スイス国民用国防ハンドブック「民間防衛」
- 作者: 原書房編集部
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2003/07/07
- メディア: 単行本
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しかし、スイスは、「自分は中立ですよ」と宣言しただけで、平和を守れたのではない。中立を宣言しながら、侵略された国は戦争史上枚挙に暇がない*1。スイスは、中立及び平和を守るために、軍隊を持つのみならず、大量の核シェルターを町に作り、民間人も民間防災組織を編成している。
このような、スイスの平和のための努力を象徴するのが本書である。本書は、スイス国民に、国防のために自分はどうすれば言いかを教えるために配られたハンドブックの翻訳である。ハンドブックといっても、300ページ以上と厚い。
ここには、敵の使う兵器の種類・性質、どのような攻撃を受けたら*2いかなる防御をすべきか、日ごろから、戦争が起こった時のため、何をどのくらい備蓄すべきか等が事細かに書かれている。特に、核戦争に対する防衛法については、スイスの周囲に核保持国が多い*3ことから、相当のページ数を割いて、「核による攻撃が予想されたらどうするか」「核兵器が落ちてきたらどうするか」「核兵器が使われた後どうするか」が、具体的に解説されている。
さらに、最後の方では、仮装事例を元に、スイスが戦争に突入した場合に、国民は何をすべきかが具体的に書かれている。経済統制から始まり、軍隊の動員、敵国侵入、そして敵による占領、亡命政府組織、レジスタンス戦、解放まで「何をすべきか」が描かれているのである。スイスは、150年以上も他国による占領を経験していないのにもかかわらず、戦争に負けて占領された場合を仮定して、国民に何をすべきか教えているというのは、非常に印象的であった。
「平和であるべき」ということは正しい原理(principle)ではあるが、スイスはそれを憲法・法律・国際条約上の「平和主義の宣言」だけで実現しようとしていない。平和が破られないようにどうするか、平和が破られたらどうするかを常に考えている。
「政府が実力による防衛サービスを提供することなしに国民の生命や財産を実効的に保護できるかというと、パルチザン戦に訴えるにしろ、非暴力抵抗運動に訴えるにしろ、あるいは、世界警察の助けを待つにしろ、少なくとも今までのところ提案されている代案に照らす限り、否定的にならざるをえない」*4ことから考えると、このスイス政府の平和保持のための不断の努力は、平和主義を重要な理念とする日本においても参考になるのではないか。
まとめ
スイス政府は、戦争を想定し、国民に対し、何を備蓄し、戦争の各段階において何をすべきかを教え、そのために民間防災組織を組織し、訓練している。
スイスは150年以上の間戦争に巻き込まれておらず、周りの国々も友好国ばかりである。現在スイスの平和・中立が破られる具体的・現実的危険はないといってよいだろう。
そのような状態においても、なお平和維持のために全力を挙げているスイスのこの努力は無駄な努力なのだろうか。この点を考えると、日本における平和主義の議論において参考になるだろう。