「社内弁護士」という選択

社内弁護士という選択―インハウスカウンセルの実際の仕事を描いた15講
- 作者: 芦原一郎
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2008/04/01
- メディア: 単行本
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0.はじめに
新司法試験も終わり、そろそろ大手事務所における就職活動が始まる季節がやってきた。
就職活動上、非常に参考になる本として、「社内弁護士という選択」という本がある。
1.本の概要
この本は、アフラックの最初の社内弁護士である筆者が、その経験を元に、社内弁護士は何をするのか、何ができるのか、社内弁護士が入ると会社はどう変わるのかを論じている。アメリカでは、社内弁護士が普遍化しているようであるが、現在の日本では、社外弁護士一辺倒から、社内弁護士普及への移行期といえるだろう*1。
2.社内弁護士の役割
著者は、社内弁護士について、プレーヤーとマネージャー、そしてジェネラルカウンセルという役割があると論じている。
プレーヤーというのは個別の具体的(法律)案件について、それを処理する主役としてかかわるものである。
マネージャーというのは、法務部(ないしその中の1つのチーム)を率いるリーダーとしての役割に関するものである。
ジェネラルカウンセルというのは、*2社長側の専門家として、会社としての意思決定に関与するものである。
確かに、社外弁護士でも、事務所内のマネージメントをしたり、親しい顧問先の会社の経営相談に乗ることはあるが、プレーヤーとしての役割・ジェネラルカウンセルとしての役割の比重は、間違いなく社内弁護士の方が高く、そして重要であろう。マネージメントや意思決定に興味がある人は、この点で社内弁護士に魅力を感じるかもしれない。
3.保険関係法曹は読んで損なし
本書は、「アフラックダッグの偽造品が見つかった!どうする!?」といった、具体的ケースを挙げて、そのケースに筆者がどのように関わったかをわかりやすく説明し、その中で、社内弁護士が果たす3つの役割がわかるようになる。
この手法は、単にわかりやすいだけではなく、保険関係の案件に関わる可能性のある法曹(&その卵)にとって非常に有益な情報を提供してくれる。
例えば、保険会社が特別利益の提供ができないこと(p25)や、広告に関する規制(p91)等の業法的な問題の基本が具体的でわかりやすく描かれているし、事故か自殺か判断つきかねる場合の処理(p8)や、保険料引き落としが停まったのが保険会社の落ち度の可能性がある場合の処理(p73)についても興味深い保険会社の社内的な判断過程が描かれている。保険会社をクライアントに持つ弁護士事務所に就職活動する人はもちろん、保険請求をする側の法曹も読んでおいて損はないだろう。
4.社内弁護士と社外弁護士の協業
私が特に興味深く感じたのは、仕事は社内弁護士だけでは完結せず、社外弁護士との絶妙なコンビネーションが必要ということである。例えば、事故か自殺か判断がつきかねる場合の処理として、払うにせよ、払わないにせよ、いずれにしても適切な手続きによる判断過程を担保する方法として「第三者による検証」が挙げられ、その「第三者」として、社外弁護士の意見を聞くという方法があるということである。社内弁護士がいればそれで社外の弁護士が要らないのではなく、社内弁護士が、時には社外弁護士を入れたチームのリーダーとなって、絶妙なコンビネーションを作って仕事を熟していく。一般企業がアメリカ並みに社内弁護士を採用し、これらの社内弁護士が、筆者のように社外弁護士とのコンビネーションで仕事をするようになれば、法曹人口問題は解決するのではないか、とつい夢想してしまうほど、爽やかな姿が描かれている。
「社内弁護士という選択」に描かれた社内弁護士の姿が、社内弁護士の理想像なのか現実なのかは私には判断できない。
しかし、いずれにせよ、法学徒にとって「社内弁護士という選択」は有望な選択肢の1つであり、その選択肢をよく検討するためにも、同書は有益と考える。