弁護士のマネジメント試論
- 作者: 出口恭平
- 出版社/メーカー: 第一法規株式会社
- 発売日: 2009/08/21
- メディア: 単行本
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ドラッカーは、マネージャーを「組織の成果に責任を持つもの」と定義した*1。その「成果」とは弁護士事務所においては何であろうか。
ここで、「弁護士のためのマネジメント」では、目標たる素晴らしい事務所として、弁護士・スタッフの定着率・忠誠心が高く、事務所全体として年々対応できる事件・分野が増え、質が向上する(年々パワーアップする)といった点を挙げている*2。
筆者の意図を誤解しているかもしれないが、本書の全体として、組織たる事務所をよりよいものにしていくという究極の目的があり、これを達成するための手段として、構成員の満足度の向上、クライアントの満足度の向上等を図ろうとマネジメントをしていくという方向性が感じられた。
この方向性は、過去の「弁護士事務所」と「弁護士」の位置づけとは大きく異なると考える。*3過去、例えば70年代くらいに弁護士になった人は、「組織を通じた社会貢献」と「個人としての社会貢献」のうち、後者を選択した人が多かったのではないか。組織を通じた貢献をするなら、官僚や会社員になっており、*4弁護士を選ぶということは、組織ではなく、個人として「自由業」を行う中で、社会に貢献したいということだったのではないか。
このような、組織性の希薄さに鑑み、法律事務所の位置づけも、今のものとは違っていただろう。法律事務所に入ることは、個人として社会貢献を行うための、ある意味では「手段」と位置づけられ、「弁護士として向上するために(修行のために)法律事務所に入る」「弁護士として社会貢献をするために同じ事務所の仲間と一緒に活動をしていく」といった意識の人が比較的多かったのではないか。
「弁護士のためのマネジメント」の存在がこれを象徴するかはともかく、現在の潮流はかなり異なってきている。
現在は、まず「組織*5」があり、その組織としての向上*6のための手段としてアソシエートを*7採用してこれらのアソシエートをパートナーがマネジメントするといった方向性が随所に見られる。これは、グローバル化により欧米の大手事務所とのグローバルな競争に勝ち抜く必要性等、正当化できる要素は多々あろう。
もっとも、根源的な疑問は残る。
過去、弁護士事務所において「マネージメント」が語られなかったのは、そもそも「組織の成果」があくまでも「個人の成果」の付随的産物だったからではないか?
組織の成果が重要でなければ、それに責任をもつ「マネージャー」は不要であろう。
現在の弁護士が、過去の弁護士のような「組織を通じた社会貢献を選択しなかった者」ではなくなってきているという点は否定できないが、弁護士事務所の多くが「マネジメントを行い、組織の成長(成果)を最大の目的とする」という状況になりつつある現状が、本当に「素晴らしいこと」なのかについては疑問が残る。
もはや、弁護士という仕事は、組織からの自由の中で、社会貢献をしたいというニーズを満たすものではなくなってしまったのだろうか。
まとめ
組織の成長、組織の成果を重視する現在の風潮は、グローバルな競争に勝つため等、合理性があることは否定できない。
しかし、弁護士事務所の多くが「マネジメントを行い、組織の成長(成果)を最大の目的とする」という状況になりつつある現状が、本当に「素晴らしいこと」なのかについては疑問が残る。
今後、パートナー競争にドロップアウトする人の就職難等が生じた場合には、この点がクローズアップされる可能性があるのではないか。
もはや、弁護士という仕事は、組織からの自由の中で、社会貢献をしたいというニーズを満たすものではなくなってしまったのだろうか。