
- 作者: 大阪弁護士会友新会
- 出版社/メーカー: 大阪弁護士協同組合
- 発売日: 2007/02
- メディア: 単行本
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税法を学ぶ際、金子「租税法」等の分厚い基本書から読み始める人も少なくないだろう。このような基本書は体系に従って網羅的に学習するのには適しているかもしれないが、記述が一般に単調で、眠気を催すという問題点がある。
本書は民法を一応学んだ人にとっての最強の税法入門であるゆえんは、「民法という視点しか知らない」*1弁護士を対象に、租税法という視点を入れると事件はこんなにまで変わって見えるんだということを多くのインパクトのある実例をもとに伝えてくれていることにある。
例えば、こんな事例が出てくる。
依頼者が土地の所有権移転登記請求の訴訟を提起しましたが、過去の売買契約の事実の立証等が難しいので、取得時効を主張したいと言い出しました。これを主張すれば、間違いなく勝てる場合、すぐに取得時効を援用してよいのでしょうか。(同書p2)
民法(+民事訴訟法)の観点からいえば、売買であろうが時効であろうが、依頼者の所有権を基礎付けることは変わらないのだから、勝てる方を取るべしということで、取得時効を援用するべきという答えになるだろう。
しかし、租税法の視点を入れると全く答えが変わる。取得時効を援用すると、その時点で所得*2が発生し、納税義務が生じてしまうのである。援用時時価が10億円だと、所得税・地方税合計が2億5000万円であるから、相当の負担が生じてしまう。簡単には取得時効を援用すべきでないのである。
本書は、このようなインパクトある実例を出しながら、民法の規定とからませて所得税・法人税・相続税等についての基礎知識を解説してくれるので、民法*3。
本書は実務的には税法のどんな規定が問題となっているのかという具体的な問題点を提示して、それに対してどのように考えるべきかという考え方を示すのみならず、税務署はどのように動くだろうか、税務訴訟になったらどうなるだろうか等も*4示してくれている。
体系に従った税法知識を本書で具体的・実務的問題にぶつけてみることで、税法知識を再構成することができる。この意味で本書は最強の税法復習書である。
3.税務訴訟に対するあきらめ
本書では「税務上のトラブルは民事訴訟で解決し、民事訴訟のトラブルは税務処理で解決する」という非常に興味深い考え方が示されている*5。
例えば、財産分与として夫が妻に不動産を渡したら、2億円の税金が夫にかかってきたので、(元)夫が(元)妻に対し、財産分与につき錯誤による無効を主張したところ、これが認められたという判例がある*6。「妻の方に税金がかかると思っていたから、これは錯誤で無効だから課税処分をやめてくれ」といっても、課税処分からは逃げられないし、税務訴訟で主張しても勝てない。しかし、私法契約自体が錯誤で無効だということを判決で確定させ、その上で更生の請求をすれば税務署としても認めざるを得なくなる*7。そこで、税務上のトラブルは民事訴訟で解決せよということである。
また、上で挙げた例でいえば、税金分を和解金として相手に払う代わりに過去の売買契約を確認させれば、依頼者の方は余分な税金をとられなくですむ上、相手も相当額の和解金が得られるので、当事者双方が喜ぶ解決になるだろう*8。
このようなテクニックは、実務家になるには必ず知っておくべきことである。しかし、この裏には、「税務訴訟への不信」がある。税務訴訟の全面勝訴率が5%程度*9で、「税務訴訟を起してもどうせ負けるよ」という不信感があるからこそ、税務上のトラブルは民事訴訟で解決する方向に動いているのだろう。そもそも、このような税務訴訟の運用でいいのかという問題は、実務界が学者、*10実務家、そして今後の法曹界の担い手たる学習者に対して問いかけている重大問題だろう。
まとめ
本書は、民法を一応学んだ人にとっては、民法知識を利用しながら、インパクトのある実例によって実務でよく問題となる税法の知識を習得することができる、非常によい税法入門である。
また、税法を一応学んだ人にとっても、実務的な具体例を通じて、実務の具体的場面においてはどのように理論が適用されているのかが分かる、非常によい復習書である。
本書は、実務家の視点から、「税務訴訟への不信」が問題提起されている。この点は、学者・実務家、そして学習者が考えるべき重要な問題だろう。
*1:そこまでいうといい過ぎかもしれないですが
*2:一時所得
*3:第5章だけは破産法もそうですが)を一応学習した人にとっては、興味を持って税法のアウトラインを学ぶことができる。この意味で本書は最強の税法入門書である。 2.最強の税法復習書 税法を体系に従って一通り学んでも、多くの場合は実務でどういう問題が起こり、どう解決するかという実務的観点が不足する場合が多い。 例えば、一時所得ならこういう処理、事業所得ならこういう処理、雑所得ならこういう処理、給与所得ならこういう処理...という規定と効果は学んでいても、じゃあ、ある人が書いた原稿の原稿料はどれにあたるの?と聞かれて即答できる人はどれだけいるだろうか((作家等であれば、指揮命令に基づいて原稿を書いているのではなく、独立して働いており、自己の責任で書いている原稿の報酬なので事業所得、学者が書く原稿は生計の中心は給与なので雑所得になることが多いが、相対的・総合的判断による、本書p25参照
*4:全ての問題点についてではないにせよ
*5:本書p417等
*7:同書p417参照
*8:同書p80
*9:同書p79
*10:特に裁判