- 作者: 土田伸也
- 出版社/メーカー: 八千代出版
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 単行本
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この本は、もう一度やり直す人のために最適の行政法の教科書である。
1.概論
この本のそもそものコンセプトは「風営法」、いわゆるパチンコ、ラブホ、「フーゾク」等の具体例を通じて、行政法を理解するというもの。
このコンセプトから、学生&先生の会話で、各テーマの具体例(大体風営法関連)について考える視点を出す→講義ノートという形で、比較的分かりやすく、各テーマについて述べる→事例の検討という形で、対話部分で出した事例について検討するという構成になっている。
堅苦しさをできるだけ排し、下世話だけれども、身近な例である風営法を使って、行政法の重要テーマについて理解をさせるという発想はうまいと思う(登場人物の大学生であるマコトが風俗営業でバイトしてるという辺りは、学則に反しないのかといった突っ込みが入れられる*1ところであるが)。
2.よいところ
たったの300ページ、28テーマで、行政法総論、行政救済法、行政組織法の一部まで取り込んで解説しているのは見事。しかも、具体例&図表が豊富で、重要なところはフローチャートがついている。
出版当時においては、斬新な議論である、三面的利害調整モデル、政策法務、サイバースペース等の規制についても解説している。
3.気になるところ
気になるのは、分かりやすく書いているといいながら、旧来の通説に対し、反対をしている点。大体、新しい説を理解するには、旧来の通説をまず理解し、その上で、その問題点を理解する必要があるから、かなり頭を使わなければならない。しかし、「行政法総論で、行政行為の公定力を論じる意味がない」等、新しい考え方を大分提唱している。内容としては、もっともであることは間違いないが、行政法を知らない人が、これを読んですんなり分かるかというとちょっと疑問である。
また、法律による行政等のところで出てくる「近代法」の観念についても、知っている人はすぐに理解できるだろうが、わからない人にとっては、なかなかつかみづらいのではないか。
なお、あんまり本質的ではないでが、最初は風俗産業規制に反対だったマコトが途中*2でモーテル*3規制に賛成に変わっているのは、ちょっと唐突かなと思った。
4.対象者
私は、大学の授業で「行政法という名の社会福祉法」を勉強したことがあった。行政法の知識が0のところで、生活保護法、健康保険法等の我々にとって身近ではない社会福祉法の具体例を挙げられてしまい、全然ピンと来なかった。
この点、風営法は、比較的身近な例であるから、比較的分かりやすいとは思う。ただ、「気になるところ」で書いたように、0から始めるには少し敷居が高い気がする。
この本は、わかりやすさと新しい考えの提示という2つを両立しようとした意欲作である。
ただ、この2つの目的が「ハイブリッド」されて、よりよい効果を生む読者層は、あくまでも、「1度行政法の講義を受けたり、本を読んで学んだことがあるけど、挫折した」といった層であろう。
まとめ
「ハイブリッド行政法」は、一度行政法に挫折した人が、再度始めるのに最適な「わかりやすく」「斬新な」行政法再入門書である。
*1:適当にググってみつけたのではhttp://www.nwjc.ac.jp/service/students/handbook/kokoroe/index04.htmlとか。
*2:初版p231
*3:時代を感じさせる言葉ですが。