古い本の新しい議論
- 作者: 清宮四郎,阿部照哉,佐藤功,杉原泰雄
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 1987/09
- メディア: 単行本
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古い本である。
私が生まれる前後に出版された演習書である。
しかし、この中に面白い議論があった。
小選挙区制においては(中略)選挙人は候補者の人物を第一の選択理由としてあげ、候補者の属する政党のプログラムに関する論争は背後におしやられ、地方的利益の問題が優先してとりあげられる(中略)
大選挙区において(中略)候補者の人物よりもその所属する政党のプログラムに投票する。候補者または正当は、地方的利益に関する問題でなく、国家的大問題または国の政策を選挙運動に際し優先して議論することができる。
引用元:新版憲法演習p49
普通に考えると「この考えは、先の郵政選挙で否定された! 小選挙区でこそ郵政民営化という国の政策を優先して議論できる!」とも思える。
しかし、この本の指摘したような現象、即ち「小選挙区制度では、選挙人は候補者の人物を第一の選択理由としてあげ、候補者の属する政党のプログラムに関する論争は背後におしやられ、地方的利益の問題が優先してとりあげられる」という現象は、小選挙区制導入直後には頻繁に起っていたことである。「国策を論じ、政党のプログラムに従い投票するかと思って、小選挙区制度を取り入れてみたものの、実際には、大選挙区の方がよかった」といった声も聞かれた。
ネットで適当にひっかかったものを引用してみよう。これは、96年の沖縄タイムスの記事である。
小選挙区比例代表並立制の導入の狙いは、政党本位の選挙にして「政策を競う」ことだった。しかし、県内の各陣営の評価は全般に厳しいようだ(中略)
小選挙区では1位しか当選せず、2位以下に入れた有権者の意向は無視され『死票』になる。勝敗だけが優先され、政党本来の主義・主張、政策が軽く見られる
引用元:http://www.okinawatimes.co.jp/senkyo/syu961012_1.html
そう、この古い演習書は、小選挙区導入の10年も前に、小選挙区導入後に起る状況を予言していたのである。
そして、今後郵政選挙のような、政党重視選挙が続くとしても、「演習・憲法」の呪縛を逃れるのに、日本は小選挙導入から10年かかったという事実は現前として存在するのだ。
まとめ
古い本には、意外な事実が書いていることも多い。
見事に未来を言い当てる本もたくさんあるのである。
こういう本があるから、私は新しい本も古い本も大量に買いこんでしまう...*1
*1:図書館で借りろというツッコミはナシで。