アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ARIAで学ぶ会社法

ARIA The ORIGINATION パーフェクトガイドブック

ARIA The ORIGINATION パーフェクトガイドブック

ARIAで考える労働法〜藍華と転職制限 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常に関し、名無しだよもん様から、ARIAカンパニーを舞台にした、以下のような問題*1と回答*2をいただいた。これに、司法試験形式で回答してみることで、会社法について学んでみたい。

1.問題

株式会社ARIAカンパニー(以下「A会社」という。)は,アリア社長代表取締役アリシアさんが取締役,灯里が従業員兼取締役の会社*3であり,A会社設立の際に発起人であった天地秋乃(以下「グランマ」という。)が,A会社の全株式を保有していた。アリア社長は,設立当初からの代表取締役ではあるが,青い瞳の猫として専ら縁起担ぎのために選定されたにすぎず,経営に関与したことは一度もなかった。
アクア暦0075年25月,アリシアさんは,結婚を機にウンディーネを引退してゴンドラ協会の業務に専念するため,懇意にしている部下の灯里を一人前(プリマ)の水先案内人に昇進させ,灯里にA会社の経営の権限を一任した。アリシアさんは,その後も取締役を辞任しなかったが,A会社経営には関与しなくなり,取締役会には一切出席しなくなっていた。
そこで,灯里だけがA会社の業務を切り盛りすることとなった。灯里新体制のもと,A会社は,人員育成・業務拡充を図るべく,新たに従業員としてアイちゃんを雇用するとともに,アイちゃん用の新しいゴンドラを買う費用を捻出するため,0078年1月1日付で株式を新規に発行した。この結果,新株を引き受けた暁さんが総議決権の5%を持つ株主となり,グランマの議決権比率は95%となった。
灯里は,その元気一杯笑顔は素敵であり逆漕ぎの速力は無敵であり,お客さんの大人気を博した。また,藍華はその丁寧で流暢な案内が人気を集め,アリスは飛び級昇格の話題性と,プリマの名に恥じない実力でお客さんが増加する一方だった。ところが,三社ともコンプライアンスに関しては甘々のあんまみーや(藍華談)であったので,0078年7月1日,ネオ・ヴェネツィア公正取引委員会から「オレンジぷらねっと・姫屋・ARIAカンパニーの三社で市場を独占した*4」として独占禁止法違反の廉で行政処分を受け,これをきっかけにA会社の売り上げが激減し,A会社は倒産の危機に瀕した。
それにもかかわらず,株主であるグランマは,「苦しいときや悲しいとき…。そんなモノは,より人生を楽しむための隠し味だと思えばいいじゃない。」と言って,灯里をはじめとするA会社取締役に対し何ら責任を問おうとしなかった。
この場合において,暁さんが会社法*5なし得る措置について論ぜよ。

2.回答

第1 取締役解任請求
 暁さんは,株主総会を開くことを要請し(場合によっては自ら招集し,会社法297条4項),社長,アリシア,灯里を取締役から解任することを議案として提案することが考えられる(会社法203条,239条)。しかし,議決権の95%を握っているグランマが解任に否定的であり,解任議案が可決される可能性は低い。その場合,暁さんは,3%以上の議決権を持つ株主であるから解任の訴えを提起できる(会社法854条)。そして,法令違反が行われたにもかかわらず,解任が否決された場合として,裁判所は現在の取締役3名を解任することになる。

 その他、帳簿閲覧請求、取締役の職務執行停止請求等も考えられます。
民法と異なり、会社法は組織法ですから、少数派への配慮の規定(単独株主権、少数株主権)があります。組織法的な請求も検討しましょう。

第2 取締役に対する責任追及の訴え
 取締役の首をすげ替えることで,更なる損失発生を回避できても,それだけでは,A会社の株価低下といった,これまでに生じた損害を回復することはできない。そこで,取締役に対し,会社に生じた損害を賠償させる必要がある。
 もっとも,会社が取締役に対して責任を追求しようとしなければ,損害は回復されない。そこで,暁さんは,会社に対し提訴を求め,提訴がなければ,自ら会社を代表して,取締役の責任を追及できる(会社法847条)。

 会社が損害賠償を請求してくれれば、それでいいわけですが、実際には、請求しないことが多いです。なお、会社が取締役を訴える場合は、代表は監査役が行います(会社法386条)。そこで、提訴の請求も監査役に対して行います(会社法386条2項1号)。

1 灯里に対する請求
 会社法423条1項は,取締役が「任務を怠った」時には会社に対し生じた損害を賠償する責任を負うとする。ここで,取締役の任務には法令を遵守して職務を行うことが含まれ(会社法355条参照)るので,故意過失で法令に違反すれば,損害賠償責任が生じる。ここで,この「法令」の範囲が問題となるが,会社法355条は限定を付していないし,どのような法令でもその不遵守が会社のレピュテーションに対して及ぼす影響は小さくなく,会社に多大な損害を与える可能性があることから,「すべての法令」の遵守が取締役の任務を構成すると解する。
 問題は故意・過失である。ここで,取締役がその行為につき過失があったとされるのは,?取締役と会社の間に利害対立がある場合,または,?合理的な情報収集過程を経てなされたその経営判断が、収集した情報に照らして著しく不合理な場合に限られるとの議論がある(経営判断の原則)。しかし,この理論は取締役の冒険心を萎縮させることを防ぐためであり,少なくとも法令違反行為についてはこの理論を適用することはできない。
 そして,シングルの頃から藍華やアリスと合同練習を行い,常日頃からコンタクトを取っている灯里には,オレンジぷらねっとと姫屋がA会社と共に高い市場占有率を占めていたことは容易に認識可能であり,にもかかわらず,弁護士等の法律の専門家に相談するといった対策を採っていないのだから,少なくとも過失は存在する。
 そこで,灯里に対して損害賠償責任を追及することができる。

 あくまでも会社に対する損害賠償をするよう請求できるのみです。なお、勝った暁さんは、弁護士費用等を会社に請求できます(会社法852条)。

2 アリシアさんに対する請求
(1) アリシアさんは,業務を執行しておらず,違法行為を現実に行った訳ではなない。
 しかし,法は取締役が取締役会を通じて業務を執行する取締役らの監督をすることを予定しており(会社法362条2項2号),取締役には監視義務がある。そこで,これを怠れば任務懈怠責任を追う。
(2) ここで,独占禁止法違反については,取締役会での決議事項ではない。
 もっとも,取締役会に上程されなくとも,取締役の監視義務は,それを怠れば,会社に大きな損害を与えかねない重要なものであり,また取締役は自ら取締役会を招集(会社法366条3項)できる。そこで,上程事項以外についても,監視義務を負う。
(3)アリシアさんは,ゴンドラ協会の要職に就き,3社の市場占有率を知っていると言え,独占禁止法遵守についての疑いを持つことは十分に可能であった。それにもかかわらず,一度も取締役会に出ず,取締役としての任務を放棄したのであるから,監視義務違反として,任務懈怠責任を負う。
 そこで,アリシアさんに対して損害賠償責任を追及することができる。

 判例上も監視義務違反についてはよく問題となり、判例も蓄積されています。ある程度以上の規模の会社では、内部統制システムを構築する、つまり、制度的に違法行為等で会社に損害が発生しないようにしておかなければそれ自体が過失とされます*6

3 アリア社長に対する請求
(1)アリア社長は実質的には業務に関知しないいわゆる名目取締役であるから,そもそも423条1項の「任務」を有しないとも考えられる。
 しかし,名目取締役も選任決議を経た取締役であることに変わりはないので,取締役会を通じての監督義務(362条2項2号)を当然負っている。この義務に反して灯里の職務の執行の監督をしないのであれば,取締役は「任務を怠った」というべきである。
よって,アリア社長は名目取締役ではあるが,そのことだけをもって「任務」を免れることはできない。
(2) ここで,名目的取締役が無能力である場合には,そのような無能力な名目取締役が仮に取締役会で監視監督したとしても,損害発生を回避できなかったとして,損害発生との因果関係を否定する見解もある。しかし,このような議論は,取締役として無能であれば無能であるほど責任が否定されやすくなり,優秀な取締役の責任が肯定されやすくなるという不合理な結果を導くことからとりえない。
(3) そこで,アリア社長は青い瞳の猫として,専ら縁起担ぎのために代表取締役に選定されたにすぎず,猫なので経営に参加する実質的な能力も欠けているといえものの,それでもなお,アリア社長が,なお「損害を賠償する責任を負う」(423条1項)。
4 まとめ
 以上より,暁さんは,代表訴訟により,A会社のために,灯里,アリシアさん,アリア社長に対し損害賠償を請求することができる。

 名目的取締役は、旧商法ではよく存在し、その責任が問題となりました。というのは、法律上株式会社には3人以上の取締役が必要だったのですが、会社の実態が個人企業であることが多く、3人も用意するのは大変ということで、知り合いや親戚に頼んで、名前だけ借りるということも多かったのです。そして、会社が倒産した後、債権者等が、取締役の責任を追及して、その名目的取締役の財産から回収しようという事案がままあり、この場合にも責任を認めていいかという問題意識があり、責任を否定した裁判例もあります。
 とはいえ、新会社法では、取締役の人数に制限はないわけですから、この議論が今後も適用されるかはまだまだ流動的です。
 なお、最先端の問題意識として、いわゆるSPC(証券化等のために設立される、*7ペーパーカンパニー)の取締役の責任の問題があり、大阪地判平成18年5月30日*8等、いろいろな議論がされているようです。

第3 第三者としての損害賠償請求
1 暁さんは,株主として,取締役らに悪意・重過失があり、これにより株価下落等の損害を被ったとして,429条1項に基づいて損害賠償を請求することが考えられる。同条同項は「第三者に生じた損害」という文言があるから,株主が「第三者」に含まれるかが問題となる。
「第三者」とは会社でも役員等でもない者をいうから,株主が含まれるとしても文理に反しない。さらに,例えば,会社が起こした公害の被害者に株主が含まれる場合のように株主が役員等の行為によって損害を蒙ることはありうるから,これを救済する手段が必要である。
よって,429条1項の「第三者」は,株主を含むと解する。
2 しかし,同条同項の「損害」について,いかなる範囲の損害を含むかが問題となる。
この点,文理上「損害」の範囲が限定されていないことを理由に,直接損害のみならず間接損害についても賠償請求を認める見解がある。しかし,一般論として,株主が請求者である場合には,間接損害については株主代表訴訟によって会社の損害を回復しうるから,429条1項で重ねて賠償請求を認める必要がない。
よって,株主による第三者賠償請求の範囲は,直接損害に限ると解する。
3 本問では,株主の蒙った損害は配当の減額であるところ,これは取締役の不当な職務執行により会社に損害が生じ,その結果として株主が蒙った損害であるから,間接損害に当たる。
したがって,暁さんは,アリア社長アリシアさん・灯里の3者に対し,429条1項に基づいて賠償請求をすることはできない。
以上

一応判例は、当該過失行為と損害の間に因果関係がある限り、間接損害についても責任を負わせているようです*9。ただ、学説上は、間接損害について責任を負わせることには有力な疑問があり、試験答案レベルでは、このような議論も十分にありえると思われます。

まとめ
 灯里が取締役としてARIAカンパニーを切り盛りする際、はひはひ言いながらも、頑張っていれば、経営判断の原則・信頼の原則等で責任を免れる可能性は高い。
 もっとも、法令に違反してしまうと、その法令に違反したことに過失がないという例外的*10な場合でなければ、責任を負ってしまう。
 会社を守るという意味でも、自分を守るという意味でも、取締役の法令順守が重要なのである。

 最後に、問題および回答案を提供してくださった名無しだよもん様に感謝をしたい。

*1:ronnorが若干改題

*2:ronnorが改題

*3:取締役会設置会社・閉鎖会社,「監査役は誰?」という突っ込みがあるかもしれませんが,本設問には関係がないので,省略させてください。

*4:他の事業者と共に他の事業者の事業活動を排除・支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限した、独禁法3条、2条5項。なお、単に市場占有率が100%に近いというだけでは独占禁止法違反にはならないことに留意。

*5:そこで,灯里のもみ上げを引っ張ることは除外される。

*6:とはいえ、ARIAカンパニー程度の規模であれば、そのような制度を作る義務まではないと思われます。

*7:ある意味

*8:金融商事判例1262号38頁

*9:最判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁

*10:といいますが、最近のは複雑な法規制になってきていますから、知らないうちに違反してしまうこともあるでしょうから、過失がないという場合もままあるかもしれません