アホヲタ元法学部生の日常

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ドイツ語版マリア様がみてるレビュー

Rosen unter Marias Obhut 01: Light Novel

Rosen unter Marias Obhut 01: Light Novel

マリア様がみてるの関連作品レビューは世にたくさん存在しますが、ドイツ語版マリア様がみてるは、存在そのものが、あまり世に知られていない。
http://kirameki.snow-sugar.de/blog/2007/01/05/marimite-german/様が、概要レビューをされているが、内容に踏み込んだレビューがないようなので紹介したいと思う*1


・全体的なよいところ
 結論から言えば、ファンにとってはうれしい丁寧な訳出という点が好印象である。全体的に1文1文を丁寧に訳しているという感じが見られる。
具体的に冒頭部分を試訳してみる*2(試訳部分1/16追記)

>Warte!<<, hoerte Yumi jemandem hinter sich rufen, als sie eben an der Weggabelung am Ende der Ginkgo-Allee angekommen war. Da Yumi sich gerade bei der Marienstatue befand, dachte sie fuer einen kurzen Moment, die Heilige Maria selbst haette zu ihr gesprochen.
Oyuki Konno,Rosen unter Marias Obhut p8

直訳

ちょうど祐巳が銀杏並木の終わりの、道が分岐する所にさしかかった時、「待ちなさい!」、と誰かが後ろから叫んだのを聞いた。祐巳はちょうどマリア像の前にいたので、彼女は一瞬の間、聖母マリア様自身が彼女に話しかけたのではないかと考えたのであった。

本文

「お待ちなさい」
とある月曜日。
銀杏並木の先にある二股の分かれ道で、祐巳は背後から呼び止められた。
マリア様の前であったから、一瞬マリア様に呼び止められたのかと思った。
今野緒雪マリア様がみてる」p8

比較すれば明らかなように、ほぼ完璧に訳されており、唯一訳出のない「とある月曜日」も他の部分から分かる(ニュアンスが変なのはronnorの訳が下手なだけ)。

 「ごきげんよう」は「Sei(d) Gegruesst!」と訳されており、普通のドイツ語の文脈では「ようこそ」という訳になるのだろうが、格式ばった挨拶言葉を探すのに苦心したという感じが伝わってくる。
 純日本的な内容も、福沢諭吉や盆踊り等を、注釈をつけながら使うことで、日本語の意味を残しながら外国人にもその言わんところを伝えようとしている感じがよくわかる。
 原作の雰囲気を損なわずにドイツ語化しようとしている良好な作品といってよいのではないか。


・改善して欲しいところ
 細かなことをいうと、
・一部いくつか訳出されていない文章がある
 例:ナツメさんの意味を解説している部分の「ナツメ→夏目漱石福沢諭吉福沢祐巳*3
・一部誤字・脱字が見られる
 例:p223第3行目「Mit jedem von Sachikas Seufzern」→「Mit jedem von Sachikos Seufzern」
 といった点があるが、そこまで大きな問題ではない。


・お気に入りのシーン

>>Ich fasse es nicht, Suguru! Du bist bi?!<<
Oyuki Konno,Rosen unter Marias Obhut p238

 直訳すれば「まさか! 優、お前はバイセクシャルか!」となる。いわゆるロサ・ギガンティアの「おのれ柏木、両刀だったか……!」という名台詞であるが、アニメやドラマCDでは大人の事情でカットされていた発言*4であり、これが省略されていないか心配していたところ、ドイツ語版では、きちんと訳出されていることには好印象を持った。ちなみに、biはbisexuell(バイセクシャルの)の略語である。


・おすすめ読者層
 基本的には、マリみてファンでかつ過去にドイツ語を学んだことがある方にお勧めできる作品であろう。
多少地の文に難しい表現があるが、会話部分だけを読んでいっても筋は追えるので、ドイツ語があまり得意でない場合には、原作を読んでから、会話部分(比較的易しいドイツ語)だけを追って読んで行くのがよいだろう。
 法学部生・ロースクール生で、法律ドイツ語を学ばなければならない方は、Eheschliessung(婚姻、p78)、absichtlich(故意に、p156)等の法律用語も豊富(?)に出てくるドイツ語版マリみてで法律ドイツ語を磨くのも手ではないだろうか。
 ちなみに、最もお勧めなのは、ドラマCDの「マリア様がみてる1」「マリア様がみてる2」*5を聞いてから読む方法である。これによって、会話部分が植田佳奈さん、伊藤美紀さんをはじめとする声優陣の声で頭の中に響いてくるように感じられる*6ので、楽しみが2倍になる。


・今後の注目点
 今後も2、3巻が出る予定のようだ*7が、ドイツ語版シリーズの注目作品は第八巻「いとしき歳月(後編)」である。この中の「片手だけつないで」に

志摩子
そう呼ばれるのが、私にはとても心地よかった。
志摩子さんでも志摩子ちゃんでもない。ただの志摩子
今野緒雪マリア様がみてる いとしき歳月(後編)」p199

という一節がある。

ところが、

ドイツ語版では名前は呼び捨てでほぼ統一されているのである。
例えば、「祥子さま」「私にロザリオをください」(原作p228)は、「祥子、私にロザリオをください」では話として成立しない*8が、ドイツ語版では

>>Aber Sachiko!<<
>>Bitte geben Sie mir Ihren Rosenkranz!<<
Oyuki Konno,Rosen unter Marias Obhut p255

と、呼び捨てにしている*9。その他のシーンもほとんど同じであり、数少ない例外として、祥子様が自分よりも若い祐巳と親しい関係にあることを示すために「Yumilein」という縮小語尾(-lein)を祐巳につけた例(p48)がみられるが、それもすぐに「Yumi」に戻っている。

これもそのはずであり、ドイツの学生間の名前の呼び方として、名前の呼び捨てが一般的であり、場合によっては、名前を短縮したりしたあだ名で呼ぶことがあるが、「さん付け」「様付け」等をすることがほぼないからである。

だからこそ、さん付け・様付けという日本文化を背景として濃厚に持つ、「片手だけつないで」における上記シーンをどうドイツ語に訳出するかは、日独の言語差異のみならず、文化差異を含めた問題を抱えているのであり、非常に興味深いのである。

まとめ
マリみてドイツ語版は、ドイツ語を学んだことのあるマリみてファンにとって大いにお勧めできる本である。
第8巻の「志摩子」という呼び方をどう訳出するかが非常に興味深いところであり、これを読むためにも、第8巻が出るように、マリみてドイツ語版を買おうではないか!

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*1:1/15に「見逃していたらすみません。」と書いていたところ、やはり見逃していました。レーヌスのさざめき様の「『マリみて』のduとSie」です。duzenとSiezenの呼称について言語学的な観点から紹介されております。見落としてしまい、申し訳ございません。

*2:綾小路菊代の学校みたいだが...

*3:日本語的表現が多く、訳するのが苦しいのであえてカットしたものと思われるが、頑張って欲しかった

*4:マンガ版では残っています。

*5:ドラマCDシリーズ 「マリア様がみてる」ドラマCDシリーズ 「マリア様がみてる 2」ですね。

*6:個人差があります

*7:Rosen unter Marias Obhut 02: Die Revolution der Gelben Rosen

*8:むしろ、水野蓉子様が祥子様にロザリオを返せといっているように聞こえる

*9:ここは、あえてSieで呼んでいることにより、丁寧に、ロザリオを下さいませと懇願する様がよく描写されていること点も注目に値する。