アホヲタ元法学部生の日常

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「わたおに」と法律用語

 「わたおに」とは、「週刊わたしのおにいちゃん」の略である。しかし、このタイトルは、非常に誤解を招きやすい

 「私のおにいちゃん」という以上、この作品は「お兄ちゃん」について書かれたものであるはずである。フィギュアがついたとしても、それは、様々な格好いい「お兄ちゃんキャラ」のフィギュア(桃矢おにいちゃんとか??)がついてしかるべきである。
 ところが、実際には、「わたおに」の内容は、「妹キャラ」のフィギュアとブックレットであった。これは、消費者契約法4条違反であろう。

第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 とはいえ、この法律の解釈論を展開するつもりはない。
 要するに「わたおに」ではなく「わたいも」。「週刊わたしのいもうとたち」とすることで、誤解を防ぎ、「重要事項について事実と異なること」を表示しなくてすむのである。


 ところで、我々が学んでいる法律についても、誤解を招く用語が多い。これらの用語についても「わたおに」と同様、正しい表示に変えていくのが、我々法曹の卵の義務であろう。そこで、以下、様々な「誤解を招く」法律用語を正しい法律用語に直していく。




・善意・悪意(民法
意味:「知っている」ことと「知らない」こと
用例:善意の第三者は保護されるが、悪意者は保護しない
問題点:「善」と「悪」に、道徳的意味を感じて誤解する。

改善案:「不知」・「既知」



・結果無価値・行為無価値(刑法)
意味:違法(悪い)というのはどういう意味? という質問に対し、「人様の利益(法益)を害したからだ!」という説と、「社会倫理に反したからだ!」という説のこと。
用例:行為無価値からは、偶然防衛は、既遂犯になるのが論理的だね。
問題点:ドイツ語の直訳でピントこない。特に「無価値」が意味不明。

改善案:法益侵害説」「社会相当性説」



・保険事故(商法)
意味:保険金支払い請求権利を発生させる出来事。
用例:火災保険をかけていた家が燃え、「保険事故」が発生したので、保険金が下りた。
問題点:まるで、保険会社が事故にあったみたい。
改善案:支払原因事故


・口頭弁論(民事訴訟法)
意味:期日に、裁判所で、当事者双方が口頭で、主張や証拠を出し合うこと
用例:口頭弁論期日が決まらない
問題点:実際は、書面を出して「陳述します」というだけで、口頭主義は骨抜き。口頭で「弁論」してないのに、言葉だけ「弁論」っていうのは詐欺。
改善案:書類陳述式


・裁判(刑事訴訟法
意味:裁判官・裁判所が、当事者の請求に対し「無罪」「有罪」等の意思表示という形で応答すること。
用例:裁判の確定により拘束力が生じる
問題点:普通の日本語は裁判ってのは、公判手続も全部ふくめたもの。誤解を招く。
改善案:判決(手続)


・固有の訴えの主観的併合(民事訴訟法)
意味:最初から複数の当事者間において請求がなされる場合。
用例:固有の訴えの主観的併合は、比較的要件が緩いから、たくさんのマンションを持つX会社が、ABCDという借主に対し、明渡の訴えを提起できる。
問題点:「固有」ってのが、「あるもの固有の特性」といったような意味の「固有」とまぎらわしい。また、主観的併合というから、これが共同訴訟だということに気付かない人もいる。
改善案:最初っから共同訴訟


・(電子)計算機(刑法等)
意味:コンピューター
用例:刑法246条の2は、「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。」という電子計算機使用詐欺罪を規定する
問題点:電卓とまぎらわしい。
改善案:コンピュータ


・否認権(倒産法)
意味:破産開始決定以前の詐害行為・偏頗行為を、管財人が取消すことのできる権利
用例:「否認権は債権者取消権よりも強力である」
問題点:「否認」というのが、なんか刑事訴訟法で、被疑者が「やってない」といっているようなイメージを与える。
改善案:債権者取消権強化ver.


・当為(刑法)
意味:ドイツ語のsollen。「かくあるべき」こと、「かくなすべき」こと
用例:違法性は当為の問題だが、責任は可能の問題である。
問題点:意味不明。
改善案:「すべき」


・「当事者能力」・「当事者適格」(民事訴訟法)
意味:そもそも人以外は権利義務の主体になれないので、こんな人外は裁判の当事者には一切なれませんよ。こういう、具体的な係争対象をはなれて、一般的に当事者となるための資格が当事者能力。具体的係争対象について、無関係の第三者が訴訟追行しても、そんな訴訟は無意味ですよ。こういう、具体的な係争対象について当事者として訴訟を追行するための資格が当事者適格。
用例:アマミノクロウサギに当事者能力はない。
問題点:ごっちゃになる。
改善案:「一般的当事者資格」「個別的当事者資格」


・任意処分(刑事訴訟法
意味:強制処分以外の処分。
用例:尾行、職務質問、所持品検査は任意処分だ。
問題点:判例の規範によると、有形力(手をかける、バッグの口をあける)を行使しても、「任意処分」だということになり、「許可なく勝手にバッグの口を開けたのに任意」とか「手をつかんだのに任意」といった、日本語の意味を離れた状態が生じている。
改善案:非強制処分


・支配人
意味:包括代理権を持つ従業員
用例:私が、○○ホテル赤坂支店の支配人です。
問題点:いくら「支配人」「支店長」といった名前でも、代理権が制限されていれば、支配人ではないというのが通説であり、日本語の用例に反する。答練で、「支店長Aは手形振出の代理権を持っていないのに、手形を振り出した...」といった問題に対し、疑いもなく、「支配人の代理権の制限は対抗できない」という条文(38条3項)を使った結果、22点がついた経験はだれしもあるはず。
改善案:「包括代理権所有従業員」「商業全権代理人



・変態設立事項(会社法
意味:会社設立時に発起人が権限を乱用して会社に不利益を与えそうな行為を類型化し、定款に記載しなければ無効としたもの(会社法28条)
用例:現物出資、財産引き受け、発起人報酬、設立費用が変態設立事項だ。
問題点:「変態」という日本語はミスリーディング
改善案:定款記載が有効要件となる発起人の行為


・邸宅(刑法)
意味:居住用の建物で人の日常生活に使われていないもの、空き家やシーズンオフの別荘等
用例:空き家に侵入した場合、どんなに貧相な家でも「邸宅」侵入罪だ。
問題点:「邸宅」というのは日常語では「豪華な」住居の意味。これが空き家や別荘、果ては家の周りの土地まで「邸宅」というのは不可思議である。
改善案:空き家等

まとめ
わたおに」は、誤解を招く表現であるが、このような誤解を招く表現は法律用語に多々ある。
一般の人に法律に対し親しみを持ってもらうためにも、法律家のみなさんには、ぜひ、「誤解を招かない」法律用語を使用していただきたい。

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