- 作者: 今野緒雪,ひびき玲音
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/03/29
- メディア: 文庫
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レイニー止めという言葉がある。
コバルト文庫の人気シリーズ『マリア様がみてる』の刊行中、『レイニーブルー』の巻において、祐巳と祥子との間がこじれたまま、鬱極まりない状態で次の巻へと話が持ち越された。その間、祥子と祐巳の仲を心配する多くの純真なマリみて読者たちは、苦痛と煩悶のさなかで長い間苦しむこととなった。
引用元:民明書房『男の子でも楽しめるドキドキ百合世界』
http://www.ne.jp/asahi/yu-show/sukisuki/200409a.htm#20040912
この結果、マリみてファン達は、カタルシスを求め、次の「パラソルをさして」を待ち焦がれた訳である。
まあ、「パラソルをさして」で、読者は幸せになれるので、問題はなさそうに見える。しかし、レイニー止めにより、読者はどうしても「パラソルをさして」を買わざるをえない状況になっているとも言える。こういう方法は法的に問題がないのだろうか。
2.君望商法
- 出版社/メーカー: セガ
- 発売日: 2002/09/26
- メディア: Video Game
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ちょっと長いが、この「レイニー止め」手法の絶大なる効果を実感していただくため、フロンツ様(http://www6.ocn.ne.jp/~fronts/*1の作者の方)の体験版レビューの最後の部分を引用させていただきます。
(主人公は)待ち合わせ場所に向かいます。
今日のところは絵本で許してもらおうと思う孝之。
しかし、辿り着いた待ち合わせ場所の駅前には人だかりが出来ています。
野次馬が言うには、たった今、車が突っ込み人が轢かれたらしい、とのこと。
孝之は遙が被害に遭ったのではあるまいかと現場を見に行くのですが、
タッチの差で救急車のドアが閉まり、確認できません。そのうち野次馬がハケて警察がやってきます。
孝之は遙を探すが見つからない。
一心不乱な孝之の耳に、無機質で事務的な警察官の無線連絡が聞こえてきます。
「被害者氏名、涼宮遙。涼しいに宮、遙か彼方の遙、はい・・・」
―――体験版はここまでです。
ええええええええええええ
え!!!!!??嘘やん!!続きは!!?遙どないなってん!!!オイ!!!!!
イヤアアアアアアアア!!!!!―――僕、放心状態。
頭ん中まっしろです。
なーんにも手につきません。
フラフラと外へ出て行き、煙草をふかしながら
「なんでやねん・・・どうなんねん・・・・・・・」と
呟きながら何処ともなく徘徊します。
人が見たら通報されても文句は言えない状態でしたが、
プレイ開始より6時間。時刻は夜中の2時です。人なんかいません。とぼとぼと家に帰り、冷たいを通り越してカチカチになったチーズかつを温めます。
思えば朝食と昼食を兼用で摂ったため、16時間何も食べていません。
が、一口食べただけで箸を置きました。別のもので胸がいっぱいです。
次の日の朝、公式HPで通販を申し込むべく速達用の封筒を買いに行ったのは
人として当たり前の行為だったと僕は思います。思うの!
引用元:http://www6.ocn.ne.jp/~fronts/kiminozotaiken.html
このような、「途中で衝撃的な結末を生じさせ、そこで尻切れトンボにすることで、次作、ないし本編を買わせようとする広告手法」は、法的にいかに規制されるのか。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
このような規定を置く。要するに、契約締結に至るまでの事業者の行為により消費者が「困惑」した場合には、消費者は契約を取消せるというものである。
この困惑については、このような指摘がなされる。
(困惑による取消という考え方は)誠実交渉義務の考え方によるものであると言える。(中略)
消費者の交渉力を損なう積極的な行為があったが強迫には至らないというもの(が「困惑」概念の内容として判例等から抽出される)
大村敦志「消費者法」p113有斐閣
民法においては96条1項で「強迫」により契約等をした場合には、取消得るということが定められている。しかし、「強迫」は相手に畏怖を生じさせる行為とされており、非常に強い行為しか強迫にならない。しかし、そこまでいかなくとも、消費者が事業者と対等な当事者として「あるものを買うべきか」を考え、それにより「買うか買わないかを合理的に決定する」、こういう意思決定のプロセスを損なう行為が事業者側によりなされた場合には、消費者を保護する必要があるだろう。
そこで、このような消費者の交渉力を損なう行為により契約が結ばれた場合に、消費者がこの契約を取消せるとしたのが、4条3項である。
この趣旨から考えれば、レイニー止め手法において確かに事業者は「住居から出ていかない(1号)」や「勧誘場所から立ち去らせない(2号)」訳ではない。しかし、上述のフロンツ様のレビューを見ればわかる通り、「レイニー止め手法により、完全に消費者の交渉力は損なわれ、「買いに行ったの」が「人として当たり前の行為」となってしまっている!」
そこで、4条3項2号を拡張解釈ないし類推解釈をすべきである。レイニー止めにより消費者は「目的物のことが頭から離れないので、どうしても物を買ってしまう」のだが、これは「勧誘場所から消費者を立ち去らせないので、どうしても物を買ってしまう(2号)」というのと似ている。よって、レイニー止めのような、「途中で衝撃的な結末を生じさせ、そこで尻切れトンボにすることで、次作、ないし本編を買わせようとする広告手法」は、4条3項2号(類推)により、消費者はそのような手法で締結した売買契約は取消せると解すべきである。