アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

バランス論の立場からの「法務の役割論」

 

ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)

ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)

 

 

 

いつも殺伐している法クラの中において、企業法務クラスタは比較的激烈な対立が少ない*1。しかし、最近論争になったのは、「法務の役割」論である。

 

本論に入る前に申し上げるが、私の仕事観は「ゆるゆる9時5時で働いて、それ以外の時間は『嫁』*2との生活を充実させたい、毎月160時間*3以上勤務したくない」というものである。このような価値観を共有しない、例えば、「何よりも会社が優先されるべき。『24時間働けますか?』」みたいな人は、このエントリを見ても全く共感できないと思います。

 


 さて、「ゆるゆる」とツイッターで法務役割論を呟いていたら、

 

 

 というリプを頂いた。

 

これをどのように解釈するかは、皆様のご判断に委ねたいものの、私は、

 

「建設的議論をしたいなら、その限りで議論に乗る」

 

というスタンスなので、ツイッターで既に呟いたところを中心に私見をまとめてみた*4

 


1、法務の役割論はどこから出てくるのか?
 議論の対立を鮮明にするため、多少誇張的に述べれば、「役割限定論」は、法務は法律だけやれば良く、「何でもできます」と言えば言うほど、むしろ法務の価値を貶め、仕事と責任を押し付けられる、という議論、「役割拡張論」は、法務が企業の戦略決定から何まで強い影響を及ぼす現代においては、法務はその役割を拡張し、プレゼンスを高めるべき、という議論である。

 

 私はというと、その中間の「バランス論」で考えており、少なくともいずれの陣営にも属さない。この立場は、いずれの陣営からも叩かれる、損な役回りである。

 

 

2. 「ビジネスパーソン」であることを忘れない

 私は、とある企業の法務部門に所属する現役法務パーソンとして、まずは外部事務所の弁護士の先生のような立場と、インハウスを含む企業法務部門に所属する法務パーソンの最大の違いとして、我々が「ビジネスパーソン」であることを指摘したい。

 

 

 「京都弁」でマイルドに書いているが、同じ会社の社員として、事業部門から「仲間」と思ってもらえなければならない。単に「社員」という立場である、というだけではなく、きちんと「ビジネスパーソン」としてのアイデンティティを持ち、そのビジネスをなんとか前向きに進めるにはどうすればいいか、ビジネスの伴走者として、一緒に真摯に考えていく。そういう案件を繰り返す中で、法務が信頼を勝ち取り、「法務は相談しやすい」「ちょっとこれも法務に相談してみよう!」となってくる。法務が信頼されて、適時に十分な情報が入って来る状況、これこそが、企業の内部統制ないしコンプライアンスシステムにおいて、法務が十分にそのなすべき役割を果たしている状況である。

 

 反対に、「私は単に事業部門が持って来たプランが適法か違法かをジャッジして結論を伝えるだけの仕事です」といったスタンスを取るのでは、単に物理的に会社内部にいるだけの外部弁護士と変わらないし、少なくとも「今時の優秀な外部弁護士」よりも、大分価値が低い。もちろん、インハウス雇用の際には「仕事量がある程度存在することから、外部の弁護士に委託するよりも、ある程度の法務知識を有している人を直接雇った方が安い」という発想はゼロではないと思われる。ただ、だからといって、ビジネスパーソンとして、他の同じ会社の「仲間」の共感を勝ち取れない人は、法務パーソンには向いていないと言わざるを得ないだろう。

 

 もし、「役割限定論」が、このような、狭義の法的リスク検討と書面化に自分を閉ざそうとするものなら、到底そのような議論は取れない。

 

 

3. 「何でもやります」でいいのか?

 このように、「法務は相談しやすい」「ちょっとこれも法務に相談してみよう!」という形で情報が早め早めに入るようになると、最初は「法務かもしれないが、そうでないかもしれないグレーな案件」が相談として入って来る。その後では「どう見てもビジネスな、法務ではない案件」が入って来る。

 

 人によっては「全てのビジネスは法務に通じるんだから、法務ではない案件なんてない!」というかもしれない。確かに、ビジネス文書も法的観点は重要であり、例えば、(BtoCはもちろんBtoBでも)公にアナウンスする文書であれば、その表現が虚偽だったり、誇大だったり、競合他社を不当に貶めるものではないか等、法務レビューを入れた方がいい。しかし、(法的紛争の可能性が出て来る案件ではない、普通の案件の)「本当に普通のメールやレター」を毎回のように「これでいいですかね?」みたいに確認を求められる等の場合、「なんでもやります」で本当にいいのだろうか? 私は、このような場合には、満面の笑顔で相談してもらったことへの感謝を示すとともに、「メールや文書で法務に相談すべきことが多い場合(揉めている場合、揉める可能性がある場合、製品の品質等について約束したり、約束していると理解される場合等等)を説明した上で、そのような場合ではなければ、普通のビジネス文書として、事業部門の判断で出してくださいね」と言うようにしている。

 

 このように、業務分野を限定する理由の1つとして、私が「ペーペーの平社員*5」だから、というのはあるだろう。もし、私が、法務部門のトップとして、法務部門に必要なリソース(人材や予算等)を確保したいと思えば「どんなことでも相談があれば、きちんと相談に乗って、それをきっかけに法務のプレゼンスをあげてほしい。『私は法務だからやらない』、という言い訳をいうな!」と、部下に対して発破をかけるかもしれない。このような社内政治上のアジェンダを述べる必要がない、というのは大きいと思われる。

 

 そのような前提で、「本音」を言えば、やはり、「現在の限られたリソースを有効に使う上では、法務の付加価値の部分をできるだけ強調できる仕事をしたい」と考えている。

 

 

 

 この辺りでも呟いたが、一部のなんでもできる人とは違い、私のような「法務しかできない*6普通の法務パーソン」にとって、周りの相談者が「ああ、法務に相談してよかったな!」と喜んでくれるのは、法律や法務の部分が「多い」といえる。営業なら営業、製造なら製造、数字なら経理等、それぞれ本来の部門に1日の長がある。

 

 そういう付加価値ないしは「コアバリュー」の部分の価値を高めることに奮闘するのが仕事の仕方として適切だと考えている。そうではなく、自分が得意ではない法務以外のビジネスに奔走するのは、少なくとも「普通の法務パーソン」にとって、最適なリソースの使い方ではないだろう*7

 

4.「責任」や「内部統制」の問題

 ここで「役割論」、つまり、どのような役割を法務が果たすべきかについて、きちんと述べておきたいこととしては、やはり、内部統制や責任の観点から、どのような分野でも法務がその役割としてしゃしゃり出ていく、というのは適切ではないということである。

 

 内部統制では、きちんと権限を分けてそれぞれに責任を負わせている訳である。もちろん、法務リスクについて適切に相談を受けていれば、法務として必要な検討とアドバイスはすべきであって、それを怠っていれば法務の責任にはなるわけだが、法務で検討した結果、あとは経営判断ですね、となった場合、最終的な「ビジネスディシジョンを行いその責任を取る」のは、やっぱり事業部門である。

 

 

 要するに、責任を取らない/取れない/(内部統制の観点から、権限が分配されていないので)取らせられない法務部門が、少なくとも「前に出て」、これが「法務の役割だ」としてビジネスディシジョンをしてしまうことは許容できない、ということである。

 その意味で、少なくとも上記のような意味での「役割拡張論」をとることはできない。

 

5.実際には「裏方」として働かないといけないことも

 とはいえ、最終的なビジネスディシジョンを事業部門がして責任を取ってもらう前提で、法務が実質的に色々なところで動く、というのは実務上はあり得る。もし、「黒子」というのが良くなければ「裏方」でもいいのだが、裏方が積極的・能動的に動かないと、事業部門が動かないという案件は必ず存在する。

 

 

 

 事業部門としてやらなければならない、でもやった場合に失敗して「バツ」がついてしまってもおかしくないリスクがある案件であるとか、後ろ向き案件である等という場合に、事業部門が二の足を踏んでしまい、法務が「法的リスクからいうと、こういう選択肢がありそれぞれのメリットデメリットはこれです、さあ検討してください!」といっても、事業部門が動かないことがある。事業部門が動かない場合に、事業部門のせいにして法務として何も動かない、というのも全くないわけではない選択肢ではあるが、例えば「今動けばマイナス10、動かないで数ヶ月待つとマイナス20、1年くらい待つとマイナス50になると予想されるところ、今動いてマイナス10が確定することを事業部門が嫌がって動かない」といった場合は、法務の方で「裏方」として、積極的にプロジェクトマネジメントをして、早めに会社のリスクをマイナス10で止めるために奔走すべき場合はあるだろう。

 

 その場合には、まさに「ビジネスパーソンの本領発揮の時」として、法務のコアバリューを超える業務はしなければならないのだが、その場合は、「きちんとお膳立てをする」というのが法務のできる到達点であり、「最終的ビジネス判断は事業部門が行いその責任は事業部門が取る」という点はわきまえておくべきである。

 

6.企業法務の世界へようこそ!

 

 このような「バランス論」を総括すると、以下のようになるだろう。

 

 

 法務に強みを持つビジネスパーソンで、ビジネスと共にビジネスを回していく、場合によっては、実質的にかなりビジネスにコミットすることもできる、こんな役割を持つ法務の世界はとても楽しい、こう私は考えている。

 

 

付記:

本エントリ脱稿後、dtk先生の以下のエントリに触れた。

dtk1970.hatenablog.com

 

 上記は、自分自身の過去の経験から複数の会社で通用すると思う内容であるものの、確かに会社によりニュアンスは違うだろう。なお、「管理系という意味では黒子,という言い方ができるかもしれない。この点,黒子ということがマイナスになるのではないかという言説にも接したが,そのような言説が,仮にまかり通るのであれば,そのことには違和感が残ることも付言しておく」という脚注3も参照。

 

 付記その2:

本エントリー脱稿後にNakagawa先生の下記のエントリに触れた。

www.tetsu-law.com

どのように法務業務を拡張していくかについて、バランスの良い観点から、具体的なノウハウを開示しており、特に「どうやればビジネスに信頼されるか」とか「最近『雑業係』に成り下がってないか」等と考えている法務パーソンにお勧めである。

 

 

付記その3:

なんか「本稿脱稿後に、●●に触れた」的な付記が多くて申し訳ないのですが、どうしても触れておきたい素晴らしい企業法務戦士先生のエントリが降臨された。

 

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

 

私見との相違は、「法務をメインで担当する部署の管理職」の視点vs「ヒラの法務パーソン」の視点という観点の違いであって、管理職になれば、基本的にこのような立場になるのだろうな、と強く共感した。

*1:多分「刑事弁護」とか、「法テラス」とかに基本的に縁がないクラスタだからであろう

*2:これが二次元嫁であるところが、比較的多くの皆様とは違っている

*3:なお、単純に定時で帰った場合、8×20で約160時間だよね、というだけで、某弊社の就業規則上の取り扱いは、もしかすると厳密には「160」という数字ではないかもしれないことに留意されたい。

*4:なお、「黒子」という表現にカチンと来たのかもしれないが、これはクラスタの違いによるものである。私は法アニクラスタ。とあるファンなら「お姉様」に一途な白井黒子に思い入れがあるし、「黒子のバスケ」ファンもいるだろう。

*5:実質的に指導をしたり、色々なことを頼める後輩がいるか否かとか、某弊社は特定の資格の有資格者に対して...待遇をすることがあるか否かとか黙秘

*6:いや、法務すらできない

*7:法務部門は突然仕事が大量に来てそれに追われるということもあるのだから、少しくらい暇(=余裕がある)な方がいい。

ぼくたちは英文契約(外国法準拠)のレビューができない

 ぼくたちは英文契約(外国法準拠)のレビューができない

  一部界隈では、外国法を知らなくても、日本法のアナロジーで外国法準拠の契約をレビューできるという言説があるらしい。

 ここでは、「英文」契約の問題(つまり「英語」の問題)はさておき、「外国法準拠」の問題のみを取り上げたい。つまり、「日本語で書かれた韓国法準拠の契約をレビューできるのか?」といった問題状況を設定したい。

 

 なお、本エントリ作成の際、dtk先生(Twitter : @ dtk1970 )のご意見を参考にさせていただき心より感謝している。但し、本稿は完全に私の私見であり、むしろdtk先生のご意見は主に「想定される反論」の部分の参考とさせていただいている。

 

1.「素人」は(日本法準拠の)契約をレビューできるか?

 本エントリの読者は、法務パーソンその他法務に関係が深い人が多いだろう。営業等の人には失礼を承知で書くが、(日本法準拠の)契約レビューの素人といえば、営業が典型的である。イメージしてほしい。営業がやって来て、「先方の雛型に少し本件の情報入れて私の方で修正しておきました。問題ないと思いますが、一応法務確認お願いします!」と言う。これって、死亡フラグの典型ではなかろうか?

 

 営業は素人なのだから、法律のことは何も分からずにビジネス文書として契約書を読んで、その理解に基づきリスクの有無を判断する。しかし、契約書は、「日本語」で書かれているのではなく、法律の世界で厳格に定義された用語を用いて、法令の規定によって「何も書かれていない場合には特定の規律が適用される」ことを前提に、その例外条件等を書き出している(なお、任意規定と同じ内容の「確認規定」もある)。

 

 すると、素人が日本語だと思って読んでリスクがあるかどうか考えることにほとんど意味はない。皆様は、営業等の素人が法務に相談せずに、変な覚書にサインして、トラブルになってから「契約書というタイトルでなかったので、ビジネス文書としてサインしました。あれ、なんかヤバかったですか?」みたいな「アチャー」感のある状況の経験はないだろうか?

 

 

2.法務部門の存在意義

 そもそも、契約が素人の手に余るからこそ、素人に勝手に対応させず、専門的な部署である法務部門がチェックすることこそが、「会社を守る」ことにつながる、だからこそ、我々法務パーソンは雇われている。

 「素人でも契約書がチェックできる」という命題を認めることは、まさに我々「法務部門」や「法務パーソン」の存在意義そのものを否定することである。

 もちろん、法務部門を維持し、法務パーソンを雇うことには費用がかかる。経営資源は貴重なのだから、これを法務なんかに回すべきではない、というのは昔の「常識」であった。しかし、先人の努力により、徐々に、法務部門に経営資源を配分することが、長期的な会社の発展につながる、との理解が広まってきた。もちろん、中小企業では未だに法務部門が存在しないこともあるが、大企業では(「部門」まであるかはともかく)法務担当者を置くことが増えている。

 

注:企業法務戦士(@k_houmu_sensi)先生から以下の貴重なコメントを頂戴した。

 

確かに、法務の成り立ちは各社毎に異なっており、契約書の管理等が法務の成り立ちである会社もあれば、それとは異なる成り立ちの法務部門もある、という視点は重要である。企業法務戦士(@k_houmu_sensi)先生に感謝するとともにこの点を補足させていただく。但し、私の趣旨は、「契約レビュー業務」そのものの重要性というよりは、「法務部門が法律・法務のプロフェッショナルであり、そのようなプロフェッショナル組織の維持のために会社が経営資源を投入すること」の重要性の部分にあったので、その点について誤解があったとすれば残念である。


 

3.外国法準拠の場合には、我々は「素人」である

 ここで「我々」というのは、日本法の知識や実務経験はあっても、いわゆる外国法を知らない、外国法の素人である法務パーソンをイメージしている。

 

 日本法の素人が日本法準拠の契約を取り回すのがリスキーなら、外国法の素人が外国法準拠の契約を取り回すことも同様にリスキーである。例えば、「中国企業との契約で東京地裁管轄に合意する」、これは、日本法のアナロジーからすれば素晴らしい発想だが、東京の勝訴判決は中国では執行できない。準拠法を理解しない素人が取り回すには契約は危険すぎるのである。

 

4.法務のレゾンデートルを守るために
 法務がプロフェッショナルである条件は、プロフェッショナルな仕事ができない案件については手を引く、要するに「やらない」、ということである。素人は、何が自分ででき、何が自分でできないかの判断ができない。しかし、プロフェッショナルな法務パーソンは少なくとも「これは無理だ」と、顧問弁護士に頼むという判断をしているだろう。そして、プロフェッショナルな法務パーソンであれば、外国法準拠の契約については「自分はできない」というべきであろう。

 以下、いくつかの、想定される反論について検討しよう。
 まず、「そもそも日本法で合意できる可能性もある」という点については、日本法で合意できる可能性が90%あれば普通に日本法前提で交渉し、合意できない可能性が増えて来た段階で外部専門家に頼むことは可能であろう。しかし、契約交渉開始時点で日本法で合意できる可能性が高かったからといって、日本法で合意できない可能性が増えて来た段階でもなお自分でできるという理由にはならないだろう。

 次に、「国際契約の汎用スキルを身につけている」という反論も想定される。確かに、FOB条件等、いわゆる「国際取引実務」の知識は別に準拠法がどこの国でも必要である。しかし、それはいわば「私はこのビジネスを長くやっているから、ビジネスリスクを知っている」と豪語する営業と同じであり、そういう知識があるからといって、ただちに「契約」のレビューができることにはならないだろう。

 更に、現在は経営資源の配分についてやっと大企業が国内法務について法務部門に資源を投入することの理解が広まった段階であり、外国法務について外部専門家のコストを負担するということへの理解はまだ広まっていないのだから、将来的な「理想論」はともかく、現時点での「現実論」としては、「やらざるを得ない」という反論がある。これは、一番説得的な反論だと思われる。もしかすると、目の前の仕事に対する姿勢としては、「外部弁護士の起用を提案するが、それは予算がないと言われ、自分で対応する」という姿勢はやむを得ないのかもしれない。しかし、同じ状況を何度も繰り返し、そのような現実を(たとえ消極的でも)肯定すべきなのだろうか。少なくとも長期的対応としてなすべきことは、「まずは試験的に外部弁護士を起用して、どの位専門家のレビューと素人のレビューが違うのかを見てみる」等、できるだけ現実を理想に近づける対応だと考える。

 法律問題、コンプライアンス、そして契約書は専門的だから、社内にプロフェッショナル集団が必要である、これが法務のレゾンデートルなのであれば、そのレゾンデートルを自ら否定するようなことはすべきではない。仮に目の前の仕事では、現実論を無視できない部分があるとしても、長期的対応として理想に一歩でも近くように努力をすることを怠れば、「そもそも、素人が英文契約できるなら、素人が和文契約をレビューしてもいいよね」という話になっても何もおかしくない。

 

 だからこそ、「僕たちは英文契約(外国法準拠)のレビューができない」ことを、正面から認め、それを前提に、予算取り等外部専門家の協力を調達することにリソースを注ぐべきである。

 

追記:

dtk1970.hatenablog.com

dtk先生に補足を頂いた。

基本的には、「米国法準拠契約のレビューについてプロフェッショナルなレベルの知識、経験、能力をお持ちのdtk先生であれば、何の問題もないことには100%同意するのですが、私が想定しているのは、普通の『日本法準拠の契約書ならレビューできます。え、Perfect Tender Ruleって何それ?おいしいの?』という程度の法務パーソンなので、想定される対象が違います」という印象であるが、いずれにせよ、本エントリに対してアンサーエントリーを頂戴したこと自体は極めて光栄であり、深く感謝の意を表したい。

 

 

江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)

株式会社法 第7版

株式会社法 第7版


1.はじめに
 伝統芸能化している本ブログの 法務系アドベントカレンダー( #legalAC ) 企画に、「江頭会社法の改訂版のどこが改訂されたのかを通じて近侍の会社法の重要な変化を探る」というものがある。


 そもそも、このような企画が始まった理由は、アニメ、漫画、ゲームの話しかしていない当アカウント (twitter:@ahowota) が、2014年の法務系アドベンチャーになぜかエントリーしてしまい、直前まで
3月のライオンと法律*1
・楽園追放と法律*2

等のエントリしか思いつかないまま、戦々恐々としていたところ、そういえば、昔江頭会社法の初版と2版を比較したことがあったことを踏まえ、


「江頭」第2版から「新司法試験商法」にヤマをかける - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 法務関係の皆様のお役に立てることといえば江頭差分以外にないだろう(逆に、アニメの法律分析等をすれば皆様に「ドン引き」されるだけだろう)というものであった。


2014年
「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


2015年
Legal Advent Calendar 2015企画:江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


と、総じてご好評をいただき、江差追分等と呼ばれながら、ここまでくることができた*3


 昨年は江頭会社法が改正されなかったので、この企画は大変残念ながら開催できなかったが、今年はついに江頭会社法第7版が発売されたことを受け、本エントリを公開させていただきたい。


 今年の法務系アドベントカレンダーはポエム系が多いように思われるところ、全くポエムではない空気を読めないエントリをあげたこと、おわび申し上げる*4


法務系 Advent Calendar 2017 - Adventar



2.本エントリの構成
 某記事でも少し書いたところであるが、

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]


 統計的にいうと、第6版から第7版への変化が10頁増、つまり1%しか増えていないことから、買い替えは不要なのではないかという人もいるかもしれない。しかし、そうではないことを明らかにする、これが本エントリの重要な目的である*5


 この目的を達成するため、本エントリは、まず、江頭会社法がその「はしがき」で改訂の契機として述べる、民法改正及びコーポレートガバナンス改革について簡単にどの部分に影響しているかを要約したい。その上で、それ以外の重要判例や重要改訂点について説明したい。


 なお、文献の入れ替え等*6細かな改訂は多い。新規引用文献では「企業法の進路 -- 江頭憲治郎先生古稀記念」からの引用が比較的多く、同書掲載の論文のうち、江頭会社法で引用されているものとされていないものを比較すると面白いと思われる。その意味では、網羅的に改訂点を説明するというよりは、一個人がその独断と偏見により興味深いと思ったところをいくつかピックアップしたとご理解頂きたい。


3.民法改正
 民法が改正されることで、会社法にはいかなる変化がもたらされるのだろうか。
 会社法民法の特則の部分があるところ、「本則」たる民法が変わることは、会社法にどのような影響を与えるのだろうか*7


(1)時効関係
 まず、 江頭会社法「はしがき」は、以下のように述べる。


>>
消滅時効に関する「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、株主代表訴訟については、いつの時点なのだろうか。
江頭憲治郎『株式会社法』(第7版、有斐閣、2017年)1頁

*1:http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141214/1418484677

*2:http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141210/1418139000

*3:法務系アドベントカレンダーをみて著作権モノを期待された方には平に謝罪申し上げる。

*4:なお、トリを務めたいと思った訳ではないが、単純に12月があまりにも忙しく、1日1秒でも時間が欲しかったというのと、「24日の夜にブログ記事書けるのは非リアの特権!」と思ったというだけであり、他の例えば「法務組織の(中間)管理職は何をしているのか」 (http://tokyo.way-nifty.com/blog/2017/12/legalac-07c2.html)のような、素晴らしい記事がトリを務める機会を奪った結果になったことにつき心からお詫び申し上げる。

*5:要するに「ステマ」であるが、私は単なる1ファンとして本書を「布教」しているだけである。

*6:ただし、細かいかどうかは議論があるものもないではないかもしれない。個人的には第6版402頁注4の3段落の野村修也「内部統制への企業の対応と責任」企会58巻5号100頁が第7版407頁注4で削除されているところが気になったところである。

*7:関係する論文としては431頁で引用される青竹正一「民法改正の会社法への影響(上)(下)」判時2300号19頁以下がある。

江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)

株式会社法 第7版

株式会社法 第7版


1.はじめに
 伝統芸能化している本ブログの 法務系アドベントカレンダー( #legalAC ) 企画に、「江頭会社法の改訂版のどこが改訂されたのかを通じて近侍の会社法の重要な変化を探る」というものがある。


 そもそも、このような企画が始まった理由は、アニメ、漫画、ゲームの話しかしていない当アカウント (twitter: @ahowota) が、2014年の法務系アドベンチャーになぜかエントリーしてしまい、直前まで
3月のライオンと法律*1
・楽園追放と法律*2

等のエントリしか思いつかないまま、戦々恐々としていたところ、そういえば、昔江頭会社法の初版と2版を比較したことがあったことを踏まえ、


「江頭」第2版から「新司法試験商法」にヤマをかける - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 法務関係の皆様のお役に立てることといえば江頭差分以外にないだろう(逆に、アニメの法律分析等をすれば皆様に「ドン引き」されるだけだろう)というものであった。


2014年
「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


2015年
Legal Advent Calendar 2015企画:江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


と、総じてご好評をいただき、江差追分等と呼ばれながら、ここまでくることができた*3


 昨年は江頭会社法が改正されなかったので、この企画は大変残念ながら開催できなかったが、今年はついに江頭会社法第7版が発売されたことを受け、本エントリを公開させていただきたい。


 今年の法務系アドベントカレンダーはポエム系が多いように思われるところ、全くポエムではない空気を読めないエントリをあげたこと、おわび申し上げる*4


法務系 Advent Calendar 2017



2.本エントリの構成
 某記事でも少し書いたところであるが、

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]


 統計的にいうと、第6版から第7版への変化が10頁増、つまり1%しか増えていないことから、買い替えは不要なのではないかという人もいるかもしれない。しかし、そうではないことを明らかにする、これが本エントリの重要な目的である*5


 この目的を達成するため、本エントリは、まず、江頭会社法がその「はしがき」で改訂の契機として述べる、民法改正及びコーポレートガバナンス改革について簡単にどの部分に影響しているかを要約したい。その上で、それ以外の重要判例や重要改訂点について説明したい。


 なお、文献の入れ替え等*6細かな改訂は多い。新規引用文献では「企業法の進路 -- 江頭憲治郎先生古稀記念」からの引用が比較的多く、同書掲載の論文のうち、江頭会社法で引用されているものとされていないものを比較すると面白いと思われる。その意味では、網羅的に改訂点を説明するというよりは、一個人がその独断と偏見により興味深いと思ったところをいくつかピックアップしたとご理解頂きたい。


3.民法改正
 民法が改正されることで、会社法にはいかなる変化がもたらされるのだろうか。
 会社法民法の特則の部分があるところ、「本則」たる民法が変わることは、会社法にどのような影響を与えるのだろうか*7


(1)時効関係
 まず、 江頭会社法「はしがき」は、以下のように述べる。


>>
消滅時効に関する「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、株主代表訴訟については、いつの時点なのだろうか。
江頭憲治郎『株式会社法』(第7版、有斐閣、2017年)1頁

*1:http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141214/1418484677

*2:http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141210/1418139000

*3:法務系アドベントカレンダーをみて著作権モノを期待された方には平に謝罪申し上げる。

*4:なお、トリを務めたいと思った訳ではないが、単純に12月があまりにも忙しく、1日1秒でも時間が欲しかったというのと、「24日の夜にブログ記事書けるのは非リアの特権!」と思ったというだけであり、他の例えば「法務組織の(中間)管理職は何をしているのか」 (http://tokyo.way-nifty.com/blog/2017/12/legalac-07c2.html)のような、素晴らしい記事がトリを務める機会を奪った結果になったことにつき心からお詫び申し上げる。

*5:要するに「ステマ」であるが、私は単なる1ファンとして本書を「布教」しているだけである。

*6:ただし、細かいかどうかは議論があるものもないではないかもしれない。個人的には第6版402頁注4の3段落の野村修也「内部統制への企業の対応と責任」企会58巻5号100頁が第7版407頁注4で削除されているところが気になったところである。

*7:関係する論文としては431頁で引用される青竹正一「民法改正の会社法への影響(上)(下)」判時2300号19頁以下がある。

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第12回「要領」良く仕事をするための「選択と集中」

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)


1.はじめに


仕事の「要領」がいい人と悪い人っていますよね。


 私はどちらかというと要領が悪い方でして、色々とうまくいかないことも多かったのですが、●(「禁則事項」です!)年間頑張っていく中で少しずつ自分なりにコツのようなものがつかめてきました。要するに、上司等の「レビュアー」がレビューして評価する訳ですから、そのレビュアーの評価するポイントだけに資源を集中投下し、それ以外は節約モードに入る、ということです。


「仕事が終わらない」「頑張ったのに質が低いと怒られる」等という悩みを持っている方、特に1月から働き始めて既に辛い方や4月から仕事を始める方の参考になればと思います。



2.ストーリーパート
 珍しく井上先輩と二人で残業をすることになった。


 午後8時。全館一時消灯の時間。部屋は暗闇に包まれる。


 電気をつけて仕事を続けようと、スイッチの方に歩き出したら、井上先輩が袖を引っ張って僕を止める。



さあ、怪談の時間だ。


かすかな非常灯の明かりに照らされた井上先輩は、とても怖い顔をしていた。



「か、怪談ですか?」



「そう。怪談。その人は私の同期同クラス、真面目な修習生だった。頭は特にいい訳ではなく、要領も特にいい訳でもないが、毎日遅くまで真面目に予習復習をして、中の上の成績を取っていた。」


「あ、よくいますね、そういうタイプ。同期にもいました。」


「うまく東京の弁護士一人、秘書一人のこじんまりとした事務所に就職が決まり、修習が終わった1月から勤務を始めた。でも、同期の集まりとかになかなか顔を出さない。メッセージを送っても『忙しい』としか返ってこない。これはおかしいと思っていたが、半年位してやっと会えた時『自分は弁護士に向いてなかった』と『死にたい』ばかり言っていた。」


井上先輩の顔が怖い。


「どうしちゃったんですか?ブラック事務所に入ってしまったとか?」


「ある意味ではそうだし、ある意味ではそうではない。」


「なかなか微妙な回答ですね。」


「ボス弁の先生は、器用で要領がいいタイプで、サクサク仕事を進めて細かいことにも気にされる方だった。だいたいボス弁自身が4時間位でできる仕事を、新人だから8時間位かかるだろう、と、1日の仕事としてイソ弁に振って、できた成果物を手直しして裁判所等に提出していた。」


「2対1の割合がどうか、という話はありますが、あり得そうな話ですね。」


「同期は最初の仕事でつまずいたらしい。比較的平易な訴状起案だったのだが、早く終わらせようと焦ったのか、要件事実を1つ落としてしまった。」


「このまま陳述すると、相手が欠席でも、欠席判決で請求を認容してもらえない、ということですから、ミスはミスですね。」


「そのミスに対し、ボス弁から、『最近の修習生はやっぱりレベルが落ちてるのかな、あ、君は弁護士だったね。』と嫌味を言われて、かなり落ち込み、『もうミスは絶対できない』と思い込んだらしい」



「それはトラウマになりますね。」


「それで、慎重に慎重に対応するようになった。毎日遅くまで残って、調べて、考えて、疲労の限界で倒れそうになるまで検討を重ねて、成果物をボス弁に提出するようになった。」


「ボス弁から褒められるようになったんですか?」


その真逆だ。まず、仕事が遅くなった。ボス弁が当然できてると思う時期までに仕事ができていない。次に、深夜まで、そして気力と体力の限界まで作業しているから、ミスが出る。ボス弁は細かいからそういう細かいミスも含めて全部指摘して、『仕事が遅い上、質も低い」と批判する。」



気が狂いそうになりますね。」


「このような負のスパイラルは、他人事ではなく、特に真面目な人程陥り易い。」


自分も真面目だから、当てはまるかも、と思わず背筋が寒くなる。


「どうすればいいのですか?」


選択と集中だ。時間と労力を投下すべきところに集中して投下し、そうでないところへの投下を最小限に抑える。 特に最初に提出したものに低い評価が返って来たトラウマがある場合、慎重になり過ぎ、時間と労力をかけるべき所を間違った「遅く質が低い」人になりやすい。」


「理屈はそうなんでしょうが、問題はどこに時間と労力をかけるべきかが分からないことなんですよ。」


これは僕の実感である。


形式面のカオの部分(目立つところ)と実質面のキモの部分(当該事案の特性に応じた重要部分)にリソースを集中投下すればいい。」


「そういいますと?」


「まず、形式面の「カオ」の部分(目立つところ)としては、固有名詞(前株後株、異体字、肩書き等)、数字、条文、敬称等が重要だ。後は「1頁目」を綺麗に整える。これだけで、よい成果物っぽく見える。」


「なんか印象を操作してる気がするのですが、それ以外は形式を整えなくてもいいんですか?」


「どうやれば少ない労力で形式的に見栄えがするのか、という観点からの優先順位付けだ。もちろん、時間の許す範囲で2頁以降も形式面を綺麗にすべきだが、レビューする人は、最初の方で固有名詞や数字等目立つミスがあると、それだけで『この資料はしっかり作られてない』という印象を持ってしまう。そういう間違った印象を持たれることを防ぐための努力だな。」



人は見た目が9割」と言われるが、「成果物も見た目が9割」なのだろうな、と思う。



「 実質面の「キモ」は、業務の類型別の問題と事案毎の問題の2つがある。例えば契約書チェックであれば、売買契約なら売買契約等当該契約類型でよく問題となる条項(注文・支払方法、瑕疵担保等)がある。また、当該事案で「買主の資力が心配」等の事情があればそれに対応する。」


「どうやってその事案における『キモ』を判断するんですか?」


「類型別は、モノの本の記載を参考にして、後は経験をする中で蓄積していけばいい。事案毎はコミュニケーション。丁寧に事情を聞き取ればいい。その際には、その契約では何をしたいのか、その結果どこでいくらお金が動くかを基本的な手掛かりにすればいい。」


井上先輩の言葉に、先輩がいつも定時に帰れる理由を垣間みた気がした。


3.解説
 さて、1月に仕事始めた方、4月から仕事を始められる方、皆様に申し上げたいことは「仕事よりも自分の人生の方がずっと大事」ということです。気難しい上司、優秀過ぎる上司等の下にいると、その要求に応えなきゃ、応えなきゃと思って精神的に追いつめられる人が多いのですが、精神的に気が詰まる位仕事をさせられる職場は、会社か上司個人のどちらか又は双方がおかしいのです。


 とはいえ、「嫌なら辞めればいいじゃないか」と簡単に申し上げるつもりもありません。やはりできるだけ業務を効率化して、短時間で高評価をもらえる成果をあげるよう努力すべきでしょう。その方法として、これまで私が試行錯誤と失敗を繰り返した結果、現時点でやっているのが上記の「選択と集中」ということです。


 これで全てがうまく行くかは分かりません。例えばお役所の対応をやっている場合、2頁目も詳細にチェックされる可能性もあります。ただ、一般論としてどこをレビュアーが重点的に見るかということですので、その観点を取入れて効率を上げる足しにして頂ければ幸いです。


 なお、上記の内容はツイッター(@ahowota)で呟かせて頂いたが、以下のとおり有益なコメントを頂き、これを取り入れさせて頂いきました。心より感謝させて頂きたい。

まとめ
 不器用な私が経験からまとめた「私見」も多い内容ですので、法務の諸先輩方のご意見をお待ちしております。

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第10回ミスを最小限にし、犯してしまったミスの影響を最小限に抑える〜ミスの4大原因とは?

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

1.はじめに
 私はミスをしてしまう方ですが、皆様はいかがでしょうか?


「私、失敗しないので」というキャラの人もいますが、実際には少数派でしょう。


 そうすると、大事なのは、致命的なミスをしない(ミスの数と大きさを最小限にする)ことと、その後のリカバリーで犯してしまったミスの影響を最小限に抑えるということだと思われます。

 なんと、行き当たりばったり連載もあっという間に10回目で、私自身が驚き、戸惑っているのですが、これも全て皆様のご支援のお陰です。ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します。


2.ストーリーパート
「今日〆切のCDE社の件、進捗はどうだ?」


「あっ。。。」



僕は、言葉を失った。確か今日は朝からVWX社の件で「大至急」だと言われて営業から色々と電話で聞かれて、それに対応していたら、もう夕方になっていた。



「すみません、忘れてました。」


「営業に謝りに行くしかないな。明日まで〆切を延ばしてもらおう。」


二人で営業に謝まりにいき、無事〆切を伸ばしてもらった後、僕は素朴な疑問を聞いてみた。


先輩は失敗しないですよね。どうすればミスがなくなるんですか?


失敗くらい、人並みにしてるさ。ミスを最小限にし、犯してしまったミスの影響を最小限に抑えるための対応をする、それだけだ。


「へー、先輩もミスするんですか? でも、具体的にどうやってミスを最小限に抑えるんですか?」


「人は失敗する生き物だ。だから、自分と相手が必ずミスをすることを前提に行動する。知らない、誤解、忘れる、十分な時間が取れないがミスの四大原因だ。例えば知らない。多数の参加者がいる会議の日程を調整する際に先に誰の日程から調整するのかとか、色々な肩書きの人にメールを出す際に、誰を先にして誰を後にするか。こういうのは知らなければ正しく対応はできないだろう。」


確かに、似ている役職が並んでいる場合の序列は、「知っている」か「知らないか」だ。


誤解は、本当は知っているのにミスをする場合の2大原因の1つで、何かを誤解したり、何かを勘違いしてしまう。誤解は広い意味で、ミスコミュニケーション、例えば自分はAという意味で言ったつもりが、相手がBと捉えたという場合も含めている。」


確かにそういう場合はよく生じる。


忘れるは、さっきのキミだな。忙しかったりすると、ついうっかり忘れてしまう。」



すみません。。。


「最後は十分な時間が取れない。例えば、契約書チェックをものすごい短時間でやるとすると、いくら優秀でもミスが出る。この他にも、心身の調子が悪い等他の原因もあるが、とりあえずこの4つを考えてみよう。」


確かにこの4つは重要そうだ。


「こういう原因が分かれば、予防策もそれぞれに対応したものを講じることができる。」


「なるほど、原因毎に対策がある訳ですね。」


「知らないについては自分自身の場合は、知ったかぶりをしないで調べたり聞いたりすること、他人の場合には適切な人を選んだり教えることだ。質問しやすい雰囲気を作っておくと、こちらが当然知っているだろうと思って言わなかったことについて後で『知らなかった』というミスが出て来ることが減る。」


井上先輩は必ずしも質問しやすい雰囲気ではない気がするが。。。


「誤解と忘れるは似ている。どちらも、本来はできるはずなのに、何かの原因でその本来どおりにいかない。そのためには、フォローアップ・リマインドが重要だ。つまり、リマインダーツールの活用、他の人にリマインドを頼む、自分でリマインドする等を通じて、再確認によって誤解を解き、忘れないように思い出させる。後は自分の場合にはできるだけすぐにレスポンスをすることで、忘れる前にボールを他人に渡してしまってしまう、他人の場合には誤解がないように丁寧に説明するという辺りだなな。」


即レスでボールを持たないというのは、前に井上先輩が話してくれた。


ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


「最後の時間がないというのは、スケジューリングだ。自分と相手のスケジュールを把握した上で、途中で突発的に『何か』が起こることを想定して、それでも大丈夫なくらいに余裕をもったスケジュールにすること。逆に余裕がないスケジュールの場合には、きちんと営業等にそのことを話して、そのスケジュールを延ばせないかと交渉し、例えば『可能なら●日までにやるが、状況によってはその翌日になるかもしれない』といったバッファーをもらっておくこと。特に自分自身で全てやる訳ではなく、他の人と協力してやる場合には、何がボトルネックになるか分からないから、余裕をもらっておくことは必須だ。」


「確かに、余裕って大事ですよね。時間の余裕は気持ちの余裕にもつながります。」


「更にダブルチェックないしセルフチェックを日程に組み込んでおけば、例えば契約書の内容にミスがあっても、相手のミスなら自分のところでのダブルチェック、自分のミスでも例えば一晩寝かせてのセルフチェックをする過程でミスをなくせる。そういう意味では、自分や相手がミスをすることを想定して、チェック工程を組み込んでおくのは重要だ。」



「確かに、相手の進捗が遅ければ、チェック工程を組み替えて自分で仕事を全部ないし一部肩代わりといったこともできますから、チェック工程をバッファとして使えるようにスケジューリングをして、早め早めのフォローアップ・リマインドで状況を把握し、必要に応じて緊急事態対応を発動させるというのがいいですね。」



「そうやってできるだけ、失敗を避けるような打ち手を講じる訳だが、それでもミスはゼロにはならない。その場合、ミスしたらすぐ謝る、誤魔化さないというのが大事だ。ミスを誤摩化そうとするとミスにミスを重ねることになる。それが大きな失敗につながる。単なるミスなら、できるだけ早くそれを伝えればよい。例えば、契約書のチェックで重要な点を直すのを忘れていた場合、既に契約書を相手に送った後でも、「ごめんなさい、差し替えをお願いします」といって差し替えをお願いすればよい。営業には『困りますよ』とか嫌みを言われるかもしれないが、普通はそれだけで終わる。それに対し、何も言わずに契約が締結された後、実際にトラブルになって「この条項がおかしい、誰がチェックした!」となったら大事だ。まあ、普段からできるだけ謝りやすいよう信頼関係を作っておくべきだが、全ての人と信頼関係を作るのは簡単ではないので、信頼関係がなくてもとにかく謝るしかない場合もある。これも法務パーソンの辛いところだが。。。」



井上先輩も失敗するけれども、ミスの原因を把握した上で、ミスを最小限にし、犯してしまったミスの影響を最小限に抑えるための打ち手を講じているから「失敗しない人」のように見える。水上でスイスイ泳いでいるアヒルが水面下で水を掻いている姿を見るような、新鮮な驚きを感じると共に自分も明日からこれを取入れて行こうと思った。


3.解説のようなもの
 失敗の原因の類型化というのは、人によって色々なものがあると思いますし、細かく言い出すと10とか20とかにすぐなってしまうのですが、比較的わかりやすく、かつ対策を立てることにつながるという意味で4つに絞って説明してみました。

 ここでご紹介しているのは、大体私が「これをやらなきゃ」とは思いながら必ずしも完璧にできている訳ではないことです。

 少しでも参考になれば幸いです。

まとめ
 失敗の原因を類型化して対策を検討するといったかなり挑戦的な記事になりましたが、法務パーソンの先輩の皆様から、他の有効な対策方法等ございましたらぜひご指摘頂ければ幸いです。

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第9回契約書チェックのポイントその4

株主提案と委任状勧誘〔第2版〕

株主提案と委任状勧誘〔第2版〕

1.はじめに


 本当は契約書回は前回で終わりのはずだったのですが「大人の事情」でまだ続きます。2017年3月6日のある会社での出来事。。。



2.ストーリーパート


「今日は代理権・代表権について解説する!」


月曜日の朝、朝一で井上先輩に呼び出され、会議室に連れ込まれた。何かと思ったら、契約書の話の続きのようだ。井上先輩は先週の金曜日に午後一杯休暇を取っていたけれども、それと関係があるのかどうかは分からない



「会社の場合、誰か個人が会社を代表または代理して契約を締結することになる。いわゆる『サイナー』『署名者』だ。さて、会社を代表または代理できるのは誰かな?」


この程度なら、ロースクールで勉強した。


代表取締役です。会社法349条4項は『代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。』と定めていますから。」


「ということは、代表取締役以外の事業部長とか部長とかは会社を代表または代理できないということか。」


「えっと、そうだ、委任状です。代表取締役の発行した委任状があれば、事業部長でも部長でも会社を代理できます!」



「確かに有効に作成され、変造・偽造されていない委任状があれば、当該代理人に行為能力がある限りは有効に会社に効果を帰属させることができる。でも、契約実務で、社内の人間が判子を押す時、委任状を取っているか?」


「取ってません。。。」


「すると、契約は無効と?」


「いや、そうではないと思いますが。。。」


会社は代表取締役以外の使用人、日常語だと『従業員』ないしは『役職員』に対し、契約締結権限その他の権限を与えることができる会社法14条1項*1はその表れだ。そうすると、社内で契約締結権限が与えられていれば、例えば部長や事業部長でもよい。特に相手が大企業で、しかも新規取引先ではなく、既存取引先の場合には、部長クラス以上で、かつ、当該部門に関係する契約であればその人をサイナーとして認めることが実務では多い*2。」


「なるほど、そうすると、契約締結権限を持っている人と契約すれば安心、ということですね。」



「そこまで即断はできない。例えば、部長がサイナーだが、事業部長の決裁がないと契約が締結できないとか、事業部長がサイナーだが、社長の決裁がないと契約が締結できないという場合がある*3決裁等権限に対する制約・制限が存在することは稀ではない。」


「確か、ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人の代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない会社法14条2項)のではないですか? 取引の相手方がその制限を知らなければ、大丈夫なのではないでしょうか。」


「いい発想だ。ただ、大企業なら決裁制度があることは普通だろうし、決裁について相手から告げられることもある。その意味では、決裁が下りていることを確認するがよいだろう。実務ではそもそも決裁の有無を確認しないこともあるが、『決裁下りましたか?』と聞いて『下りました。』と回答してもらう程度はやるべきだと思う*4。」


「なるほど、代理権・代表権についてはあまり意識しないできましたが、実はとても重要だということが分かりました。誰に代理してもらうのか、そのような権限の付与が適正な手続で行われた真意に基づくものなのかといった点は決しておろそかにしては行けませんね。


「そうだな。特に法律を仕事にしている人にとって、これをおろそかにすることは自殺行為に近い。」


井上先輩は、一見目の前にいる僕の方を見ているようで、実は別のところをはっきりと見据えているような気がした



3.解説のようなもの


実務ではあまり「このサイナーに代表権・代理権があるのか」がギリギリ問われる事案は多くないと思われます。当事者がお互いにある程度地位の高い人をサイナーとして指定し、その肩書き上普通は当該事項について契約締結権限がある位の地位にあれば、それ以上に「委任状を出せ」「権限規程を出せ」等とは言わないのが普通と思われます*5


このような実務の背景としては、会社法14条1項、会社法14条2項があるので、「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」といえるくらいの地位を与えられている人と契約すれば保護される可能性が高いこと、及び特に決裁が済んでいれば、会社としての法律行為を行う効果意思は存在し、後はそれを表示した人が「使者」に過ぎなくとも契約は成立したと考えられること(特にその後会社がその履行に向けて行為した場合には「承諾の意思表示と認めるべき事実」(民法526条)と言える場合も多いだろう)等が考えられます*6


 これに対し、新規取引先等の場合には、代表権・代理権の有無は大変重要な問題です(この確認をおろそかにすると有名な会社を騙った取り込み詐欺的な被害にあったりしかねません)。まあ、この調査をどこまでやるかは1つの問題ですが、登記を取ったり、調査会社を利用するのは、(後者の場合、信用・債務履行能力の側面が強いと思われますが)このような点の確認という面もあるでしょう。


 いずれにせよ、代理・代表というのは、実務では頻繁に行われ、あまり深く考えられないことも多いのですが、このような点は決しておろそかにしてはいけない基本だなぁ、と思うところです。

まとめ
 以上で契約書関係の4回の連載は終わり、来週からは別のテーマに移行します!
 なお、特に上記の実務の背景たる法律論については、まだ十分に詰められておりませんので、皆様のご意見をお待ちしております。

*1:事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。

*2:職務権限規程を出して下さいというと実務では変な人だと思われるでしょう。

*3:場合によっては代表取締役社長がサイナーだが、取締役の決議がないと契約が締結できないという場合があるが、今回は割愛します

*4:「決裁権限規程と稟議書を出して下さい」とかいうと、実務ではおかしな人だと思われるだろう。

*5:怪しい場合にはこちらの地位を上げて「こちらの都合で申し訳ないのですが、もう少し格が高い方をお願いします」等という感じでしょうか。ご参考

*6:この辺りは詰めて考えていないので、詳しい方はぜひ教えて下さい。なお、最悪の場合使用者責任民法715条)を追及することになるでしょう。