アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「俺の嫁」の対抗要件について

http://d.hatena.ne.jp/houroumusuko/様のhttp://d.hatena.ne.jp/houroumusuko/20070629/1183086683という記事は、「俺の嫁」発言の系譜から、「ネット上で話題」ということの意味にまで言及されている興味深い記事である。この記事に以下のような一節があった。

次回はせめて法学部らしく、『「俺の嫁」の対抗要件』について考えてみたい。
本当はこうやってネタだけ出しといて、あとはid:ronnorさんがやってくれると楽なんだけど(笑)

 当サイトに言及しただいていただき、非常に光栄である。要求に答えられてはいないと思うが、以下に雑駁な考察を。

 まず、対抗要件というのは、例えば登記のように、「○○は俺のもの」ということを世間に知らしめ、もって世間の一般の人に対してもその所有権等を主張するための要件である。
 これが所有権等の物権について必要とされるのは物権は直接排他的支配を内容とする権利だからである。要するに、A土地についてXのものであったらYのものではなく、YのものであったらXのものではない*1のであるから、いったいそれが誰のものかを公に示す(公示)ことが必要である。そこで、例えば不動産であれば、公示手段として登記が要求され、登記をしてはじめて一般の人(第三者)にも自分のであることを主張できるとされているのである(民法177条)。

 ここで、「俺の嫁」について考えてみる。まず、「俺の嫁」発言がどれだけあるかについて、適当に選んだキーワードによるgoogleでの検索結果を以下に示す

長門俺の嫁」...21,700件
ハルヒ俺の嫁」...19,300件
「レイは俺の嫁」...4,830件
「楓は俺の嫁」...3,750件
キョン俺の嫁」...3,680件
「真紅は俺の嫁」...1,210件

 この結果からわかるように、複数人というか多数人が、同一のキャラに対し「俺の嫁」宣言をしている状態が明らかになる。ここで、アニメ・ゲームのキャラクターは大量生産・同時存在が可能であり、同時に多人数の嫁になれる。そう、直接排他的支配の前提となる「1人のキャラが嫁になれるのは1人の人」という状況はそもそも存在しないのである。
 そこで、対抗要件が必要とされる理由もまた存在しない。そこで、単独行為である俺の嫁宣言行為により、俺の嫁宣言という法律行為の効果は発生し、対抗要件なしにそのことを第三者にも主張できると考えるのが相当である。

まとめ
 「俺の嫁」宣言は対抗要件なく第三者に対抗できる。
 もっとも、この帰結は「Xにとって長門が嫁で、かつYにとって長門が嫁」という状態についてXやYがどう考えるかには影響しない。場合によっては、XやYは「俺が本物だ!」と思うかもしれない。この場合にいかにして、雌雄を決するべきか。この点については、民法学の対抗要件論は答えを与えてくれない。今後の対抗要件論及び「俺の嫁」論の発展に期待するところである。

謝辞:本エントリはid:houroumusuko様のエントリに触発されてできたものである。深くお礼申し上げる。

*1:共有は考えない