アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

美鳥の日々で解る法律の「趣旨」

美鳥の日々 2 (2) 少年サンデーコミックス

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 法律には趣旨がある。
趣旨とは、その条文が規定された理由。その条文が本当に言いたいことである。

例えば、民法5条1項には

未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。

と書いている。たとえば、18歳の人が車を買うなら、親の同意を得なさいよということである。

この条文の「趣旨」は、未成年者は馬鹿だから、カモにされがちなので、親の同意を必要とすることで、未成年者を保護しよう*1ということである。「馬鹿な未成年者の保護」、これが、この5条という条文のいいたいことなのである。

 ところが、趣旨はその条文には書かれていない。5条のどこを見てもこんなことは書いていないのである。まあ、時々1条に書かれていることもある*2が、それだけがすべてではない。
そう、本当にいいたいことは、条文に書いていないのである。


 ここで、思い出したのは、美鳥の日々である。美鳥の日々とは、一人の男性(沢村)に片思いする少女(美鳥)が、その思いを伝えられなくて、思い焦がれるあまり、沢村の右手に現れた結果、大きな騒ぎを起こした結果、最後には、沢村に振り向いてもらえたという話である。

 これとそっくりのことが、法律においてもあった。

 民法304条という条文がある。非常にわかりにくいので、引用しない*3
要するに、AさんがBにお金を貸し、Bの建物に抵当権をつける(建物を担保にとる)としよう。それなのに、Cがこの家を燃やしてしまった。この場合、建物がなくなった以上、抵当権は消滅する。でも、その代わりにAはCに「Bに対しての賠償金を渡せ!」といえる。これが304条である。そして、その際には、賠償金を払うまでにAが差押という手続きをしなければならない。

 条文にこのことが書かれているが、この趣旨、なんでこんな条文ができたのかがぜんぜんわかっていなかった。特に、なんで「差押え」をしないと、賠償金を渡せ! といえないかが意味不明といわれていた。そこで、学者はさまざまな議論をしてきたのである。実際、趣旨によっていつ「賠償金を払った」といえるか等の結論が変わってくるので、議論が錯綜していた。

 その中、ある学者さん*4がボアソナ−ド民法までさかのぼり、304条に関する議論を読み直すことで、最近になってこの304条の趣旨(本当の気持ち)に気づいたのである。
 民法を作った人がなんでこんな304条という条文を作ったのか。それは、Cがかわいそうだからである(第三債務者保護説)。Cとしては、A・Bという2人のどちらに賠償金を払えばいいかわからない。そこで、「差押」という手続きを要求することで、Cの保護をしようとしたのである。差し押さえがあればAに払う。なければBに払うということがわかり、Cの二重払いの危険がなくなる。このために304条が差押えを必要としたのだ。


 本当の気持ちがわかったので、学会は大騒ぎになった。これまであった「Aが賠償金を得るという特権を得るためには、それ相応にがんばらないといけない。がんばる証拠が差し押さえだ(優先権保全説)」という説や「Bの下にCが賠償金を払うと、Bの財布の中には「Bのお金」と「Cからの賠償金」が混在してしまい、どれが賠償金かわからなくなる。そこで、Bの財産への混入を避けるために差押えをさせた(特定性維持説)」という説とあわせて、まさに、三つ巴の大騒動が起こった。
結局、判例が本当の気持ちである第三債務者保護説を採用することで、うまくまとまった

 そう、本当の気持ちを伝えたら、大混乱が起こり、最後に判例(大好きな彼)が振り向いてくれたのであった。

 こんな美鳥の日々のようなことが起こるのも、すべては条文が恥ずかしがり屋さんで、本当の気持ちを簡単に伝えてくれないことによる。

恥ずかしがりやさんの条文萌え〜。

まとめ
条文は、恥ずかしがり屋さんでその本当の気持ち(趣旨)をいえない。
だからこそ、混乱が起こることもあるが、非常に萌える。

注:上記エントリは、http://www4.diary.ne.jp/user/462399/様にインスパイヤされて作成したものです。馬乗袴様の「教授と山中」シリーズは、おかしいながらも本質を突いているので、いつも楽しませていただいています。http://d.hatena.ne.jp/masujirou/id:masujirou様の手による、別サイトでしょうか?

*1:専門用語でいうと「自由取引競争の犠牲になることを避ける」

*2:行政法の太田タンが、1条を引いて「これが趣旨だ!」という論文の書き方について「予備校答案」と酷評してましたなぁ...。

*3:304条「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」

*4:清原先生でいいんすかねぇ...。一番最初の先行研究者がわからない...。