被疑者両津勘吉〜銃刀法違反で逮捕された両さんの運命は!?

- 作者: 秋本治
- 出版社/メーカー: 集英社
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被 疑 事 実
被疑者は、業務その他正当な理由による場合でないのに、平成19年2月26日午後1時10分ころ、東京都葛飾区×丁目○番△先の土手において、刃体の長さ約8.5センチメートルの十徳ナイフ1本を携帯*1したものである。
両津勘吉が今週号のジャンプ内で不法にナイフを携帯した行為は、【2/26】両津勘吉氏、ナイフ所持で逮捕(?) (The 男爵ディーノBLOG)様が指摘される通り、銃刀法22条、32条に違反する違法行為である。
銃刀法第二十二条 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。ただし、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、政令で定める種類又は形状のものについては、この限りでない。
同法第三十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
略
五 第二十二条の規定に違反した者
両さんが持っていたのは、折りたたみ式ナイフで、大きさが8cmを超えるものであるから、刃体の長さが6センチメートルを超える刃物であり、かつ、「8センチメートル以下の折りたたみ式のナイフ」にも該当しない以上、具体的にそれから使う予定があったり、買って持ち帰っているところといった「正当な理由」がない以上は違法なのである*2。
逮捕された両さんは、その後どうなるか。
まず、警察は逮捕後48時間以内に検察官に身柄と記録を送致する(刑事訴訟法203条)。送致後、検察官が弁解を聞く(その際、弁解録取書を作成)。その上で、勾留が相当であれば、送致から24時間以内に勾留を裁判官に請求する(刑事訴訟法205条)。勾留が認められると、10日間、延長があれば計20日まで*3被疑者は拘束され、その中で、取調べを受け、通常は勾留の最終日に起訴・略式請求・起訴猶予といった処分がなされる。
取調べの結果、その内容をまとめた、供述調書が作成される。
供 述 調 書
本籍 東京都台東区浅草△丁目×番地○
住居 東京都千代田区神田小川町×丁目○番地△号超神田寿司共同部屋
職業 警察官
氏名 両津勘吉
昭和27*4年3月3日生(35歳)
上記の者に対する 銃刀法違反 被疑事件につき、平成19年2月28日東京地方検察庁において本職は、あらかじめ自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。
1.私*5は、平成19年2月26日午後1時10分ころ、江戸川の河川敷において、刃渡り8.5cmの十徳ナイフをポケットの中に入れ、いつでも使える状態で持っていました。
私は、いつも十徳ナイフをポケットに入れて、使いたければいつでも使える状態にしていました。
その理由は、ナイフに缶切等がついており、缶詰を開ける等、サバイバルのために便利だからでした。
問 サバイバルのために便利というが、野宿をする等、サバイバルが必要な生活をしていたのか。
答 野宿はしていませんが、趣味でサバイバルゲームをしたり、起伏にあふれている生活をしていました。
問 すると、生活のために持っていたということか。
答 生活のためではありませんでした。
問 十徳ナイフなどなくとも、缶詰を歯で開ける等してサバイバルできるのではないか。
答 そう言われれば、そうですね。
問 当日は、サバイバルゲームをする等、ナイフを使う具体的な予定があったのか。
答 ありませんでした。
問 当日は、警察官としての職務の遂行のためにナイフが必要だったのか。
答 必要ではありませんでした。
2.当日も、いつものように、十徳ナイフをポケットに入れていたところ、上司から、土手のホームレス対策をするように命じられ、ナイフをポケットに入れたまま、江戸川の土手に向かいました。
葛飾区×丁目○番地△先の土手で、顔見知りのホームレスの男を見つけたので、
よう
とあいさつをしました。
その男は、
あっ、両さん
と驚いた風に言いました。
見ると、その男は、缶詰を持っており、困った風でした。
そこで、
なんだそりゃ!
とその男に事情を聞いたところ、その男は、
缶切りがなくて開けられないんだ。
と答えました。
私は、自分の十徳ナイフに缶切がついているのを覚えていましたから、
缶切りあるよ。
と言って、その男に十徳ナイフを見せ、その男から受け取った缶詰の蓋を開けました。
その後、その男に請われるままに十徳ナイフについているスプーン等を見せた後、そのナイフをもともとあったポケットの中にしまいました。
3.特に使う予定もないのに、ナイフをすぐ使える状態で持っていることが悪いことだというのは、ニュース等で聞いて知っていました。
しかし、
わし*6のことは、冥界さえ受け入れを拒絶するくらいなのだから、ナイフくらいで刑務所に入れられることはないだろう
ナイフを持っているのは、自分のサバイバルのためや、ホームレスを助けたりするだけで、悪いことには使わないのだからいいだろう
と、安易に考えてしまい、ずっとナイフをポケットの中に入れていました。
4.私は、悪徳商法をして警察に話を聞かれたことが何回もありました。
その他にも、かつての葛飾署を爆発させ、水上警察の捜査艇を沈めたこともありました。
これらの不祥事で、始末書は3万枚以上書きました。
今回、危険なナイフを安易な気持ちで携帯してしまったことについては、反省しています。
今後は、もう二度と必要がないのにナイフを携帯したりはしません。
以上の供述内容を、供述人の面前で検察官が入力して録取した上、印刷して供述人の確認を受けることにした。
上記印刷したものを供述人に手渡して読ませながら,検察官がパソコン画面で読み聞かせたところ,供述人は,内容に誤りがない旨を申し立てた上,各ページの欄外に指印し,次の行に署名指印することとした。
供述人 両津勘吉 指印
供述人は上記供述内容等確認部分の記載を確認の上署名指印した。
前同日
東京地方検察庁
検察官検事 ××××
ジャンプ発売日(月曜日)に逮捕で、28日の朝に送検をした場合、通常作成されるのは「弁解録取書」である。
しかし、事案として「軽微」で「証拠が既に集まっており」、かつ被疑者の「反省の色が濃く」、「住居・仕事がしっかりしている」等、勾留をするまでもなく、略式手続(書類だけを裁判官が読んで100万円以下の罰金を命じる。異議があれば正式裁判が可能。)で罰金を命じれてもらえばよいという場合には、逮捕中在庁略式、つまり、勾留請求の代わりに略式手続で罰金を命じてもらって、被疑者は釈放するという場合もある。
この場合には、上記のような供述調書を取って、起訴状を書いて、裁判所に書類を送って略式命令を請求する。
平成19年(検)第○○○○号
起 訴 状
平成19年2月28日
東京簡易裁判所 御中
東京区検察庁
検察官事務取扱検事 ×××× 印
下記被告事件につき公訴を提起し、略式命令を請求する。
記
本籍 東京都台東区浅草△丁目×番地○
住居 東京都千代田区神田小川町×丁目○番地△号超神田寿司共同部屋
職業 警察官
両津勘吉
昭和27年3月3日生公 訴 事 実
被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、平成19年2月26日午後1時10分ころ、東京都葛飾区×丁目○番△先の土手において、刃体の長さ約8.5センチメートルの十徳ナイフ1本を携帯したものである。
罪名及び罰条 銃砲刀剣類所持等取締法32条5号、22条
さて、起訴状と書類を受け取った簡易裁判所としては、公訴事実がこの証拠から証明され、かつ罰金刑が相当と考えられる場合に、略式命令を出す。法定刑が30万円以下の罰金なので、1万円〜30万円の罰金ということになる。反省しており、警察官として職務上の制裁もある*7と考えれば、10万円位になるかもしれないが、これまでの悪業を考慮して、罰金の上限辺りの命令が出る可能性もある*8。
平成19年(い)第×××××号
略 式 命 令
本籍 東京都台東区浅草△丁目×番地○
住居 東京都千代田区神田小川町×丁目○番地△号超神田寿司共同部屋
職業 警察官
銃刀法違反 両津勘吉
昭和27年3月3日生
上記被告事件について、次のとおり略式命令をする。
主 文
被告人を罰金20万円に処する。
東京区検察庁で保管中の十徳ナイフ1本(平成19年検領第○○○号)を没収する。罪となるべき事実
被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、平成19年2月26日午後1時10分ころ、東京都葛飾区×丁目○番△先の土手において、刃体の長さ約8.5センチメートルの十徳ナイフ1本を携帯したものである。
適用した法令
銃砲刀剣類所持等取締法32条5号、22条
刑法19条1項1号、同条2項本文
平成19年2月8日
東京簡易裁判所
裁判官 ○○○○ 印
訴訟関係人はこの命令送達の日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる。
まとめ
現在、「*9ナイフの携帯」類型の銃刀法違反は略式で処理して罰金を取っていることが*10多い*11。
銃刀法は1条で銃刀類の所持・使用に関する危害予防を趣旨だとうたっている。果たして、小さな*12ナイフを携帯することを罰則をもって規制することが、どれだけ「危害予防」につながるのか。また、軽犯罪法1条2号*13との整合性はあるのか。
両さんの逮捕は、銃刀法の規定を疑わない実務に、大きな疑問を投げかけている*14。
*1:所持者が手に持つか、又は身体に帯びるかその他それに近い状態で現に携えていると認められる場合が携帯である、銃刀法研究会編「銃刀法の基礎知識」p146参照
*2:この近辺は、3月1日に補足した
*3:一定の重罪は25日まで
*4:計算が合わない...。
*5:主語が「私」なのは、本文については、捜査官がまとめてしまうので、表現はおとなしくなることが多いから。
*6:ここだけ「わし」なのは、発言部分はできるだけ本人の発言を尊重するから。
*7:そのうえ、贖罪寄付(?)として1億円を寄付している
*8:これまでの悪業を最大限考慮すれば、罰金なんかではだめで懲役ということにもなりますが、余罪を処罰することは禁止されているので、せいぜい罰金と思われます。
*9:刃渡り6cm以上の
*10:少なくとも他の犯罪と比べる限りにおいて
*11:http://www.gov-online.go.jp/publicity/book/kanpo-shiryo/2007/070214/siry0214.htmによれば、他の犯罪が約50%の起訴猶予率なのに、銃刀法違反の起訴猶予率は30%台
*12:刃渡り6cm以上だけど小さなという意味
*13:正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者を拘留又は科料に処している
*14:以上の内容につき、2月28日午後大幅に修正した。