アホヲタ元法学部生の日常

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環境法ガール9 ライバル出現!ティータイムの大騒動その2 〜平成22年第1問設問2

考えながら学ぶ環境法

考えながら学ぶ環境法


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.フリーライダー対策
「設問2は、こういう問題ね。」ほむら先生が設問2を示す。

〔設問2〕
デパートを経営するA法人は,自ら販売する商品について用いる包装(容器包装リサイクル法第2条第3項の「特定包装」に当たる。)に関して,循環的利用について何らの対応も採っていない。

(1) この場合において,主務大臣は,どのような措置を講ずることができるか。
(2) A法人は,自らが容器包装リサイクル法第2条第13項,同条第11項第4号に該当するなどと主張して,循環的利用について何らの対応も採る必要がないと考えている。この場合,A 法人は,主務大臣との関係で,どのような訴訟を提起することができるか。


「この問題も、条文から考えればいいんですか?」すぐに対応するさくらちゃん。


容器包装リサイクル法2条13項 この法律において「特定包装利用事業者」とは、その事業において、その販売する商品について、特定包装を用いる事業者(略)をいう。


「そうだね、販売商品に特定包装を利用しているから、A法人は、容器包装リサイクル法2条11項により、特定包装利用業者になるね。」



「そうると、容器包装リサイクル法13条による再商品化義務が生じる、こういうことでしょうか。」



「さくらちゃんは、センスがいいわね。そこで、A社の義務違反に対し、主務大臣としてどうやって対応するかの問題になるわね。」


「条文は、えっと…」パラパラと条文をめくる「ありました。19条と20条ですね!」

(指導及び助言)
第十九条  主務大臣は、特定事業者に対し、第十一条から第十三条までに規定する再商品化義務量の再商品化の実施を確保するため必要があると認めるときは、当該再商品化の実施に関し必要な指導及び助言をすることができる。
(勧告及び命令)
第二十条  主務大臣は、正当な理由がなくて前条に規定する再商品化をしない特定事業者があるときは、当該特定事業者に対し、当該再商品化をすべき旨の勧告をすることができる。
2  主務大臣は、前項に規定する勧告を受けた特定事業者がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3  主務大臣は、第一項に規定する勧告を受けた特定事業者が、前項の規定によりその勧告に従わなかった旨を公表された後において、なお、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該特定事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。


「19条で指導助言を定め、20条で勧告、その違反に対する制裁としての公表と措置命令という制度があります。ただ、これだけではありません。命令違反に対しては刑罰(46条)が用意されています*1。条文とは、日頃から仲良くしておいて、細部までよく理解することが大事です。」


「うふふ、それは、環境法の勉強だけでなく、恋愛にも適用されそうね。二人とも、頑張ってね。」意味深なことをつぶやくほむら先生。



「そうすると、命令違反があれば、主務大臣は刑罰を科せるってことですか?」



行政限りで科せるのは、例えば地方公共団体についての過料だね(地方自治法255条の3、231条の3第3項)。でも、46条は罰金だから、裁判所が科すことになる。そして起訴できるのは検察官だけだから(刑事訴訟法247条)、主務大臣は公務員として告発する(刑事訴訟法239条)ということになるよ*2。」



「実は、罰金を村長が科せるという条例があって、問題になったことがあるわ。この辺りは、『行政なのに法律を知らないなんて』と笑うのではなくて、これからのロースクール卒業生の活躍の余地が地方自治法にたくさんあると前向きに考えるのがいいと思うわ。」

多良間村ヤシガニ(マクガン)保護条例第4条 この条例に違反した者に対して、村長は、10万円以下の罰金を科すことができる。

2.業者側の対抗方法
「次は、業者側の対抗方法ね、ここは、さっき話した処分性とかの問題がかかわってくるわね。」



主務大臣が不利益な行為をするのに対し、A法人としてこの処分性を主張して、取消訴訟を起こす訳ですか?」さくらちゃんが、ちょこんと首を傾げる。


「環境法だけではなくて、法律問題全般に言えることだけど、きちんと時系列を考えるといいと思うよ。主務大臣が指導・助言(19条)をしたらどうするのか、そして、勧告が命令の前に必要(20条3項)だから、勧告とその旨の公表がされ(20条1項、2項)たらどうするか、そして最後に、措置をとるよう命令がされたら(20条3項)どうするかという思考かな。」ちょっとかなめさんの視線が痛い気がするのは気のせいだろうか。


「まず、指導・助言は行政指導(行政手続法2条6号)と思われますが*3医療法に関する行政指導に処分性を認めた最高裁判例最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁)があるので、取消訴訟を起こせます。」


「う〜んとね、さくらちゃん、判例には『射程』というのがあるから、どの範囲の事案までその判例の判示した事項が適用されるか考えないといけないよ。」


「医療法の事案は、病院開設中止勧告(医療法30条の7)は行政指導ではあるものの、相当程度の確実さを持って保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすという結果が生じることを重視しています。」声がどことなしか低いかなめさん。


保険医療機関の指定って?」さくらちゃんが混乱している。


「さくらちゃんが病院に行く時、お金は3割しか払わないでしょ。残りは保険が払ってくれる。でも、そういう保険が適用されるのは、保険医療機関に指定された医療機関だけ。保険が適用されない医療機関なんかに、誰も行きたくないから、病院開設中止勧告がされれば、通常は病院開設を断念しないといけないことになる。」


「そういう、事実上、病院開設を断念させる効果があるから、中止勧告自体に処分性が認められているけれども、容器包装リサイクル法19条の指導助言にはそのような効果はないから、医療法の判例は本件には適用されない、こういうことですね!」さくらちゃんは飲み込みがはやい。


「まあ、行訴法改正で、当事者訴訟、特に確認訴訟の活用が提案されているから、行政指導自体に対する違法確認もあり得ないではないけど、問題は、確認の利益のところね。行政指導自体は、任意の手段に過ぎず違法の確認を求めることなく指導を拒否できるから、訴えの利益が否定されるという考えの方が有力そうね*4。」ほむら先生が補足する。


「そうすると、19条の行政指導の段階では何もできない、ということですか?」


「勧告がまだなされていない段階でも、確認の利益があれば、再商品化義務がないことの確認訴訟を当事者訴訟として提起することができます。民事についての基準である判決をもって法律関係等の存否を確定することが、その法律関係等に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要、適切である場合最判平成16年12月24日判タ1176号139頁)を基礎に*5、確認訴訟の予防的機能*6行政訴訟の特性を踏まえて判断していくべきです*7。すると、行政指導の存在が、その後の勧告等の行政過程の展開を不透明ながらにも示唆しており*8、この確認により紛争が解決できることから、確認の利益を認めて良いと解します*9。」端的に確認の利益も含めて指摘するかなめさん。



「再商品化義務がないことの確認訴訟については、かなめさんの説明で概ね足りるけれど、上級の論点としては、差止訴訟との役割分担があるかもしれないわね。現実に勧告すらされていない段階でも、命令に対する差し止め訴訟が可能(北村537頁)とされているので、そのこととの関係で、差し止め訴訟に必要な重大な損害を生じるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために他に適当な方法がないこと(行政事件訴訟法37条の4第1項)の要件を確認訴訟でも求めるべきかについて下級審が割れているわ*10。」ほむら先生が捕捉する。


「20条の勧告・公表の処分性は微妙なところだね。制裁としての公表に対し、取消訴訟を提起することが認められると解することは可能*11とも言われているから、公表の差止訴訟と公表の仮差止めの申立て*12も考えられるし、勧告自体の処分性を肯定する見解もあり得る*13けど、東京地判平成20年3月14日は、勧告と公表が定められていた法制度につき、勧告の処分性を否定した上で、公表そのものの違法性を主張して、公表されない地位にあることの確認を求める提起することが直接的かつ有効な解決方法だとするので*14、この考えを採れば、公表されない地位にあることの確認訴訟、そしてその仮の地位を定める仮処分申立て(民事保全法23条2項)をしていくことになる感じかな*15。」


「この『どちらも考えられる』というのは、例の、説得力勝負という話なんですかね。」さくらちゃんが質問する。


「そうよ。じゃあ、さくらさんには、まず、勧告の処分性肯定説だったら、どうやって議論をするか、やっていただこうかしら。」ほむら先生も介入する。


「まず、医療法判決を、相当程度の確実さをもって後続の行政処分がなされ、後続行政処分の不利益が深刻な場合には、先行する『行政指導』に処分性を認めるとした上で、勧告が公表及び命令の前提となっているという法的仕組みを強調し、公表・命令による深刻な不利益を指摘して医療法判決の枠組みにより勧告の処分性が認められると論じます。」


「この枠組みの場合、より説得力を高めるためには、公表自体に処分性があるというか、公表に留まらず命令まで相当程度の確実さをもってなされる*16と言うことが必要になりそうね。じゃあ、公表に処分性を認める見解はどうかしら?」


「えっと、公表の影響、特にデパートのような客商売の企業のレピュテーションに対する影響の大きさからは、公表に処分性が認められるべきだ、とかでしょうか。」


「確かにそれも1つの見解ね。ただ、説得力を上げるには、制裁的公表に侵害的要素があるというに留まらず、どうしてそこから、直接的法効果性まで認められるかの論証が必要になりそうだわ。」ほむら先生の鋭い指摘。


「最後の処分性否定説は、私がやります。結局、勧告・公表の段階では、行政指導とその公表に過ぎず、少なくとも『直接』法的効果を発生させる訳ではありません、また、わざわざ処分性を肯定して、出訴期間制限や取消訴訟の排他的管轄にかからせる必要もありません。」かなめさんも参加する。


「結局、3つの議論どれでも処分性を『その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの』(最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁)という基本の理解を前提に説得性を持って議論をしているから点がつくってことかな。ただ、テストでいうとより高得点、実務で言うとより裁判官に認められやすい議論にするためには、ほむら先生が指摘したような点への配慮も必要になってくるね。」


「なるほど、基本と応用の関係が少し分かってきました。基本の部分については正解があるから、そこを無視して議論をすると間違いだけれど、基本さえしっかりできていれば、後は『正解は1つじゃない』んですね。」頬を桜色に上気させるさくらちゃん。


「最後の命令に対しては、処分性があるので、差止訴訟・取消訴訟(と執行停止)ということになります。」かなめさんがまとめる。


「この問題では、訴訟だけを検討するように言っているけど、実務的には、措置命令は不利益処分として弁明付与の機会がある(行政手続法13条)から、これを行使することも考えられるわね。」


行政法の授業で行政行為の定義とかを勉強しても、ピンとこなかったのですが、環境法を始めとする個別の行政法がどういう風に実施されていくのか、そして、その中でどうやって行政の違法行為を争って行くのかということを想像すると、具体的に分かって来た気がします。」


「そうよ、行政法については、総論と救済法、あっても組織法だけという大学が多いけど、行政法各論』を学んで、その中で、総論や救済法の議論と具体的な各論を結びつけて行くのが勉強方法としては優れているわ。環境法は司法試験科目なこともあって、いい本が最近たくさん出ているし、行政法各論としては一番手頃だから、ぜひ、勉強してみてね!」にこやかに笑うほむら先生は、どこか余裕の表情を浮かべていた。

まとめ
 ということで、一応主要登場人物は全員登場しました。それでは、環境法ガール中盤をお楽しみに!

注:
1月7日 一部、処分性周りの記述を補充させて頂きました。ありがとうございます。

*1:平成18年改正で罰金が強化されている

*2:なお、告発は行政指導の失敗を自白するようなもので、行政の選択肢にはない(北村200頁)という実務に関する指摘にも注意

*3:なお、個別判断が必要で、法律の規定はその仕組みに即して理解しなければならないとするものとして塩野I5版200頁

*4:なお、行政法解釈学II317頁参照

*5:行政法解釈学II317頁

*6:塩野II5版264〜265頁

*7:宇賀行政法385頁

*8:塩野II264頁参照

*9:以上につき北村537頁

*10:宇賀II370頁

*11:宇賀I262頁

*12:公表されてしまえば取消訴訟だが、この段階での取消訴訟の意義に疑問があるとするものとして宇賀I262頁参照

*13:この場合、勧告の処分取消訴訟と公表の執行停止申立てをすることになる

*14:行政法解釈学II123頁

*15:北村537頁

*16:例えば、勧告書に「この勧告に従わないと命令を出す」と書いているといった場合が考えられる。