改訂版に期待! 「会社法体系」
- 作者: 江頭憲治郎,西岡清一郎,市村陽典,門口正人,河和哲雄,相澤哲
- 出版社/メーカー: 青林書院
- 発売日: 2008/06/01
- メディア: 単行本
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会社法コンメンタール*1の刊行ペースが非常にスロー*2であるため、適切なハンディコンメンタール系の本を探していた時に、この本の刊行を知った。売り文句は
江頭教授&元民事八部部長*3が編集し、実務家・学者が執筆する体系書
2008年7月までに全4巻完結予定
である*4。
2.特徴
まず、会社法体系の特徴は「コンメンタールではない」ことである。条文順ではなく、例えば組織再編であれば、「合併」「会社分割」「株式交換」毎に、通則と手続規定をまとめている。これは、むしろ条文順のコンメンタールよりは「わかりやすい」かもしれない。
次に、「買収防衛策」「会社非訟」「閲覧請求」等、普通の体系書では手薄なところについて、項目を設けて論述がされていることは評価できる。
3.改善点
しかし、以下のような要改善点がある。
改善点1 判例フォローが悪い
下級審は去年の9月までの判例しかフォローしていない。高裁にいたっては、去年の7月までしかフォローしていない。最高裁判決も実質的には19年8月までしかフォローしていない。
この意味は
・ライブドアオート事件(東京地判平成19年9月27日*5)
・モリテックス事件(東京地判平成19年12月6日)
・レックスホールディングス株式買取価格決定申立事件(東京地判平成19年12月19日)
・拓銀関係3判決(最判平成20年1月28日)
・カネボウ株式買取価格決定申立事件(東京地決平成20年3月14日)
・蛇の目ミシン株主代表訴訟差し戻し控訴審判決(東京高判平成20年4月23日)
等の最近の重要判決について、全くフォローされていないということを意味する。
編集の都合上、ある時期で判例収集を止めざるを得ないのはやむをえないが、会社法の重要判決が短期間のうちに続出する現在、刊行の9ヶ月前で止めるというのはちょっと早すぎないかという気がする。
この点は、改訂版のコンスタントな刊行と、それによるフォローに期待したい。
改善点2 (著者毎に違うが)視点は会社法中心
「会社法」体系というから、会社法が中心なのはわかるが、「実務にも役立つ」と銘打つ以上は、金融商品取引法、労働法、独占禁止法等の、他方についての実務的注意点位は摘示してほしかったところである。なお、これは「執筆者毎の趣味」という面が大きく、会社合併については税務について解説がされているし、事業譲渡は、金商法の規制、独禁法の規制等についてもある程度触れられている。執筆者の趣味に任せるのではなく、一定の基準を設け、全項目で統一的に論述することが課題だろう。
改善点3 索引がない
これは、いくらなんでもひどい。体系順に並んでいるから、目次で探せるだろうという発想かもしれないが、「合併における債権者保護」を調べたくとも、「合併」の項目には載っておらず「組織再編の概要と債権者保護手続き」に載っているというように、目次には限界があります。刊行を1月繰り延べてもよいので、索引だけはつけてほしかった。
まとめ
会社法体系の「会社法コンメンタールが出る前に、手ごろな厚さ・冊数で、最近の学説判例をまとめる」という発想は正しい。しかし、要改善点があまりにも多く、改訂版を期待するところである。