正義の味方は刑法違反?
1.敵キャラ(バイキンマン等)が、「被害者キャラ」に迷惑をかける。
2.正義の味方が敵キャラを見つけ、戦闘を開始。
3.敵キャラの策略にはまり、正義の味方がピンチに陥る。
4.正義の味方は援軍、ないしは合体等(スーパー戦隊系)で窮地を脱する。
5.正義の味方が必殺技で敵キャラをやっつける。
これは、アンパンマンでもそうだし、ジュウレンジャー等のスーパー戦隊等でも同じ法則である。しかし、これらの正義の味方の行動は、刑法の大原則たる罪刑法定主義に違反すること甚だしい、違法行為である。
そもそも、罪刑法定主義とは
何が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるかはあらかじめ法律で規定されていなければならない
松宮孝明「刑法総論講義」p19
という大原則である。
この大原則は、自由主義と民主主義から導かれる。
そもそも、自由主義を基調とする近代国家においては、国民は、何をすることができ、何をすることができないかを事前に知らされていなければならない。後だしじゃんけんで、「あ、これ実は違法だったの! 死刑!」とされてはたまらないのである。
そこで、何が犯罪となるか、つまり「これをしてはだめ、これ以外は自由」というダメなことを、予め定めなければならないのである。
そして、この定め方は、民主主義からは、法律によらなければならない。「これをすることができない!」といってそれをした者に刑罰を与えるという国民の権利制限をする以上、何がしてはならないことかは国民自身が決めないといけない。まあ、国民が1億2千万人集まるわけにいかないので、代表者たる国会議員が決めることになる。
これが、罪刑法定主義である。
ところが、正義の味方を見てみよう。
確かに1.で敵キャラがやっていることは悪いことかもしれない。しかし、法律で「これをやっていけない」と書いている訳ではない。あくまでも「悪そうな」ことに過ぎない。
そもそも、道徳的にいくら悪いことであっても法律に書かれていない以上罰せられないのである。例えば姦通(要するに不倫)は、道徳的に悪いが刑法に書いていない以上罰せられないのである。
この意味で、正義の味方が法律の規定に基づかず、敵を「罰する」こと自体が、罪刑法定主義違反の違法な行為なのである(法律主義)。
とはいえ、「一応法律はあるかもしれない」。こういう反論は考えられるだろう。
アンパンマンのマーチからヒントになる部分を引用する。
そうだ おそれないで
みんなのために
愛と 勇気だけが ともだちさ
ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため
(中略)
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ どんな敵が あいてでも
ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため
引用元:「アンパンマンのマーチ」作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし 編曲:大谷和夫
まず、ヒントになるのは「いけ! みんなの夢 まもるため」であろう。刑法が刑罰による行為制限ができるのは法的保護に値する利益(生命・身体・財産等。保護法益という)を保護するためである。そして、このフレーズは、「みんなの夢」が保護法益だということを示している。
また、「どんな敵が あいてでも」というフレーズからは、「みんなの夢」という法益を害する「敵」が刑罰発動の要件だということがわかる。
こう考えると、正義の味方の世界にはこういう法律があるとも考えられる。
アンパンマン刑法
1条 この法律は、敵による侵害からみんなの夢を守ることを目的とする。
2条 みんなの夢を侵害した敵はアンパンマンにより処刑される。
このような感じであろうか。そう、こうすれば正義の味方が法律の規定に基づかず、敵を「罰する」という事態はなくなる。万歳!
しかし、そうではない。いくら罪刑法定主義とはいえ、1円の物を盗んだ人を死刑にするわけがない。罪刑の均衡(内容の適正)が必要である。また、具体的に何が犯罪で、どういう刑罰が科されるかという明確性も必要である。
ところが、このアンパンマン刑法においては、何が犯罪かわからない。カバオの持っている食べ物を取り上げるといった窃盗・恐喝のような行為のみならず、かわいそうな虫歯菌を助けるという正当防衛行為*2や、ドキンちゃんに脅されての緊急避難行為もアンパンマンにより罰せられてしまう。これは内容の適正がないし、何が犯罪かわからないという意味で明確性がない処罰といえる。
また、どんな軽い犯罪でも、アンパンチによって向こうの山まで殴り飛ばされてしまう。苔刑(鞭打ち)等の身体刑は近代以降は廃止され、日本国憲法36条で「残虐な刑罰」として禁止されている。この苔刑よりも激しい苦痛を与えるアンパンチは「残虐な刑罰」を軽い法益侵害に対しても与えているのである。
まとめ
正義の味方の行為は、法律主義に反する。
仮に法律があっても、実際に何が罰せられるか分からないし、場合によっては違法性がないのに罰しているので、内容の適正・明確性に欠ける。
更に、刑罰内容も殴り飛ばすという「残虐な刑罰」であり、しかもこのような重い刑罰が、どんな軽い法益侵害に対しても科せられるのであるから、これもまた内容の適正に欠ける。
以上より、アンパンマンは、特別公務員職権濫用等致死傷(196条, 195条)の重罪人である!