アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

一番分かりやすい行政法入門〜つかむ・つかえる行政法

つかむ・つかえる行政法

つかむ・つかえる行政法


1.法律も、条文も、ないんだよ。
  憲法民法・刑法・商法・訴訟法。全て条文がある。そこで、よくわからない場合でも条文に戻って考えることで、理解を深めることができる。


 しかし、こんなやり方が通用しない法律がある。これが行政法。特に行政法総論と言われる分野では、「行政法」という名前の法律ははない。多数の法律の中から概念を抽出するという次第だ。そこで、学生として、依るべき所がわからないまま、「行政行為」「行政庁」「給付行政」等の聞き慣れぬ概念が羅列される。こういう状況において、行政法が苦手な人が増えるのは、ある意味当然である。


 もっとも、行政法大事である。新司法試験、公務員試験の試験科目というのももちろんだが、実社会において行政は極めて大きな役割を占めている。そこと交渉する際の共通言語で切り札なのが、行政法だ。



2.藤田も、櫻井も、あるんだよ。
 これまで、いろいろな行政法入門書を探してきた。藤田宙靖行政法入門」は、豊富な具体例で説明する標準的教科書で万人にオススメできる。

行政法入門

行政法入門

 行政法の勉強法〜藤田「行政法入門」を読む - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


万人にはオススメできないかもしれないが、ぶっちゃけ話がいろいろ書かれているアイアン・メイデン櫻井女史の傑作。櫻井敬子「行政法のエッセンス」

行政法のエッセンス

行政法のエッセンス

サクハシよりも「面白い」行政法の本〜櫻井敬子「行政法のエッセンス」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


等々、良い入門書は多い。


しかし、分かりやすさという意味ではすごい本を見つけた。


それが、吉田利宏「つかむ・つかえる行政法である。

つかむ・つかえる行政法

つかむ・つかえる行政法


3.こんな法律書、絶対、おかしいよ!?
 藤田「行政法入門」が、「具体例で学ぶ行政法」なら、吉田「つかむ・つかえる行政法」は、「例え話」で学ぶ行政法である。


 例えば、行政庁概念。具体例で説明してくれる「行政法入門」は、

 私たちは、(中略)国に対して税金を納めなければならないこととされているわけですが、これを法律学的ないい方でいいかえてみると、結局、国が私たち国民に対して国税を(中略)徴収する権利を持っているということになるわけです。
ところで、この場合、この権利は誰の権利かというと、それは当然、法人格をもち、権利義務の主体であることを法律上認められている「行政主体」としての国だということになります。
ところが、実際の法律の上では、国民に対して現実に税金を(中略)強制的に徴収したりするのは、国そのものではなくて、単なるその一機関であるにすぎない税務署長の任務とされているのです。実際、課税処分や納税の督促などは「○○税務署長」という名前でなされています。この場合の税務署長の立場がまさに「行政庁」だ、ということになります。
藤田宙靖行政法入門」25頁


と、租税債務の具体例を使って説明する。これ自体、普通の基本書よりずっと分かりやすい。


 しかし、「つかむ・つかえる行政法」は、異次元である。

ある大きな駅のコンコースは夜になると若者のたまり場となりトラブルが生じています。たまらず駅はコンコースに貼り紙をすることにしました。その貼り紙には次のようにありました。

ここに深夜たむろする行為を禁止する 駅長

 この「駅長」の部分が「◯◯駅」であってもへんな感じですし、「××電鉄」でもしっくりきません。やはり、駅長名でするのが一番よいように感じます。駅は鉄道会社のものですが、駅長こそが、鉄道会社のためにその駅を管理する存在だからです。
吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」31頁

こういう「例え話」で説明するのが、「わかる・つかえる行政法」の特徴だ。


本当の初学者の方には非常にオススメできるし、そうでははない方も、

「無効訴訟とかけまして『めんつゆ』と解きます。その心は、どちらも意外な使われ方が評判です」
吉田利宏「つかむ・つかめる行政法」175頁


とか、「朝食に野菜を食べるといいよ」と「朝食にトマトなどの野菜を食べるといいよ」の違いから分かる行政事件訴訟法の改正(吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」186頁)等々ニヤニヤしてしまうだろう。

まとめ
吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」は、例え話で行政法にスムーズに入門するという意味で入門者にオススメであるし、ひととおり分かる方にも「行政法漫談」でニヤニヤできるという意味でオススメである。
 ところで、この本、雰囲気が
会社法であそぼ。
に似ているなぁと思っていたら、葉玉元法務省民事局付検事と同様、吉田先生も衆議院法制局参事等を歴任される等のバックグラウンドをお持ちであった。

サクハシよりも「面白い」行政法の本〜櫻井敬子「行政法のエッセンス」

行政法のエッセンス

行政法のエッセンス


1.サクハシが退屈って人、いませんか!?
サクハシ。言わずと知れた、櫻井敬子・橋本博之「行政法」のことである。

行政法〈第3版〉

行政法〈第3版〉

私も、サクハシの帯にある「最高の基本書」の謳い文句が優良誤認と言うつもりはない。確かに、一冊で試験範囲を*1網羅し、*2コアカリキュラムを意識しており、青字を使った二色刷りと板書風のまとめの囲み等で重要ポイントを整理している。サクハシを理解した上で演習書をやれば、新司法試験はもう、何も怖くないだろう。


しかし、サクハシは、「基本書」である。その目的は、司法試験レベルの事項を網羅的に解説するというものであり、別に内容の面白さで勝負している本ではない。その結果、どうしても「つまらない」「退屈」に感じる人が一定程度出てしまう。そういう場合にどうすればいいのか?


まず、基礎が分からないからつまらないのであれば、

行政法入門

行政法入門

藤田宙靖行政法入門」等の入門書で入門知識を補充することがお勧めである*3
行政法の勉強法〜藤田「行政法入門」を読む - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


ただ、一応基礎は学んでいるのでサクハシの意味は分かるが、基本書の文体が眠気を誘う…こんな場合には、単に基礎を学べばいいのではない。どうすればいいのか?


2.櫻井先生! こんなにぶっちゃけていいんすか?
ここで、桜井先生の著書に行政法のエッセンス」というのがある。これは、櫻井先生が教科書では書けない行政法の真髄(エッセンス)をまとめたものである。入門レベルの事項は大体記載されている*4ので、行政法の入門書としても十分使えるが、もう一つの使い方がある。
それは、桜井先生のぶっちゃけトークを楽しむということである*5
雰囲気は、「プレップ労働法」や、「インタラクティブ憲法」、「会社法大要」に近い。

プレップ労働法〈第3版〉 (弘文堂プレップシリーズ)

プレップ労働法〈第3版〉 (弘文堂プレップシリーズ)

AKB48で労働法?! 〜おちゃらけてるけど深い「プレップ労働法」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


続・Interactive憲法 (法学教室ライブラリィ)

続・Interactive憲法 (法学教室ライブラリィ)


会社法大要

会社法大要

龍田節万歳!〜楽しめる基本書「会社法大要」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 抽象的に説明するよりも、具体的な「行政法のエッセンス」の内容を紹介することが、一番感じをつかみやすいだろう。


例えば、公法私法二元論*6を否定する見解に対しては、こう皮肉る。

ある行政法のテキスト*7のキャッチフレーズに「行政法とは何かを考える」というものがありました。そのテキストを書いた先生は通説に従って公法概念を否定していましたので、今にして思うと、行政法学者でありながら行政法とは何であるかということが分からなくなってしまっていたのかなあ、と推測されます。
櫻井敬子「行政法のエッセンス」23頁


裁判員制度に対しては、

実際のところ、一般人に「健全な常識」が本当にあるのかどうか定かではありません
櫻井敬子「行政法のエッセンス」49頁

と指摘する。


地方分権については、

地方は、長い間、国に「おんぶにだっこ」できていますから、突然自立しろとかいわれても、戸惑ってしまいます。自立するには大変な労力が伴いますし、自立してしまえばもう誰も助けてはくれません。リスクは全て自分が負うことになります。したがって、「地方分権」と言ってはみるものの、本音の部分では「自立したくない」という気持ちがあります。「今よりも権限と財源は欲しいけれども、これまでどおり国に面倒もみて欲しい」という、わがままな言い分が見え隠れしています。

と、地方に「甘えの構造」があるとバッサリだ。


こういう「櫻井節」が快調なのに加え、「許可と特許の相対化について、ラーメン屋の例で考える」*8といった面白い例を使った説明がされていたり、*9なぜ行政行為に公定力が認められるかについて、単に「取消訴訟の排他的管轄権」があるからという一般的な説明をするのではなく、「課税処分に公定力がないとしてみんなが納税を拒否したら?」といった、実質的な根拠を検討する*10等、入門書のレベルを超えてむしろアドバンストなことまでやっている。


本書を熟読することで、サクハシの櫻井先生が「本音」では何を考えているかを理解できる。その上でサクハシを読めば、やや無味乾燥チックなサクハシのあの文章も、「ここは簡単に書いてるけど、本音はここかぁ。」とか、「ここは橋本先生に押し切られた?」等と、今までよりも面白く読めるようになるのではないだろうか。

まとめ
サクハシがつまらないという場合には、2つの原因がある。基礎知識の問題と、叙述(共著の基本書であることによる限界)の問題だ。
対策として、もうサクハシは捨ててプラクティス行政法*11にするという方法もあり得るが、サクハシで新司法試験に挑戦するなら、この2つを解決する「鍵」は、「行政法のエッセンス」をサブテキストとすることである。本書を読めば、サクハシの理解に必要な入門レベルの知識を解説すると共に、「櫻井節」でサクハシの裏にある櫻井先生の行政法の考え方が理解できるようになるだろう。

*1:基本書としては薄いので記述の濃淡はあれど

*2:第3版では

*3:最近は入門書でいいものが結構出ている。

*4:救済法がちょっと薄く、メインは総論部分だが

*5:なお、わずじゃ218頁の本であり、情報量や論点の網羅性という意味では到底これだけで新司法試験に立ち向かえるものではない。あくまでも、サクハシのサブテキストと考えていただきたい。

*6:詳しく同書20頁に譲るが取り急ぎエマと公法私法二元論 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常を参照されたい。

*7:10年以上前とのことですが、どのテキストのことか、情報を緩募中です。

*8:本書102頁

*9:説明として成功しているかはともかく

*10:本書106頁

*11:

プラクティス行政法(プラクティスシリーズ)

プラクティス行政法(プラクティスシリーズ)

行政法の勉強法〜藤田「行政法入門」を読む

行政法入門

行政法入門

 行政法を勉強する時に、何から入っていくのがよいか。
 藤田宙靖行政法入門」は、入門書の中では、わかりやすく、内容が厚く、オススメである。


 まず、わかりやすいという方だが、具体例、例えが豊富である。
 例えば、普通の基本書には「行政庁とは、みずからの名で、しかし行政主体のために意思決定し、対外的にこれを表示する権限を法令上与えられている行政機関のことをいう」なんて書いている。こういう説明は、わかる人にはわかるのですが、わからない人にはさっぱり意味不明である。
 これに対し、「行政法入門」は、租税債務の具体例を使って説明してくれる。

私たちは、(中略)国に対して税金を納めなければならないこととされているわけですが、これを法律学的ないい方でいいかえてみると、結局、国が私たち国民に対して国税を(中略)徴収する権利を持っているということになるわけです。
ところで、この場合、この権利は誰の権利かというと、それは当然、法人格をもち、権利義務の主体であることを法律上認められている「行政主体」としての国だということになります。
ところが、実際の法律の上では、国民に対して現実に税金を(中略)強制的に徴収したりするのは、国そのものではなくて、単なるその一機関であるにすぎない税務署長の任務とされているのです。実際、課税処分や納税の督促などは「○○税務署長」という名前でなされています。この場合の税務署長の立場がまさに「行政庁」だ、ということになります。
藤田宙靖行政法入門」p25

 こういう具体例が多くわかりやすいことがこの「行政法入門」の特長である。


 次に、「内容が厚い」ということだが、普通の入門書に書いていないハイレベルのところまで「ちょこっと」触れられている。法律の留保についても、侵害留保・全部留保説はもちろんですが、本当にちょっとだけですが、権力留保・重要事項留保説についても書いているというのはすごい。


 行政法の問題は、イメージがわきにくいというところにあるだろう。「行政法入門」を使って勉強すれば、まずは行政法の各問題についてイメージを持てる。そこで、このイメージをつかんだ上で、基本書に入れば、より勉強が進む。


 前に書いた初学者のための民法本案内 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常が好評だったので、行政法について「独学」で「基本書中心」に学ぶ場合の方法を考えてみた。

まず、

行政法入門

行政法入門

行政法入門」で、おおまかなイメージをつかむ注意すべきは、あくまでもイメージさえつかめればいいのであり、これにより全部を理解しようと思わないことです。300ページ弱あるが、週末位で一気に読み進めるつもりで、行政法の各概念についてどういうイメージを持てばよいかを確認してください。

 それから、基本書に入る。これはオーソドックスに塩野を薦めておきます。

行政法〈1〉行政法総論

行政法〈1〉行政法総論

ただ、この塩野は比較的難しいので「全部を理解」しようとしてはいけません。ざっと理解しようという感じで読んだ方がいい。

 これ以外にも基本書として

行政法―現代行政過程論

行政法―現代行政過程論

大橋とか
行政の法システム〈上〉

行政の法システム〈上〉

阿部とかも面白いですが、こういう本に行く前に、お薦めするのが「争点」です。
行政法の争点 (法律学の争点シリーズ (9))

行政法の争点 (法律学の争点シリーズ (9))

各争点毎に学説の対立、判例等がうまく整理されていますので、藤田で「イメージ」をつかみ、塩野で「流れ」をつかみ、争点で「論点についての判例・学説を理解する」この3ステップで、勉強されるとよいだろう。

 まあ、このレベルは、ロー入試レベルでしょうが、これ以上ハイレベルに行く方法については、私はその知識も実力も持ち合わせていませんので、心有る方の補足を心の中で期待して、筆を置かせていただく。

まとめ
行政法の勉強の際には、藤田「行政法入門」で「イメージ」をつかみ、塩野「行政法」で「流れ」をつかみ、「行政法の争点」で「論点についての判例・学説を理解する」という3ステップで勉強すると効率がよい。