- 作者: 井上和郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2003/04/18
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趣旨とは、その条文が規定された理由。その条文が本当に言いたいことである。
例えば、民法5条1項には
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。
と書いている。たとえば、18歳の人が車を買うなら、親の同意を得なさいよということである。
この条文の「趣旨」は、未成年者は馬鹿だから、カモにされがちなので、親の同意を必要とすることで、未成年者を保護しよう*1ということである。「馬鹿な未成年者の保護」、これが、この5条という条文のいいたいことなのである。
ところが、趣旨はその条文には書かれていない。5条のどこを見てもこんなことは書いていないのである。まあ、時々1条に書かれていることもある*2が、それだけがすべてではない。
そう、本当にいいたいことは、条文に書いていないのである。
ここで、思い出したのは、美鳥の日々である。美鳥の日々とは、一人の男性(沢村)に片思いする少女(美鳥)が、その思いを伝えられなくて、思い焦がれるあまり、沢村の右手に現れた結果、大きな騒ぎを起こした結果、最後には、沢村に振り向いてもらえたという話である。
これとそっくりのことが、法律においてもあった。
民法304条という条文がある。非常にわかりにくいので、引用しない*3。
要するに、AさんがBにお金を貸し、Bの建物に抵当権をつける(建物を担保にとる)としよう。それなのに、Cがこの家を燃やしてしまった。この場合、建物がなくなった以上、抵当権は消滅する。でも、その代わりにAはCに「Bに対しての賠償金を渡せ!」といえる。これが304条である。そして、その際には、賠償金を払うまでにAが差押という手続きをしなければならない。
条文にこのことが書かれているが、この趣旨、なんでこんな条文ができたのかがぜんぜんわかっていなかった。特に、なんで「差押え」をしないと、賠償金を渡せ! といえないかが意味不明といわれていた。そこで、学者はさまざまな議論をしてきたのである。実際、趣旨によっていつ「賠償金を払った」といえるか等の結論が変わってくるので、議論が錯綜していた。
その中、ある学者さん*4がボアソナ−ド民法までさかのぼり、304条に関する議論を読み直すことで、最近になってこの304条の趣旨(本当の気持ち)に気づいたのである。
民法を作った人がなんでこんな304条という条文を作ったのか。それは、Cがかわいそうだからである(第三債務者保護説)。Cとしては、A・Bという2人のどちらに賠償金を払えばいいかわからない。そこで、「差押」という手続きを要求することで、Cの保護をしようとしたのである。差し押さえがあればAに払う。なければBに払うということがわかり、Cの二重払いの危険がなくなる。このために304条が差押えを必要としたのだ。
本当の気持ちがわかったので、学会は大騒ぎになった。これまであった「Aが賠償金を得るという特権を得るためには、それ相応にがんばらないといけない。がんばる証拠が差し押さえだ(優先権保全説)」という説や「Bの下にCが賠償金を払うと、Bの財布の中には「Bのお金」と「Cからの賠償金」が混在してしまい、どれが賠償金かわからなくなる。そこで、Bの財産への混入を避けるために差押えをさせた(特定性維持説)」という説とあわせて、まさに、三つ巴の大騒動が起こった。
結局、判例が本当の気持ちである第三債務者保護説を採用することで、うまくまとまった。
そう、本当の気持ちを伝えたら、大混乱が起こり、最後に判例(大好きな彼)が振り向いてくれたのであった。
こんな美鳥の日々のようなことが起こるのも、すべては条文が恥ずかしがり屋さんで、本当の気持ちを簡単に伝えてくれないことによる。
恥ずかしがりやさんの条文萌え〜。
まとめ
条文は、恥ずかしがり屋さんでその本当の気持ち(趣旨)をいえない。
だからこそ、混乱が起こることもあるが、非常に萌える。
注:上記エントリは、http://www4.diary.ne.jp/user/462399/様にインスパイヤされて作成したものです。馬乗袴様の「教授と山中」シリーズは、おかしいながらも本質を突いているので、いつも楽しませていただいています。http://d.hatena.ne.jp/masujirou/のid:masujirou様の手による、別サイトでしょうか?