アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境法ガール17 さくらちゃんとの地元デート〜平成19年第1問

環境アセスメントとは何か――対応から戦略へ (岩波新書)

環境アセスメントとは何か――対応から戦略へ (岩波新書)


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.変わる故郷の風景
 午前中で授業が終わる土曜日。学校の近くの駅で、さくらちゃんに出会う。


「先輩、今日お時間あります? 一緒に来て頂きたいところがあるんです。」さくらちゃんの真剣なまなざしに、思わずうなずく。


自宅最寄り駅で下りると、さくらちゃんは僕の手を握って、海の方へ向かって歩いて行く。


「さくらちゃん、どこに行くの?」


うふふ、先輩と手をつなぐのって、何年ぶりでしたっけ。」結局答えてくれないさくらちゃん。



さくらちゃんは、住宅街を見下ろす海沿いの丘に向かっているようだ。


「ここです。」丘の頂上で、さくらちゃんが笑う。そういえば、小さい頃、よくここに来て、さくらちゃんと遊んでいたなぁ。


「懐かしい場所だね。前と全然変わっていない。」


「それが、ここに出力1万kWの風力発電所を建設する計画が持ち上がっているんです。」


「そうなんだ、風力は、再生可能エネルギーだから、固定価格買取制度の対象として、奨励されているんだったよね。メガソーラー等が注目されているけど、風力発電も、今後増えて行くはずだよ*1。」


「でも、風力発電には環境への懸念もあります。低周波音、鳥類への影響(バードストライク)、
日陰問題(シャドーフリッカー)、そして景観への影響
等が挙げられます*2



「住宅街も近いので、低周波音や日陰問題は重要な問題だよな。あと、この近くには、オオタカ、ミサゴ、ハヤブサ、ズグロカモメ、コアジサシといった、貴重な鳥類がいるから、鳥類への影響も考えないといけないね。」


「そういう問題って、どうやって解決していけばいいんですか。」


「色々な解決方法はあるけど、1つの有力な仕組みは環境アセスメント(環境影響評価制度)だね。閣議要綱アセスという形で不完全ながら導入された後、現在まで改正がなされて大分進んでは来た。でも、まだ不完全とも称されているよ。」


「先輩、環境影響評価制度について教えてください。」

環境影響評価法施行以前の国レベルにおける環境影響評価は,閣議決定「環境影響評価の実施について」に基づく環境影響評価実施要綱により実施されていた([資料]参照)。環境影響評価法は, 同実施要綱に基づく制度を,幾つかの点で改善している。
以下の設問に答えよ。
〔設問1〕
環境影響評価実施要綱と環境影響評価法を比較して,同法の特徴について論ぜよ。(配点:35)
〔設問2〕
環境影響評価法がなお有する限界について論ぜよ。(配点:15)
[資 料]
○ 環境影響評価の実施について(昭和59年8月28日閣議決定)
1 政府は,事業の実施前に環境影響評価を行うことが,公害の防止及び自然環境の保全上極め て重要であることにかんがみ,環境影響評価の手続等について,下記のとおり,環境影響評価実施要綱を決定する。

2 国の行政機関は,環境影響評価を実施するため,この要綱に基づき,国の行う対象事業については所要の措置を,免許等を受けて行われる対象事業については,当該事業者に対する指導等の措置をできるだけ速やかに講ずるものとする。

3 政府は,この要綱に基づく措置が円滑に実施されるよう事業者及び地方公共団体の理解と協力を求めるものとする。

4 政府は,地方公共団体において環境影響評価について施策を講ずる場合においては,この決定の趣旨を尊重し,この要綱との整合性に配意するよう要請するものとする。

5 この要綱で別に定めるとされている事項等この要綱に基づく手続等に必要な共通的事項を定めるため,別紙に定めるところにより,内閣に環境影響評価実施推進会議を設ける。

環境影響評価実施要綱
第1 対象事業等
1 対象事業は,次に掲げる事業で,規模が大きく,その実施により環境に著しい影響(公害 (放射性物質によるものを除く。)又は自然環境に係るものに限る。)を及ぼすおそれがある ものとして主務大臣が環境庁長官に協議して定めるものとすること。
(1) 高速自動車国道,一般国道その他の道路の新設及び改築
(2) 河川法に規定する河川に関するダムの新築その他同法の河川工事
(3) 鉄道の建設及び改良
(4) 飛行場の設置及びその施設の変更
(5) 埋立及び干拓
(6) 土地区画整理法に規定する土地区画整理事業
(7) 新住宅市街地開発法に規定する新住宅市街地開発事業
(8) 首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律に規定する工業団地造成事業及び近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律に規定する工業団地造成事業
(9) 新都市基盤整備法に規定する新都市基盤整備事業(10) 流通業務市街地の整備に関する法律に規定する流通業務団地造成事業
(11) 特別の法律により設立された法人によって行われる住宅の用に供する宅地,工場又は事業場のための敷地その他の土地の造成
(12) (1)から(11)までに掲げるもののほか,これらに準ずるものとして主務大臣が環境庁長官に協議して定めるもの

2 環境影響評価を行う者は事業者とし,事業者とは,対象事業を実施しようとする別に定める者とすること。
第2 環境影響評価に関する手続等
1 環境影響評価準備書の作成
(1) 事業者は,対象事業を実施しようとするときは,対象事業の実施が環境に及ぼす影響(対象事業が第1の1(5)の事業以外の事業である場合には,対象事業の実施後の土地(当該対象事業以外の対象事業の用に供するものを除く。)又は工作物において行われることが予定 される事業活動その他の人の活動に伴って生じる影響を含むものとし,対象事業の実施の ために行う第1の1(5)に掲げる事業により生ずる影響を含まないものとする。)について, 調査,予測及び評価を行い,次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書を作成するこ と。
1 氏名及び住所等
2 対象事業の目的及び内容
3 調査の結果の概要
4 対象事業の実施による影響の内容及び程度並びに公害の防止及び自然環境の保全のための措置5 対象事業の実施による影響の評価
(2) (1)の調査等は,主務大臣が環境庁長官に協議して対象事業の種類ごとに定める指針に従 って行うものとし,環境庁長官は,関係行政機関の長に協議して,主務大臣が指針を定め る場合に考慮すべき調査等のための基本的事項を定めること。
2 準備書に関する周知
(1) 事業者は,関係地域を管轄する都道府県知事及び市町村長に準備書を送付するとともに,当該都道府県知事及び市町村長の協力を得て,準備書を作成した旨等を公告し,準備書を公告の日から1月間縦覧に供すること。
(2) 事業者は,準備書の縦覧期間内に,関係地域内において,その説明会を開催すること。この場合において,事業者は,その責めに帰することのできない理由で説明会を開催する ことができない場合には,当該説明会を開催することを要せず,他の方法により周知に努 めること。
3 準備書に関する意見
(1) 事業者は,準備書について公害の防止及び自然環境の保全の見地からの関係地域内に住所を有する者の意見(準備書の縦覧期間及びその後2週間の間に意見書により述べられたものに限る。)の把握に努めること。
(2) 事業者は,関係都道府県知事及び関係市町村長に(1)の意見の概要を記載した書面を送付するとともに,関係都道府県知事に対し,送付を受けた日から3月間内に,準備書につい て公害の防止及び自然環境の保全の見地からの意見を関係市町村長の意見を聴いた上で述 べるよう求めること。
4 環境影響評価書の作成等
(1) 事業者は,準備書に関する意見が述べられた後又は3(2)の期間を経過した日以後,準備書の記載事項について検討を加え,次に掲げる事項を記載した環境影響評価書を作成する こと。
1 1(1)の1から5までに掲げる事項
2 関係地域内に住所を有する者の意見の概要 3 関係都道府県知事の意見 4 2及び3の意見についての事業者の見解
(2) 事業者は,関係都道府県知事及び関係市町村長に評価書を送付するとともに,当該関係
都道府県知事及び関係市町村長の協力を得て,評価書を作成した旨等を公告し,評価書を公告の日から1月間縦覧に供すること。
5 環境影響評価の手続等に係るその他の事項
(1) 事業者は,都道府県等と協議の上,説明会の開催等を都道府県等に委託することができ ること。
(2) 国は,地方公共団体が国の補助金等の交付を受けて対象事業の実施をする場合には,環境影響評価の手続等に要する費用について適切な配慮をするものとすること。
第3 公害の防止及び自然環境の保全についての行政への反映
1 評価書の行政庁への送付
(1) 事業者は,評価書に係る公告の日以後,速やかに,免許等が行われる対象事業にあっては別に定める者に,国が行う対象事業にあっては環境庁長官に評価書を送付すること。 (2) (1)により評価書の送付を受けた国の行政機関の長は,評価書の送付を受けた後,速やかに,環境庁長官に評価書を送付すること。
2 環境庁長官の意見
主務大臣は,1により環境庁長官に評価書が送付された対象事業のうち,規模が大きく, その実施により環境に及ぼす影響について,特に配慮する必要があると認められる事項があ るときは,当該事業に係る評価書に対する公害の防止及び自然環境の保全の見地からの環境 庁長官の意見を求めること。
3 公害の防止及び自然環境の保全の配慮についての審査等
(1) 対象事業の免許等を行う者は,免許等に際し,当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて,評価書の記載事項につき,当該対象事業の実施において公害の防止及び自 然環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査し,その結果に 配慮すること。
(2) 2により環境庁長官が意見を述べる場合には,(1)の審査等の前にこれを述べるものと し,免許等を行う者は,当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて,その意見 に配意して審査等を行うこと。
(3) 事業者は,評価書に記載されているところにより対象事業の実施による影響につき考慮 するとともに,2による環境庁長官の意見が述べられているときはその意見に配意し,公 害の防止及び自然環境の保全についての適正な配慮をして当該対象事業を実施すること。
第4 その他

1 主務大臣が定める事項,別に定める事項等この要綱に基づく手続等に必要な事項は,できるだけ速やかに定めること。ただし,第2の1(2)の基本的事項その他この要綱に基づく手続等に必要な共通的事項は,本決定の日から3月以内に定めること。
2 この要綱の実施に関する経過措置については,別に定めること。


2.環境アセスメント総論
「まず最初に、環境アセスメントの考え方から勉強しようか。」


「確か、事業を行うにあたって、環境に配慮しようって話だと思うんですが、同じ環境への配慮のための方法として、個別法で規制基準を定めてそれを遵守させるという方法もありますよね。どうして、環境アセスメントが必要なんですか?」


「そうだね、環境配慮をさせる方法には規制基準を定めてそれを遵守させるというのがまず、1つある。でも、それは画一的な基準にならざるを得ず、具体的な個別事業の立地の環境保全との関係では、なお低減が求められる環境負荷が残る訳だよ*3。そうすると、事前にその立地の環境を調査して、環境への影響を予測、評価し、それに基づき立地先環境との関係での『最適解』を探ること、これが、環境アセスメントの特徴なんだ。」


環境影響評価法はどのような経緯で制定されたんですか。」


「この法律は、環境省環境庁)にとっては、22年もの長い年月がかかったもので、要綱の閣議決定まで9年、環境基本計画を踏まえた法制化に3年かかったことから前九年の役後三年の役とも呼ばれるね。」


「どうして時間がかかったんですか。」


「そもそも、昭和47年の時点で、既に公共事業における環境配慮が閣議了解されていた訳だから、環境影響評価制度の嚆矢といわれるアメリカの国家環境政策法が昭和44年に制定された直後に、既に日本でも環境アセスメントの歴史が始まっていたんだ*4。でも、昭和56年の環境影響評価法案が昭和58年に廃案になったことが痛かったね。しょうがないから、環境影響評価法案の閣議要綱をベースに始めたのが昭和59年の閣議要綱アセス(環境影響評価の実施について)だね。」


「そういう経緯があったんですね。」


3.環境アセスメントの進め方
「平成23年改正を前提に、環境アセスメントの進め方の手続を簡単に説明すると、配慮書、方法書、準備書、評価書の4つの書類が作られるんだ。」


「4つもあると混乱しちゃうんですが、それぞれどういうものでしょうか。」


「配慮書というのは、計画段階のもので、平成23年改正で導入されたんだ。もともとは、事業段階でアセスメントをするというたてつけだったんだけど、それでは遅過ぎるということで、事業をどこで行うかという場所の決定について、代替案を検討しなさいということだね*5。」



「確かに、『ここで事業をします、さあ、どうやって環境に配慮しましょう』というよりも、『環境に配慮するためには、こっちで事業した方がいいですか、あっちで事業した方がいいですか』という方がより適切な環境への配慮ができそうですね。」


「その上で、事業段階でのアセスメントでは、まず、どういう『方法』でアセスメントを進めるかを決めた『方法書』を作成する*6。」



「アセスメントの方法なんて、どの事業でも同じじゃないんですか。」


閣議要綱アセスの時代はそういう考えだったんだけど、よく考えてみると、どういう場所でどういう事業をやるかによって影響の仕方や程度は異なる。だから、カスタムメイド、テイラーメイドでその事業毎にベストなアセスメントの内容を絞り込む(スコーピング)必要がある、これが『方法書』の役割だよ*7。」



「次は準備書と評価書ですか。」



「そうだね。環境影響評価の中核とされ、最終的に作成されるのが評価書だけど、それを一気に作ってしまうのではなく、その準備段階として、方法書に基づく調査・予測・評価を一応終えた段階で、その結果を取りまとめて、どのように環境への影響を低減するか(環境保全措置、ミティゲーション)を記載したのが、準備書だね。これを経て評価書を作成するよ*8。」



「この4つは、事業者が単独で作成するのですか。」



「いや、行政や周辺住民とのコミュニケーションを取りながら作成するよ。配慮書の段階で、事業者の努力義務として自治体や住民の意見を求める必要があるし(環境影響評価法3条の4〜3条の7)、方法書の段階でも市民(8条意見)や知事(10条意見)が意見を出して、これを勘案してスコーピングをする(11〜13条)。準備書の段階でも、方法書と同様に意見書提出手続があり(15条から20条)、この市民(18条意見)や知事(20条意見)の意見を勘案して準備書の内容に検討を加えて、評価書を作成することになるんだ(21条)。」



「この評価書はどのように使われるんですか。」



「評価書作成の時点で、市民や行政とコミュニケーションを取り、環境に与える影響に対する適切な配慮が自主的に講じられていることが期待されているけど*9評価書は許認可機関に送られるよ(22条1項)。これに対しては、環境大臣の意見(23条)が述べられ、許認可機関が行政指導をする(24条)。」



「結局、行政指導に従わなければ終わりなんでしょうか。」



「行政の環境配慮の上で一番重要なのは、33条のいわゆる横断条項だ。要するに、個別法の規定を問わず、どのような許認可をする場合であっても、評価書等に基づき、その事業が環境の保全について適切な配慮をしているかを審査し、この審査の内容によって許認可をするかを決める訳だ。つまり、個別法に列挙された許認可基準に加えて『環境への配慮』も許認可基準の1つとなり、その判断のために評価書が活用されるんだよ*10



3.閣議要綱アセスとの関係
「今の環境影響評価制度は、閣議要綱アセスとどう違うのですか。」


「そもそも、閣議要綱アセスの発想は、環境基準といった環境保全目標があることを前提に、『事業は実施するとして、環境にどういう影響はあるんだろうか、どうすれば規制目標を達成できるんだろうか』という考えだね。これに対し、環境影響評価法は、社会における合理的意思決定のツールとしての環境影響評価制度という色彩が出て来ているよ*11。」


「その違いは具体的にどのような形で現れているのですか?」



「違いは10個*12ないし6個*13と言われているけど、対象、内容、効力の3つに分けると分かりやすいんじゃないかな。」



「3つに絞った方が多分覚えやすいと思います!」



「まず、対象だけれども、対象事業の拡大が1つの特徴だね*14閣議要綱アセスでは認められなかった発電所、鉄道、大規模林道等が追加されたし、環境について、公害と貴重な環境の保全に加え、地球環境、廃棄物、生態系、身近な自然等が問題となっているよ。あとは、法律では、スクリーニングといって、中くらいの大きさの事業について、果たしてアセスメントが必要か、地域の環境条件に対応して判断する手続が導入されているね*15。」



閣議要綱アセスなら、風力発電は対象外なんですか。」



「そうだね*16。後は内容で、これは結構大きく変わっている。まずは、方法書の手続(スコーピング)が入って、カスタムメイドでのアセス内容となったこと、次が、住民の意見提出機会が拡大し、誰でも意見を提出できるようになったこと、更に、自分で作った(お手盛りの)目標を自分でクリアするという閣議要綱アセスから、環境の影響を低減するためベストを追及する方向性に変わったこと、そして、準備書の検討の中で代替案検討が必要とされていること、加えて、計画段階の環境配慮としての配慮書があるね。後は細かいけど、環境大臣の関与が、閣議アセスでは、求められた場合に意見を述べられただけなのが、法律アセスでは自分の判断で意見を述べられるようになった点も指摘できるかな*17。」



「それぞれの段階で充実した内容になっているんですね。」



「最後の効力は、閣議要綱アセスが、形式が単なる閣議決定に過ぎず、民間事業者に対しては単なる行政指導しかできなかったのに対し、法律という形式で義務付けができること、そして、横断条項が入ったことから、アセスメント決定が事業内容決定に反映されることが上げられるね。」



4.残された課題

「そうすると、平成23年改正が、環境アセスメントの最終形なんですか?」


「大分改善が進んでいるけれど、まだ完璧ではないね。一番大事なのは、戦略的環境アセスメント(SEA)の観点が導入されていないことかな。」



戦略的環境アセスメントって何ですか?」


「そもそも、個別事業の実施に枠組みを与える決定の段階でアセスメントをすべきという考え方だね。つまり、(1)そもそもその事業をするか、(2)どこでそれをするか、(3)どのようにそれをするかという3つの段階がある中で、平成23年改正前は、純粋に(3)の段階だけの事業アセスメントで、平成23年改正で(2)の計画アセスメントが入った。でも、配慮書は、もう既にその事業をする事自体が規定事項になっている中で、それをどこに作るか等を検討するものだけど、そもそも事業をするかどうかの段階で環境を考慮して決めるべきだと思わない?



「一度作ると決めてしまうと、そこから環境負荷軽減措置を取ることには限界があるので、作ると決めるかどうかの段階で、環境へ配慮すべきです。」



「これが戦略的環境アセスメントの発想だよ。そもそも事業をするかを決定する段階でのアセスメントが入らない一番の原因は、環境基本法20条に『事業の実施に当たり』環境アセスメントをすると書いていることで、これを変えるのは政治的に容易ではないと言われているんだ*18。だから、平成23年改正は、環境基本法の枠組みの中で最大限戦略的環境アセスメントに近づけたと言えるけど、この点は現行法の重大な限界といえるね*19。」


「そこが改善されれば問題はないのですか」


「色々あるけれど、大事なものとしては、代替案考慮義務が明示されていないこと、スクリーニング手続への住民参加がないこと、許認可手続において評価書をどう扱ったかという理由説明制度がないこと、そして、不適切な方法書等の法律の制度趣旨に反する行為をチェックするための紛訟制度が整備されていないことが重要で、これらについて制度的対応がされなければ、環境アセスメント制度は十分なものとはならないと評されているね*20。」



「そうなんですね。現行法の改善が期待されますね。」


話をしているうちに、空が暗くなり、太陽が海に沈んで行く。


「先輩」といいながら、僕によりかかるさくらちゃん。


「今日は色々歩いて疲れちゃったから、また、昔みたいに、私のことをおぶって家まで連れて行ってくれませんか。」甘いささやきに、ついうなずいてしまう。


さくらちゃんを背中に背負う。強く握ると今にも折れてしまうような細い手足と、知らないうちに成長して凹凸を持った胴体。



「うふふ、なんか、昔に戻ったみたいですね。ずっとこんな風に、先輩と一緒にいたいです。」耳元で甘えるさくらちゃん。



「そうだね。そうしたら、今日は一緒に、風力発電所の方法書に対してどういう意見を述べるべきか、考えてみようか!」


「はい!」



さくらちゃんの髪の毛は、夕日に照らされいつも以上に桜色に輝いていた。

まとめ
 ということで、さくらちゃん編でした。

*1:平成26年度は洋上風力発電の価格が引き上げられる予定と報道されており、これにより、洋上風力の増加が期待されるところ

*2:環境省のレポートが比較的まとまっている。http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/file/h24_04-01.pdf

*3:北村307頁

*4:ロースクール環境法132頁

*5:北村315頁

*6:北村318頁

*7:北村318頁

*8:北村320、321頁

*9:北村321頁

*10:北村324〜325頁。個別法の法的仕組みに応じた具体的な仕組みについては北村325頁〜328頁が詳しい。

*11:Basic116〜117頁

*12:北村331頁

*13:Basic117頁

*14:北村331頁

*15:北村331頁

*16:なお、風力発電については、事後的な政令改正による追加であることに留意。Basic119頁参照

*17:北村331、332頁

*18:北村316頁

*19:なお、生物多様性基本法25条が戦略的環境影響評価制度につながり得ることはBasic309頁参照。

*20:北村343頁