- 作者: 川端博,西田典之,原田國男,三浦守,大島隆明
- 出版社/メーカー: 立花書房
- 発売日: 2006/07/01
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真っ先に挙がるのが
- 作者: 伊東研祐,松宮孝明
- 出版社/メーカー: 日本評論社
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法学部生、法科大学院生の学習のために必要な情報に限定して、要領よく・簡潔に記述。法改正著しい刑法で待望のコンメンタール。
http://218.216.69.73/nippyo/books/bookinfo.asp?No=3056より
同書のコンセプト自体は正しい。ただ、厚さが450ページの1巻本とコンメンタールというには余りに薄すぎる。薄いからこそ、相当厚さの「幅」がある記述になっている。要するに、重要でない条文は徹底的に情報量を削減しているのである。この点は、学習効率という面ではよいかもしれない。
しかし、「なぜコンメンタールを見るか」といえば「その条文について(ある程度)徹底的に知りたいから」に他ならない。ところが、記述が薄い条文は択一六法以下のことしか書いていない。そこで、例えば「自首の要件について判例を知りたい!」と思っても、教科書程度の記述しか書かれておらず、その目的を達成することができない。
かといって、実務家でもないのに大コンメンタールや注釈刑法を買って家の本棚にそろえるだけの金もない。「そこまで徹底的に知りたい」場合には、コンメンタールだけでは足りないだろう。各大家の教科書を引っ張り出して徹底的に考える必要がある。少数説まで網羅するためには、牧野、宮澤、木村辺りも必要になってくる。そういう場合には、図書館に行って大コンメンタールを含めた本を積み上げるのが手っ取り早いだろう。
そこで、様々な本を探して見つけ出した「ちょうどいい厚さ」がこの裁判例コンメンタールである。もちろん、「3分冊2万円」であるから、ちょっとした*2価格である。しかし、それだけのことはあった。
3冊合計2000ページ以上と情報量が豊富である。「山口3冊と松宮と前田と百選*3」位では到底太刀打ちできないほどの情報量であり、教科書を探しても見つからない情報がゾロゾロ出てくる。
何より素晴らしいことに「裁判例」という信頼できる具体例をもって、「判例理論の具体的な要件へのあてはめ」がわかるのである。例えば、名誉毀損罪の「公然」性について「伝播性の理論」というのがある。これは、「特定少数人に事実が摘示されたに過ぎない場合でも、不特定又は多数人に伝播されていく可能性があれば公然性を認める」という理論である。
これにつき、裁判例コンメンタール3巻p70には「伝播性理論から公然性を肯定する」裁判例4つ及び、否定する裁判例5つが紹介されている。例えば「高校教諭の懲戒を求めて教育委員会委員や校長に名誉毀損文書を送った事案」においては、これらの事実知った者は秘密保持義務があり、伝播の恐れがないとして公然性が否定されたということが分かる。
新司法試験においては、判例の射程が問われている。そのためには、最高裁判例を知るのみならず、これが下級審でいかに適用されているかを知るのが不可欠になる。この点、複数の事例から立体的に要件のあてはめがわかるというのは非常にありがたい。
更に、学説の紹介もかなり詳細にされており、「この論点についての学説の対立はどうなっているか」の一覧的役割も果たされている。
まとめ
「裁判例コンメンタール」は決して安い買い物ものではない。
しかし、法律学習者、特に新司法試験を目指す者にとって、「判例の射程を具体例で学べる」非常に「有益」な3冊であり、自分としては「買ってよかった」と感じている。