はじるすと刑法
- 出版社/メーカー: ゼロ
- 発売日: 2005/10/07
- メディア: DVD-ROM
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1.はじめに
はじるすは東大生のお兄ちゃん*1と双子の姉妹があんなことやこんなことをするゲームである*2。
さて、刑法177条を引用しよう。
第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
そう、相手が13歳未満であれば、合意の上でことに及んでも強姦罪なのである。
ここで、はじるすの登場人物はどう見ても13歳未満である。そこで、「お兄ちゃん」は「客観的には」強姦罪を犯した犯罪者である。
2.はじるす主人公に故意があるか?
とはいえ、はじるすのオープニングで
この作品はフィクションなの。
でね、登場する人名、団体名、地名、職業などは、
ぜーんぶぅ架空のものだよ〜。
だからね、おにいちゃん、実際のものとは関係ないの。
んとねぇ、んとねぇ、作品中に出てくる人物は、
みぃんな18歳以上だよ。
引用元:「はじめてのおるすばん」ZERO
と言っている。ということは、主人公は相手が13歳以上だと誤信している可能性が高い。
なんとか、主人公を救えないか。
ここで、条文を読んでみよう。「13歳以上」だと暴行脅迫が必要、「13歳未満」だと暴行脅迫がなくとも強姦罪成立と書いている。
そこで、1文の「13歳以上の場合の罪」が成立するためには、犯人は「相手が13歳以上だと認識」しなければならず、また2文の「13歳未満の場合の罪」が成立するためには、犯人が「相手が13歳未満だと認識」しなければならないと解するのが自然である(両者ともに構成要件要素と思える)*3。このことを「13歳未満であるという認識が故意の対象」だという。つまり、「13歳未満」だと認識がなければ故意が欠けて無罪になるのだ。
このように素直に条文を読んだ場合の主人公の罪責について考える。この場合「13歳未満」だと思ってことに及ぶという「13歳未満の認識」が必要であり、それがなければ故意が欠ける(即ち、「13歳未満が構成要件で、故意の認識の対象となる」)。そこで、あの姉妹が13歳未満であっても、主人公は「んとねぇ、んとねぇ、作品中に出てくる人物は、みぃんな18歳以上だよ。」という言葉を信じているかぎりにおいて無罪なのである。
さて、こう考えると、はじるすの主人公は救済される。
3.「悪夢」の鬼畜強姦魔の故意が阻却される?
しかし、これでは、おかしな結論になる事例がある。
はじるす以前のZeroは、その姉妹ブランドスタジオメビウス*4と共に、鬼畜作品を作っていた(らしい)。例えば、「悪夢」という作品がある。
タイトルは「悪夢」。
主人公は、病気で余命いくばくもない財閥総帥・紳一様。
妖怪ジジイ・筋肉バカ・常に日本刀を携帯した美青年の変態3人衆を部下に従えています。この4人が、修学旅行中の女子高生20人をバスごと誘拐して監禁。自分が病死する前に全員の処女を破ることが目的のゲームでした。
高校生にしては童顔幼児体型でぬいぐるみがお友だちだったりする幼女が多数存在。そのロリキャラたちが痛がって泣き叫ぶ描写が一部ファンに喜ばれました。
引用元:http://tiyu.to/permalink.cgi?file=n0108&label=13_08_03(バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳様)
この場合、業界規制で、実年齢に関係なく18歳以上といわなければならない以上、「童顔幼児体型でぬいぐるみがお友だちだったりする幼女」が13歳未満だということは十分ありうる。
そして、上のように、条文に素直に「13歳以上」「13歳未満」の認識を犯罪成立のため(故意を認めるため)に必要だとすると、
この場合、13歳未満の幼女を13歳以上だと思って強姦した鬼畜主人公が無罪になりかねない
のである。
条文に素直に考え、暴行脅迫をもって女性を姦淫した場合の帰結まとめた表を引用する。
現実 故意 176・177条成立の可否
13歳以上 13歳以上 1文が成立
13歳以上 13歳未満 故意なく不成立
13歳未満 13歳以上 故意なく不成立
13歳未満 13歳未満 176(177)条全体が成立?
引用元:http://d.hatena.ne.jp/masujirou/20051111#p2
つまり、「暴行・脅迫をもって13歳以上を強姦する」という内心で「暴行・脅迫をもって13歳未満を強姦」している「悪夢」の鬼畜主人公は、「13歳未満」の認識がないので第2文(13歳未満を犯せば強姦罪)も成立しなければ、客観的に13歳未満なので第1文(13歳以上を犯せば強姦罪)も成立しないのである!!! 無罪放免なのである!
4.「みせかけの構成要件要素」
しかし、この結論は明らかにおかしいだろう。そもそもなんで、177条の2文ができたかといえば、「13歳未満の場合は暴行脅迫がなくても処罰する」ためである。つまり、暴行脅迫を用いた場合は年齢に関係なく処罰するが、13歳未満の場合には処罰を拡張するというのが立法者の意思である。
こう考えれば、故意の成立を認めるのに要求される認識は「13歳未満」だけであり、「13歳以上」だということは故意の認識対象としての意義はないことになる(専門用語でいうと「みせかけの構成要件要素」)。
そこで、実際に、暴行・脅迫を加えて女性を姦淫した場合の処理は以下の表のようになる。
現実 故意 176・177条成立の可否
13歳以上 13歳以上 1文が成立
13歳以上 13歳未満 1文が成立
13歳未満 13歳以上 2文が成立
13歳未満 13歳未満 2文が成立
引用元:http://d.hatena.ne.jp/masujirou/20051111#p2
その結果、「13歳未満の幼女」を「13歳以上と誤信」して、暴行脅迫を加えて強姦した鬼畜は強姦罪で処罰されることになるのである*5。
まとめ
刑法学者は、理論だけを追い求めて、結論の妥当性を考えないというが、理論的整合性の取れる範囲では、結論の妥当性も考えている。
条文では「13歳以上」とあるのに、立法者意思を汲んで「これは故意とは関係ないんだ!」ということで、妥当な結論を導いているのである。
追記:id:masujirou様、こういうネタに使ってしまって申し訳ございません。「みせかけの構成要件」のエントリを読んで真っ先に思いついたのが「はじるす」でしたので...。憑かれています...
*1:http://www4.ocn.ne.jp/~temp/todai.html参照。id:kagami様は天才です。
*2:http://www32.ocn.ne.jp/~efa/game/rusu_1.htm辺りが詳しい
*3:例えば刑法199条は「人を殺したもの」とあるので、「相手が猿だ!」と思って人を殺せば殺人罪にはならない
*4:この世界には疎いので、誰か教えて下さい。