アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

有価証券報告書を利用したブラック企業かの見分け方

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない


1.はじめに
就職活動が解禁され、法学部の3年生の皆様は、説明会等のイベントで忙しい時期ではないかと推察される。さて、多くの方は「ブラック企業には勤めたくない」と思ってらっしゃるだろう。問題は、「どう見分けるか」である。


様々な文献・サイトが様々な切り口からこの点を検討しているところ、
http://www.toyokeizai.net/spc/shushoku/2012/12/black/
が、四季報で分かるブラック企業の見分け方」という切り口を紹介されていた。
私は四季報といえばいわゆる『会社四季報』のことだと思っていたので、会社四季報掲載の投資家用のデータからどうブラックかを読み解くのかなぁと興味を持ってサイトを訪れた。


しかし、ここでいう「四季報」は「就職四季報」であって、(説明会等で質問せよという部分もあるが)基本的には「就職四季報」に掲載されているアンケート調査の結果(NA/無回答あり)に基づく分析のようである。


2.有価証券報告書からのブラック企業かの見分け方
そこで、私が「きっとこういうことが書いているのではないか」と想像した、「有価証券報告書からのブラック企業かの見分け方」を簡単にご説明したい。


有価証券報告書は、金融商品取引法によって上場会社プラスαの会社に提出が法律上義務付けられている書類である*1。その目的は、情報開示であり、正しい情報を一定のフォーマットに従って提出することが義務付けられており、およそ上場企業であれば、全社が(無回答はなく)情報を提供している*2


まず、有価証券報告書はどこにあるか。
EDINET
EDINETにアップされている。


有価証券報告書等」をクリックし、「提出者名称」に会社の名前を入れると出てくる。
ただし、有価証券報告書だけではなく、その他の法定の開示書類も出てくるので、有価証券報告書(有報)」に焦点を絞ろう。なお、同じ有報でも「訂正」報告書は*3使えない。


さて、目当ての会社の有報を見つけたら「従業員の状況」を見る。平均年齢、平均勤続年数、年間平均給与が記載されている。


例えば、トヨタ自動車株式会社の108期(今年3月まで)の有報では

従業員数 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
69,148*4 38.3 15.0 7,400,369

となっている。


簡単に分かるのは、平均年齢、平均勤続年数と平均年間給与である。
すぐに辞める人が多い会社は、一般には勤続年数が短い傾向にある。「普通は3年で辞める」会社なら、平均勤続年数も短いという形で有報に現れる。平均年間給与については、「給与は高いけど、そのほとんどが残業代」等のトラップもあるものの、トヨタの従業員を平均してみると、38歳で、今まで15年働いてきて、年間740万円もらっている」というイメージを持つことができるだろう*5


 なお、有報にある情報だけではなく、ニュース等を検索して、情報を付加してみよう。平成24年の年間一時金が「178万円」で、平成23年より5万円少ないというニュースがある。そうすると、約200万円がボーナス、約500万円が給与という「大雑把な」概算を得ることができる。


更に、少しだけ計算をしてみると、平均年齢から、平均勤続年数を引くと、平均入社年齢が出る。トヨタ自動車の場合38−15の約23歳の時に入社するのが平均的と言える*6
この数字から、当該会社が新卒一括採用がメインか、中途採用を多く採っているかも分かる。小さな会社等では、必然的に中途を採らざるを得ないことも多く、中途が多いからブラックとは限らないが、どんどん辞めていくので「止血」のために中途採用を大量に採るブラック企業も多い。平均入社年齢から「怪しい」と疑うきっかけを得ることができるかもしれない。


実は、この他に退職引当金等の数値も有報に掲載されているが、本エントリでは、そういう会計的な所に深入りするのではなく、比較の視点を紹介したい。


 まずは、「業界内の比較」である。もちろん、業界全体がグレーという業界がないとは言わないが、同じ規模の会社なのに、平均勤続年齢が突出して低いといった場合には、注意が必要である。なお、同業界で比較する場合、単純に給与を比較するのではなく、平均年齢を加味すべきである。平均年齢が55歳のお年寄りばかりで平均給与が高いA会社というのは、給料が良さそうだが、最初の数十年はすごく薄給かもしれない。逆に平均給与が比較的安いが、平均年齢が30歳ちょっとのB社の方が、最初の給料がA社よりも多いかもしれないし、(平均年齢が若いから給料が安いだけで)その後もA社よりは良いかもしれない。


 次は、「過去の推移」である。要するに、昔と比べてどうなっているかである。平均年齢が高齢化していく会社、従業員が増えない割には勤続年数が短くなっている会社*7等はクエスチョンマークが付き易い傾向にあるだろう。


 このような数値分析に加え、当該会社のニュースを分析すると、「この年に一気に従業員が減ったのは、リストラがあったんだ」といった、数値の「裏」が分かり、重層的な深い理解につながる。こうやって、労働環境についての客観的データを把握した上で、疑問点をリサーチするという方法は、まさに「地に足の着いた」ブラック企業の判別方法になるだろう。

まとめ
有価証券報告書には、毎年従業員に関する数値が一定のフォーマットで掲載されています。
フォーマットが一定なので、過去にさかのぼって推移を見たり、他社と比較することも簡単です。
数値だけでブラックかを即断はできませんが、ニュース等の他のソースによるリサーチと併せて重層的に調査することで、ブラック企業を見分けることができます。

*1:そのプラスアルファの範囲を語りだすとそれだけで1つのエントリになってしまう。

*2:つまり、比較がやりやすい

*3:これから説明する部分が訂正されている場合には有用だが、普通は

*4:平均臨時従業員は9,139

*5:あくまでもこれは「イメージ」であり、具体的なそういう38歳の人がいるという意味ではないことは留意が必要である。

*6:高校等の卒業者もいるだろうが、かなり新卒一括採用が多いと言えよう。

*7:なお、従業員を増やしてそれによって勤続年数が減ること自体は当然だが、急に増やしすぎることのデメリットも考える必要があるだろう

不注意な「契約」をした「インキュベーター」取締役の責任が認められた事案〜カブトデコム事件

魔法少女まどか☆マギカ ラバーキーホルダー キュゥべえ

魔法少女まどか☆マギカ ラバーキーホルダー キュゥべえ


1.起業支援者としての「インキュベーター
 IPO(アイ・ピー・オー)。新規株式公開という意味である。
 IPOに成功すれば、創業者は大きな株式売却益と、自己の手元の株式の含み益を得ることができる(創業者利益)。また、IPOをする株式を安値で買っていれば、IPO時には、買った時の数倍から数十倍といった暴騰を期待することもできる。こういうことから、IPOを目指しているベンチャー企業は多い。
 しかし、単に「会社の業績がいい」とか「ビジネスモデルがいい」というだけで上場はできない。必要なファイナンスの手当、業務提携先の候補調査等、いろいろな支援が必要である。インキュベーターは、このような立ち上げ期の会社を支援し、上場までこぎつけさせることを通じて、IPOの利益を分かち合う起業支援者のことをいう。


 魔法少女まどか☆マギカでは、キュゥべえことインキュベーターが、少女と契約して、魔法少女になってもらう代わりに、願いを叶えるという設定となっていた。
 この、まどか☆マギカインキュベーターを、起業支援者という意味のインキュベーターとうまく関連付けて話題になったのが、磯崎哲也先生の、

http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/isozaki/20110531-OYT8T00567.htm

 である。このエントリでは、ベンチャー企業の視点から、

 アニメにも実社会にも共通する教訓は、「契約する際には、十分すぎるほど注意せよ」ということです。相手がなぜその契約を結びたがっているのか、相手はこの契約の対価として何を得るのか、契約にはどのような義務が伴うのか、どのような条件が発生すると契約が終了するのか、契約終了後はどうなるのか。そういった注意は、(ベンチャー企業に限らず)必要です。
「『まどか☆マギカ』で考える『インキュベーター』の役割」より

 といった興味深い考察がされている。


2.インキュベーターが裁かれた!?
 さて、この起業支援者としてのインキュベーターについて、法律の観点から見ると、もう1つの観点がある。それは、不適切なベンチャー企業を支援をしてしまったインキュベーターの責任という問題である。まどマギ風に言えば、適性のない魔法少女と契約してしまったインキュベーターの責任である。これが実際に争われた判決が、最判平成20年1月28日判例タイムズ1262号69頁である。カブトデコム事件の方が通りがよいかもしれない*1


 インキュベーターとなったのは北海道拓殖銀行、後に破綻したことで有名である。魔法少女、もとい、新興企業の名は、カブトデコム。北海道の新興不動産デベロッパーといった感じである。
 時は昭和63年、まさに、バブル真っ盛りであり、北海道にもバブルのあだ花が咲き乱れていた時代である。
 北海道拓殖銀行は、当時、インキュベーター路線を取っていた。この事件の控訴審判決が認定した、拓銀の方針について、ちょっと引用しよう。

拓銀は,昭和60年ころから,金融自由化時代を乗り切るべく,事業収益を挙げるため,道内企業,若手経営者の育成に注力するようになり,(中略)中堅・中小インキュベート事業と題し,中堅・中小の成長企業を主体に,経営情報サービスの提供を通し,企業の成長と拓銀のリターンを拡大し,法人向け中核事業として重点的に取り組むことで拓銀の顧客ポートフォリオの若返りを図ることを目標に掲げ,同年10月までは法人部を中心に,同月以降は育成企業担当部として新設された総合開発部において,道内の若手経営者を中心に企業育成を行った(いわゆる,インキュベーター路線)。インキュベーター路線の実行は,当初は,バブル経済を背景に,拓銀に一定の収益をもたらしていた
カブトデコム事件控訴審判決(札幌高判平成17年3月25日判例タイムズ1261号258頁)

 この路線の一環として、北海道拓殖銀行は、カブトデコム(の関係会社)に計約195億円の融資を行った。カブトデコム洞爺湖のほとりに大規模なホテルを建築するということで、カブトデコムがその関連会社に新株を引き受けさせた。この引き受けのための資金を北海道拓殖銀行が融資した。実質的には、洞爺湖のほとりのホテル建築プロジェクトの資金の融資と考えてもらって差し支えない。
 後で問題になったのは3つ融資があるが、インキュベーターと関係するのは、このホテル建築プロジェクトの資金の融資である*2
 この融資の際、北海道拓殖銀行は、カブトデコム(の関係会社)から担保をとった。それが、カブトデコムの株式なのである。ホテル建築プロジェクトが順調に進み、カブトデコムが順調に成長し、IPOに漕ぎ着ければ、カブトデコム株は、当初の何倍にもなる。そこで、融資を十分に担保するだけの価値を持つことになるだろう。逆に言うと、カブトデコムには、他に担保になりそうなめぼしいものはないので、株式以外の担保をよこせというと、195億円も融資をすることはできず、カブトデコムがこのプロジェクトを通じて成長することはできなくなる訳である。
 この目論見は、少なくとも最初は当たったカブトデコムは、平成元年3月、国際証券*3を主幹事証券会社として日本証券業協会に店頭登録した。今でいうJASDAQ上場である。当初は株価も順調に上がり、株価4万円以上をつけたこともあるそうである。
 ところが、バブル崩壊と共に、カブトデコムの業績は悪化し、ホテル建築プロジェクトも頓挫する。カブトデコムは事実上破綻し、北海道拓殖銀行カブトデコム向け融資は焦げ付いた。北海道拓殖銀行の破綻の原因の一つがカブトデコム向け融資とも言われる


 北海道拓殖銀行破綻後、カブトデコムへの融資が問題視され、北海道拓殖銀行の取締役の責任が裁判上争いになった*4。特に、カブトデコムの株式を担保として取ったことが適切かが問題となった
 控訴審裁判所は、ホテル建築プロジェクトの資金の融資について、インキュベーター路線を評価し、取締役には責任はないとした。
要するに、カブトデコムへの融資は、当該融資そのものによる金利等の収益を目的とする通常の銀行融資とはその性質を異にするもので、相当期間の長期にわたる融資先の育成を見据えた拓銀としての将来における長期的な営業戦略の一環であって、単純な貸付とは異なり、拓銀にとっては,融資元本の回収及び利息による収益を超える利益を目指した投資的性格が色濃く認められる融資であったことから、融資先に既存の物的かつ確実な担保提供を求めること自体が不可能を強いるものであり,発展途上の企業を育成するという目的からは、カブトデコムの株式を担保とする融資も相応の相当性を認めることができる。としたのである。


 これに対し、最高裁は、全く逆の判断をした。他の融資と併せ、計50億円の損害賠償を北海道拓殖銀行インキュベーター)取締役に負わせたのである
 株式は一般に価格の変動幅が大きいところ、いったんカブトデコムの業績が悪化すると、担保となっている株式の価値も一緒に下落する。これを言い換えると、融資の回収が難しくなる場合、つまり、一番担保が必要な場合に株価が下落して担保の役目を果たさなくなるというリスクがある。そこで、株式を担保に195億円もの巨額の融資を行うことは,そのリスクの高さにかんがみ,特に慎重な検討を要するものというべきであると指摘した。
 その上で、銀行が,特定の企業の財務内容,事業内容及び経営者の資質等の情報を十分把握した上で,成長の可能性があると合理的に判断される企業に対し,不動産等の確実な物的担保がなくとも積極的に融資を行ってその経営を金融面から支援することは,必ずしも一律に不合理な判断として否定されるべきものではないが、カブトデコムは、その財務内容が極めて不透明で、借入金が過大で財務内容は良好とはいえないなどの報告がされていたのだから、北海道拓殖銀行が当時採用していた企業育成路線の対象としてカブトデコムを選択した判断自体に疑問があるといわざるを得ない等とした。そこで、インキュベーター路線の一環として行われた融資であることを考慮しても,当時の状況下において,銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし,著しく不合理なものといわざるを得ないとして、取締役の責任を認めたのである。


3.カブトデコム判決の教訓
 インキュベーターは、一社だけをインキュベートすればよいのではなく、通常は複数の有望なベンチャー企業を発見し、次々と支援先を増やしていく必要があるだろう。魔法少女まどか☆マギカにおいて、キュゥべえ「契約」のノルマを課せられていたように、インキュベーターも、多くの原石となるベンチャー企業を発掘して「契約」することが必要である。
 しかし、ダメ企業と「契約」してしまうと大変なことになる。これを示すのが、北海道拓殖銀行カブトデコムへの融資であり、将来の成長に期待して、株式を担保に巨額の融資をしたところ、それが焦げ付き、銀行そのものの破綻の原因となったのである。最高裁も、インキュベーターが一定のリスクを取る事自体には理解を示している。しかし、財務内容が極めて不透明で、借入金が過大等の危ない企業と「契約」して資金的な支援をするのは、投機*5に過ぎない。
 リスクを怖がり、誰もインキュベーターがいない社会。そこは、新たな成長のない、まるで魔女に破壊し尽くされたような暗い社会であろう。しかし、インキュベーターが適切にどのベンチャー企業を支援するか判断しなければ、インキュベーターに大きな損失を与え、取締役個人の責任を問われることになる。加えて、カブトデコムの株式を購入して、それが紙くずになった個人投資家の方もいらっしゃるだろうインキュベーターが、支援先の選別を誤って、上場させてはいけない企業を上場させてしまった時、証券市場に混乱を巻き起こすファイナンスが回らなくなりソウルジェムが濁った企業は、怪しいファンドへの第三者割当増資やMSCBの発行(グリーフシードの供給)等を行い、ハコ企業とか株券印刷業等になって、最後に上場廃止(魔女化)して、多くの投資家に被害を与える。このように、インキュベーターインキュベート責任は重いのであり、キュゥべえ達(インキュベーター達)には、誰を魔法少女として契約するか(どのベンチャー企業を支援するか)について、慎重な検討が求められるのだ。

まとめ
 磯崎先生が指摘されるように、ベンチャー企業側が注意すべきことについて、魔法少女まどか☆マギカは非常に示唆的である。
加えて、カブトデコム判決は、インキュベーター側も、どのベンチャー企業を支援すべきかについて、重要な示唆を与える。この判決を理解する上でも、魔法少女まどか☆マギカは必見のアニメであろう!

魔法少女まどか☆マギカ関係エントリ一覧〕
魔法少女契約からの離脱の法理〜魔法少女まどか☆マギカの法的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
魂を踏みつけたキュウべえの罪状〜まどマギと刑法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
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不注意な「契約」をした「インキュベーター」取締役の責任が認められた事案〜カブトデコム事件 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:同じ日に最高裁で3件の同じような判決があったうちの1つ。

*2:判決や評釈では「第一融資」と呼ばれる

*3:今の三菱UFJモルガン・スタンレー証券

*4:RCC整理回収機構が提訴。

*5:松山昇平「銀行取締役の融資判断における注意義務」金融法務事情1833号30頁は、「拓銀カブトデコムに対してとった企業育成路線とは、企業育成の名の下に投機的な融資を行ったにすぎない」と指摘する

緊急出版「大震災と株主総会の実務 」を読む〜実務の方向性を決定づける一冊

大震災と株主総会の実務

大震災と株主総会の実務

1.株主総会をどうする!? 五月六月総会企業の法務部員必携の書
  三月決算の会社は、六月末までに総会を開くところが大部分である。
 ところで、今般の大地震を踏まえ、総会実務上どう対応すべきかという点は重要な問題である。
  阪神大震災の場合には、一月だったことから、六月総会企業への影響はそこまでクリティカルなものは少かった*1と聞き及んでいるが、今般の震災の場合、被災地近辺の企業はもちろん、東京等に本社がある企業でも、影響は少なくない
  三月決算に、監査法人が無限定適正意見を出してくれなかったら?に始まり、停電対応はどうする余震が来たらどうする等々、総会担当者の悩みは尽きない。


このような状況下、救世主が現れた。それが、あの中村直人先生*2の、「大震災と株主総会の実務 」である。
  わずか三週間余りで120頁の原稿を書いて頂き、商事法務から出版されるこの本は、三月総会の経験や、3月29日以前の東証法務省の発表等を踏まえ、総会実務の疑問に具体的に回答する!


 Amazonでは、同書は明日(21日)発売の予定だが、既に書店に並び始めたので、簡単にレビューしたい。


2.内容の紹介
 本書は、総会実務上の問題を網羅的に解説したものである。
  まず、震災により被災したり、見通しが不明確になることがあり得る。このような大震災の経営・決算への影響と開示を1、2章で説明する。
 ある意味*3監査法人マターの部分もあるやに聞くが、重要な災害が「やんだ」場合の時報告書提出義務はあまり意識されていないように思われるので、本書5頁等の説明は興味深い。
 また、議題をどうする、開催場所をどうする、関係書類をどう書くといった、準備の問題、そして当日の説明やトラブル対応について、3、4章で述べる。
 ありがたいのは、総会のシナリオ例を具体的に示し、いつものシナリオとの変更部分を記載してくれていることである。社長や役員に、「シナリオは震災に対応してるか?」と聞かれた時に、「大丈夫です!」と言えるのは心強い。
 最後に、五章で議事録等もフォローしている。本書の売り上げの一部は義援金になるそうである*4


3.参照すべきは何か?
 本書には相当充実した記載があるが、実務では、「本にない問題」にぶち当たることは多い。そんな時どうするのか?  
  本書からは、仮にどこにも書いていない新たな問題が生じた場合に何を参照すべきかが分かる。


  まずは、会社法の法令、判例と学説である。例えば、総会を延会にする場合、いつを期日にすればよいか、これは学説上、当初の総会との同一性が保たれる2週間以内といわれる*5。このように、会社法をまず検討すべきであろう。


  次が、三月総会の実例や、省庁等のリリースである。最新の解釈や取り扱いはこれで分かる。本書は法務省のリリース*6を踏まえたり、招集通知発送後に会場を変更し開催時間を繰り下げた例等三月総会の会社の実例を踏まえている*7。なお、注意すべきは、三月総会は、六月総会と異なる特殊性があったということである。三月総会は震災直後なので、株主も対立的にならずシャンシャンといった総会が多いそうである*8。しかし、六月総会の株主も対立的にならないとは限られないだろう。こういう、三月総会との差には留意する必要がある。


  また、阪神大震災の実例は参考になることも多い。阪神大震災の際の事業報告書の記載等は本書が引用しているが、参考になる*9。資料版商事法務を定期購読している会社も多いだろうが、定期購読していなければ、135、140、141号を図書館等で探しておいても損はなかろう。


 更に、開示関係ではEDINETである。例えば臨時報告書提出義務について、本書5頁は、EDINETをもとに、執筆当時はまだ臨時報告書提出企業は少ないと説明している。今後どうなるかは、EDINETを見るしかないだろう*10


4.本書の内容がデファクトスタンダード
 本書は、三月総会で会社によって*11対応が分かれた部分についても、中村説を明確に説明する。
  例えば、総会中に余震が起こったらどうするか。パッと思いつくのが延会であり、本当にすごい余震であれば、審議よりも優先すべきものがあるので、キッパリ延会すべきであろう。また、ちょっとぐらついただけならば、そのまま続行すべきであろう。問題はその中間である。
 ここで、知り合いの弁護士によれば、三月総会では、「休憩」説と、「議案可決」説に分かれたそうである。
 基本的な考えは、総会での審議も重要な株主利益だが、延会・続行をすることで失われる株主利益もあるということである。例えば、会社の会議室で開いているならともかく、ホテル等は総会シーズンかなり埋まるだろう。延会・続行といって、六月中に次の会場を予約できるとは限らない。予約できないと、期末配当の基準日である三月末から三ヶ月を超える。基準日の有効期間は三ヶ月(会社法124条2項括弧書き)なので、配当はできない*12。権利確定まで持ってから売った人は、配当落ちの差額によっては大損だろう。
 そこで、審議をするという株主の権利を尊重しながら、当日中に決議する方法が考え出された。
 一つは「休憩します。地震が収まり避難しなくてもよくなったら戻って来て下さい」と議長が叫んでから係員の誘導に従って避難する方法である(休憩説)。 最大のメリットは、休憩は議長の議事進行に関する権限と解され、決議が必要がなく、一瞬で避難に移れることである*13。後は地震が収まり戻って来た株主との間で総会を再開することになる*14。もっとも、予想外に地震が大きく、誰も戻ってこない、戻れないという場合に決議ができないリスクはある。
 これに対し、もう一つ、中村先生の説は、避難する前に議案を可決してしまう説である(議案可決説)。議案を可決しているのだから、戻れなくとも配当等はできる*15
 この説への最大の批判は、審議ゼロでも可決させてよいのか? というところだろう。中村先生は、まず、会社法的に、緊急避難的対応として裁量棄却を争えること、通常総会決議取消訴訟が1年で確定することはないから、次回の定時総会で追認の決議をすればよいこと等を指摘される*16。加えて、冒頭で緊急時には議長の判断で決議事項の採決を優先させることの同意を取ることを提案される*17。確かに、この点の同意をとっておくことは、裁量棄却の判断に大きなプラスであろう。
  もちろん、中村説は法務的に「裁量棄却に賭けるやり方はどうか」という疑問は残る。また、総会決議取消訴訟の審理期間も、昔は一審で平気で二年とかかかっていたのが、東京地裁民事八部における限り一審はできるだけ一年以内という傾向が強まり、100パーセント「次回の定時総会で追認」が使えるとまでは言い切れない*18
 そのようなリスクはあるが、オーソリティある中村説は、本書の存在とあいまって、デファクトスタンダードになることは間違いないだろう。
 なお、事前に緊急時に先に議案だけ採決する可能性を説明して同意を得た上で、緊急時には戻って再開できそうなら休憩と叫ぶ、無理そうなら「全部可決でいいですね」と叫ぶという折衷案が法務的には正しそうだが、戻って再開できそうかの判断を誰ができるのかという悩みもあるので、実務のスタンダードには、なれなそうである。

まとめ
  本書は、多くの「悩める総会担当者」を救う素晴らしい本であり、中村先生と山田先生に深く感謝したい。
なお、本書の出版後も、刻々と事情は変化する。このような事情の変化に応じたアップデートを商事法務のサイト等でしていただけたらとってもうれしいなぁっと思う一読者であった。

*1:もっとも、深い爪痕を残しており、その一部は本書でも紹介されている

*2:と同じ事務所の山田先生

*3:法務マターというより

*4:本書123頁

*5:本書71頁、ややニュアンスの違う説もあり

*6:本書23頁

*7:36頁

*8:ビジネスロージャーナル2011年6月号21頁参照

*9:本書45頁以下等

*10:実際、三月末までと四月以降でおおよそ提出企業は倍増しているようであるが、実数が少ないのもまた事実である。

*11:指導担当弁護士によって?

*12:83頁

*13:東京弁護士会会社法部「株主総会ガイドライン」274頁、会社法317条参照

*14:再度議決権行使書を確認させてもらうかは要検討。

*15:戻れないような地震が起こった場合に金融機関がきちんと配当できるかという別の問題はありますが。べ、別にM銀行のことなんか、名指ししてないんだからねっ!!

*16:本書107頁

*17:本書91頁

*18:事実関係には争いなく法的主張も「標記事情で取り消すのが相当か」の一点なので、通常よりも審理が早いのではないか。

五分五分以上かの判断の難しさ〜IFRSと弁護士業務

決算書の50%は思い込みでできている

決算書の50%は思い込みでできている

1.決算期の恒例行事
  弁護士事務所における決算期の恒例行事と言えば、監査法人から送られて来る「確認状」に記入して返信することである。


  監査法人が弁護士に何を確認するのか。これは、訴訟が係属している場合等に、そのリスクを弁護士に確認し、この点に関する経営者の報告の裏付けを取るということである。
 平成14年監査委員会報告書73号「訴訟事件等に係わるリスク管理体制の評価及び弁護士への確認に関する実務指針」には

監査の過程において、会社の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある訴訟事件等のリスクが存在し、その会計処理又は注記等による情報開示の要否に関する監査人の判断に際して、法律的専門家の見解を入手する必要があると認められる場合には、弁護士への確認を行わなければならない。
 平成14年監査委員会報告書73号「訴訟事件等に係わるリスク管理体制の評価及び弁護士への確認に関する実務指針」より

とある。 
 監査法人が把握している以外に重要な訴訟事件ないしリスクはないかや、監査法人が把握している訴訟事件のリスクについての弁護士の見解等が確認されることが多いだろう。


2.引当金についての日本GAAPIFRS
 ここで、上記の弁護士確認が必要となる「会社の報告」には様々なものがあり得るが、なんと言っても重要なのは引当金(訴訟損失引当金である。ざくっと言えば*1、1億円*2の訴訟の被告となっている会社について、当会計年度に既に敗訴濃厚になっていれば、実際に敗訴して払わなければならなくなる前でもそのような債務に対応する引当金を費用ないし損失として計上しておかなければ、投資家等の判断を誤らせる恐れがある訳である。


 従来の日本会計基準では、引当金計上については、

(1)将来の特定の費用又は損失であって、
(2)その発生が当期以前の事象に起因し、
(3)発生の可能性が高く、かつ、
(4)その金額を合理的に見積ることができる場合
 には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
基準会計原則註解 注18より。ナンバリングは筆者

 という四要件で運用されてきた。


 すると、少なくとも過去に結んだ契約責任を問われる場合や、過去の行為に関する損害賠償責任を問われるという典型的訴訟では、当該訴訟による賠償義務は(1)将来の特定の損失で、(2)発生が当期以前の事象に起因するとは言える。
 もっとも、法定監査を受けるような企業*3は基本的には相手の主張に理由があれば訴訟外和解ないし早期の訴訟上の和解をするはず*4であって、敗訴して賠償金等を払うことが(3)発生の可能性が高いと言えるのは訴訟の後半、事案によっては終わりに近い場合だろう*5
 よって、期末において既にそのような発生可能性が高いという時点まで至っているという場合を除けば、通常は弁護士も、引当金を計上するほどのリスクはないという会社の判断と同意見ということで差し支えないのではないか*6


 ところが、IFRSは違うらしい。ビジネス法務の部屋様で紹介されていた会計士の村井直志先生の最新刊である「決算書の50%は思い込みでできている」によれば、

この引当金の4要件について、IFRS国際財務報告基準)では、(3)発生の可能性が高い、という要件を撤廃することを検討しています。
もし、(3)の引当金要件が撤廃されることになれば、従来は敗訴が目に見えた時点で訴訟損失引当金を計上していたのが、訴訟になってから早い時点、より具体的には敗訴の確率50%を超過した時点で訴訟損失引当金を計上することになる(IAS37号)といわれています。
訴訟という会社にとってナーバスな部分だけに、勝敗が五分五分の段階で訴訟引当金を計上することで、あらぬ噂を巻き起こしかねない、との懸念が浮上しています。
村井直志著「決算書の50%は思い込みでできている」38〜39頁

とされる。
 つまり、IFRS導入後は、訴訟での敗訴確率が五分五分を超えたら引当金を積まなければならない*7のである。

3.「水もの」の訴訟と五分五分の難しさ
 村井先生が指摘されるとおり、五分五分で引当金を計上するのは、日本の実務に混乱を引き起こしかねない懸念がある。
  訴訟は「生き物」であり、訴訟係属後に先方から代理人にとって初見の(先方に有利な資料)が証拠提出されるリスク*8 や、裁判官の考え方によるリスク*9、証人尋問リスク*10等、様々である。そこで、相当客観的証拠がそろっている事案や相手の主張が明らかにアレな場合等以外は、「筋的に勝てる」と思っていても、上記のようなリスクから、大丈夫、少なくとも五割以上勝てますとまでは言えないケースも相当あるのではないか。
 また、監査法人という三者に提出し、監査意見の基礎となる正式書面に書く意見という意味で微妙な問題もある*11。例えば、「相手もやや言い分があるが、相対的には六対四でこちらの言い分が通るだろうと思っていても、「依頼者側だけの資料と情報で六対四なら、相手の言い分を聞けばもっと分が悪くなるのではないか。五割以上勝てると本当に言い切れるのか?」と極限まで論理的に詰めれば、「敗訴リスクが50%を超過していないとは言い切れない」と、保守的に答えることにもなりかねない。


 もし、IFRS導入後に、監査法人側から厳しく引当金計上要件を弁護士に確認するという実務が行われれば、実際よりも保守的に訴訟損失引当金の計上が行われることが予想される*12


3.IFRS後の訴訟戦略!?
  すると、IFRS導入後、原告の訴訟戦略は、まずは、被告の財務諸表に訴訟損失引当金を計上させることを目的にした訴訟活動をする方向になるのではないか。原告によっては、訴訟提起の時期を操作することで、訴状が期末に送達されており、引当金の計上を検討しないといけないところ、調査のために十分な時間がとれないので50%以上(被告が)勝てるとは言えないという状況に被告を追い込み、訴訟損失引当金を無理やり計上させるところも出てくる可能性がある*13。それを証拠提出、ないし弁論準備手続期日で事実上指摘して、有利に和解を進めるという戦略を取る原告が出かねないのである。
  また、原被告双方が負けそうになれば引当金計上をする訴訟*14では、お互いに相手が先に引当金計上を開示するよう手管を尽くす駆け引きが行われるかもしれない。相手が開示する、つまり相手にとって敗訴率50%超というのは、こっちにとっては敗訴率50%未満を意味するので、こちらは開示しないですむことになるだろう。
  こういう事態は、各企業の開示を傍目から見て楽しみたい人にとってはよいかもしれないが、企業にとってそれがいいのか、ひいてはこれらの企業に投資する投資家にとって本当に役に立つのかが問われなければならないだろう。少なくとも、濫訴的な原告に会計制度を悪用され、本当はしなくていい和解をして会社資金が流出する状況ステークホルダーの利益になるとは思えない。
 IFRS引当金要件によって起こり得るこのような事態が好ましくないとすれば、その原因は そもそも、訴訟が水ものなのを看過して50%を超えるかという難しい判断を弁護士に強いようとするところにある。これは単なる会計の問題ではないのであって、法律家も会計士と共同して、この点を是正する方向で働きかける必要があるだろう。

まとめ
 法曹界では、一部の先進的先生を除けばIFRSなんて自分には関係ないと考えている節がある。
 しかし、IFRS、特に引当金計上要件の変化は、法律家、特に弁護士が確認書を書く際に多大な影響を及ぼし得るし、場合によっては訴訟戦略を左右するかもしれない。
 会計関係者のみならず、法曹関係者も、IFRSの自己やクライアントに及ぼす影響を検討する必要があるのではないか。

*1:私の会計知識のなさから、詳細には言えません・・・

*2:あ、一億円が「重要」といえる会社であることが前提です。

*3:法定監査を受けない企業もやはり引当金は積む必要があるものの、政策的にそれでいいかはともかく、監査法人からの確認状が来ないので、弁護士実務ではあまり論点にはならないだろう。

*4:まあ、一概にそうとも言えない会社もあるのですが・・・

*5:まれに判決当日ビックリという事案もあるのですが・・・

*6:慣れていない先生が「敗訴リスクが高くないとは言い切れません」とか仰り出して大わらわってことも稀にはありそうですが・・・

*7:ことになりそう

*8:相手とがっぷり四つに組む訴訟では、有利さの程度を問わなければほぼ100%あるリスクではないか? 突然、担当者レベルの「覚書」「謝罪文」や、録音テープ等が出てくるのは頻繁にあると聞く。

*9:異動等で裁判官が変わった瞬間に、勝訴案件のはずが敗訴的和解を余儀なくされたという体験談はよく聞きます。

*10:最近は書面主義が進んでいるので余り聞きませんが、ガードを高く上げすぎた敵性証人を崩した等の成功談を時々聞きます。

*11:電話相談より面談による相談の方が保守的になり、面談による相談より意見書の方が保守的になるというのは、法務部員が肌で感じている感覚だろう。

*12:なお、見積ができるという部分でなんとか引当金計上を免れることができるかもしれませんが。

*13:そこまでやるかや、うまくいくのかは不明の、仮定&想像による議論ですが

*14:いろいろあると重いますが、パッと思いついたのは、システム開発紛争でベンダは「約束のもの作ったから代金払え」、ユーザは「未完成/瑕疵等があるから解除する、損害賠償払え」といった訴訟でどっちも上場企業の場合

第三者委員会の限界〜「山一証券法的責任判定委員会」の検討

命燃やして―山一監査責任を巡る10年の軌跡

命燃やして―山一監査責任を巡る10年の軌跡

1.第三者委員会の時代の到来
 一昔前までは、不祥事が起これば「隠す」というのが常道であり、「棺桶まで秘密を持って行く」社員が優秀な社員とされた。
 時代は変わった。特に上場企業では、ステイク・ホルダー全体のために、「膿」を出しきることが求められており、完全な調査をして自浄作用を見せるのが、「信頼回復」の王道とされている。
 このような調査を誰が担当するか。当初は、会社の内情を分かっており、調査や対策を会社の実情に即してできるということで内部者による調査が行わて来た。
 しかし、内部者の調査には、「トップ不正の場合にトップを批判するのに躊躇し、『トカゲの尻尾切り』が起こりやすいのではないか」「ステイク・ホルダーの利益ではなく会社経営者の利益を尊重するのではないか」という疑義が生じた。もちろんしっかりした内部調査が行われることもあるが、第三者が見た時の信頼感といった、「外観上の正統性」という観点からも外部調査が望ましいとなった。
 そこで第三者委員会による調査が盛んに行われるようになった。近時、日弁連企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインが公表され、金融庁等がガイドラインの使用を薦める近時の「デファクト・スタンダード」化している。


2.「Asahi Judiciary対談」と山一証券三者委員会
 このガイドラインを策定した久保利英明弁護士、國廣正弁護士、斉藤誠弁護士の三人の弁護士が Asahi Judiciaryで対談している。
第三者委ガイドラインを作った久保利、國廣、斉藤の3弁護士に聞く - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary
 内容は、「きちんと調査した結果上場廃止になり、会社が消滅する可能性がある場合でも第三者委員会は調査・公表すべきか(積極)」等、興味深いテーマ目白押しである。
 この中で、一つの段落が目に止まった。

 ■第三者委員会の歴史

 ――國廣さん、最近のご著書『それでも企業不祥事が起こる理由』にも書かれていますけど、山一証券の社内調査委員会に参加されて……。

 國廣氏:1997年11月に山一証券が破綻して、12月に社内調査委員会が設置され、そこに外部委員として私が入りました。4カ月間ほどかけて、ほとんど泊まりがけで報告書を書きました。山一は、ある意味つぶれた会社ですから「やめてくれ」という圧力が無かったんですね。前例もなかったので期待もされてなかった。そういう幸運がいくつか重なって、「どの会議でどのように粉飾(飛ばし)が決定されたのか」「その後、どいう手法で隠し続けたのか」、さらに、「大蔵省はそれにどう関与していたのか」「自主廃業決定の最後のところで、山一と大蔵省との間でどういうやりとりがあったのか」、そういうところを全部書いた。だから、みんなびっくり仰天した。

 それが、多分、わが国の調査委員会の第1号だったと思います。当時は「第三者委員会」という言葉も、「ステークホルダー」や「説明責任」という考え方も一般的ではありませんでしたが、この前、山一の調査報告書を見直していたら、第1ページ目に、「山一証券には今回の事件に関する事実を明らかにする義務がある。これは株主、顧客、取引先、職を失った全社員とその家族に対する義務であるとともに、本件の社会に与えた影響の重大さに鑑み、社会に対する義務である」と書いているんですね。これは、山一の役職員の「思い」を受けて自分で書いたものなんですが、当時から社長のためにではなく、ステークホルダーのために調査をするという意識があったんだなあ、と。

 山一の調査報告書というのは高く評価され、続いて「法的責任判定委員会」というのができました。今度は純粋な第三者のみの委員会です。私はこの法的責任判定委員会の委員にもなり、関係者の法的責任の有無を判断することになったわけです。ここで約10名の取締役と粉飾決算を長年にわたって見逃してきた監査法人を「責任あり」とし、「山一は提訴すべきだ」という調査報告書を出しましたが、これは握りつぶされました

 久保利氏:公表されなかった。

 國廣氏:されなかった。

 なぜかというと10人は多すぎると言うんです、残っていた経営陣が。要するに、先輩たちの責任を問うのは情において忍びないということです。監査法人を訴えるなんて正気の沙汰ではない」とも言われました。98年ころですから、監査法人を訴える前例などは無いと。

 久保利氏:今は当たり前だけど。

 國廣氏:私は一生懸命粘ったんですけど、結局そこで出てきたのは守秘義務、弁護士倫理、「カネを払ってるのはだれだ」。私は「いざとなったら自分一人で公表する」と言って騒いだんですけども、結局それはできなくて、結局それは公表されませんでした。

 久保利氏:逆にいうと、つぶれちゃったものの強みだね。生きていると「公表しなきゃ大変ですよ」と言われたらむしろ「公表してしまえ」と、「悪かったのはこいつらであって、大勢の従業員たちではない」というふうにむしろ言えるかもしれないけど、山一はつぶれちゃってるから、発表しないでもらった方が好都合な人たちって実はいたわけだ。

 國廣氏:いたわけです、法的責任の部分に関してはですね。もっとも、我々が報告書で「責任あり」と判定した人たちの一部に対しては、最終的には提訴したようですが、報告書自体は最後まで公表しませんでした。監査法人には最後まで訴訟を起こしませんでした。監査法人に訴訟を起こしたのは、破産管財人です

 第三者ガイドラインを作った久保利、國廣、斉藤の3弁護士に聞く - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)より   

これは一見、「昔は第三者委員会に理解がなく、せっかく第三者委員会が頑張って調査して提訴という解決策を提言したのに握り潰された」というエピソードのように見える。これだけを読めば、提訴しなかった会社は何をやっていたんだとなるだろう。
 しかし、本当にそうなのか!?

 注:以下は取締役の責任ではなく、監査法人の責任のみを検討する。監査法人と異なり、取締役側の言い分が分かる適切な資料がないからである。


3.「命燃やして」に見る監査法人の言い分
 興味深いことに、後に管財人らに責任追及された監査法人公認会計士である伊藤醇先生が、「命燃やして」という本を出されている。
 この中では裁判所が監査法人は責任がないと判断したという事実が明らかになる。7件、後に併合されて4件となった訴訟のうち、和解で終わった一件以外は全て監査法人の責任がないと判断したのである 。
 簡単に言うと、公認会計士は、粉飾を見逃しても自動的に責任を負うのではなく、「監査の失敗」つまり監査人としてすべきことをしない場合に責任を負う。監査には期間の制限や強制調査権がないこと等一定の限界があり、「監査の限界」で見逃しても法的責任は負わないのである


 伊藤先生の言い分によると、監査法人が提訴されるまで、監査法人が問題ありとしたのは「法的責任判定委員会」のみであるところ、法的責任判定委員会が杜撰な報告書を出したため、これに基づく訴訟が頻発したとのことである。そして、なぜ法的責任判定委員会の結論と裁判所の結論が異なったのかという理由について、伊藤先生は以下のように述べる。

誤った報告書を作成した原因は、山一事件の実態及び監査の内容を全く調査しなかったことに尽きる
(中略)
監査責任を判定する委員会でありながら、監査責任の有無を「監査の基準」に照らして法的に、公正に判断することなく、取引の実体、監査の内容さえ調査せず、只管、監査責任を監査法人に課そうとしたのである。
(中略)
判決によって監査の過失を掲げた報告内容がいずれも事実無根であることは、法廷においても明らかにされた。山一の「法的責任判定委員会」の「最終報告書」は、真実には程遠い前代未聞の報告書であり、社会に大きな汚点を遺したと言える
伊藤醇「命燃やして」62〜63頁


もし、伊藤先生が指摘されるような杜撰な報告書だったのなら、山一が、正気の沙汰でないといって監査法人を提訴しないのは正当であろう。報告書は残念ながら公開されず、本書にも要点が載るだけである。そこで、この点について明確な判断をする材料はない。
しかも、伊藤先生の本書の説明は「山一事件の本質を全て分かっている」ことを前提としており、バックグラウンド情報なしに読んでもよく分からないという問題もあった。
幸いにも、大阪地判平成17年2月24日(判時1931巻152頁)と大阪地判平成18年3月20日(判時1951号129頁)が公刊されていたので、その内容と併せ読むと、おおよそ以下のような実態が明らかになってきた。
山一は一般に信頼できるとされる信託銀行*1や国際的大手監査法人*2に虚偽内容の報告書等を出させており、監査法人はこれらの巧妙な隠蔽工作により求められる監査はしていたにも関わらず、粉飾決算を発見できなかったということのようである。


 平成18年判決を解説した弥永先生も「本件においては、A1(注:山一)が構築した粉飾のスキームが巧妙であり、Y(注:監査法人)にとっての監査期間及び監査資源を前提とする限り、飛ばし(注:粉飾の手口)を発見できなかったという結果から、Yが正当な注意を払わなかったと判断するのは適当でないということもできる*3」としている。

*4判例で 認定された 巧妙な隠蔽スキームのうち、「信託銀行」スキームの概要を説明したい。信託銀行に財産を預け、運用については山一が指示するという口座を山一は持っていた。こういう口座があること自体は問題がないが、期末に「口座残高国債◯円分」とあれば、実際に◯円分の国債が置いてないといけない。これが、関連会社への貸付け等で流出していれば、大きな問題であえる。
山一は信託銀行に国債を預かってもらった上で、期末には信託銀行に「現物の国債が確かに◯円分あります」と報告させていた。
監査法人は、信託銀行のお墨付きがあるのだからと、異常な取引ではないと判断した。
ところが、実際には、信託銀行の国債ペーパーカンパニーに貸し付けられ、これが「飛ばし」と言われる粉飾決算の原資になったようである。つまり、信託銀行の報告書は誤っていたのである。
ここで、法的責任判定委員会は、記録上、国債が「*5期中に貸し付等されていたことが伺われる」ので、法的責任判定委員会は、監査法人がきちんと疑って調べるべきとし、監査の失敗と主張したようである。
しかし、監査法人の言い分はこうだ。「国債を信託する場合、ずっと保管するだけではなく適宜期中に貸し付けて運用すること自体あり得ることである。問題は、期末に「ある」とされていた◯円分の国債が貸付け等の形で流出していないかということであり、この点は、信託銀行の報告書に従う限り、流出の疑いを持つことはできなかった。」
裁判所は、監査法人の言い分を認め、「信託銀行作成の運用状況報告書に殊更真実と異なる信託財産の運用状況が記載ああれるとは通常想定し難い*6として、監査法人の責任を否定した*7


4.第三者委員会の「限界」を検証すべき
 そもそも、 三者委員会には、強制的調査権はないのに、よく知らない会社について、短期間に真相を究明しないといけないという限界がある。第三者委員会の判断が正しいことはよくあると思うが、常に正しい訳ではない。監査と同じで、「第三者委員会の失敗」や「第三者委員会の限界」はあり得るのだ。
そして、三者委員会がもし誤って責任がない者を「有責」と判断してしまうと、その者は長期に渡って裁判の被告席に座らせられ、場合によっては人生を棒に振るような苦痛を味あわされる
 上記のように第三者委員会の判断と裁判所の判断が異なったことは、このような「第三者委員会の失敗」や「第三者委員会の限界」があったことを強く窺わせる*8
果たしてこれが、伊藤先生の言うとおり「第三者委員会の失敗」なのか、それとも「第三者委員会の限界」なのかについては、判断材料がほとんどないのでコメント不能であるものの、三者委員会隆盛の今だからこそ、山一証券法的責任判定委員会という「結果的に裁判所と違う判断となった」事案をもとに、「第三者委員会の検証」をすべきではないか

なお、「ビジネス法務の部屋」の山口先生が第三者委員会が対象会社に嫌われる理由について分析されている。
ビジネス法務の部屋: 企業不祥事発生時の「第三者委員会」はなぜ嫌われるのか?
信頼関係維持の難しさや、第三者委員会による不正認定の問題等、極めて興味深い。

まとめ
 第三者委員会は素晴らしいという印象が広がっている感がある。第三者委員会の「功」の存在自体は否定しないが、「罪」の面もクローズアップされてよいのでははいか。
そう、三者委員会の問題を検証する第三者委員会でも作ってはどうだろうか。

*1:判時には名前まで載っているが本エントリでは大人の事情で匿名にする

*2:判時には名前まで載っているが本エントリでは大人の事情で匿名にする

*3:ジュリスト1385号123頁

*4:以下は誤解がある可能性があります。間違いがあればぜひご教授下さい。

*5:期末ではなく

*6:大阪地判平成17年2月24日

*7:2/21に表現を若干改めた

*8:理論的には、「第三者委員会は正しく裁判所が誤っている」という可能性もあり得ると言えばあり得る

東証Project「東方粉飾劇」で学ぶ粉飾決算

最近の粉飾―その実態と発見法

最近の粉飾―その実態と発見法

注:残念ながら、東方粉飾劇はAmazon未発売のため、粉飾決算に関する標準的な研究書を代わりに表示させていただいている*1

1.東方粉飾劇で、粉飾決算を学ぼう!
 C79で絶大な人気を博し、 とらのあなで委託販売が開始されると、予約開始直後に予約分受付終了、通信販売開始後30分で売り切れ*2、追加販売されるも、即売り切れという伝説の同人誌がある。これが「東方粉飾劇〜粉飾決算を華麗にグレイズ*3!?〜」である。


注:2月6日第二版の発売が開始され、とらのあなで、特集されている。未入手の方は、ぜひこの機会を利用されることをお勧めする*4


注:2月20日発売のダイヤモンドZaiで著者の五月様が特集され、東方粉飾劇も取り上げられている。四面モニタの前のフィギュアの写真は壮観。ブログでも個別株分析がなされているが、五月様の投資メソッドをよりよく知るという意味でもお薦めである


注:3月1日、ついに東方粉飾劇が1000部を突破! 同人誌は初めてとのことであり、そのような第一作がここまで売れたのは「新たな伝説」といっても差し支えなかろう。本当に、おめでとうございます。


 東方粉飾劇とは、東証Projectというサークルが、コミックマーケット79用に刊行された同人誌である。ブログの方にサンプルが掲載されているので、未読の方はぜひご覧いただきたい
 サークル名からお察しの方も多いだろうが、東方×株という貴重なジャンルの本であり、従来「クソ株ランキング」シリーズが好評を得ていることから、著者を知る方も多いだろう。
 本書の内容は、シニアコミュニケーションズ、エフオーアイ、プロデュース、アイエックスアイ等の粉飾の仕組みと「兆候」を東方キャラ *5が解説し、個人投資家のための粉飾リスクヘッジの基礎をわかりやすく説明してくれるというものである。
題材となっている事案は粉飾決算の有名どころ」であり、一部の人はこの名前を聞いただけで読みたくなるだろう。魔理沙「またソフトウェアか*6の突っ込みに親近感を覚える人も多いのではないか。事例の採り方は秀逸である。
また、解説も、先生役の慧音がはまり役*7で、魔理沙霊夢との掛け合いを楽しみながら、分かりやすく粉飾の仕組みを理解できる。

例えば、

霊夢:例えば古くなったお賽銭箱を5万円で新しいのに買い換える時は、投資CFがマイナス5万円になる一方で、資産には5万円分の新しいお賽銭箱が計上されるの。

(中略)

魔理沙:ならそのお賽銭箱への投資はフリーキャッシュフローマイナスだぜ。新しくした程度でお賽銭が増えるわけでははいからな。

霊夢:分かってないわね。私のモチベーションが上がるからトータルではプラスなのよ。買ってすぐに効果が出るわけじゃないんだから、一時的にFCFがマイナスになるのは問題にならないわ。一定の期間で見て、ちゃんと投資が回収出来ているかどうかが大事なの。

魔理沙:モチベーションったって、掃除とお茶飲むぐらいしかしてないだろう。私が思うに、問題の本質はそこにはないな。今や大人気の山の巫女との戦力差、それは何だと思う?

霊夢:あんたね…慧音が居なかったらぶっ殺してたわ。それに私はウソが嫌いなの。どこぞのメイドじゃあるまいし、粉飾はしない主義なのよ。

慧音:私は小さくても構わんがな。なんせ妹紅が…おっと、いかんいかん。

東証Project「東方粉飾劇」14頁〜15頁

といった下り(注:キャッシュフロー分析手法の解説です)は、誰しも*8ニヤリとしてしまうだろう。
粉飾決算の事例分析や、見抜く方法については、いわゆる分析的手法*9の本等は既に多くの先行著作があり、良書もあるものの、ほとんどは「お固い」本であり、本書のような「楽しみながら入門できる本」は知る限り初めてである*10。最後の「まとめ」のページに六項目並べられたポイントは、会計の専門知識がなくとも、個人投資家が損失を回避するための実務ポイントとして、示唆に富む*11
この面白さは、東証の中の人も購入したほどであり、ある意味証券取引所が今注目している本」と言えるかもしれない。


2.東方粉飾劇が問いかけるもの
(1)監査法人が分析をしていない訳ではない

 ここで、一つの問題は、監査法人も、同じ*12分析をして『怪しい』と思った上で追加的監査手続等により、粉飾をしてないか確認を取った上で適正意見を出している」ということである*13
例えば、シニアコミュニケーションズでは、会社の調査報告書によれば、キャッシュフローの赤字垂れ流しや入金遅延は、会計士も怪しんでいたが、「特殊な理由で遅れている」と説明した上でシニアコミュニケーションズ社員が上司の命令で、取引先名義の説明文書を偽造して監査法人を説得したり、挙句の果てには、監査法人が取引先に、「貴社の認識する債務額はシニアコミュニケーションズの理解と同額ですか」と確認状を送ろうとポストに投函するのを待ち構えて、郵便局員に誤って投函したと偽って回収し、取引先の名前で「シニアコミュニケーションズのいうとおり」との確認状を作成して返送していたという*14
エフオーアイは、報道によれば、売掛金滞留等をリスク要因とみた監査法人が海外の取引先のところまで往査に行ったところ、エフオーアイ側が予め手配した通訳に嘘の説明をさせていたという*15
  これらの報道を見る限り、会計士は、「怪しいけれども合理的な説明がついており、適切な財務諸表である」という判断をしたものと思われる*16。分析的手法を取れば、特に新興市場等に「怪しい」ところがある会社は多いだろうが、それらの企業全てが粉飾しているとまでは思われない。その意味で、怪しいサインを出している会社の扱いは、一筋縄ではいかないだろう。


(2)投資家の当面の対応
 この点、個人投資家の当面の対応は、本書の紹介するような観点から、「粉飾リスクを的確に察知する」ということであろう。
  営業CFに影響がない程度の粉飾なら、普通の下方修正と影響はあまり変わらない*17といった本書の分析は、投資家として市場と関わって来た著者のノウハウが詰め込まれており、極めて有益だろう。
 監査法人が結果的に「合理的説明ができた」とは思っても、本当は虚偽の説明だったということはある*18。「分析の結果怪しい兆候の出ている企業」と「そうでない企業」の粉飾リスクの程度は違うだろう。それを理解しないまま、見た目の利益や割安感だけで購入すると、アク○ディアの下方修正で大損をした魔理沙のような目にあう訳である*19。ある意味、一見割安に見える株価は粉飾リスク分を織り込んだ価格に過ぎず、割安でもなんでもないかもしれないのである*20
 個人投資家の自衛という意味では、投資する前に最低でも本書で紹介されているような分析を行った上で、何か怪しいところがあれば、「粉飾リスクを最大限織り込んでもなお割安か」を考えて投資するということになるだろう*21


(3)上場制度のあり方を問いかける「東方粉飾劇」
 もう一つの問題は 市場全体としての対応 であろう。

慧音:近年の大型の粉飾劇が起こるたびに「審査の厳格化を行って市場の信頼回復に務める」と当局は繰り返して来た。ところが、ここにきて史上最悪の粉飾劇が起きてしまった。IPO数が急減する中で、1つ1つの案件に対する目は厳しくなっていたはずなのにだ。これはもう制度の限界と言うしかないだろう

東証Project「東方粉飾劇」46頁

 このような慧音の指摘に対し、どのような対応を取るべきか。


 一つの考え方は、粉飾リスクがある企業*22一切取引所から排除するという考えである。少くとも現行の証券取引所はそうはなっていない。


東証の斎藤社長の記者会見で、いわば上場申請をする会社に対し性善説で審査をしているとの発言が話題になった。

普通は引受主幹事会社というのは、上場企業と長い時は10年くらい付き合っていて、そに幹事証券会社が推薦してくるのですから、我々としては善意で受けなければなりません
http://www.tse.or.jp/about/press/b7gje60000004kwx-att/100518.pdf


この、 性善説」 の趣旨は、多分「証券会社が良いといえばそれを証券取引所無批判に受け入れて上場させる」という意味ではないだろう。「悪意をもって投資家を欺こうとして最初から粉飾して上場しようとする申請会社はほとんどいないから、『そういうつもりはないけど、結果的に投資家の誤解を招く』パターンを排除するために審査を行う」ということだろう。
 実際、投資家を騙すつもりはない会社でも、「次年度以降の業績予測が楽観的過ぎたため、上場後予算を達成できず、下方修正を繰り返し、株価も下がり続ける」とか、「貸倒引当金を十分に積んでいないため、取引先の倒産により、連鎖倒産する」といった場合があり、そのような悪意を持っていないが結果的に投資家に誤解を招いて損をさせるというパターンへの審査は、特に近時は厳しくなっているとも聞く*23。このように証券取引所は「性善説審査」の範囲で取引所なりに頑張ろうとしているとも言える*24。もっとも、結果的に粉飾企業による上場を防げなかったという結果は残る。


 このような意味での「性善説審査」を改め、「性悪説」審査を行い、 粉飾リスクある会社は上場させない 、少くとも一般投資家が取引できない東証AIMのような市場に限定するというのは、一つの政策だろう。
 しかし、例えば優良企業でも、高成長のために「営業CFの赤字」が起こるということはあり得る*25。そこで、このような性悪説審査をした場合に、 「高成長期が終わった企業」にしか個人投資家が投資できなくなるのではないか、いや、そもそも新興市場が市場として成立するのか といった問題を検討する必要があるだろう。

 性善説審査を前提に、 リスク情報開示のあり方を工夫 することで対応するという方法はも一つの方法であるが、 具体的にどのようにリスクを開示すべきかという難しい問題は残る 

 このような市場のあり方を巡る議論には 「正解」はないが、本書が取り上げたような粉飾決算事件を*26可及的に減らすためには、「よりよい市場のあり方」への議論が続けられるべき だろう。
 本書は、このような上場制度のあり方を問いかけている。

まとめ
 本書は、 個人投資家のためのリスクヘッジのための財務諸表の見方のポイントを、東方キャラで分かりやすく解説する、秀逸な入門書 である。
 また、市場のあり方を考えさせる良書であり、個人投資家のみならず、 市場関係者必読 と言えよう。そのためにも、再販又は電子書籍化を強くお願いしたいところである。

*1:いわゆるイメージ映像

*2:個人的には幸運にも、最初の30分でなんとか購入することができた。

*3:あまり本論と関係ないが、「グレイズ」である。単なる回避ではなく、グレイズということは、粉飾銘柄を適時に空売して利益を上げるといったことを意味するのではなかろうか、それとも単なる深読みのし過ぎか?

*4:なお、当方は、東証Project様の1ファンであり、何ら宣伝の委託等を受けている訳ではなく、自発的に「布教」しているに過ぎない事を改めて確認させていただく

*5:霧雨魔理沙博麗霊夢上白沢慧音

*6:本書23頁等

*7:過去の粉飾事例を解説するんですから、そりゃぁはまり役でないはずがない

*8:「一定の人なら」誰しも

*9:本書で紹介される売掛金滞留期間、回収率、CF分析、従業員一人当たり売上高等もその方法の一つである。まあ、半期報告書提出遅延は分析的手法ではないものの、分析的手法で怪しいとおもった監査法人と何かもめてるらしいという意味では似たものだろう。

*10:いや、「合理的に知り得る限り初めて」くらい言ってもいいだろう

*11:本書49頁

*12:いや、通常は本書が取り上げている手法よりより詳細かつ精緻なはずであろう。

*13:なお、プロデュースは除く。その理由は本書38頁参照

*14:http://www.senior-com.co.jp/~system/ir2/up/fde929b1a185ee496295d83102cbbaa5.pdf

*15:http://ameblo.jp/critical-accounting/entry-10654789872.html

*16:結果的に見れば粉飾を「見逃した」訳で、会計士が「合理的説明がついた」と判断するに至る過程の十分性・適切性という問題はもちろん残るが、この点についてコメントするだけの事実関係は不明である

*17:本書18頁

*18:粉飾をしていなくとも、業績見積の甘さ等、他のリスクを内包している可能性がも、怪しい兆候がない企業よりも高いだろう

*19:本書4頁参照

*20:本書30頁が紹介するゼ○テックテクノロジージャパンのような面白い銘柄もたまにはあるが。

*21:実際は粉飾リスクを最大限織り込んだ株価の算定には困難がつきまとうのであって、プロでも間違うこともあることには留意が必要である。本書17頁も、日本には3700弱の上場企業があり、有望な投資先なら他にもあると指摘している。

*22:上記のように、一応は公認会計士が怪しいと思った上で監査対応の中で合理的説明がついたと判断した企業に考察対象を絞ってよいだろう。プロデュースのような会計士ぐるみがあると、もうどうしようもない。

*23:例えば「既に上場している同業他社で株価の大幅下落ががあると、申請会社でも同じことが起こることを恐れて上場を延期され、なかなか上場させてもらえない」等

*24:「過剰反応」との声も聞くが

*25:この点は本書でも言及されている。もちろん、本書もいう通り高成長とはいえ何期もCF赤字が連続するのは怪しいが、じゃあ「何期連続したら市場から排除するか」のメルクマールは難しい

*26:ゼロにはできないにせよ

資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)により、資産取得時に資産除去債務の割引現在価値を当該資産の帳簿価額に含めて計上する

Q&A資産除去債務の実務ガイド

Q&A資産除去債務の実務ガイド

公認会計士をやっている先輩が離婚したということで、一緒に飲むことになった。


「いやぁ、調停や裁判をするというだけでも大変なのに、挙句の果てには財産分与だの養育費だのだからねぇ…」
「先輩、本当にお疲れ様でした。」
「今になって、妻の価値が分かったよ。妻の価値が無限大だってことに気付いたよ。」
「えっと、先輩、それは別れた奥様とよりを戻したいということですか?」
「そうじゃなくて、結婚した時に資産除去債務の計上を忘れていたんだよ。結婚時にこのことに気付いていれば…」

まとめ(?)
会計基準って、どうしてこんなに目まぐるしく変わる上にわかりにくいんでしょうかね…