アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

大学の授業を無断で録音した学生は服役すべきか?

ネットワーク社会の文化と法

ネットワーク社会の文化と法

 あるブログにおいて、弁護士で大学の教壇に立たれている先生が、大学の授業を無断で録音した学生は「服役させることができ」、その学生からデータを入手し再利用している者についても必要な処罰を考えたいという趣旨の記事を公開されている。
困ったことにも・・・: Cyberlaw
 コメント欄で質問をしたところ、不躾な質問に対しても無視せずにご回答して頂き*1、更に多少明確化(方針転換?)をして頂き、結果として先生も録音行為が流石にグレーである旨をお認めになられたのだが、せっかくの機会なので、この問題について簡単にまとめたい。なお、当然のことながら、私は、行政解釈があればそれが絶対であり、唯々諾々と従うべきという立場には立っていない


 この問題の理解の容易化のために、実際に大学の講義を録音する場面としてよくありそうな、


事例1 学生甲はA教授の授業を自分自身でよりよく理解するために、録音し、これを自分自身で聞いていた。

及び

事例2 学生Xは、A教授の授業を録音し、これを学生Yに渡した。
事例2−1 事例2においてXは録音の際は授業を自分自身でよりよく理解するつもりであった。
事例2−2 事例2において、YはXの先輩であり、その日授業を休むので代わりに録音してもらうよう依頼していた。

 という2事例(実質3事例)を題材に考えてみたい。



1.誰の委託も受けずに自分のために録画する場合
 まず、事例1であるが、確かに甲は、A教授の、学術(法2条1項1号)の範囲に属する言語の著作物(法10条1項1号)である講演を録音により複製しており、(A教授の明示・黙示の承諾がなければ)複製権侵害(法21条)に形式的には該当する*2
 問題は、私的使用(法30条1項柱書)といえるかであろう。以下、法30条1項柱書を引用する。

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。


 ここで、映画の盗撮の防止に関する法律(盗撮防止法)により、一定の映画の盗撮が違法となったが、その立法趣旨としては、「映画館で映画の盗撮が行われた場合であっても行為者が私的使用目的の複製であることを主張したときは,著作権法ではこれを直ちに著作権侵害と認めることが難しく,効果的な対応ができない」という点にあった*3。おっと、役所のHPばかり引用していると、行政解釈絶対主義という誤解を招くかもしれない。そこで、コンメンタールの記載を引用しておこう。

映画館において小型ビデオ機器を持ち込んで個人的に鑑賞することを目的として映画を録音録画する行為については、従来は、30条1項のもとで何らの著作権侵害を構成しえないものと解しうる余地が存していたところ、本法律の施行によって、一定範囲の絞込みはなされているものの、著作権行使の対象となることが明示的に規定された
小倉秀夫・金井重彦『著作権法コンメンタール』568頁(平嶋竜太執筆部分)


 映画の録画と講義の録音では、行っている行為が録音か録画かと言う点や著作物の内容が違っているが、これらの点は私的使用の成否に直接関係する点ではない。むしろ、映画に関する事例1類似の行為を違法にするためわざわざ特別法を制定したという事は、特別法がない講演の録音に関する事例1が適法な可能性の高さを示すと言えよう。なお、法30条1項柱書のいう「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」に関し、映画館や大学の教室は家庭内やそれに準じる場所ではないものの、私的使用では、「使用」がそのような個人的な、プライベートな範囲かどうかが問題であり、複製をする場所自体はそれに限られない*4


 もちろん、契約や学則で録音禁止とすることで著作権法の権利制限規定をオーバーライドできるか*5等の難しい論点もあるので、事例1の場合が「100%明確に白」とまで言うつもりはない。しかし、事例1は少なくとも「服役」までに至る可能性はほとんどない、白に近い事例であることは間違いないだろう。


2.私的使用のつもりで複製された録音の入手
 事例2−1について、少なくともYには著作権法違反はないものと思われる。すなわち、「動画の視聴は21条ないし28条の支分権に該当する行為ではな」い*6のであって、Yが録音を聞く行為についても、何かの著作権侵害を問うことは困難であろう。なお、Yがこのデータを複製することもありえるだろうが、私的使用の範囲内の複製であれば「友人から借りた違法複製物からの複製も侵害とならない」*7とされている*8


 これに対し、Xについては*9、もし、XがYだけではなく「公衆」に譲渡または貸与していれば、私的使用以外の目的のために、同条の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を「頒布」(法2条1項19号)したとして、複製を行ったとみなされる可能性がある(法49条1項1号)。ただ、この「公衆」(法2条5項参照)というのは特定少数を除く*10ものの、その範囲は微妙であって、具体的なケースに即して、何人が多数であるかということは相対的に決めざるを得ない*11、著作物および行為態様によって相対的に決定される*12といわれる。
 その意味では、少なくとも譲渡の相手がY一人であれば適法だ(or違法とはいえない)が*13、どの程度の人に譲渡ないし貸与すれば公衆に該当するかもグレーとしか言いようがないだろう*14


3.第三者のために行う録音
 よりグレーが濃くなるのが事例2−2である。事例2−2では、Xは自分のためではなくYのために録音(複製)をしているからである。法30条1項柱書が「その使用する者が複製することができる」と書いている以上、Xが複製するのは違法ではないかという問題意識である。上記ブログでは、コメントにおいてやや方針転換した後の段階でも、なお、「他の」「学生」「から委託を受けて録音・録画する場合には明らかに私的利用に該当しないことはご理解いただけると思います」と記載されている。


 もっとも、この私的使用については、使用者の手足として、その支配下にある者に具体的複製行為を行わせる事は許容される*15と言われており、社長が秘書にコピーをとってもらう場合が例示されている*16。おっと、立法担当者の本を引くと、これも行政解釈の一種だというツッコミをされる方もいるかもしれないので、中山先生のご本も引いておこう。

本人と同一視できるような補助者(いわゆる手足)による複製は許されると解すべきである
中山信弘著作権法』第2版288頁

 実務家による書籍においても、例えば親の依頼で子がテレビ番組を録画するような場合、子は親の手足にすぎず、実質的には使用者本人による複製と同視しうると指摘するものがある*17


 さて、このような議論がなされているという前提の下で、手足論の1つの例(決して「行政解釈絶対主義」ということではなく)として、文化庁著作物流通推進室長(当時)川瀬氏の

複製主体については、その実態によって必ずしも実際に複製した人とは限らないということがあります。例として、手足理論と書いていますが、これは、例えば、親の言いつけに従って子供がコピーをする場合の複製主体は、子供ではなく親であるとか、社長の言いつけに従って秘書がコピーする、先輩の言いつけに従って後輩がというような理論もございますし、その他にも利用形態によっては依頼した者が複製主体になる場合もあろうかと思います。
著作権分科会 私的録音録画小委員会(第2回)議事録・配付資料*18


 という言葉を紹介しよう。上記のような立法担当者、学者、実務家の議論等の背景を踏まえてこの発言を吟味すれば、特に行政解釈絶対主義の立場を取らなくとも、事例2−2のXの行為がなお私的使用であるという議論は十分に成り立つだろう。もちろん、「その使用する者」の解釈においては、枢要行為を誰が行っているのかをメルクマールとするような説もあるので、別に先輩の言いつけに従って後輩が録音すれば必ず100%白だとまでいうつもりではないが、白に近いグレーと言ってよいのではなかろうか。


 また、事例2−2をXとYの二人のごく少数のグループが録音を共有する事案とみれば、「サークルのように10人程度が一つの趣味なり活動なりを目的として集まっている限定されたごく少数のグループ」*19で使用することが私的使用になるという議論を使うことができる可能性もある。

まとめ
 私も、決して白黒をはっきりさせるつもりはないが、大学の授業の録音において典型的に見られる場合である、自分で勉強するために録音する、ないしは、先輩が後輩に依頼して録音してもらうといった場合については、講義の録音は(少なくとも)グレーであり、むしろその中でも白に近いのであって、ただちに服役をすべきというような話では全くないことは分かって頂けるのではなかろうか(そしてこの議論は決して行政解釈絶対主義に基づくものではない。)。他人に依頼されて録音するという場合について、先輩が後輩に依頼すると言った場合を含めて常に「明らかに私的利用に該当しない」とまで言ってしまうのも「言い過ぎ」の感を拭えない。
 また、学生からデータを入手し再利用している学生について、これを「処罰」するのは難しく、「処罰を考える」というのは、基本的には立法論と考えるべきであろう。
 もちろん、素晴らしい講義をされている先生について、外部者がその講義を密かに学生に録音させて無断でネット販売や書き起こしを出版するといった超例外的な場合もあるかもしれない(そして、ブログを書かれた先生は、ご自身の講義についてはそのような例外に該当するのだとおっしゃりたいのかもしれない*20。)。もし、こういう極端な場合を想定するのであれば、「服役」等の極端な事態も全くない訳ではないかもしれない。しかし、大学の講義の録音にまつわる普通の状況を想定する限り、「服役」というのはかなり筆が滑った言い方としか評しようがないだろう。
 なお、一般論として、「録音に頼らずノートをまとめる能力がある学生」の方が、「録音がないと授業を聴いた後その内容がさっぱり残っていない学生」よりも優秀であるのは事実であろう。そこで、教育機関として大学が前者を育成しようとし、そのために適切な教育的配慮をするということ自体については反対するつもりはない。*21

*1:この点については感謝している

*2:法109条1項により懲役刑による「服役」の可能性がある。

*3:http://www.bunka.go.jp/chosakuken/eiga_tousatsu.html

*4:例えば岡村久道『著作権法』第3版221頁は「上記以外の場所(例:公園)で複製されても、使用する人の範囲が上記範囲内であればよい」とする。

*5:例えば、岡村久道『著作権法』第3版215頁等を参照のこと。

*6:小倉秀夫・金井重彦『著作権法コンメンタール』579頁

*7:中山信弘著作権法』第2版289頁

*8:本件がそもそも「違法」なのかという問題はともかく

*9:なお、私的使用の要件は行為時で判断するので、録音自体は事例1と同様に解される。中山信弘著作権法』第2版289頁参照

*10:岡村久道『著作権法』第3版153頁

*11:加戸守行『著作権法逐条講義』6訂新版73頁

*12:小倉秀夫・金井重彦『著作権法コンメンタール』211頁

*13:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/07042414/001.pdfも参照。

*14:なお、公に口述した場合には、口述権(法24条)の問題が生じ得るが、少なくとも事例2−1のような場合には該当しないだろう。

*15:加戸守行『著作権法逐条講義』6訂新版232頁

*16:加戸守行『著作権法逐条講義』6訂新版232頁

*17:岡村久道『著作権法』第3版220〜221頁

*18:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/07042414.htm

*19:加戸守行『著作権法逐条講義』6訂新版231頁、岡村久道『著作権法』第3版221頁も同旨

*20:http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-499d.htmlの記載等からも、そのような趣旨を「忖度」できるかもしれない。

*21:ただ、例えば最初の法学入門の講義で、新しい「概念」の洪水に、もう一度聞き直して復習したいといって録音する人が必ずしも法曹適性がないとは言えないのではないかと思われる。録音をしただけで直ちに法曹適性がないと判定することは、やや「即断」に過ぎるきらいがある。

中山節炸裂!『著作権法(第2版)』

著作権法 第2版

著作権法 第2版


1.感情がこもった本の面白さ
 学者の書く学術書は、客観的な観点から、冷静沈着にというものが多い。
 しかし、一部、その著者の感情が浮かび上がる記述スタイルを取る本もある。
 このような記述に対しては、一部では批判もあるところだが、私は全面的に支持したい。
 それは、学問の原動力が、「これを伝えたい」という力だからであり、それが紙面にもほとばしり出るくらいパッションが込められている本には、(今その考えが通説ではなくても)必ずやその「思い」に共感する人の輪が広がっていくだろうと思うからである。


 この観点から、すでに「龍田節」を取り上げたことがある


龍田節万歳!〜楽しめる基本書「会社法大要」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常



 龍田先生の『会社法体要』は、第2版が出ないのがさびしい、非常によい本である。



 他には、(学者というのか立法担当者というのかという問題はあれど)稲葉威雄『会社法の解明』や、特にシェーン判決に関する加戸守行『著作権法逐条講義』があげられる。


2.デジタル時代の著作権の新たな形とは何か?
 この行列に今般参加することになった(と私が個人的に感じている)のが、中山信弘著作権法(第2版)』である。もちろん、その萌芽は2007年の初版からあった。しかし、特にデジタルと著作権という観点からいえば立法においても司法においても著作権法における「激動の時代」と評さざるを得ないこの7年を経て、中山先生の本は大幅にパワーアップして帰ってきたのである。



 ここで、フェアユースがすごい」という論調の書評もみられる。
中山『著作権法』第2版必読です | 栗原潔のIT弁理士日記



確かに、フェアユースの論点は、初版と第2版とで、中山先生が大きく考え方を変えられたところである。
しかし、第2版の一番の特徴は著作権の強化と情報の共有あるいはネットの自由の狭間(8頁)」で「混沌(11頁)」とする中、「憂鬱(i頁)」になりながらも、「現代では著作権法が産業政策的な意味合いを持つ(27頁)」という認識の下、デジタル時代の新しい現象に対応しながら、いかに「真の意味での豊かな文化の発展を図る(例えば161頁、283頁等参照)」のかを追求する姿勢だろう。


原著作物の著作権者の保護範囲を広げるということは、全く新しい創作へのインセンティブにはなるが、改作へのインセンティブは減少する。この両者の調和をとりつつ、真の意味での豊かな文化の発展を図るためには、二次的著作物の権利範囲をどのように捉えるべきか、という視点が重要である。
中山信弘著作権法(第2版)』161頁

には、心の中で拍手喝采をした。


3.炸裂! 中山節!
 さて、本書ではどの辺りに「中山節」が出ているのだろうか。私が読んでいて「これは!」と思ったものをいくつか列挙したい。


・(著作権法は)古くて立派な老舗旅館のようなもので、本館と新館と別館があり、その間を渡り廊下で結び、迷子になりそうな感じの作りになっている(11頁)
・いかに強い著作権を有しているとしても、強力なプラットフォーマーの前では跪き、提示される契約を飲まない限り情報の配信が困難となる状況も予想される(10頁)
著作権法が小説からコンピュータ・プログラムまで多種多様な性格を有するものを取り込むことが可能であったという懐の深さ、悪くいえば掃き溜め的性格(12頁)
・ネットを通じて瞬く間に有名となった例は枚挙に遑がなく、昨日までろくに「飯も食えなかった」者が、今日は「こんな不味い飯が食えるか」と言ったという逸話もある(31頁)
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』ダイヤモンド社、2009)という本が大ヒットしたが、このくらいになると著作物性を満たすか否かの境界線(87頁)
・実質的には著作権法保護すべき者を表現(略)と称し、保護すべきでないものを「内容」(アイディア)と称しているともいえる(158頁)
・権利者側も技術的保護手段を施して自衛するようになってきたが、それを破る技術とのごっことなっている(291頁)
・(ダウンロード違法化の)効果も検証されないうちに刑事罰化することには疑問がある(略)いかに民事・刑事の規定を強化しても、ネットから違法複製物を退治することは困難であろう。刑事罰で抑制するのではなく、啓蒙活動の他、新しいビジネス・モデルで対処すべきであろう(298頁)
・違法ダウンロードを行うのは青少年が多く、彼らを犯罪者に仕立てる前に啓蒙の努力をすべきであろう(296頁)
ミッキーマウスの描かれたTシャツを着せた場合とミッキーマウスの人形をだかせた場合とでは、犯罪の成否を分けるほどの大きな実質的な差異はあるのであろうか(307頁)
・(検討の過程における利用、30条の3)何故に審議会報告書に反し、このようなミスリーディングな限定要件を定めたのか、理解に苦しむ(309頁)
・(検索エンジンの例外、47条の6)技術進歩が激しいため、現在現れている問題だけを解決するための細かい規定を置くことが、デジタル時代にはいかに危険であるか、ということを如実に物語っている。(略)今後の立法の悪い参考例となる条文である(380〜381頁)。
・中国や韓国では国産検索エンジンが主流であるが、IT技術の優れた技術があるはずのわが国では外国の検索エンジンに席巻されており、この改正自体は余りに遅きに失したものであるといえる(381頁)
・例えばゴッホなような強者の保護が必要であるとも解かれるが、現実にはマイクロソフト社やIBM社のような世界的覇者が著作権者である場合も少なくないのであり、著作者・著作権者は弱者であり一律に立法保護しなければならないという理由はない(420頁)
・(平成18年の)改正は、有体物*1の侵害と情報の侵害との区別の議論を全くしないままに政治主導でなされたものであり、法改正としては極めて遺憾である。

まとめ

中山信弘著作権法(第2版)』は、デジタル時代の著作権はどうあるべきかを考え抜いた中山先生の「憂鬱」が、通読して目についたものをピックアップしたでもひしひしと感じられる、とても人間臭いいい本である。
ぜひ、皆様にもお読み頂きたい!

*1:誤字がありました。luckymangan 様ありがとうございました!

DMCA(デジタルミレニアム著作権法)と同人誌無断転載に関する法的考察

注:私は、アメリカ法につき弁護士(attorney, lawyer)資格を含め一切資格を有しておりません。本エントリはただの1法学徒としての調査結果のまとめであり、本エントリに依拠した行動についての責任を負うことは一切できないこと、予めご了承下さい。

アメリカ著作権法 (LexisNexisアメリカ法概説)

アメリカ著作権法 (LexisNexisアメリカ法概説)

1.DMCAで同人誌無断転載対策?
 同人誌作家としては、「作成した同人誌の流通のコントロールに関心をもたずにはいられない。例えば、コミケ限定とか、即売会と同人ショップのみ等*1。ところが、第三者が同人誌をスキャンしてネット上にアップしたり、酷い時には、他人の同人誌を「自分が作った」といって、電子書籍販売サイトで売られたりもする。こういう同人誌の「無断転載」*2に対し、どう対応すればいいのだろうか。


 誤解が多いところ*3であるが、後述のとおり、日本法上、 同人誌作家は、その同人誌について著作権を持ち、無断転載した第三者に対し、「法的」には、削除しろ!と言える。ただ、相手に拒絶されれば、最後は裁判をしないといけないので、このような「法的権利」を背景に実務的にどう削除まで持って行くかは、悩みの種である。


 ところで、この「無断転載対策」としてDMCA(Digital Millenimum Copyright Act、デジタルミレニアム著作権法)を使おうと言う話を最近よく聞く。簡単に言うと、無断転載先(サーバー運営会社、電子書籍販売会社等)や、Googleに対し、「このサイトは私の同人誌の著作権を侵害しているので、削除して下さい(take down)」と要求すると、これに応じてくれるという話である。その具体的な手続については、既に様々なところで説明がされていることから、本エントリでは「具体的な手続」ではなく「法的背景」について簡単に説明し、この手法が孕む法的問題点について検討してみたい。


2.DMCAの仕組み
  DMCAというのは、デジタル化する社会に対応するため、1998年に議会を通過した著作権法改正であるが、本エントリで問題となっている部分はほとんど17 USC 512(アメリ著作権法512条)に条文化されている
 DMCAにおいて導入された制度は、要するに、インターネットサービスの提供者に対する「セーフハーバー(これをやっていれば免責されるという規定)」を提供するという仕組みになっている。例えば、YouTubeを考えてみよう。YouTubeには、毎日のように著作権侵害動画がアップロードされる。しかし、その度に、YouTube著作権侵害として民事刑事の責任を負うとしたら、多分YouTubeのビジネスモデルは成り立たないだろう。サービス提供者の定義は512(k)に記載されているが、要するに受動的に第三者のアップロードするファイルを転送したり接続を提供したりする業者のことである。この、サービス提供者が、一定の要件を満たす限り、著作権侵害について責任を負わなくていいというのがDMCAのセーフハーバーの仕組みである。


 ただ、単純に免責するだけでは、権利者の利益が守られない。そこで、「通告と削除(notice and takedown)」という手続が規定されている(512(c)(1)(C)以下)。要するに、権利者が「権利侵害です」と通告すると、サービス提供者はこれに応じてファイルを削除しなければならない。この場合、正式な通知が来れば、実務的にいえば、「ほぼ自動的」に削除されると考えて差し支えない。実際、後記のLenz事件などはどう見てもフェアユース(子どもの姿を映したホームビデオでバックグラウンドで音楽が流れていただけ)なのに、それに対する通知が出され、Google*4はそのままファイルを削除した。削除しない場合、サービス提供者は免責を受けられない。


 もっとも、例えば、ファイルは確かに権利者の作品を使っているが、それはフェアユースであるといった場合もあるだろう。また、単純に、権利者が「侵害」というが、類似部分については単なるアイディアであって表現は類似していないので侵害ではないという場合もあるだろう。そこで、単に通告に応じて削除するだけではファイル作成者の利益が守られない。そこで、「反対通告(counter notification)」という制度も規定されている(512(g))。要するに、サービス提供者は、ファイル作成者に対し、「今回削除したのは、こういう通告があったからですが、ご異議はございますか?」と通知する。単にテレビ番組をYouTubeにアップしただけといった反論ができない場合*5は、ファイル作成者は異議を唱えず、削除が確定する。これに対し、異議があるファイル作成者は、「権利者の権利を侵害していない」という内容の反対通告をすることができる。その後は、ファイルが再度復活され、権利者側に異議があれば、法廷で決着をつけるということになる。



 アメリカ国内でサービスを提供する会社や、アメリカベースの会社では、*6権利者が日本人であっても、アメリカ法が外国で作成された著作物も保護する*7ので、DMCAに基づく通告をすれば、ファイルが削除される。多くの「同人誌無断転載」と言われる類型は、同人誌をそのまま何も修正も加えずにコピーしたもの(verbatim copy)がほとんどであるから、実務上反対通告もなく終わることが多いというのが、最近DMCAが同人業界で注目されている理由である。


3.実務は必ずしもDMCAで動いていない
 後の議論との関係で、1点だけ実務的な指摘をすると、実務は必ずしもDMCAで動いていない。例えば、前掲のYouTubeでは、Contents IDという制度を導入しており、DMCAに基づく通告書等ではなく、比較的簡単な手続で通告し、逆に、通告された方も比較的簡単な手続で反対通告ができる。


 その理由は、DMCAに基づく通告書の要件がいろいろと厳しく面倒くさいからである。1つだけ例を挙げるとPerfect 10, Inc. v. CCBill LLC, 488 F.3d 1102 (9th Cir. 2007) *8では、DMCAが定める形式要件を満たさない2万ページにも及ぶ削除要求書は、DMCA上の適法な「通告」ではないとしている。


 こういう状況を踏まえ、DMCAの精神を導入した簡易な通告方法を認めていることが多い*9。ネット上に紹介されている「DMCAで通告しよう!」というサイトのすべてを見た訳ではないが、本当のDMCAではない、簡易な通告方法を利用している場合でもDMCAと総称されていることが多いことには留意が必要であろう。


4.「法律上」同人誌に使えるか
 ここで、オリジナル同人誌について、DMCAが利用できることは論を待たない。素晴らしいオリジナル同人誌については、本サイトでも
今年一番笑った同人誌!「大嘘判例八百選」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
LAW&LITE〜今後が楽しみな法学系同人誌 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
等、多々紹介してきたところであり、万が一これらの同人誌について権利を侵害する輩がいればDMCAが使える*10


 問題は、二次創作同人誌である。DMCAの通告手続を利用できるのは権利者である(512(c)(3)等)。例えば、甲のAという作品を元に、乙がBという作品を作り、これを丙が勝手にアップしたとしよう。甲と乙の関係で、乙のBが、甲のAの著作権を侵害しているかどうかは、ケース・バイ・ケースで判断される。


 そして、日本法上は(著作権侵害にならない場合はもちろん、)仮にBが甲のAに関する著作権を侵害していても、Bの作者である乙にBの著作権が帰属すると解される*11。もちろん、乙に権利が帰属するのはBの全体ではなく「元作品に対し乙が加えたオリジナル部分」に過ぎない訳であるが、少なくとも*12、いわゆる「無断転載」に多い、「丙が何ら改変を施さずにBを勝手にアップする」という行為が、乙の持つBに対する著作権を侵害すること自体は、日本法上では間違いないと言っていいだろう。


 ところが、アメリカの著作権法では、違法な二次創作に著作権が発生しないのである。法律上の根拠は103(a)が著作権が存続する既存の資料を利用した作品に対する保護は、当該資料が違法に用いられた部分につき及ばない*13とするところであり、実際、Pickett v. Prince 207 F.3d 402 (7th Cir. 2000)では、プリンスのシンボルを使ったギターを作った原告が、プリンスがそのギターを無断で複製したとしてプリンスを訴えた事件について、この理を説いて原告の請求を拒絶している。仮にBがAの著作権(特に二次的ないし派生的作品を作成する権利)を侵害する違法な作品であれば、丙のアップロード行為は、「甲」著作権の侵害にはなるが、乙にはBに関する著作権がないので、乙の権利侵害にはならないということになる。


 アメリカ法でもケースバイケースの判断になるが*14アメリカ法上乙のB作品が甲のA作品の権利を侵害した違法なものだとすれば、本当は、乙はアメリカ法上の「著作権者」ではなく、DMCA通告を送ってはいけないのではないかという点が、アメリカ法の厳密な解釈から問題となり得る。特に512(f)が、DMCA通告について「重大な虚偽説明(material misrepresentation)」を禁止し、制裁を定めていることからも問題となる。


5.2つの可能性
 この点について、残念ながら私の乏しいリサーチ能力では、先行研究を発見することはできなかったが、これを解決するための2つの可能性について考えてみた。



 1つの方法は、512(f)を狭く読む方法であり、これは、事後的処理に使いでがありそうである。最近の重要な判決である、Lenz v. Universal Music Corp., 2013 WL 271673 (N.D. Cal. Jan. 24, 2013)は、フェアユースを考慮せずに通告を送った音楽会社が512(f)の責任を負うかが問題となった事案であるが、要するに512(f)の責任を発生させるために、実質的には虚偽説明に関する故意(scienter)に近いものを要求している。地裁レベルの判断に過ぎず、このような判断に対しては批判もあるが、「日本法で権利があるから大丈夫だと思った」とか、「二次創作ではあるが、フェアユースで救われる適法なもので権利があると思った」といった説明を合理的にすることができれば、この法理で救われる可能性があるのだ。


もう1つは、実務上多いDMCAではない任意の削除制度の利用である。少なくともこのような「任意」の制度について、DMCA512(f)の直接適用はないだろう。そこで、任意の削除制度の利用であれば、それが利用規約違反*15はともかく、DMCA512(f)の適用がないという議論は可能だろう。

まとめ
 確かに、DMCAを使った同人誌無断転載対策は「実務上ワークする」かもしれない。しかし、アメリカ法の厳密な解釈を考えると、本当にワークしていいのか疑問がなくもない。
 本エントリでは、同人誌作者にシンパシーを持つ立場から、2つの解釈の可能性を示したが、私の乏しい調査能力の限りでは、同人誌無断転載の通告案件が裁判までいった事案を見つけられなかったので、上記の2つの解釈が裁判所に採用されるかは分からない。心配な方は弁護士等の信頼できる専門家に相談されてからDMCAを使った同人誌無断転載対策をした方が安全かもしれない。


参考:昔同人サイトの無断翻訳とアメリ著作権法について駄文を書いた事があります。
無断翻訳と著作権法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:元の作品のジャンルや、18禁か一般向けか等にもよるが、総合判断して流通経路を限定している。

*2:この言葉は法律用語ではないのですが、この業界でものすごく頻繁に使われています。法的に言うと「改変等がなされていないそのままの複製」ということなのでしょうが、自動公衆送信等も含まれるので、法的に厳密に検討するのは難しいところです。

*3:ある同人誌作家さんが「自分の同人誌が第三者によってアマゾンで売られていて、『こんなのいかがですか?』と薦められる」と嘆いたところ、「法的にはどうしようもないですよ」と知ったかぶりをした回答をした輩がいたが、実務的にどのようなアクションを起こすか、起こすべきかはともかく、「法的」には「どうしようも『ある』」訳である。

*4:YouTubeの運営主体

*5:通告がいく事例の中ではこちらの方が多いだろう

*6:それらの会社がサービス提供者に該当することを前提とすると

*7:特にベルヌ条約加盟以降は形式要件が殆ど撤廃された。

*8:いわゆるPerfect 10事件というと、Perfect 10 v. Amazon.comが思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれないが、Perfect 10は日本でいうロス疑惑の方のように、いろいろな訴訟を起こし、判例法の発展に貢献されているのである。

*9:なお、もちろん、DMCAに基づく通告をすることは可能。

*10:但し、ローリテについてはクリエイティブ・コモンズライセンスであるという特徴がありますが。

*11:記念樹事件・東京高判平成14年9月6日判時1794号3頁

*12:二次創作同人誌であるBに、乙による何らかの創作性が発揮されている限り

*13:protection for a work employing preexisting material in which copyright subsists does not extend to any part of the work in which such material has been used unlawfully.

*14:フェアユースがあり、同人誌が元作品の「パロディ」批判又はコメントと言えれば、Campbellによりtransformativeと認定され、フェアユースとされやすいが、日本で「パロディ」といわれるものが、必ずしもアメリカの裁判所がいう「パロディ」になる訳ではない。

*15:例えば、権利者しか通告してはいけないと利用規約に定められている可能性がある

下町ロケットから学ぶ知財戦略3ヶ条

下町ロケット

下町ロケット

本エントリは池井戸潤下町ロケット」のネタバレを含んでいます。


1.下町ロケットとは
  ロケット発射に失敗して詰め腹を切らされた元JAXA研究者。彼が夢を追いかけるのをやめ、父親の経営していた小型エンジンを作る中小企業、佃製作所の社長に転じてはや7年。
  佃製作所は、R&Dの一環としてロケットエンジン用バルブの特許化を成し遂げたが、メインバンクは当然嫌な顔をする。
  そんな時、主力取引先の1つに契約を切られ、更に、自社の小型エンジンが大企業のナカシマ工業の特許を侵害するとして訴えられた!
 運転資金の融資をメインバンクに断られ、顧問弁護士も頼りない。万事休すか?!


  という物語である。本年の直木賞受賞作として有名である。
 個人的には、メインバンクから紐付き出向で佃製作所に来ている殿村CFOの運命も非常に興味深かったが*1知財戦略の本としても非常に優れている。


 2.第一条 権利化は可能な限り包括的に
  優れた日本の企業のイノベーション。しかし、新規開発に優れている企業は、必ずしも、権利化に優れているとはいえない。俺たちは第一線を行っているから、特許なんて気にしなくていいと思っていると、佃製作所のようになりかねない。
 下町ロケットは、この点を神谷*2という優れた弁護士の言葉でこう語らせる。

技術そのものは素晴らしいですよ。でもね、それと特許の良し悪しは別問題なんです。
(中略)
仮に私がコップというものを発明したとします
(中略)
これをどう表現しますか。そもそも特許というのはいままでにない発明品なわけですから、それをどう説明し、定義するかが問題になってきます。中が空洞になっている円柱状の物体で、底があってプラスチックでできているーと書いて特許を出願したとします。さて、それでいいでしょうか」
「正しいような気がしますが、それではだめなんですか?」
「結論からいうと、それではいい特許とは言い難いですね」
神谷はいった。「その特許が認められた後、たとえばプラスチックじゃなくて、ガラスでできたものを作った人が出てきたらどうでしょう。あるいは円柱ではなく、角があるものを作った人が出てきたらどうですか。この二つは特許違反になるでしょうか」
神谷は、佃たち三人の顔をじゅんぐりに見回した。「結論をいうと、最初に取得された特許は円柱状のプラスチックでできていると定義しているわけですから、それを根拠に、特許権侵害を問えるかどうか難しいということになります」
「なるほど」
佃はうなずいた「つまり、ウチの特許にもそれと同じようなことが起きているというわけですか」
「お察しの通りです。佃製作所で取得した特許はもちろん新しいコンセプトの、素晴らしい技術だと思います。ところが、その特許に穴がある。ナカシマ工業がその後に取得した特許は、いってみればその穴を突いたもので、さらに周辺をうまく固めて抜けがないようになっている
ひろげた訴状を指先でトントンとやりながら、神谷の弁に熱が入ってきた。「コップというコンセプトそのものを発明したことがどれだけ素晴らしくても、佃さんの特許はそれを十分に生かし切れていません。円柱状でプラスチック製だと定義したことで、範囲を狭めてしまったんですよ。ナカシマ工業の特許はその穴をついて、様々な形の、様々な素材まで含めた包括的な特許申請をしているわけです。そうすると、佃さんが次に角柱のコップを製作すると、それは特許侵害だということになってしまう。いま起きている特許訴訟はそういう構図になっているわけです」
池井戸潤下町ロケット」86頁

  この本のこの部分は、知財戦略について、私がいままで読んだ本の中で一番わかりやすく本質を説明していると思う*3


  ビジネスモデル特許*4は例外だが、試作・製造しているうちに権利化した特許よりも、実施している製品が「良い」製品になっていることが多い。
これを改良に歩みを合わせる形で権利化していれば良いのだが、 佃製作所は、権利化に失敗して倒産の危機に瀕した。


 倒産までいかなくとも、無駄な特許紛争に巻き込まれたり、他社に模倣品を合法的に作られたりという問題が起こりかねない。
  結構良さそうな企業を買おうとDDをしたら特許がダメダメで、相当ディスカウントされたり、場合によっては破談*5にといった話も耳に入る。


 特許を取る場合はできるだけキー技術を中心に付随的なものも含め包括的に取り、その分野を押さえることが望ましいと言えます*6。顧問先の弁理士の先生がそういうことまで考えているのか確認し、必要があれば他の弁理士の先生のセカンド・オピニオンを取ることも検討して良いでしょう。


3.第二条 知財を知っている弁護士に早期に関与させる
  佃製作所は、特許権侵害との内容証明を受けて、技術者だけで交渉して、訴えられて大慌てになった*7。これは、身近に特許権について相談できる人がいないということを示しており、特許の取り方のまずさとあいまって、ナカシマ工業にはますます「カモ」に見えただろう。


 顧問弁護士は必ずしも特許の専門家でなくともよい。顧問弁護士を通じて紹介を受けたり、顧問弁理士つながりでも良い。とにかく「その技術分野*8に詳しい弁護士*9」にいつでも気軽に相談できる体制が大事であろう。
こういう体制であれば、訴状がきてから大慌て、顧問弁護士が使えないことが法廷で分かって青ざめるといった本書のような状況にはならない*10
  内容証明段階で実質的な「答弁書」の準備ができていれば、裁判期間も短くなり、早期に裁判を終結させる効果がある。確かに最高裁まで1年で確定することは不可能だろうが、一審勝訴だけでもアナウンス効果は大きいので、一審で勝って「ナカシマは行儀悪く控訴して引き伸ばしてる*11」とでも言えば、受注も回復するだろうし、銀行融資も受けられるだろう。


 なお、本書では、技術者出身弁護士最強説をとっているように読めるが、実際はそうとは限らない。もちろん技術者で同じ分野を勉強されている方で弁護士になられた先生は心強いが、文系出身でも技術を熱心に学ばれてよく本質を理解して裁判官に分かる言葉に「翻訳」できる素晴らしい知財ローヤーの方がいらっしゃることも事実である。


4.第三条 特許権譲渡、ライセンスアウト、製品化の優劣を検証
  帝国重工からバルブ特許の譲渡ないしライセンスを依頼された佃。しかし、佃は、「自分の作ったバルブを宇宙に打ち上げたい」という思いから、製品納入にこだわる。


 特許の活用方法は様々である。特許権譲渡するのは1つの方法であり、欲しい人がいれば、数十億の価値がつくこともある*12。眠らせるくらいなら売ったほうがずっと良い場合も多い。
 しかし、特許を譲渡して、自分で製造しないとすると、製造の中でノウハウを得て改善、ひいては新たな特許のヒントにするということが難しくなる。


 ライセンスアウトの場合、条件によっては非独占的通常実施権の形で、自分でも使えるし、第三者にも使わせられるという契約もあり得る。
  もっとも、競争力を維持したいという相手方にライセンスするなら、専用実施権か独占的通常実施権になるのではないか。


 製品納入は、一番リスクを負うことになる。ある日突然「君の所のものはいらない」と言われる可能性もある*13。不良品を入れて、損害賠償もこわい。反面、実施の中でノウハウを得て、他に展開するとかは一番やりやすい。


 私は、製品納入に反対する社員の気持ちも理解できる。ロケットの特許をなんか売ってその金で小型エンジンの技術開発をさせてくれと叫ぶ現場の技術者の気持ちはよく分かる。ただ、反対に、製品を納入して、ノウハウを学んで展開するという方向もアリだ。


 正直なところ、展開の具体的展望もないのに製品納入に走った佃社長の経営者としての判断はちょっと危なっかしいと思うところがある*14が、いずれにせよ、これら主に3つの選択肢から、何が10年後20年後の自社発展にとって望ましいかという観点から検討する。これが、権利化後の特許戦略の基本である。

まとめ
 知財をかじると、「下町ロケット」は、中小企業が大手相手に侵害訴訟で電撃和解して56億円の賠償金なんてねーよと見る節もあるかもしれない。
  確かにそれは物語のドラマチックさのためのフィクションに過ぎないが、そういう細かいところにこだわると、本書の本質は見えなくなるのではないか。
  少なくとも、知財戦略の基本という限りでは、本書は非常に分かりやすく本質を突いており、知財選択のロースクール生は必読といって良かろう。

 

*1:「あの」シーンはフィクションとしては優れてますが、現実にそこまで言えるのは相当の人物でないと無理ですね…。

*2:西新宿の弁護士ビルに事務所を持っているという設定だが、私も弁護士ビルに相談にお伺いしたことは何度もある。

*3:同じくらい分かりやすいと思ったのは二十年前の特許法入門〜濃厚かつ分かりやすい伝説の一冊 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常だが、いかんせん古い。

*4:一時期はITバブルとかいってとにかく特許さえとればそれを評価してくれるということで特許は取るが、実際はビジネス上の工夫をこらすうちに、いつのまにか特許とは全然違うビジネスをしていて、「先生、後発企業がうちのビジネスをまねるので、特許権侵害で訴えてください」といったものの、自社の現在のビジネスをいくらまねしても自社のビジネスモデル特許違反にはならないという話をよく聞きます。

*5:うちの技術は世界一なのに、ディスカウントとは何事だ等

*6:そんなことを言っても現実には他社技術が特許をずらっと押さえているので、穴の部分にちまちま特許を嵌め込むだけなんですといった現実があるのは事実ですが、それを理解した上でそうするのと、佃製作所みたいにダメダメ弁理士に最先端技術をゴミ特許にされ、結局大企業に食われそうになるというのは全く違う話です。

*7:38頁

*8:生物分野に詳しい人が機械に詳しいとは限らない。

*9:弁理士の先生でも良いが、訴訟になった場合に、訴訟戦略まできちんとできる弁護士を紹介してもらえるのが前提(弁理士の先生には補佐人になっていただく。)

*10:本書の先生も悪い弁護士ではないと思うが、優秀な専門家と共同受任するといったことを考えなかったのは失敗だと言わざるを得ない。その分野に暗い顧問弁護士の先生がが専門家の弁護士を助っ人に呼ぶことで、その顧問弁護士の先生の信頼を維持するといった事例はちらほら聞く。

*11:なお、賢明な読者の方はご存知だろうが、上訴は権利である。あくまでも素人向けのアナウンスという意味である。

*12:ただ、評価が難しいので、架空取引とかに使われることもありますね。特許権の現物出資とか…。

*13:継続的契約の解除って問題はありますが

*14:なお一人のロケット技術者としての思いは理解できる

商標法の最良の入門書〜「商標教室」

商標教室(基礎篇)

商標教室(基礎篇)

*うまく表示されないのでAmazonで「商標教室(基礎篇)」で検索してみてください。

1.商標法の難しさ
 商標法は奥が深い。
 一見、「他人のブランドは勝手に使うな」というだけのシンプルな内容かとも思われるが、商標法の扉を開けると、その内容は実に奥が深く面白い。
  例えば、バッグ・カバンを例に取れば、タグ等に着いている「ブランドロゴ」が商標なのは感覚的に分かるが、地模様(パターン)はどうかとか考え出すと、「あれ、どうだろう?」と、奥の深さが伺える*1
  ただ、逆にいえば、入門する立場からは非常に難しい法律とも言える。判例や対立する学説の本質を理解するのは非常に難しい。
  特に、初学者が陥りがちな誤りは、商標法の基本的な概念である「商標」「商品」等をあいまいなまま、判例等の最先端の問題の検討に入るという問題である。商品や役務が何かについては定義規定すら置かれていないので、まあ、日常語の意味でいいだろうと思っていると、落とし穴にはまる。


2.分かりやすい入門書
小谷武先生は、弁理士試験に最年少で合格され、以来三十年以上に渡り、商標法畑を歩まれた弁理士である。その小谷先生が、何百件という判例を研究した成果を、わかりやすい入門書にとりまとめた。これが、「商標法入門」である。


 最初に出てくるのが、結婚式の祝辞である。

万平君、絵美ちゃん、ご結婚おめでとうございます。
(中略)
今回、ここでご挨拶せよとのご命令で「結婚」ということを考えてみたのですが、商標制度と結婚制度というのが、とてもよく似ているということに気がつきました。
 男女のカップルも、結婚式を挙げずに婚姻届を出さないで一緒に暮らし始めましても、他人の商標権ではなくて、他人の旦那様を取ってしまうようなものでない限り、つまり、他人の迷惑にならないかぎり自由ということになります。
 しかし、これを特許庁に登録するように市役所に届けておきますと、相手に対する独占権をくれます。つまり、奥さん、旦那さんを独占できるのですね。
小谷武「商標教室基礎編」18頁


結婚と商標の類似性から、商標の特徴を分かりやすく説明してくれる*2
  そして、商標とは何か、商品・役務とは何か、商標の顕著性とは何か、商標登録制等の、商標法を理解する上で必要不可欠な重要事項を具体的な事例に沿って分かりやすく解説する。
 全く難しい言葉を使わないのに、読み終わると、それだけで判例の意味が分かるようになる*3。「基礎編」の姉妹編として、二冊の判例編も刊行されており、ポパイ事件、BOSS事件、テレビまんが事件等の有名事件の本質を分かりやすく解説する。基礎編で基礎力をつけて、判例編に入れば、十分な実力を短期間でつけられるだろう。


3.一定の知識がある人も新たな発見が
  本書は、全くの入門者だけではなく、一定以上の知識がある人にとっても、「なるほど」と思わせてくれる。
  例えば、商品論は、日常語の「商品」 とは大分かけ離れた議論で難しいが、本書を読めば、ノベルティ、不動産、サンプル等について、なぜ、商品に当たるか/当たらないかがよくわかる。こういう問題をスルーして、「判例の結論が納得がいかない」となっている人は、本書は必読といってよかろう。


 また、本書のコラムでは、真正商品の並行輸入やトレードシェープ等、応用的話題を分かりやすく取り扱っている。


 更に、類似性の例示で、類似性が認められる場合に「=」、認められない場合に「×」を使っているので、一部のカテゴリーの読者は、カップリングを想像して楽しめる。

花×華*4
菜×彩
活×勝

小谷武「商標教室基礎編」113頁

こういう楽しみ方ができるのも、本書の特徴だろう(?)


4.発行者元の倒産!?
  ここで、現在Amazonでは、同書は絶版本になっている*5どうして、こんな良い本が絶版に!? その理由を探ると、悲しい事実が発覚した。
 同書の発行元は、「トール」という耳慣れない会社である。どうも、商標調査等を行っていたらしい。しかし、倒産してしまったとのことである。
  発行元が倒産すれば、どんな良書でも絶版になってしまう。なんとか、復刊してもらいたいところである。

まとめ
 本書は極めて優れた本であるが、2003年の初版後、発行者の倒産のため絶版となり、改訂されていないという問題がある。確かに、具体例が阪神優勝であったりとやや古い*6ので、その後の判例の発展を反映させて復刊されれば、もっと素晴らしいと思う。
 発行元の倒産に負けず、ぜひ、判例の追加等をした補訂版を出していただきたい。

*1:この点は本書87頁参照

*2:但し、法律に関わりがある人は兎も角、法律に興味のない参加者に、このスピーチが受けたかは不明である。

*3:もちろん、六法の基礎は分かっているのが前提です。

*4:

花×華 (電撃文庫)

花×華 (電撃文庫)

とは関係なさそうです

*5:中古は若干流通しているようである

*6:2003年の優勝は大イベントでした。阪神と関係ない人が阪神優勝商標を取ってグッズ等を売ろうとした事件があったのですが、もう、記憶がない方も多いのではないでしょうか。本書148頁。

虚淵先生がホストのショウさんに許諾を得ないと著作権法違反!?〜公序良俗違反と著作権

魔法少女まどか☆マギカ キーホルダー 美樹さやか

魔法少女まどか☆マギカ キーホルダー 美樹さやか

1.ホストの会話は実話だった!?


本日は、魔法少女まどか☆マギカの放映日時決定ということで、一気にテンションが上がった視聴者も多数いらっしゃることだろう!*1


 さて、近時、魔法少女まどか☆マギカ第8話におけるホストの会話が、虚淵先生が聞かれた実話であったということが発覚し、話題になっている。
http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-1443.html

 この、ホストの会話というのは、美樹さやかが、電車で乗り合わせたホスト(「ショウさん」と後輩)の話を聞き、「この世界は守る価値があるのか!?」と、ソウルジェムを濁らせ、魔女化のきっかけになったエピソードである。


 自称法律クラスタが興味を持ったのは、「ショウさん」が、魔法少女まどか☆マギカ著作権者になっていないところである。クレジットを見ても、ショウさんらしき人は見当たらない*2他の人の会話をアニメに使っても、著作権の問題は生じないのか!?

 まず、検討対象である、ホストの会話を紹介する。以下では、「本件ダイアログ」と呼ぶ。

「言い訳とかさせちゃダメっしょ
稼いできた分は全額きっちり貢がせないと。
女って馬鹿だからさ。ちょっと金持たせとくとすっぐ下らねぇことに使っちまうからねぇ」

「いや〜ほんと女は人間扱いしちゃダメっすね
犬かなんかだと思って躾けないとね。
アイツもそれで喜んでる訳だし、顔殴るぞって言えば、まず大抵は黙りますもんね」

「けっ、ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言いだすからさぁ
甘やかすの禁物よ 。
ったくテメーみてーなキャバ嬢が10年後も同じ額稼げるかってーの。
身の程わきまえろってーんだ。なぁ?」 

「捨てる時もさぁホントウザいっすよね。
その辺ショウさん巧いから羨ましいっすよ。俺も見習わないと」 

「お嬢ちゃん中学生?夜遊びはよくないぞ」 

「何こいつ?知り合い?」 

「ぎゃあー」
魔女少女まどか☆マギカ第8話「あたしって、ほんとバカ」より 


2.公序良俗違反?
  ここで、会話の内容が女性の人権を無視した悪辣非道なものであるから、そもそも公の秩序又は善良の風俗(公序良俗民法90条)に違反し、本件ダイアログには著作権が成立しない、ないし、著作権で保護されないという議論が考えられる。
 実際、SM写真集事件と言われる判例*3において、東京地裁は、「本件写真の内容に照らすと、未だそに著作物性が否定される程までは公序良俗に反するものとはいえ」ないとした*4。このような判示は「写真の内容自体がわいせつと判断される場合には著作権自体が否定されることを示唆したものと理解され*5」ると言われる。
 学説にも、「その他、一般的法理として権利濫用、信義則違反、執行の原則、著作権放棄等も具体的事案の内容如何に応じては、抗弁として成立する場合もあり得ると解される。」とするものがあり*6どのような要件の下で著作権が制限されるかはともかく、一定範囲で公序良俗違反といった一般条項、一般法理により著作権が制限されることはあり得るだろう。なお、ドイツの議論は、マンフレッド・レービンダー「違法または公序良俗違反の作品についての著作権保護か?」リンク先PDF注意が詳しい。


 確かに内容自体が憲法21条の趣旨に鑑みても真に猥褻と言える場合であれば、当該写真等の著作物の複製や公衆送信等は法律違反の可能性すらある*7。そこで、著作権者に著作権を認めて複製や公衆送信を独占させることに意味はないとして、著作権を否定する上記東京地判の考えにも理解できる面がある。
 しかし、内容が公序良俗違反であることを厳格に考えると、違法行為が作中に描かれる作品等において、著作権者の保護が図れなくなる。推理小説で人が死ぬから著作権はないとか、暴力団が主人公の作品*8は、反社会勢力を美化助長するから著作権はないというのは、一般社会の常識に反するし、*9表現の自由の観点からも疑問が大きい
  やはり、公序良俗違反は、当該著作物自体が*10禁制品と言える程の高度な違法性がある場合には問題となる余地があっても、犯罪が描かれているという程度では、公序良俗違反による著作権制限の問題は生じないと考えるべきであろう
  よって、本件ダイアログは、公序良俗違反という理由によっては著作物性は否定されない。


2.創作性の有無 
ここで、著作権が認められる著作物には、創作性が必要とされる。

著作権法2条1項1号 著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの*11であつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの*12をいう。

要するに、著作権法はアイディア(例えば、「ショウさんが苦節十年をかけて体得したキャバ嬢との付き合い方」そのもの)を保護せず、表現(ショウさんが当該付き合い方をどう表現したか)だけを保護する。
創作性とは、いわば、「表現」として、その複製等を独占させるに値するものかを判定する基準のようなものである。

 この創作性については、どの程度を要求するか、長年争いがあり、微妙なところでは、判例の態度も不明確なところもある。しかし、判例・学説を総括すると、以下のようになるだろう。
 まず、芸術性までは不要とされる。例えば、幼児や児童の描いた絵も、創作性を認め得る*13
 独創性については、著作者の個性が著作物の中に現れていれば十分という学説が有力*14で、同趣旨の裁判例もある*15
  このように、創作性のハードルを低く考えても、ありふれた表現である等の理由で個性が反映されていなければ著作物性が否定される*16


  ここで、考えや思いを私的に表示した日記や手紙については、そういう私的なものというだけの理由では著作物性は否定されない。やはり、個性の表出という観点から検討をする必要がある。
  日記については、「多くは著作物性を認めて良いだろう」とされる*17。手紙についても、三島由紀夫の手紙に著作権を認めた東京地判平成11年10月18日判例タイムズ1017号255頁がある。


 問題は、ホスト二人の私的な会話を内容とする本件ダイアログである。日記や手紙に著作物性が認められ得るということからは、私的な会話であるというだけで著作物性を否定することはできず、個性の反映の有無を検討することになるだろう。
  ここで、興味深い判例がある。これは、少林寺拳法の重鎮が、執行部に批判的な手紙を書いたところ、執行部を批判する本に無断転載され、権威付けに悪用されたという事案である*18。この事案では、「著作物というためにはその表現自体に何らかの著作者の独自の個性が現れていなくてはならない」とした上で、単純に執行部を批判するだけの手紙には「本件手紙の表現形態からみて、このような意味の独自性があるものとして法的保護に値する『創作的に表現したもの』と解することはできない」として、著作物性を否定した。
 これに対し、前述の三島由紀夫事件では、「単に時候の挨拶、返事、謝礼、依頼、指示などの事務的な内容のみが記載されているのではなく、三島由紀夫の自己の作品に対する感慨、抱負、被告の作品に対する感想、意見、折々の心情、人生観、世界観等が、文芸作品と異なり、飾らない言葉を用いて述べられている」として、「感情を個性的に表現したことは明らか」として、著作権を認めた。


 本件では、ショウさんと後輩は、自分がヒモとなっているキャバ嬢への対応方法について、ホストっぽい口調でその内容*19を述べればだいたいこうなるだろうという表現で会話したものである。そこには、「(独自の)個性の表出」はないと言え、少林寺拳法事件、三島由紀夫事件の判例に鑑みても著作物ではない。よって、ショウさんは、魔法少女まどか☆マギカ著作権者ではないのである。

まとめ
 虚淵先生が、電車内で聞いたホストの会話をそのまままどマギに転用させることが可能なのは、本件ダイアログに著作権が成立しないからである。しかし、 本件ダイアログの表現方法が、三島由紀夫の手紙のようなものであれば、ショウさんが魔法少女まどか☆マギカ著作権者になるところであり、許諾を得る必要が生じた。
著作権の成否という一番基本的な部分に微妙な問題があることから、このような問題が生じる判例の蓄積により、クリアに著作物性が解決する日が来ることが期待される*20

魔法少女まどか☆マギカ関係エントリ一覧〕



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Twitter@ahowotaでもまどマギ中心につぶやいております。

*1:ご多分に漏れず筆者も同じ状況である。

*2:実は、この人がショウさんですというのをご存知であれば、ぜひご教示下さい。

*3:他人が撮ったSM写真を出版したという事案。一番争われたのは著作権者性。

*4:東京地判昭和61年6月20日判例タイムズ637号209頁

*5:著作権法判例百選第二版108頁

*6:「裁判実務体系・知的財産関係訴訟法」30ページ以下参照

*7:標記SM写真事件が営利目的の出版事案であり、著作権者であるカメラマンも頒布用に撮影していることに注意。

*8:パッと浮かんだのは

でしょうか。

*9:内容に立ち入って公序良俗性を判断すること自体

*10:上記のような猥褻物

*11:この「もの」は、アイデアでないという意味で。即興演奏等も著作権の保護対象である。作花文雄「著作権法 制度と政策」24頁

*12:なお、この「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とは、産業的なものでないという程度の意味にすぎない。

*13:知的所有権問題研究会編「最新著作権関係判例と実務」6頁

*14:例えば、半田正夫「著作権法概説」74頁。なお、中山信弘著作権法」49頁。

*15:例えば、当落表予想事件東京高判昭和62年2月19日無体集19巻1号30頁

*16:ラストメッセージ・イン・最終号事件、東京地判平成7年12月18日判例タイムズ916号206頁

*17:半田正夫「著作権法概説」83頁

*18:少林寺拳法事件。高松高判平成8年4月26日判例タイムズ926号207頁

*19:内容そのものはアイデアであり、著作権法は保護しない

*20:クリアでないからこそ、著作権法は面白いのですが

具体例豊富なわかりやすい入門書〜「女子大生マイの特許ファイル」

女子大生マイの特許ファイル

女子大生マイの特許ファイル

1.具体的でわかりやすい特許の入門書
  特許の入門書としては、個人的には、大阪弁護士共同組合刊行の村林隆一著「特許侵害訴訟の実務」が素晴らしいと考えている。
二十年前の特許法入門〜濃厚かつ分かりやすい伝説の一冊 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 エントリに書いたとおり、大阪特許弁護士界の先駆者である村林先生が惜しみなくノウハウを授けてくれる。もっとも、現在絶賛絶版中で、古本屋でもほとんど見かけないし、内容もup to dateではない。そこで、近年は、最近の改訂に対応している特許法の入門書を探し求めていた。
 現時点のお勧めは、稲森謙太郎先生の「 女子大生マイの特許ファイル 」である。同書は、具体的でわかりやすい異色の特許法入門と言える。
  
  
2.具体例豊富にわかりやすく解説
 特許法は特殊な概念が多く、入門者にとってのハードルが高い。そこで、具体例を出すことが重要である。
 著者の稲森謙太郎先生は、NECが出したUFO特許(特第2936858号 *1等「特殊特許」の世界を解説された、
知られざる特殊特許の世界

知られざる特殊特許の世界

を著されており、「興味深い特許」を集めることにかけては右に出る者はいないだろう。本書は、この稲森先生が収集された具体的な特許を例にとって、特許権について入門レベルから基礎レベルまで一通り理解をさせてくれるのである。
 例えば、*2ISP細胞は知っていても、この特許の具体的な内容を知る人は少ないだろう。本書は、ISP細胞関係の特許を使って、「産業上利用性」について説明してくれる*3職務発明は、青色LEDで説明してくれるが、日亜が青色LED特許を放棄した*4等、エピソード満載である*5。その他にも、有名人の特許権を本人のコメントや友人のブログ*6まで緻密に取材し解説したり、「ヘリコプターを使って富士山の崩壊を予防する方法」についての特許を例に、請求項による権利範囲を解説したり*7、「40年前から使用されていた漢方薬」の特許を例に、特許の「新規性」を説明したり*8と、豊富な具体例で特許の手続、特に権利化についての基本論点がほとんど解説されている。
 

3.権利化の視点と行使の視点
  もちろん、入門書であるから、論点は重要なものに絞られる。
 興味深いのは、著者の重視するポイントが「権利化の過程」であることが伺われることである。
  例えば、出願の分割(特許法44条*9や、発明の特別の技術的特徴を変更する補正の禁止についての2007年改正(17条の2第4項*10) 等は、解説自体は面白いものの、入門レベルを超えた応用論点のようにも思われる。
  思うに、弁理士である著者の稲森先生は、特許権の権利化の過程の側面を重視されているのではないか。つまり、「どうやって特許庁と渡り合って権利を特許として認めてもらうか」が最大の関心なのだろう。
 この点は、村林隆一著「特許侵害訴訟の実務」において、出願関係は、無効を争うのに必要な限度でのみ説明し、とにかく原告になったらどうやって侵害とするか、被告になったらどうやって非侵害というかにフォーカスしていたことと対照的である。
 もちろん、本書でもアースvsフマキラーの例で特許訴訟の素描をされる等、権利行使の側面も一定の説明はあるが、「特許庁に認められた権利を使って競争優位性をどう維持するか」という特許権の権利行使の側面を重視する知財紛争担当職員や、弁護士の視点からは、
 「特許権行使の通告方法*11
パテント・トロール
「特許訴訟における原告側の主張の組み立て方と被告側の防御の方法*12
「ライセンス契約*13
等、権利行使のトピックがもっとあってもいいのではないかと思う節もあろう*14
  本書はこのような権利化の視点と権利行使の視点の違いに改めて気づかせてくれるという意味でも興味深い作品である。


3.いまいち萌えない気がするのはなぜ?
 本書の表紙を見て、これを 「萌え系実用書」と考える人もいるだろう。かくして私もそう考えて買った口である。本書の主人公は「マイ」という工学部に所属する女子大生。マイが講義に使える面白い特許広報を見つけるというアルバイトをする中で、アルバイト先の先生や大学の友人のユウと特許についての会話をするというストーリーである。
 ただ、表紙と最初のキャラ紹介を除くと、「本書内の挿絵が特許実施図だけ」であった。
 また、非常に個人的感想で申し訳ないが、マイにもいまいち萌えない気がしてしまった。うまくその理由を言語化できないものの、

ーーユウが、昼食をとっているマイの隣の席に座った。
ユウ「こ、こんにちは。一人で寂しく食事しているなんて、珍しいね。」
マイ「失礼ね。いつも一人で寂しく食事しているあなたが言うセリフかしら?」
稲森謙太郎著「 女子大生マイの特許ファイル 」127頁

辺りにポイントがありそうだが、いかがだろうか*15

まとめ
本書は、萌え系実用書ではなく、具体例豊富な特許権の入門書と捉える限り、具体例の面白さと著者の綿密な取材による類書に載っていないエピソードで学べることから、お勧めできる一冊である
 また、本書からは、特許権を行使する側と権利化する側の視点の相違も窺うことができ、興味深い。

追記(3月31日):稲森先生ご本人から「稲本ではなく稲森である」とのご指摘を頂戴いたしました。大変失礼いたしました。本文は訂正済みです。

*1:インターネット上で調べる場合、飛翔体特許が参考になるが、こういうのがお好きな方は「知られざる特殊特許の世界 」を購入されると楽しめると思います。

*2:のどっちの夢を実現させるためには不可欠

*3:本書65頁

*4:本書193頁

*5:訴額から印紙代は速算できるにもかかわらず、実際に東京地裁に行って3903万円の印紙が貼っているのを確認された稲森先生の行動力には頭が下がる。

*6:孫社長と米倉先生とゴルフ | 【クマガイコム®】GMOインターネット社長 熊谷正寿のブログです

*7:本書284頁以下。富士山以外の山の崩壊予防にこの方法を利用しても特許権侵害にならないし、富士山でもヘリコプターを使わない限り特許権侵害にならない・・・。

*8:本書89頁以下。特許になっているところがすごい

*9:本書84頁でISP細胞を例に解説

*10:本書248頁でドクター中松氏の発明を例に説明

*11:通告時の対応は本書で取り上げているので、反対に通告する方の立場でも解説して欲しかった。

*12:アースvsフマキラーの例で良いので深堀をしていただきたかった。

*13:和解によるクロスライセンス等も面白いトピックである

*14:逆にいうと、このような事項は、登録業務をメインの業務とする弁理士を目指す人にとってはあまり重要ではないという可能性もある

*15:そもそも「萌え系実用書」と銘記して売っている訳ではないので、私が「勝手に勘違い」したという側面がおおいにある。