アホヲタ元法学部生の日常

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「刑事尋問技術」に続き「民事尋問技術」も改訂を!

刑事尋問技術

刑事尋問技術

1.「刑事尋問技術」
 「刑事尋問技術」は、刑事裁判における証人尋問を効果的・効率的に行うためのポイントを、弁護士・検察官・裁判官の3者の視点から具体例を通じてまとめた本である。
 特に刑事裁判では、その理念から*1証人尋問による事実認定・心証形成が重要であり、証人尋問をいかにうまく行うのかが求める判決獲得上重要である*2。そこで、このような「尋問技術」は非常に重要になってくる。
 実務家レベルでは、周到な事前準備を行い、証言者の立場・性格を熟知した上で、「敵性証人となごやかに会話する中で、ガードを緩めて重要な証言を引き出す」だとか、「主尋問を上塗りする反対尋問をして、敵性証人の証言をガチンガチンに固めた上で、証言と決定的に矛盾する客観証拠を提出して、証言全体の信用性を根底から崩す」といった高度な尋問技術が求められるだろう。
 これに対し、ロースクールレベルにおいては、まずは同書p13の「悪い尋問の種類」に挙げられている、音として聞きにくい尋問、テンポの悪い尋問、無理な尋問、無意味な尋問、無駄な尋問をしないように気をつけ、自分では異議(同書p40以下)が出ない尋問を行い、相手に異議事由があれば、適切な時期に適切な異議を出す能力を養うことが、実務家になる大前提として求められているといえる。
 本書は、ロースクールレベルに必要な事項を網羅的に記述した上で、「実務レベルの高度な尋問技術」の前提となる事前準備のポイントや証人の性質*3毎の注意点を学び、高度な尋問技術の足がかりを得ることができる。実際に高度な技術を得るには、実践による修練の繰り返しが不可欠ではあるが、本書でその前提知識・技法を学ぶことで、より早く高度な技術を獲得できるようになるだろう。
民事尋問技術

民事尋問技術

2.「民事尋問技術」
 「民事尋問技術」は、民事裁判における証人尋問のポイントを、代理人・裁判官の立場から具体例をもってまとめた本である。
 同書p357の「尋問技術に関する10の原則」は以下の通りである。

1 尋問成功のカギは立証準備にあり
2 尋問予定者には面接をすべし
3 主尋問は構成を練ること
4 発問は短く正確に
5 尋問の聴き手である裁判官を意識せよ
6 尋問調書に残す聞き方を工夫せよ
7 民訴規則を駆使して適時に適切な異議を出すこと
8 反対尋問は信用性を減殺すれば成功
9 目的のない反対尋問は禁物
10 尋問技術に倫理あり

 この原則は、まさに民事のみならず刑事にも通用する重要な原則であり、このような原則を学べる本として、本書はロースクール及び実務基礎レベルの尋問入門書として大きな意義がある。

3.法律・実務の変革と「尋問技術」
 「刑事尋問技術」は昨年12月に改訂され、新しい法律への対応がされた。これに対し、「民事尋問技術」はいわゆる「新」民事訴訟法が施工された直後の1999年に新版が発行されて以来改訂がなされていない。そこで、新しいプラクティスに対しての対応がなされていない
 例えば、「代理人としては陳述書には前提となる事実・争いなき事実は書いても、争点に関することはあまり書きたくない」*4とある。これは、陳述書を出すと証人尋問で何を言うかを予想されてしまうから、隠し玉的なことを法廷で言わせるために、重要なことを隠そうという発想であろう。ところが、現在のプラクティスについて実務家の方にお話を聞くと、尋問予定者について詳細な陳述書の提出が求められ、争点についても、それぞれ尋問で述べる予定のことを書くことが多いとのことである。この点は、この8年程で変わった点と言えるだろう。
 また、「法廷でしつこく細かく聞くことで、調書に細かいことまで掲載させて、判決裁判官に細かいことまで伝える調書にする」という例が紹介されている*5。しかし、このようなテクニックが必要なのは、尋問裁判官と判決裁判官が違うことが通例の、長期裁判時代の話であり、争点・証拠整理手続きを活用し、ほとんどの訴訟が1人の裁判官の在任中に終結する現在では不要のテクニックといえよう。
 また、刑事尋問技術では、2つの事件(強盗致死、強盗致傷)についての1まとまりの尋問が記載され、その全ての尋問について、適切・不適切・違法というコメントが規則を引用しながら指摘されており、非常に有益である。民事尋問技術も、例えば反対尋問の解説について、具体例*6を出して説明していたりはするが、同じ事件についての1まとまりの尋問例が記載されているわけではない。
 民事訴訟はこの8年で大きく変貌を遂げた。民事尋問技術もまたこの8年でそれにあわせて大きく変わっているともいえる。「民事尋問技術」が現在のプラクティスに準拠した改訂を行い、刑事と同様の「1まとまりの尋問例」を掲載することにより、よりロースクール生、実務初心者の役に立つものになることは間違いない。「民事尋問技術」の早期改訂が期待されるところである!

まとめ
「刑事尋問技術」も「民事尋問技術」もロースクール生必読の優れた本である。しかし、「民事尋問技術」はたった8年でもう古くなっているところが多々あるので、早期の改訂が待望される。

*1:憲法37条等

*2:べきである

*3:目撃証人、被害者、警察官、情状証人...

*4:同書p332

*5:同書p342

*6:同書p235