アホヲタ元法学部生の日常

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書評「金融広告を読め」〜儲けのカラクリから読み解く金融商品のリスク

金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)

金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)

1.本書の位置づけ
 新聞、テレビ、インターネット等に、金融賞品の広告があふれている。「高金利」「元本保証」「バランス型運用」「リスク分散」「毎月分配」等々の「うまい話」にあふれるこれらの広告は、よく見ると落とし穴に満ちている。本書は、「この金融商品で銀行はどうやって儲けようとしているのか」「税金、手間等の見落としがちな対価を考えると損なのではないか」等の「落とし穴」を見つけるための視点を教えてくれる本である。
 また、前にレビューした「銀行の法律知識」の第二章「金融販売業務」に書かれている「本当に多い」*1規制がなんで必要となったのかが如実にわかる本でもある。

2.儲けのカラクリから分かる金融商品のリスク
 本書は実際にあった金融商品の広告をモデルとした「架空の広告」を作成し、それをもとにその金融商品のリスクを教えてくれる。対象とする金融商品は、外貨預金、セット商品(投資信託と一緒に始めると円定期の金利が高くなる等)、債権、REIT先物取引ヘッジファンド、未公開株等々のありとあらゆる商品である。
 そして、例えば、
・高金利で宣伝する外貨取引は、実際には為替手数料で儲けようとしているので、得しないことが多い。
・高金利の定期預金も、実は口座開設等を促進するための広告目的で、高金利「最初の1ヶ月」だけといったことも多い。表示されている年率を12で割ると手に入る額はすずめの涙かもしれない*2
・複数のファンドをセットにして投資している商品は、投資先のファンド自体で手数料をとられ、かつその商品でも手数料をとられるので、手数料が割高なことが多い。
・相当高金利だけど、相当期間(10年とか)と途中解約できない定期預金はインフレリスクを考えると損。*3延長オプションがついているものはもってのほか。
・高(?)金利で為替手数料もそんなに高くなく元本保証の外貨預金の場合、利率がその国の国債よりも低い場合が多い*4
・元本保証(or元本の90%を保証)だけど株等でハイリターンを目指すという商品は、実は資産の大部分は預金をしてとっておいて、残りで株をやっているという商品がほとんど。手数料を考えると、自分で預金と投資信託に振り分けた方がずっと得する可能性が高い。
・大々的な広告をして、たくさんの人が金融商品を買ったからといって、車等と違って「大量生産で安くなる」という効果はほとんどない。むしろ金融機関が儲けられる(=購入者の利益が少ない、ないし損をする)からこそ大々的に広告する場合が多い。
・賭けで常に儲けられるのが胴元。金融機関は、「有利な金融商品の提供」をしているように見せかけて、客を*5「賭け」の舞台に上がらせておいて、手数料というテラ銭で儲けようとしている可能性が十分ある。
 といった、「儲けのからくり」を公開することで、「どんな金融商品が危ないか」を自分で分析するための視点が分かるようになっている。

3.適合性原則との関係
 本書は、架空の広告を指摘しながら、「金融業界は水商売と同じだ」と指摘する。要するに、金融機関は「分かる人なら怪しいと分かる」広告を出すことによって、「この広告を信じたカモ」と「この広告を信じない賢い消費者」に顧客を分類し、前者からボッタクり、後者から適正利益を上げる*6という戦略をとっているのである。
 しかし、この商法は適合性原則に真っ向から反していることは明らかである。適合性原則とは利用者の知識、経験、財産力、投資目的に適合した形で勧誘(あるいは販売)を行わなければならない*7という原則である。「ボッタクリ広告を信じるようなカモ」は、*8まさにその知識経験等に照らしてそんなボッタクリ金融商品を買わせてはいけない人のはずであり、「広告を信じない賢い消費者」こそが*9そのような商品を売るのに適合している人なのである。
 「モラルが要求される」銀行業界で、このような「水商売商法」を行っているのだから、公正取引委員会等がこのようなボッタクリ広告に対して処分をするのも当然である。
 例えば、シティバンク新生銀行が本書p75以下にあるような「為替手数料をきちんと示さずに外貨預金の高金利をうたって宣伝した」ことで公正取引委員会から警告を受けており*10、最近でも今年の3月末に新生銀行が本書p307以下で紹介されているのに近い為替レートにより日本円か米ドルで払い戻される金融商品の広告について排除命令を受けている*11
 このような処分が繰り返されているにも関わらず、本書が指摘するような「ボッタクリ広告」は2007年現在もなくなっていない*12。事後的な法的対処等の困難性に鑑みれば、消費者である我々が学んで自己防衛するしかないのである。

4.金融商品を買う際の考慮要素
 同書から学んだ金融商品を買う際の考慮要素としては、比較的有名な価格変動リスク(株価等が上下するかも)、信用リスク(債務者が倒産するかも)の他に以下の6つがあげられるだろう。
 � インフレリスク
 10年スパンでは数%〜のインフレになる可能性は十分ある。「インフレになった10年後」には今の1万円は5000円の価値しかないかもしれないので、「元本保証」だからといって安心できない。インフレリスクを背負う商品(途中解約不可能な定期預金等)を買う場合には、そのリターンがリスクに見合うかをチェック*13! 
 � 手数料
 外貨預金の為替手数料、投資信託の販売手数料・信託報酬等の手数料を差し引くと、実際にはほとんど利益はないかも。複数の商品をセットすると手数料が1+1=2ではなく3にも4にもなることに注意。
 � 流動性リスク
 マニアックな債権(地方債、発展途上国債)等を買うと、多少利率は高いように見えても、市場が小さいので売ろうというときに売れない可能性が高い。個人には突然多額のお金がいるようになる事態が起こる可能性は比較的高いので、流動性のない(簡単に売れない)資産に投資することはそれなりの覚悟が必要。
� 基準となる利率との比較
 日本円で元本保証だといっても、実は国債よりも利率が低いかも。外貨で元本保証といっても、実はその国の国債よりも利率が低いかも。
� 金融機関倒産のリスク
 ステップアップ型保障付変額個人年金のような「投資者に有利」な商品が常に素晴らしい訳ではない。投資家に有利ということは金融機関に不利であり、金融機関の財政状況が悪化し、倒産するリスクもある。
� 知識情報リスク=広告から商品の特性・リスクを判別できない人は新しい金融商品を買わない
 広告から商品の特性・リスクを判断できない人は要するにボッタクリのカモ。自分がカモであることを自覚して、勉強する、ないし新しい商品に手を出さない。新しい商品は、「銀行はこの商品でどうやって利益を上げようとしているのか」を理解した上で、そのメリットデメリットを知った上で買う必要がある。

まとめ
 「金融広告を読め」は、公正取引委員会による度重なる警告・排除命令を受けながらも続く、日本の銀行の「水商売」的金融商品の売り方に対して、消費者として自衛する方法を教えてくれる。
 金融商品取引法がなぜできたのかを理解するのに非常に役立つため、金融法務を学ぶ法学部生・ロー生にとってお勧めできる一冊でもある。

*1:同書p76参照

*2:新規口座開設等が必要なことが多く、その労力に対して割に合うのかな?

*3:銀行側の

*4:銀行は国債を買って差益で稼ぐ

*5:日経平均が上がるか否か、為替相場が円安になるか円高になるかという広義の

*6:特にプライベートバンキングについては、ホストクラブを例に非常にわかりやすく例えているので、是非本書を参照されたい。

*7:階猛ら著「銀行の法律知識」p47参照

*8:多少オーバー気味に言えば金融商品の内容をきちんと理解できない「バカ」だからこそ興味を持っているのだから

*9:商品の性質をきちんと理解できるだけの知識経験等があるのだから

*10:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.may/04052801.pdf、なお時期的にはこの本執筆中

*11:http://www.sankei.co.jp/keizai/kinyu/070324/kny070324000.htmhttp://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.march/07032803.pdf

*12:それどころか増えているとも言える

*13:普通は見合わない。