アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

タバサの強制わいせつ〜ゼロの使い魔で考える刑法

*以下のエントリには「ゼロの使い魔11巻」のネタバレがあります。
 現在アニメ「ゼロの使い魔〜双月の騎士」放映中の『ゼロの使い魔』11巻に以下のようなシーンがある。

タバサは公衆の面前で突然才人に対して抱きつき、接吻をすると、才人の舌にタバサの舌を絡め、服の上から才人にタバサの体を密着させた。タバサの上記行為の目的は、才人に恋心を抱いているルイズを嫉妬させ、ミョズニトニルンに対する怒りによる攻撃を発動させ、ミョズニトニルンの攻撃により危機に瀕しているルイズらの身を守るためであった。この事例におけるタバサの罪責を論ぜよ。

0.そもそもハルケギニアにいるタバサに日本の刑法が適用される?
 そもそも、ハルケギニアガリア国民タバサに日本刑法が適用されるか問題となるが、刑法3条の2という条文がある。

第3条の2 この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
1.第176条から第179条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、未遂罪)及び第181条(強制わいせつ等致死傷)の罪(第2号以下略)

 この条文により、「日本国外」であるハルケギニアにおいて、「日本国民」である平賀才人に対し、「強制わいせつ」罪を犯した「日本国民以外の者」であるタバサには日本の刑法が適用されるので、この点の問題はない。

1.緊急避難により解決すべき?
 こういう事案を見ると、すぐに緊急避難*1で解決させたくなる人が多いのではないだろうか。要するに、タバサの行為はルイズらの生命身体を守るためだから、違法性がないというのである。とはいえ、緊急避難というのは違法性をなくするものである。

 刑法は構成要件に該当し、違法で有責な行為、つまり条文で「これをやってはいけません」と規定されている行為であり、かつ悪い行為で非難できる行為を犯罪としている。そして、いくら悪かったり非難できる行為*2でも、条文に規定されていない、つまり構成要件にあたらない行為であれば、そもそも罰せられない

 そこで、構成要件該当性、つまり、タバサの行為は刑法上規定されている犯罪行為のカタログに当るかを先に考えるべきである。


2.強制わいせつ罪の構成要件
 ここで問題となるのは、強制わいせつ罪(刑法176条)である。
 強制わいせつ罪は、[1]*3暴行又は脅迫を用いて、[2]わいせつ行為をし、[3]犯人に性的意図があった場合に成立する犯罪である。なお、被害者に男性を含む*4

(1)暴行脅迫
 強制わいせつの暴行・脅迫は*5軽微なもので足りるとする説が多数説であり、判例も、本条の暴行とは、正当な理由なく、他人の意思に反してその身体髪膚に力を加えることであり、その力の大小強弱を問わない(大判大13年10月22日刑集3巻749頁)としている*6。更に、暴行自体がわいせつ行為である場合も含むとしている*7。この場合タバサは抱きついてキスをして体を密着させただけであるが、シルフィードの上での行為であるから、逆らって落ちれば助からない可能性もある状態であり、抵抗困難な状況下での抱きつき行為自体が暴行と判断しうるだろう。

(2)わいせつ行為
 問題はわいせつ行為該当性である。「わいせつ」とは、判例上「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものとされている*8。しかし、この基準はあいまいであり、具体的な裁判例が積み重ねられている。
 (ア)着衣上からの接触
 着衣上からの接触の態様の態様の強制わいせつにおいては、執拗に、乳房等を弄んだといえる場合のみわいせつ性が認められる((前掲書p294))とされる。
    (a) 猥褻性を肯定した判例
 肯定した判例としては、[a]名古屋高裁金沢支判昭和36年5月2日*9は、女性の膝に馬乗りになって抱きつき、陰部をスカートの上から強く押しなでたという事案においてわいせつ性が肯定されているが、被疑者が時節柄、薄手のワンピースを着けていたという特殊性が強調されている。
 名古屋高判平成15年6月2日*10では、住居に侵入してうら若き被害女性をトイレに閉じ込め、自己の身体を女性に密着させて、女性の臀部を手のひらで撫で回したという執拗な事案において猥褻性を肯定している。
   (b)猥褻性を否定した判例
 これに対し、体を密着させたり、体を撫でたりする事案でも、猥褻性が否定されている判例がある。
 大阪高判昭29年11月30日*11は、仰向けで倒れている女性の上に2人の男性が前後に相接着して馬乗りになった事案において、かかる行為は普通の性的行為を実行する体勢ではなく、直ちに性的行為を連想せしめる行為でもないとして、猥褻性を否定した。
 名古屋地判昭和48年9月28日*12は、両膝で10歳の女児の両足をはさみつけ、背中、臀部、腰部をなでまわしたという事例において、一般人の性的差恥心を害する程度のものではないとしてわいせつ性を否定している。
  (c) あてはめ
 本件についてみれば、体の密着接触時間は長くなく(1分も経たないと思われる)、かつ執拗に体を撫でたりしたわけではない点を考えると、猥褻性の肯定は困難と思われる。


 (イ)キス
 キスをわいせつ行為として認めた判例としては[a]名古屋高裁金沢支判昭和36年5月2日の他、[b]東京高判昭和32年1月22日*13、[c]大阪高判昭和41年9月7日*14、[d]東京地判昭和56年4月30日*15、[e]高松高判昭和33年2月24日*16等がある。

 これらの事例を検討すると、
(a) 動機がわいせつ目的
 [b]を除く4事例では、目的についてあえて判示しており、「わいせつ目的からの接吻である」と認定している。例えば、[e]では、「性的満足を得る目的をもって為したものと解さざるを得ず、かかる状況下になされる接吻はわいせつ性を具有するに至るものといわなければならない」と判示されている。

(b) 夜間暗所でないし飲食店で承諾が見込めない状況下でのキス
 [b][d][e]は夜間暗所で、[a][c]では飲食店においてキスをしており、いずれも被害者の承諾を予期しうる状況がないと認定されている。例えば、判決[a]においては、「普段から親しく交際したり、馴染みの間柄にあったものではない」と判示している。

(c)既遂事案においてキスは執拗
 既遂の場合、キスの態様は執拗である。例えば[c]では、下あごに噛み付くような接吻を繰り返している。

(d) 被害者が激しく抵抗している
 *17全事例において激しい抵抗が記録され、[c]以外の事例はいずれも未遂に終わっている*18

(e) まとめ
 [d]が判示するように、行為の為された経緯からして相手の意思に反しその性的自由を不当に侵害する態様でなれたキスが「わいせつ行為」とされるのであり、全てのキスがわいせつ行為ではない。
(b)(d)は意思に反すること*19を基礎付けており、(a)(c)は性的自由侵害を基礎付けていると考えられる。

(f) あてはめ
 本件においては、確かに「濃厚に舌をからめ」「タバサは才人の舌を吸い上げた」*20とあるのだから、(c)執拗とは言える。とはいえ、時間的な短さから、そこまで執拗とはいえないだろう。更に、(a)動機はあくまでもルイズの虚無を発動させて危機を回避するためであり、(b)承諾が絶対に見込めないわけではない?*21状況で、(d)全く抵抗をしていない。
 これを総合すれば、未だわいせつ行為といえる程度の意思に反する性的自由侵害があったとは言えないと評価することもできるのではないだろうか。実質的にも、才人の気持ちは「ルイズが見てる! 後でルイズに殺される〜!?」という一点に絞られており、性的自由の点においては、才人はあまり気にしているとは言えないことから、この結論は支持されよう。


(3) わいせつ目的
 判例犯人の性欲を刺激興奮させ、または満足させるという性的意図の下に行われることを要するとするが、その他の目的と性的意図が併存してもよいとする*22
 すると、少なくともタバサの主目的がルイズの虚無発動にあったことは間違いがない。問題は、性的意図が少しでも存在しなかったか否かである。
 タバサが才人を自分の探していたイーヴァルディ(勇者)として、救い出してくれたことへの感謝以上の気持ちを持っていたこと*23辺りは認定できるだろう。ただ、この気持ちだけでは、すぐに性欲満足の意図までは結びつかないだろう。そうすると、この点においても、わいせつ目的を否定するのが相当であろう*24



3.まとめ
 すると、タバサの行為は強制わいせつ罪の構成要件該当性がなく、緊急避難をいうまでもなく、不可罰となる。なお、いわゆる迷惑防止条例違反の構成要件該当性があるとも思えるが、迷惑防止条例は刑法3条の2に規定されていないので、タバサには適用されない。

まとめ
 被告人にとっては無罪になるなら理由はどうでもいいのかもしれないが、法律家にとっては、構成要件該当性が認められないのか、違法性が阻却されるのか、責任が阻却されるのかという観点は重要である。
 「ゼロの使い魔」は内容そのものが面白いのみならず、このような点を再確認させてくれる、法律的にも興味深い事例を提供してくれる作品である。

*1:危機が迫っている時に、この危機を回避するために、他人の権利・利益を害するもの。典型的には、暴漢に追われたので、他人の家に侵入して隠れたといった場合が挙げられる。

*2:違法で有責な行為

*3:13歳以上の男女に対しであるが、才人は明らかに13歳以上であり、この点は問題がない

*4:川端博他著「裁判例コンメンタール刑法2巻」p294

*5:強盗罪と比べて

*6:前掲書p291

*7:前掲書p292

*8:前掲書p292

*9:刑集3・5=6・399

*10:判時1834号161頁

*11:裁判特報1巻12号584ページ

*12:判例時報736号110頁

*13:判時103号28頁

*14:判タ199号187頁

*15:判時1028号145頁

*16:裁特5巻2号57頁

*17:bとも関係するが、

*18:とはいえ、致傷結果が発生しており、強制わいせつ致傷となっている

*19:及び性的自由侵害

*20:ゼロの使い魔11巻」p249

*21:まあ、才人はいろんな女性とキスしていますからねぇ..

*22:前掲書p294、なお、この点については検察は朝比奈さんをこう守る参照。

*23:ゼロの使い魔10巻」p234,p246、「ゼロの使い魔11巻」第6章個人授業

*24:なお、「疑わしきは被告人の利益に」の原則参照