アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

アンパンマンを「法律」にしてみる〜東大ロースクール入試問題解説

あんぱんまん (キンダーおはなしえほん傑作選 8)

あんぱんまん (キンダーおはなしえほん傑作選 8)

 我が民法は「パンデクテンシステム」を取る。よく分からなくとも、民法の条文をご覧頂きたい。
民法は、最初に総則があり、その後に物権・債権・親族等がある。その上、債権等でも、債権総論があり、その後に各論がある。このように、複数の分野で重複する規定を総論という形で前に出してまとめ、その上で、各論を設定する条文構造がパンデクテンシステムである。

 ちょっとイメージが沸かない。そこで、「アンパンマン」でこれをやってみる。法律家がアンパンマンについて法律を作れば以下のようになるだろう。

第一篇 総則
第1条(登場人物)この作品には、アンパンマンバイキンマンとバタコさんが登場しなければならない。
第2条(基本パターン)まず、バイキンマンは、カバオを初めとする「被害者キャラ」に迷惑をかけなければならない。
第3条(アンパンマン登場)バイキンマンを見つけたアンパンマンは、「弱いものイジメはやめろ〜」と言って、バイキンマンと闘わなければならない。
第4条(アンパンマンピンチ)バイキンマンは、新兵器等で、アンパンマンをピンチに陥れなければならない。
第5条(顔交換)バタコさんは、新しい顔を持って、アンパンマンの所に現れ、「新しい顔よ!」といって、アンパンマンの首に顔を投げつけなければならない。
第6条(決着) アンパンマンは、「元気100倍!」といって、バイキンマンにアンパンチを食らわせなければならない。

第二篇 登場人物
第1章 キャラクター総論
第7条(登場人物の義務)キャラクターは、その名が表す食べ物の特徴を踏まえて行動しなければならない。
第8条(新キャラ)マンネリ化を防ぐため、新キャラを毎回投入する。
第2章 サブキャラ
 第1節 サブキャラ総論
第9条(サブキャラ)ジャムおじさん、チーズ、ドキンちゃん、食パンマン、カレーパンマンメロンパンナちゃん、カビルンルンをサブキャラとする。
 第2節 各キャラの特徴
第10条(ドキンちゃんドキンちゃんは永遠のツンデレでなければならない。
第11条(チーズ)チーズの食事は、アンパンマンの古い顔とする。

(中略)

第3章 新キャラ
 第1節 新キャラ総論
第57条(命名法) 新キャラは「食品名+マン」とする。
 第2節 新キャラ各論
第58条(おむすびマン) おむすびマンは、おにぎり型の顔をし、ふところに、ワライタケの粉をしのばせなければならない。

(中略)

第三篇 基本パターン
第1章 バイキンマン登場
第100条(努力義務)バイキンマンがどんなバレバレな変装をしても、町のみんなは絶対にバイキンマンだと見破らないよう、注意しなければならない。
第2章 やられ役
第101条(配慮義務)カバオばかりがやられ役だと飽きるので、適宜他のキャラがやられ役になるよう、配慮しなければならない。

(中略)

第五篇 アンパンマンピンチ
第1章 バイキンマンの攻撃
第248条(攻撃目標)アンパンマンの弱点は顔である。徹底的に顔を攻撃すること。
第249条(新兵器)バイキンマンは、毎回新兵器を開発しなければならない。

(中略)

第2章 攻撃方法各論
第274条(水攻撃)バイキンマンが水で顔を攻撃した場合には、アンパンマンは「顔が濡れて力がでない...」と嘆かなければならない。
第275条(カビ攻撃)バイキンマンがカビ等で顔を攻撃した場合には、アンパンマンは「顔が汚れて力が出ない...」と嘆かなければならない。

(中略)

第7篇 決着
第489条(アンパンチ)アンパンマンは、アンパンチで、バイキンマンを殴ることで決着をつける。但し、次週もバイキンマンが元気に登場できるよう、殴る強さを加減しなければならない。
第490条(バイキンマン)殴られたバイキンマンは、「バイバイキーン〜」といってすっ飛んでいかなければならない。

第8篇 付則

参考:http://mrcn-tru.hp.infoseek.co.jp/anpan/index.html


 この法律にひきなおして考えてみよう。
 まず、第一篇で総則がある。この総則は、それ以降の2〜8篇すべてにおいて適用される。
 そして、第2篇についても、全キャラクターについて適用される第1章があり、その下に、サブキャラ、新キャラという章がある。
 さらに、第2章のサブキャラにも第1節というのがあり、これが、第二節以下の各キャラにおいて適用される。

 そこで、チーズについて考える場合にも、単に第11条を見るだけではなく、第9条を見て、チーズの位置付けがサブキャラだということを確認したり、第7条を見て、キャラクターの義務を確認したりしなければならないのである。


 パンデクテンシステムのメリットとしては、条文の数が少なくなることが挙げられる。例えば、キャラクター総論の規定はどんなキャラクターにも適用されるのが原則であるから、アンパンマンの義務、バイキンマンの義務、カビルンルンの義務….等を個別に規定してしまうと、条文の量が膨大になってしまう。これに対し、キャラクター総論にキャラクターの義務を1つまとめ、総論の規定が原則として全ての類型のキャラクターに適用されるとすることで、コンパクトな条文体系を構築できる。

 しかし、パンデクテンシステムには、学習の困難というデメリットがある。これがまさに、上記欠陥であり、同じチーズについて考える時にも、様々なところから条文を引っ張り出して操作しないといけないのである。
ある程度学習がすすみ、どこにどのような条文があるのかが明確になるまでが、非常に大変である。条文の順番に学習を進めるのではなく、内田民法を利用して、ある事例にはどのような条文が適用されるかといった事例中心の学習を進めることで、さまざまな所にある条文を使いこなせるようにする必要がある。

まとめ
2004年の東京大学ロースクールの入試問題は「民法典の構成がパンデクテンシステムを採用していることのメリットとデメリットを具体的な例を挙げながら600字以上1800字以内で論じなさい。」であった。
上に書いたようなことを書けば合格できる!?

学校法人 リリアン女学園 寄附行為は、この記事の大きなインスパイア元です。素晴らしい記事を懸かれたid:g-archives様、ありがとうございました。