アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

NARUTOキャラが生命保険に入ったら

NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプコミックス)

NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプコミックス)

1.はじめに
 漫画の中には、キャラ(名前すらない一般市民とかは除く*1)がバタバタ死んでいくものがある。ドラゴンボールHUNTER×HUNTERウルトラマン...。
バトル漫画カテゴリーにこれは多いが、それ以外の漫画にもこういう漫画はかなりある。

 問題は、こういう漫画のキャラクターが生命保険に入ったらどうなるかである。
 死ぬ可能性が高いと分かっていたら、みんなこぞって生命保険に入るはずなのに、このような漫画において「保険金が下りた」とか「保険料が高くて大変だ」といった記述が見られない。誰も生命保険に入っているそぶりを見せないのである。それはなぜだろう。
 このことを考えるため、最近話題の*2NARUTOという漫画を利用して、生命保険金額を調査してみた。

2.生命保険の仕組み
 そもそも、生命保険はどういう仕組みだろうか。
「年の始めに一括支払い。1年掛け捨て、死ぬと100万円支払われる、1万人加入」
というおそろしく単純化された保険(葬式保険?)を考える。
例えば、1年で、1万人のうち100人が死ぬとする。
生命保険に入っていなければ、葬式代の100万円は、その遺族が工面しなければならない。これは、かなり大変である。だからといって、「葬式代を考えて常に100万円を通帳に入れておく」というのは、大いなる無駄である。買いたい車等があっても、買えない。しかも、このお金が有用なのは100回に一回に過ぎない。

 ところが、1万人という大人数で考えれば、翌年までの支出額は、かなり正確に算出できる(大数の法則*3)。そこで、ほぼ確実に来年100万円×100人分を支出すると予測できるのである。そう、この保険会社は来年1億円支出することになる。

 そこで、この1億円を加入者1万人に均等に負担してもらう。そう1万円になる。そこで、加入者に1万円づつ*4支払ってもらうことで、加入者のうち死んだ者の葬式代リスクを無くしてくれるのである。

 加入者としては、1万円払うだけで、「100万円を銀行に入れておく」という負担がなくなる上、葬式代の支払いを受けられるのだから、非常にうれしいシステムである。

 これが、生命保険の基本的仕組みである*5

3.死亡率算定方法
 この生命保険を作るには死亡率算定が必要だが、どうやって「死亡率」を算定するのだろうか?
これは、生命表を使う。

生命表とは
生命表は,現在の各年齢での死亡率が今後も永遠に変化しないと仮定したときに,今年生まれた一定数の人のうち,各年齢で生き残っている人数の期待値を表現したものです.生命表から,各年齢について「各年齢の人が生きられる年数の期待値」を求めることができます.
(中略)
生命表を作るには,まず現状において各年齢の人口と死亡数を統計調査によって求め,各年齢の(死亡数/人口)を各年齢で死亡する確率とします.そして,今年ある人数(通例10 万人とします)が出生し,これが年が経つにつれ,さきほど求められた現状の各年齢の死亡確率にしたがって毎年死亡して減少していくと仮定します.つまり,現状の各年齢の死亡確率は未来永劫変わらない,と考えます.
今年生まれた0 歳児10 万人は,みな等しく上で求めた確率(平成15 年・男の場合,0.00308)で死亡する可能性があるとします.つまり,
ある0 歳児が1 年後も生存している確率  1 − 0.00308
ある0 歳児が1 年後には死亡している確率 0.00308
です.
(中略)
(これを利用して)各年齢まで生き残っている人数の期待値を並べた人口構成が得られます.これが生命表です。
引用元:http://kuva.mis.hiroshima-u.ac.jp/~asano/Kougi/05s/Package/Package11pr.pdf

4.Naruto生命表を作る
 ということで、実際にNarutoを使ってやってみた(92人のデータ)。
注:1歳毎にやると「8歳以下の(年齢確認済の)登場人物がいない」といった問題があるので、10歳毎の死亡率を出した。例えば21〜30歳の死亡率は0.27であったが、この割合で21歳の人も、22歳の人も...30歳の人も死亡すると仮定した。データは、http://www012.upp.so-net.ne.jp/lupus/index.htmlのものを利用させていただいた。この場を借りてお礼申し上げる。ちなみに、約3年の間に年齢が変化しているが、年齢変化をフォローするとなるとややっこしいので、初出時の年齢で行っている。

 すると、おそろしいことが判明した。以下が、それぞれの年齢の死亡率である。

1〜9歳 0
10〜19歳 0.26
20〜20歳 0.27
30〜39歳 0.21
40〜49歳 0.8*6
50〜59歳 0
60〜69歳 0.33

ちなみに、日本人の場合の数字を参考までに引用しよう。

0歳 0.001
10歳 0.00015
20歳 0.001
30歳 0.001
40歳 0.0015
50歳 0.004
60歳 0.01
70歳 0.02

引用元:「現代の生命保険」刀禰俊雄他著 東京大学出版会

 そう、例えば40歳について見ると、日本の平均の200倍の死亡率なのだ!!
この結果、0歳児が1兆人いても、70歳まで生きるのは、0.3人に過ぎないのである。


これは、恐ろしい。そう、生命保険料の暴騰が予想されるのである。

5.保険料が暴騰するナルトの世界
先に結果をお知らせよう。

ナルトの世界の40歳の男が、期間10年、死亡保険料1億円の生命保険に入ると、

保険料は月700万円

となる!!

 例えば、ナルトの世界における1万人の41歳の人が50歳まで10年間、保険に入ったとしよう。死亡のみを考え、死んだときに1億円が支払われることにしよう。利息は考慮しない。

第1保険年度では、8000人に1億円が支払われるので、8000億円を1万人で分担すればよい。そう、一人当りは8000万円である。
第2保険年度では、死亡者が1600人(生き残った2000人の80%)なので、1600億円を2000人で分担すればよい。そう、一人当り8000万円である。
これを第三第四としていくと、ずっと8000万円である。*7
その結果、保険金は月当り8000万円÷12で、667万円になるのだ。
この大金、誰が払えるのだろうか...。

まとめ
保険成立の要件として「保険料負担が可能な危険」である必要がある*8
NARUTOでは、この要件を欠き生命保険は成立しえない。
だから、誰も生命保険に加入してなかったのだ!

関連:現代の生命保険 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:これを除かないと、いわゆる「戦争漫画」が入ってしまう。最終兵器彼女とか、エヴァとか、はだしのゲンとかを考え出すと、一般市民死にまくりな訳だが、生命保険の約款で、戦争による死亡の場合には保険金が下りないので、あえて本稿では問題としない

*2:つーか、某アニ●イトでは、NARUTOテニプリ以外のジャンプグッズの領域が、大幅に削減されているのはなんで!?

*3:コインを2枚投げれば、表が1枚出るのは2回に1回。しかし、10億枚であれば、限りなく5億枚に近い数のコインが表を示すはず

*4:会社の収入とか、利息とかで、多少変りますが

*5:参考文献:「現代の生命保険」刀禰俊雄他著 東京大学出版会保険選びはたまきにおまかせ!バーチャルFPたまきの保険入門

*6:くもがくれのしのびがしら 42死亡 ひあし 42生存 かぜかげ 40死亡 ふがく 40死亡

*7:普通は年齢が上がるにつれて死亡率が高くなり、その結果保険料が上がるのだが、幸か不幸か、10年間は死亡率一定と仮定している。

*8:エイズ患者の入院保険、死亡保険等は、この要件を欠くとされる