- 作者: 西沢宗英
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 1996/03
- メディア: 単行本
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入門書的側面としては、具体例を元にしているので、分かりやすいし、面白い。
Aは医薬品卸販売会社に勤める営業社員である。
(中略)
育児費用、ローン返済、自動車の分割代金等の支払いは以外に負担となり、また、通勤に時間がかかるようになったことから、睡眠時間も不足しがちになり、やがて体調を崩した。そのため、営業成績が上がらなくなり、給与、とくにボーナスが減少した。
(中略)
返済の為にカードに加入してはキャッシング利用するという悪循環になった。競馬で現金を作ろうとしたこともあったが、かえって100万円ほど債務を増やすだけの結果になった。
といった、すごい「ありそう」な事例を元に、この人について生じる疑問を出発点に破産法についての議論を進める。
①Aには、「破産」といいうほかに解決の方法はないのだろうか。とくに、話し合いで解決する余地はないのか(→[14][21]以下)
(中略)
⑯「破産」になると、会社は退職しなければならないか。そのとき、退職金は、借金の返済に当てなければならないか。(→[192]以下、[334])
(中略)
⑲「破産」手続が終わっても、払いきれなかった借金はどうなるか。それについて誰でも同じ扱いをしてもらえるのか。(→[393])
このような疑問を提示した上で、破産法について概説する。論述も基本書としては分かりやすく、まさに入門書的である。
とはいえ、小さなフォントで、論点についてもフォローしている。300p程の教科書だが、破産法のみを議論の対象としている*1ので、このことが可能となっている。そこで、結構細かい、保証人と主債務者それぞれが破産するとどうなるかといった論点もきちんと書かれているのは評価できる。わかりにくいところに図版が必ずあるのも、痒いところに手が届くという感じでよい。
このような理由から、最近の大ヒット作にこれを挙げたい。
とはいえ、よりよくするためには、以下の3点の改善が臨まれる。
1.最新改正法へのフォローをお願いしたい。破産法の改正に改訂が追い付いていないのはマイナスである。
2.相殺は、やっぱり「破産財団の管理・換価」で論じるべきである。理由は理論上のものではなく、教育的配慮である。
例えばp117で、突如として
(a)財団所属債権と破産債権の相殺
(中略)
(b)破産債権と自由財産所属債権との相殺
と言った議論が始まる。財団所属債権とはいかなるものか、自由財産所属債権とはいかなるものかは「破産財団の管理・換価」で論じているのに、理論上の根拠から、これを「破産債権の確定」で論じてしまったのだ。このため、この部分についての理解がかなり困難になった。ここは、教育的配慮をお願いしたいところである。
3.最後に、できれば、破産法のみならず、他の倒産法についても、このような形で叙述していただきたい。もちろん、別の本でもかまわないので。
このような注文もあるが、これはあくまでも、「この本がよいから」こそ気になった点であり、総じて言えば、この本は、破産法の最高の入門書と言えるだろう。
まとめ
民訴3部受ける人は、「ここからはじめる破産法」を読むと、難解な蝶ネクタイ「破産法」の理解が進むであろう。ただ、刊行後、法改正された点も多いので、入門書として読むのが一番よいかと思う。