アホヲタ元法学部生の日常

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特別寄稿〜あゆあゆの「鯛焼問題」についての新たな考察〜Kanon法学の形成と展開II

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あゆあゆの「鯛焼問題」に関する法的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常においては、いわゆるあゆあゆの「鯛焼問題」について法的考察を行った。

そもそも、鯛焼問題とは

 あゆが鯛焼き屋につぶあん入りの鯛焼きを注文したところ、鯛焼き屋はこれを聞き入れて鯛焼きを製作し、あゆに引き渡したあゆは代金を支払おうとしたところ、懐中無一文であったが、何としてもつぶあん入りの鯛焼きを食べたいと思い立ち、引き渡された鯛焼きを持ったまま、鯛焼き屋の隙を突いてその場から逃走した。追跡を振り切ったと見て、あゆが鯛焼きを一口食べてみたところ、その具材はつぶあんではなくカスタードクリームであることが判明した。あゆは、こうした意に沿わない具材を入れられた鯛焼きは食べるに値しないと考えたが、ちょうどその時鯛焼き屋があゆを発見し、あゆに代金の支払いを求めた。しかし、あゆは「カスタードクリームみたいな邪道な鯛焼きに払う金なんてないよっ。」として、応じようとしない。このとき、鯛焼き屋はあゆに対して、法律上どのような請求が可能か。

という問題である*1。この問題について、名無しさんだよもん様から、以下のような回答例を特別に寄稿いただいた。

 1 あゆと鯛焼き屋の間にはつぶあん入り鯛焼きを目的物とした売買契約(555条)が有効に成立しているといえる。そこで、鯛焼き屋があゆに対して�売買契約に基づいて代金債務の履行請求が可能か、及び、�不当利得に基づいてカスタード入り鯛焼きの返還請求が可能かが問題となる。
 2 鯛焼き屋は、あゆに対して、売買契約に基づいて代金債務の履行請求が可能か。
 (1) ここで、売買契約が有効に成立している以上、あゆには代金債務が発生しており、鯛焼き屋屋台という業務の態様に鑑みれば、その履行期は契約成立の直後であると解しうる。よって、鯛焼き屋はあゆに対し、既に履行期の到来した代金債務の履行を請求できる。
 (2) ただし、契約の目的物はつぶあん入り鯛焼きであるのに、鯛焼き屋は誤ってカスタード入り鯛焼きを引渡しており、これは債務の本旨に従った履行とはいえないから、鯛焼き屋もまた履行遅滞に陥っているといえる。
 そこで、あゆは同時履行の抗弁権(533条)に基づき、「鯛焼き屋から目的物の引渡の提供を受けるまでは、代金の弁済を提供しない」と主張することが考えられる。
 (3) しかし、鯛焼き屋は顧客の注文に応じてもっぱら自己の用意した材料を用いて鯛焼きを製作しなければならない一方で、仮にここで鯛焼きを完成させてあゆに引渡しても、あゆが懐中無一文である以上、鯛焼き屋が代金を回収できないおそれがある。
 そこで、鯛焼き屋はあゆに対し不安の抗弁権を主張できるか。
 思うに、不安の抗弁権とは、同一の双務契約から生じた債権債務に牽連性がある場合において、相手方の信用状態の悪化等、客観的に見て債務の履行を危殆化する不安が生じたときに、たとえ自己の債務の履行期が到来したとしても、かかる不安を取り除く保証を相手方が与えるまでは、信義則上自己の債務の履行を拒絶できる権利と解する。
 これを本問について見ると、あゆの代金債務と鯛焼き屋の引渡債務は、同一の双務契約から生じており牽連性があるといえ、鯛焼き屋が支払を免脱するため逃亡を図ったという事情から、債務の履行を危殆化する不安も生じていると認められる。
 よって、鯛焼き屋はあゆに対し、不安の抗弁権に基づき「代金の弁済を提供した後でなければ、目的物を引渡さない」と主張することができる。
 (4) 以上より、鯛焼き屋はあゆに対して売買契約に基づいて代金債務の履行請求が可能であり、その際には不安の抗弁権に基づいて、あゆの代金の提供があるまではつぶあん入り鯛焼きの引渡の提供を拒否できる。
 なお、あゆが支払に応ずる場合は、通常の代金に加えて損害賠償として法定利息を請求でき(404条、419条)、あゆが支払に応じない場合は、相当の期間を定めて催告をした上で、債務不履行に基づく売買契約の解除が可能である(541条)。
 3 鯛焼き屋は、あゆに対して、不当利得に基づいてカスタード入り鯛焼きの返還請求が可能か。
 (1) ここで、売買契約の目的物は「つぶあん入り鯛焼き」であるから、当然に、「カスタード入り鯛焼き」は売買契約の目的物でない。
 よって、鯛焼き屋があゆに引き渡したカスタード入り鯛焼きは売買契約という法律上の原因なく受けた物であり、鯛焼き屋はカスタード入り鯛焼きの分を損失したといえるから、あゆは鯛焼き屋に対し、カスタード入り鯛焼きを不当利得として返還する義務を負う(703条)。
 (2) ただし、あゆは鯛焼き屋がつぶあんとカスタードを取り違えたという事情を知らずに、カスタード入り鯛焼きを「売買契約に基づいて自己に移転されたつぶあん入り鯛焼き」であると信じてかじったのであるから、あゆは704条にいう悪意の受益者にあたらないといえる。
 よって、あゆは「その利益の存する限度において」カスタード入り鯛焼きを返還する義務を負うから(703条)、かじりかけの鯛焼きのみを返還すれば足りる。
 (3) 以上より、鯛焼き屋はあゆに対して、不当利得に基づいて「かじりかけのカスタード鯛焼き」のみの引渡を請求できる。
 4 まとめると、鯛焼き屋はあゆに対して、�売買契約に基づいて代金の支払の請求が可能であり、その際には損害賠償として法定利息を加えた額を請求でき、さらに�不当利得に基づいて「かじりかけのカスタード鯛焼き」の返還請求が可能である。
                            以上

見事な回答である。

ronnorは、大雑把にまとめると

結論:鯛焼き屋はあゆあゆに対し、契約を取り消してかじりかけの鯛焼きの返還を請求でき、損害が填補されなければ、あゆあゆ及びその法定代理人に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求できる
理由:あゆあゆの行為は詐欺であり、契約を取り消しうるから

という回答をしたのであったが、名無しさんだよもん様のおっしゃる通り、Kanonの原作に忠実に考えれば、「あゆが鯛焼き屋に注文をして鯛焼き屋が聞き入れた時点で売買契約が成立し、この時にあゆには代金を支払う意思がある」以上詐欺取消は困難である。
 だからといって、「鯛焼き屋は契約の錯誤無効を理由に鯛焼きの返還を請求できる。」と考え、その上で賠償責任については不法行為で解決しようとすると、これまた名無しさんだよもん様のご指摘の通り、

  1ア 鯛焼き屋の主張するような客の資力に対する鯛焼き屋の考えが、契約時にあゆに対して表示されていないのであるから、鯛焼き屋の錯誤は単に動機の錯誤であるにすぎず、錯誤無効は認められない。
  1イ そもそもあゆは財布をたまたま忘れてきたにすぎないのであって、財布さえ持ってくれば代金を支払う能力はあるのだから(劇中描写では最終的に金を払って和解するので)、あゆを無資力であるとする鯛焼き屋の主張自体失当である。
  2 本件売買契約が有効である以上、その効力として本件鯛焼きの所有権は当然にあゆに移転する。さらに、あゆは鯛焼き屋から契約に基づいて本件鯛焼きの現実の引渡を受けている以上、鯛焼き屋の意に反して本件鯛焼きの占有を侵害したとはいえない。よって、あゆの持ち去りは鯛焼き屋の権利又は法的利益を何ら害するものでないから、不法行為にあたらない。

という反論にあう。

 なんとかこの点を解決するため、私は、あゆあゆが「食い逃げの常習犯」というところを利用する筋を提案した。

 あゆあゆが常習犯である以上は、事実認定として、特段の事由ない限り、未必的詐欺の故意(少なくとも、「お金があればお金を払うが、なかったら食い逃げしてそれででかまわない」という意思)が認められる(事実上の推定)とした上で、「本問においては、あゆあゆが最初からお金をもっていないことを知って注文したか、お金がないことに気づかず注文したかのいずれであるか不明であり、少なくとも、詐欺の未必の故意を否定すべき特段の事由が認められない」として、詐欺を肯定する。

この筋であれば、(旧司法試験で事実認定をするのは自殺行為という点を除けば)問題は解決しそうである。
しかし、この筋は原作の1月7日の事件、つまりあゆが最初に持ち逃げした場合には、あゆを勝たせざるを得なくなる。この点の解決を図ったのが、上記「名無しさんだよもん様の回答例」である。

 非常に流れがよい答案であり、わかりやすい。内容面として、あえて突っ込むとすれば、3.以下の不当利得を論じるところで、「法律上の原因がない」という点について、留置権*2の成否を論じたほうが丁寧か*3等の問題はあるにせよ、それらは些細である。

まとめ
 あゆあゆの鯛焼き問題は、月宮あゆの呪縛により、解決困難に陥ったかに見えた。
しかし、名無しさんだよもん様の回答で、一件落着を見た。

補足:このエントリは、名無しさんだよもん様の許可を受け、「特別寄稿」形式とさせていただいております。本エントリのうち回答例部分及び引用部分の著作権は名無しさんだよもん様にあります。名無しさんだよもん様、非常に有益かつ素晴らしい投稿を、どうもありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。

*1:但し抜粋。正確には元エントリをご覧下さい。

*2:3/15の時点では事務管理などという訳の分からないことを書いておりましたが、これは大間違いです。留置権のことです。大変申し訳ありませんでした。(3/16訂正)

*3:あとは、あえて言うなら同時履行の抗弁をあゆが主張することが信義則上許されないとすれば足り、不安の抗弁を持ち出さなくてもいいんでないかとかですかね? また、あえていうなら、不当利得よりも、所有権は鯛焼き屋にあるといって物権的返還請求の方がいいのではないのですかね? (3/16追記)