えれば良いという議論が考えられるよね*17。つまり、当事者の確定というものを後々様々な過程で使われるものと見るのか、当事者の確定の議論の射程は狭いものと見て、問題となる各場面で、各場面毎の理論を使って解決しようという方向かという点で最初に行った2つの方向性は先鋭に対立しているんだよ。」


「これまでの行為無効を主張するためには、通説*18である表示説、つまり、当事者の確定を初期に訴状の表示を基礎に確定する見解を主張して、被告は『沙奈(E)』であり、『五月(G)』は被告ではないと主張するのが一番強い議論ということでしょうかね。」



五月ちゃんがまとめる。


「この見解に対しては、表示説が有力な理由は裁判所が今後誰を当事者として扱うかを決める際に明確な基準を与えるからであって、既になりすましが発覚した後、事後的に誰が当事者であったかを懐古的に評価する際にはその要請はないという批判があるね。この様に考えれば、むしろ懐古的な判断の場面においては、手続の結果を帰せしめても構わない程度に手続に関与する機会が与えられていた者を当事者として評価するという規範分類説も近時有力*19であって、この考えからは、『五月(G)』ちゃんを当事者と見ることができるかもしれないね。」


「そもそも、なりすまし事案で、当事者が『五月(G)』お姉様だったって確定して何になるんだろう。結局、建物を壊した不法行為者は『沙奈(E)』なのですから、当事者の『五月(G)』お姉様としては『自分は建物を壊していない』と主張するだけで、請求棄却になるんじゃないかな。」


沙奈ちゃんが面白い事を考える。


「これは結構難しいところだね。だからこそ、規範分類説の論者は、単なる手続への関与の機会だけではなく『紛争解決に適する者』という要件を主張していることに留意が必要だ*20。1つの考えは、『五月(G)』ちゃんは任意的訴訟担当として、当事者として訴訟を追行している。だから、『五月(G)』ちゃんは当事者であり、かつその行為の効果は『沙奈(E)』ちゃんに帰属する(民事訴訟法115条1項2号参照)という議論かな。なお、いわゆる規範分類説は、将来の判断については基準の明確性から表示説を取るんだ。だから、なりすまし発覚後の将来の行為については、形式的にみて『沙奈(E)』ちゃんが当事者となり、『沙奈(E)』が今後は当事者として訴訟を追行することになるね。」


「もし、(Gによる訴訟追行当時の)当事者は『沙奈(E)』だということになれば、『五月(G)』お姉様の行為の効果は『沙奈(E)』に及ばないということでいいんですか。」


沙奈ちゃんが質問する。


「そうは簡単にはいかないよ。『五月(G)』ちゃんの行為を『沙奈(E)』ちゃんの代理と見る可能性はあるよね。」



「本件のように、代理人としてではなく、本人として行動をしているという場合にも、これを代理と見ることができるんでしょうか。」



五月ちゃんの主張は鋭い。


「訴訟行為は、法律行為を基礎に、それに訴訟法独自の要請から修正を加えて考えて行くことになる*21。そうすると、実体法上、署名代理が認められているのだから*22、訴訟行為としても、署名代理類似のものとして代理に準じて扱う余地があるんじゃないかな。」


「それは弁護士代理の原則からは許容されないのではないでしょうか。それを許容したら、民事訴訟54条の趣旨が骨抜きになります!」


「沙奈ちゃんもなかなか面白いことをいうね。この問題、『代理人』の行為の当事者への帰属だから、当事者の確定とは違う問題だけど、当事者の確定の問題でいうところの規範分類説のように考えるのがいいんじゃないかな。つまり、非弁護士の訴訟追行が発覚した時点で、将来の訴訟手続をどうするかという意味では、当然非弁護士は排除されるべきだ。でも、過去の行為の効力という意味では、少なくとも本人が自ら、弁護士資格のないと知りながら訴訟代理人に選任した以上はこの結果について後で無効を主張するのは不当であって、効果の帰属を否定できないんじゃないかな*23。」


判例は、弁護士資格の存在を訴訟代理人の地位の前提条件として、本人の追認がない限り、本人に対し効力を及ぼさないといっているのではないでしょうか?」



「五月ちゃんは判例を良く知っているね。最判昭和43年6月21日民集22巻6号1297頁を根拠に議論を展開するのは1つのあり得る議論だけど、この事案は弁護士の登録取消後の判決の送達の効力という特殊な事案だし、しかも、原判決が送達されてから二週間以内に上告が提起されているから、訴訟当事者が判決を現実に入手していて、送達は有効だといって*24、結局はこの瑕疵の治癒を認めている事案だよね。この判例をどこまで一般化できるか射程には疑問があるところだね。」


「そうすると、過去の私の訴訟の追行の結果を無効とするには、当事者性を否認した上で、仮に署名代理類似の代理人であるとしても、一応昭和43年最判を根拠に本人が追認を拒絶している限り効果は本人に及ばないと主張する、但しその主張が裁判所に認められる可能性は低いということかしらね。」



五月ちゃんがまとめる。


「これは和解をした方がよさそうですね。判例や学説から、裁判の見通しを教えてもらえて、すごく安心しました。」


沙奈ちゃんがすっきりした顔をしている。



「そうだね。委任状を書いてくれたら、できるだけ早く和解ができるよう努力してみるよ。そもそも、早めに相談してくれていれば、例えば、変な事実の陳述をしちゃった場合でも、その次の期日に当事者の更正権を行使する(民事訴訟法57条)とか、手はあったはずなんだから*25、今後は何でも早めに相談してくれよ。」


「「分かりました。ありがとうございます。」」


キンコンカンコーン


予鈴が鳴る。


「じゃあ、午後の授業に出てきますね。」


去って行く二人の後ろ姿を、見えなくなるまでそっと見送った。翌日、委任状を入れた可愛らしい封筒が僕の靴箱の中に入っていたのは、また別のお話。

*1:重点講義初版はしがきの中で「なぜ新堂説(略)を乗り越えることができないかを解き明かしたのが本書であり、それは同時に、私なりに現在の我が国の民事訴訟法学の状況を描いたということである。」と説明している。なお、「だったら最初から新堂民訴を読め」というツッコミはなしということで。

*2:ここは額面通りに受け取ると、この物語が2000年頃の物語になるが、司法改革の進展が速過ぎるので、却下。

*3:民事訴訟54条1項

*4:リーガルクエスト114頁

*5:なお、補佐人について訴訟能力の要否は問題となり得る。

*6:重点講義上192頁参照

*7:東京高判平成14年10月31日判時1810号52頁を参考にした。

*8:ただし、商品先物トラブルにおいて、勧誘員が偽名を名乗っていたと可能性がある(一審である東京地判平成21年7月10日判タ1329号268頁によると、そのような名で外務員登録をしていた職員はいないとのことであった。)事案において「自然人である当事者は、氏名及び住所によって特定するのが通常であるが、氏名は、通称や芸名などでもよく、現住所が判明しないときは、居所又は最後の住所等によって特定することも許される」として、先物会社を勤務場所として、被害者に対して名乗っていた名称の者という程度で特定があるとした東京高判平成21年12月25日判タ1329号263頁につき参照のこと

*9:それ以前の段階であれば、自由な訂正が可能である、重点講義上158頁参照

*10:重点講義上158頁

*11:同上

*12:重点講義上159頁

*13:重点講義上154〜154頁参照

*14:リーガルクエスト366頁

*15:伊藤109〜110頁

*16:重点講義下159頁

*17:重点講義上159頁。但し同頁には「そのような議論は、我が国ではまだ成熟していない」と批判されている

*18:重点講義上153頁

*19:河野94頁

*20:重点講義上156頁

*21:例えば、訴訟行為の訂正について、法律行為を基礎に検討をするものとして河野98頁。なお、このような考えは、「民事訴訟は権利行使の最終的な場としての機能を有する。その際、これらの行為が訴訟の相手方に対する権利行使という本質を有し、これと同じ責任原理が妥当するとすれば、それお規律する訴訟手続上の価値原理は私法のそれと共通であるはずで、その法的評価には実体法上の行為を起立する価値原理と全く異質の原理を持ち込んではならないはずである。」(河野37頁)という考えを前提としていることに留意されたい。

*22:最判昭和44年12月19日民集23巻12号2539頁

*23:重点講義上216〜217頁。なお、他の学説につき、伊藤146頁、リーガルクエスト116頁

*24:最判昭和38年4月12日民集17巻3号268頁

*25:当該陳述された期日に本人が出頭していない場合、次回期日の最初に更正すれば足り(岡口基一民事訴訟マニュアル上』116頁)、自白の撤回もできる(東京地判昭和43年9月24日判タ230号275頁)。