アホヲタ元法学部生の日常

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SOS団よ戦前非合法日本共産党の失敗に学べ!

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

*本エントリには、「涼宮ハルヒの分裂」までのネタバレが含まれております
 SOS団とは、世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団の略称であり、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことを目的に涼宮ハルヒが作った組織である。

繰り返すがSOS団は正式には未認可であって、今なお秘密結社も同然の学内非合法組織である。公に団員募集などできるわけはない。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p31

そして、「分裂」でも上記のように指摘されている通り、SOS団は、「非合法秘密結社」である。

 このような、「(少なくとも本人達にとって)崇高な目的」をもって作られた「非合法秘密結社」といえば、すぐに思い浮かぶのが戦前の非合法時代の日本共産党である*1。戦前非合法日本共産党とSOS団には共通点が多い

一.戦時非合法共産党との共通点
* 便宜のために末尾に戦前非合法共産党の歴史略年表を添付した
 1.少数精鋭主義
 ハルヒは、

だから新入団員にだって妥協は許すまじと思うワケよ。こういうのは年々進化してないとすぐに腐敗しちゃうんだから
(中略)
あたしが作った入団試験、そのことごとくに合格するような一年以外は願い下げよ。ハードル競争の道は長くて、障害物は高いのよ。
涼宮ハルヒの分裂」p263,269

 と、簡単に団員を増やしていくのではなく、少数の精鋭によってSOS団の運営をしていこうとしている。

 これは、途中までは戦前非合法共産党も同じであった。レーニンは、「十人のリコウ者からなる組織と百人のバカからなる組織のどちらがよいか」という命題に対し、

バカは「百人のバカの組織」のほうが優れているという意見に拍手喝采するだろうが、「十人のリコウ者の組織」のほうが絶対によいのであって、「反民主主義」といわれようと、「諸君がどれほどわたしにたいして大衆をけしかけようと、わたしはこの命題を擁護するだろう」
立花隆日本共産党の研究(1)」p35

と言い切り、少数精鋭主義を取った。この影響下、少なくとも最初の一定期間は、共産党は少数精鋭主義を取っていた。例えば、第一次共産党解党後、共産党が再び拡大していく動きを見ると、1925年春7名、同年暮30名、1926年2月40名、同年暮125人である*2

2.完全なトップダウン

いい、みくるちゃん、この団ではリーダーの命令は絶対なのよ! 抗命罪は重いのよ!
涼宮ハルヒの退屈」p13より

 とあるように、SOS団では団長の命令が絶対な、完全なトップダウンになっている。

 この点は共産党も同じであった。過去の共産党規約14条の5には

党の決定は無条件に実行しなくてはならない。個人は組織に、(中略)下級は上級に(中略)したがわなくてはならない。
立花隆日本共産党の研究(1)」p136

 とあった*3ように、トップダウンの命令系統となっていた*4

3.入党のための高いハードル
 「たとえば我々が大々的に団員募集を声高に宣伝したりすればたちどころに」中止を命じられてしまう非合法秘密結社SOS団*5は、

みくるちゃんの美味しいお茶が飲み放題よって誘ってニヤケ面でうなずくヤツは入団試験の第一段階で不合格にしたわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p94

と、厳しい選考基準を定めただけではない。
入団試験の開催のお知らせを掲示板に張ったが、SOS団とはどこにも書かれていない*6

入団、文芸部。この二つのキーワードで解る一年生じゃなければ最初から来なくていいわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p286

ハルヒがいうように、試験を受けるだけでも大変であり、相当ハードルが高いキョンも「そりゃかなりの高ハードルだな。*7」と述べている。

 途中までは、共産党も同様に、入党が非常に大変であった。そもそも、共産党に入党すれば死刑*8の可能性があるのである。だからこそ、スパイが入ってきてしまったら大変であり、かつ、簡単に組織について外部者には漏らせない。

労働組合運動に熱心な男をマークしておいて、この男ならと見きわめると、
『遊びに来ないかね』
と自宅に呼ぶ。組合運動についてあれこれ話し合ってから何気ない調子で訊いた。
『君は日本に、共産党があると思うかね』
『あると思います。いや、きっとあります』
という答えをきくと、畳みかけるように訊いた。
『では君は、共産党に入党する意志はあるんだね』
男ははっとして顔色を変えた。そんな男の様子をじろりと流し目で見て、南*9懐中からピストルを取り出すとどすんと机の上に置いた。
『俺は共産党員だよ。君も入党するね』
『入党します』

と男は声をひきつらせて答えた。
『そうか入党するか。やれやれそう聞いて俺もほっとしたよ、もし入らぬと言ったら、俺はこれで君を消すつもりだった。党の組織を話したのだからな。
立花隆日本共産党の研究(1)」p186

 とあるような、命がけの入党だったのである。

4.縁の下で組織を支えるシンパ層

正しく察してくれた三年生にしてまだ現役の部長氏は、快くコードのソケットを貸してくれた。ハルヒによるコンピ研SOS団第二支部化は着実に進行しているようで何よりだ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p36

 SOS団には、意外と多くの団外支援者がいる。名誉顧問の鶴屋さんを始め、阪中さんのような団外関係者もいる*10。小泉の機関関係者も「太鼓持ち*11」としてハルヒの欲求を支えようとしている。ハルヒお姉ちゃんになついているキョン妹も含めていいだろう。これらのシンパ層の支援により、孤島や別荘に行く、朝比奈みちるを預かってもらう等々の援助を受けている。

 共産党シンパとしては学生と労働者が大きな役割を果たしていた。学生は東大の「新人会」を中心とした社会科学研究会の学生が、労働組合は、日本労働組合評議会(後の日本労働組合全国協議会)が主な外郭団体となった。そして、鶴屋さんのような資金援助等の様々な面でサポートする大スポンサーもいた。典型は、「経済学大綱」「第二貧乏物語」等で有名なマルクス主義経済学者で元京大教授の河上肇であろう。彼は党に2万5000円(1億円)近くのカンパをしており、後に入党し、党の機密書類を預かる*12等、党に対し、様々な面での援助をした*13

5.公金を私的に使う
 ハルヒは、文芸部に配分された「破格の*14」部費について

ついでに面白そうな物があったら部費で買っちゃいましょ」
その部費がSOS団のものではなく、文芸部の割り当て分であるのは言うまでもない。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p60

と、して公金を私的に使おうとしている。
 日本共産党も同じような人がゴロゴロいた。しかも、SOS団のようなかわいい額ではない
近藤栄蔵は、6500円(1976年当時の2600万円)をもらったが、料亭で芸者遊びをして警察に捕まり(下関遊興事件)*15、更に、徳田球一に渡った共産党設立資金5万円(2億円)は、安全のため同行の小林進に托していたところ、「恐怖の余り船中で海に投じた」ため(徳田の説明による)、なくなってしまう。更に、関東大震災後、第一次共産党が解党した後、北原竜雄*16が「党再建の費用」だといって、コミンテルンから1万円(4000万円)を受け取り行方をくらましてしまった*17。その他の中央委員も見つかりにくいから等といって待合(芸者遊びをするところ)で会合をすることが多かった*18

6.目的のためなら、犯罪なんか怖くない
 SOS団(とりわけハルヒ)の犯罪については、涼宮ハルヒの判決 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常の「量刑の理由」に詳しく書いたが、パソコン恐喝事件、みくる猥褻事件等々、目的のためには犯罪もいとわずに行っている。
 共産党も相当すごい。最も多く用いられたのは良家の子女をそそのかして現金等を家から持ち逃げさせるという方法であり、合計金額は9万円(3億6000万円)以上に登る*19。そして、非常時共産党時代には、違法な手段で金を集めることを専門の目的とした「戦闘的技術団」が作られており、美人局や、エロ写真の販売*20、そして銀行強盗までやっている。銀行強盗は第百銀行*21大森支店にピストルをつきつけ、カウンターの机の上の札束をボストン・バッグの中に詰め込んで逃走した*22のである。その金額実に3万1750円(1億2000万円余り)。その犯罪のすごさはハルヒのはるか上をいっている

7.本人は地下活動をしているつもりでも、当局側からは見え見え
 ハルヒがいくらレジスタンス的な地下工作*23をしていても、

「この会長はお前の仲間か」
(中略)
「我々の学内協力者です。ある程度の理由を話して、条件付きで協力してもらっているんですよ。」
谷川流涼宮ハルヒの憤慨」p57参照

 生徒会長(=取締側)は小泉の機関の協力者であるから、ハルヒ達のやっていることはお見通しである。
「編集長★一直線!」の「文芸部廃部の危機→SOS団で会誌を作る」エピソードなんかは、機関が「文芸部潰しを会長が図った――と見せかけて、またあいつ(注:ハルヒ)の暇つぶしのタネをまいた*24」わけで、まさに会長の掌の上でハルヒ達が踊らされていたといってもいいだろう。

 1922年の最初の結党時、共産党は「共産主義を唱えていて当局から『札付き』として見られていた人の集まり」であった*25。取り締まり側にとっても「日本に共産党ができておったらこれだけが首脳部だろうという人間はだいたい分かって居る。」という状態で、地下に潜ったつもりでも、全然潜れておらず、やっていることは公安に全てお見通しだった。
 その後は、後述の通り、特高のスパイに中央部を支配されてしまったため、まさに特高の掌の上で共産党が踊らされる状態になっていた。


二.戦前非合法共産党の失敗に学ぶ
1.戦前非合法共産党の失敗

 1931年から1932年までの非常時共産党の時代、スパイMこと松村が共産党中央部で権力を握った。たった4人しか中央委員がいない*26のに、その一人が特高特別高等警察)のスパイなわけであるから、その影響は大きい。更に、トップダウンの組織構成からは、スパイのいうことを平党員はハイハイと言って聞くわけであるから、その結果共産党の行動は、全て政府の掌の上で行われるといっても過言ではなくなった*27
 この時期の共産党が行ったのは党勢拡大運動である。「党に入りたいと希望する労働者は、その資格があるとかないとかいわずに、とにかくまず入党させろ」という方針をとった結果、水ぶくれになって革命遂行能力を失うと同時に、内部にスパイがいっぱい入ってくることになってしまった*28。その後は、共産党が崩壊するまで、中央にスパイが入り込み続けた。
 検挙が続き、秘密が当局に知られているのだから、「スパイがいる」ことは分かる。しかし、共産党員には誰がスパイだかがわからなかった。その結果、中央委員達がこいつはスパイだろうと思った中央委員に殴る蹴る、火鉢の火を押し付ける、硫酸の瓶を押し付ける等々の拷問を加えた挙句、殺してしまったのである(いわゆる「リンチ事件」)。その後、中央委員が検挙され続け、1935年に最後の一人が捕まると、戦後まで、共産党は再建しなかったのである。

2.SOS団への提言
 ハルヒは、

あたしのSOS団はね、もっと世の中に拡張されなければならないの。パソコンのデータを記憶する箱だってどんどん大容量になるでしょ? 目標は世界よ。グローバルに生きなきゃ、国際化の進んだこの地球ではやっていけないわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p98

 と、拡大路線を志向している。これが、SOS団本体まで拡大する意味であれば、即刻方針を転換すべきである。
 これが、シンパ層拡大のみを意味し、SOS団本体について少数精鋭主義を貫く限りにおいては、問題は少ないだろう。しかし、仮に少数精鋭主義を貫くとしても、中枢部の人数が少ないことは、そのうち1人でもスパイや破壊工作者がいると、その影響が大きいことは、共産党の歴史から明らかである。一度間違った団員を内部に取り込んでしまうと、後は転落の道を転がり落ちることは必至なのである。

 「涼宮ハルヒの驚愕」において新団員が誕生する可能性が高いが、共産党の苦い失敗に学び、慎重すぎる程慎重に新団員を選出することが、SOS団の発展には不可欠である。

まとめ
 ハルヒは、『分裂』p267で「きっとまた奴等は特撮ヒーローの悪役みたいに懲りるということを知らず汚い手を伸ばしてくるでしょうけど、先に最終回を迎えるのは彼等のほうよ。SOS団とあたしが道半ばにして倒れることはあり得ないわ。これまでも、そして、そう! これからも!」と述べている。
 この野望を果たすためSOS団は戦前非合法日本共産党の失敗に学ぶべきである。
 敵は外の僕女ではない。危ないのは「内」なのである。

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参考日本共産党戦前史略年表
1917 ロシア革命(2月革命、10月革命)
1919 コミンテルン第一回大会
1921 近藤栄蔵下関遊興事件
1922 日本共産党(第一次)結成
1923 第一次共産党事件(6.15一斉検挙)
1924 第一共産党解党*30
1926 再建党大会(第二次日本共産党
1927 27年テーゼ(コミンテルンが、各国共産党にまずはソビエトを擁護し、中国革命を支援しろ!という)
1928 第一回普通選挙(2.20) 三.一五事件(一斉検挙)
1929 四.一六事件(残りの党員一斉検挙→5月に第二次共産党崩壊) 党再建(7.15、武装共産党*31へ)
1930 武装メーデー事件*32(5.1) 7月までに大検挙→武装共産党崩壊
1931 中央部再建(1.12、非常時共産党、この時からスパイMこと松村が中央委員になる)→党拡大路線へ
1932 大森銀行ギャング事件(10.6)、熱海事件(10.30、非常時共産党崩壊)
1933 共産党再建(1月)、いわゆる「リンチ事件」(12.23)
1934 一斉検挙
1935 最後の中央委員袴田里見検挙(3.4)以降戦後まで共産党は復活せず

*1:以下の記述は基本的に立花隆日本共産党の研究一〜三」による。

*2:立花隆日本共産党の研究(1)」p102参照

*3:なお、現在の共産党規約ですら「第十六条 党組織には、上級の党機関の決定を実行する責任がある。その決定が実情にあわないと認めた場合には、上級の機関にたいして、決定の変更をもとめることができる。上級の機関がさらにその決定の実行をもとめたときには、意見を保留して、その実行にあたる。http://www.jcp.or.jp/jcp/Kiyaku/index.htmlとなっていることに注目

*4:なお、上級機関に「これはパンだから食べろ」といって石を渡されたとき、下級機関は「これは石ではないですか?」とお伺いを立てることができる。それでも、上級機関が「パンだから食べろ」といえば、下級機関は石を食べないといけない(「共産党の研究(1)」p158より)。この点は上記「退屈」p13「意見があるなら会議で聞くわ」と、形式上団長が団員の意見を聞く余地を認めながら、キョンが「会議? いつも一方的にハルヒがわけの解らんことを俺たちに押し付けるために開かれるミーティングみたいなやつのことか?」とコメントするように、実質的に意見を聞かずに団長の指示を押し付けているという点における類似性が興味深い

*5:『分裂』p283より、以下ページ数だけのものは全て「分裂」の頁数を示す。

*6:p285

*7:p97

*8:正治安維持法は1条で「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処」すとする。

*9:南喜一、共産党員。

*10:p99参照

*11:p51

*12:朝比奈みちるを預かったちゅるやさんを思い出させるエピソードですね

*13:立花隆日本共産党の研究(2)」p131参照

*14:p21

*15:なお、近藤は在米日本人の間で社会主義運動をしていた人で、コミンテルンの幹部になっていた。なお、下関遊興事件の後、暁民共産党という組織を作って反戦ビラをまき、一斉検挙されている。

*16:後に対中共工作目的の陸軍系特務機関、北原機関を主催するあの北原。

*17:立花隆日本共産党の研究(1)」p44,52,90等参照

*18:もちろん、党のお金で

*19:立花隆日本共産党の研究(2)」p140等参照

*20:ハルヒも似たようなことをやってキョンに止められていますね。

*21:吸収合併を繰り返し、今は三菱東京UFJ銀行に

*22:立花隆日本共産党の研究(2)」p167等

*23:p99

*24:涼宮ハルヒの憤慨」p61

*25:立花隆日本共産党の研究(1)」p81等参照

*26:1931年、非常時共産党ができた際の人数。その後増えている

*27:立花隆日本共産党の研究(2)」p106

*28:立花隆日本共産党の研究(2)」p42

*29:バトルオブブリテンから戦後の左翼闘争まで、萌えキャラで解説されるlieutenantA様の技法には感服いたします。戦前非合法日共もネタ的に面白いので、萌えキャラ解説を勝手に期待させていただいております(河上肇鶴屋さんでぜひお願いいたします)。

*30:関東大震災憲兵隊が共産主義者を虐殺した事件等でビビった被告人団が解党を決議

*31:武装して自衛しながら大衆の前で公然活動をするという方針をとったことから

*32:労働者を煽動して武装蜂起→即逮捕