アホヲタ元法学部生の日常

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存在自体が「類型別」の難解さの実証!?「要件事実ノート」

要件事実ノート

要件事実ノート

1 はじめに
「要件事実ノート」は、司法研修所編「改訂 紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造―」法曹会についての300以上の質問に対する解答をまとめたものである。

 300問というボリュームは多く、「類型別」に関するありとあらゆる疑問に答えてくれるのは非常にありがたい。特に、どういう保全をすべきかについてもきちんと考察しているところは、類型別にはない有益な視点といえよう。

 例えば、「類型別」には、「建物建築目的だから借地借家法により30年使えるはずだ」という主張は、「一時使用の合意があった」という主張を主張立証することでつぶせると書いている(類型別p96)。ここで、「普通、建物を立てる目的で一時使用ってことはないだろう」と思う人もいるかもしれない。こういう問題意識に対し、本書p139は「国際見本市などの会場用建物は、行事が終了すれば解体されることが想定されている」という回答を与えている。

2 本書からわかる類型別の難解さ
 このように、本書はよい本なのであるが、このことから分かるのは「類型別」が難解であるということである。法科大学院の要件事実のスタンダードテキストの位置を占める「類型別」は、「予備的抗弁」「a+b」といった、難しい概念をほとんど説明もなしに使っている。このように「類型別」が難解だからこそ、類型別の注釈書ともいえる「要件事実ノート」が脚光を浴びるのである。


3 本書の注意点
 このように、本書が良い本であるとはいえ、「要件事実ノート」には2点の注意が必要である。
 1点目は、誤字脱字の多さである。
  例えば、本書p140の「意義を述べない」のような、単純な誤字脱字が非常に多い。緊急出版のためか、それとも編集スタッフの質のせいなのかはわからないが、かなり気になった。
 2点目は、最新の実務等を反映しているとはいえないところである。
  例えば、本書p126では「抵当権登記の抹消登記手続きを命ずる確定判決は、不動産登記法68条の定める「承諾」に該当しないとするのが最新の登記実務」としているが、これは疑問である。実際の登記実務は「承諾を証する添付書類として抹消判決を提出する代理人が最近いないので、判断していない」というだけであり、そういう人がいれば、その場で判断することになる。そして、「その場合どうなるかは分からない」というのが最新の実務であろう*1。せっかく、類型別の「注釈」をするのであれば、こういう内容を盛り込んで欲しかったのであり、この点は残念である。

まとめ
「要件事実ノート」は、「類型別」のわかりにくい点を説明してくれる、非常にありがたい本である。しかし、誤字脱字が多く、最新の実務が反映されているとはいえない点は、注意が必要である。

*1:聞いた話では、この線に沿って「類型別」も改訂される予定だそうである