アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

リーガルマインドが身につかない?!〜弥永「リーガルマインド会社法」を斬る

リーガルマインド会社法

リーガルマインド会社法

1.会社法対応の基本書
 憲法を擬人化する等の企画が面白いishidatic.com -&nbspishidatic リソースおよび情報様に、こんなニュースが掲載されていた。

 平成18年度司法試験第二次試験論文式試験の商法では,平成17年6月29日第162回国会において成立した会社法(平成17年法律第86号)が試験日に施行されているか否かにかかわらず,同法及び会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)による改正後の商法その他の商法分野に関する法令に基づいて出題するものとする。
 ただし,会社法による実質改正部分については,基本的な事項に関するもの以外は出題しないこととする。
引用元:法務省


 平成18年度司法試験の受験(とはいえ択一を突破しないと論文に行けないのだが...。)のためには、改正会社法*1についても押さえておくべきだなと思うが、良い本がない。


 この悩みに答えるかのごとく、ishidatic.com -&nbspishidatic リソースおよび情報様では、弥永先生の「リーガルマインド会社法」を紹介していた。

ふと調べてみれば弥永先生のリーガルマインド会社法の新法対応版ってもう出てるんですね。
(中略)
さすがに手を出さなアカン本ですから…。
ishidatic.com -&nbspishidatic リソースおよび情報

その通りであり、会社法なんか知らないと言うわけにはいきません。ということで、以下、簡潔にレビューしてみた。


2.よい点

  • 改正にいちはやく対応*2

 まあ、逆に言えば、改訂が多すぎる(平成5年出版で、もう9版って...。)とも言えますが。

  • 設立を後回し。先に株式・機関の話しをする

 これは大切なことで、イメージの沸きにくい設立は、いくら条文的に前にあるからといっても、これを先に書いてしまうと、挫折する学生が増加。商法なんて実務が分からない学生にとってはイメージ沸かない教科のナンバー2(ナンバー1は眠素)なのだから、まだイメージがわきやすい機関・株式から始めるのは大切なことである。

  • 記述はまだ分かりやすい

 基本書を論文とはきちがえている先生がまだいる中、弥永先生の記述は、初学者を意識して比較的分かりやすい。山口刑法*3と比べれば歴然。まあ、基本書の中ではということですが。

  • 5-5-5-2等ナンバリングがしっかりしている

 今どこを読んでいるかを見失いやすいので、ナンバリングで、いまどこをやっているかが分かるというのはいいこと。ただ、ちょっとうるさいという意見もあるだろう*4
個人的には、クロス・リファレンスにもこのナンバリングは使われている(4-4-2参照とか)ので、結構便利と思う。

  • 網羅性

 清算とか、社債とか、あっさり書くに留めてもいいところについてもしっかりと論述されている。ロースクールに対応と言ってもいいだろう?


3.悪い点

  • どこが改正されたか不明

 商法を勉強し終わった人にとっては致命的なことに、改正事項も条文番号が変わっただけの事項も平板に解説されてしまっている。「ここは実質改正だから、重要だよ!」というマークか何かでもつけてもらえるとありがたかったのですが、実質改正されたところも、条文番号が変わっただけのところも、平板に論じられているので、改正のポイントが分かりにくい。
 株券不発行の原則とか、取締役の責任の原則過失責任化とかも、よく読まないと、スルーしてしまいかねない。来学期から会社法を初めて学ぶ学生ならこれでもいいかとは思うのだが、既習者はこの点をわかった上で買うべき。なお、新会社法の構成も書いていないのも問題であろう。何条から何条までが設立、何条から何条までが株式等々書いてもらえないと、条文が引けない(特に持分会社とか)ので、この本だけでは不安である。

  • 具体例が少ない

 基本書ですから、具体例が少ないのは当たり前(内田民法は例外)...なのですが...。構成自体はイメージが沸きやすい構成なのですが、記述があんまりイメージが沸かない。授業や予備校本でイメージを沸かせてから読まないときついかと思われる。ケースを知りたいなら、ケースで解く会社法ISBN:4535512477)を読めといわれそうですが。

  • 厚い

 よい点である網羅性の反面、500ページ超の大部になった。「読み終わると最初の方を忘れる。だからといってもう一度読むのも時間がかかる...。」という大部の書籍に典型的な問題点が露呈しそう。上田訴訟法のように重要なところとそうでないところの文字の大きさを変える、節毎に重要度ランクをつける(伊藤塾じゃないけど)等の対策が望まれる。

まとめ
 よくも悪くも、リーガルマインド会社法は基本書の枠内で頑張っている本と言える。また、「既に商法を知っている人」というよりは、商法を改正後に学び始める人に向いている本である。
 既に商法を学んだ人にとっては、改正のポイント本を買って、その上で、リーガルマインド会社法を辞書的に使うのが、正解ではないか。


追記
http://d.hatena.ne.jp/Raz/20050921様によると、

本研究科法科大学院の平成18年(2006年)度入学者選抜の筆記試験(法学既修者 法律科目問題)においては、「会社法」(平成17年法律第86号)および「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17年法律第87号)は試験範囲に含めない。

引用元:http://www.j.u-tokyo.ac.jp/sl-1/news/20050921.html
要するに、今年現行で合格するか、ローに受かれば、弥永は買わなくてよかってことですな。
あ、新司法試験...orz

*1:賢明なみなさんはご存知と思われますが、実は商法も微妙に改正されてます。参考まで。まあ、微妙だけど。

*2:ちなみに、法務省令に投げたところは、法務省令がまだ未制定なので、10版で法務省令に対応するとのことです。10版も買えってことですか? 弥永センセ

*3:山口先生の刑法総論って、どうして刑法各論と比べて各段に読みにくいのでしょうか...。

*4:これは好みでしょう