
なぜ、占い師は信用されるのか? 「コールドリーディング」のすべて
- 作者: 石井裕之
- 出版社/メーカー: フォレスト出版
- 発売日: 2005/10/12
- メディア: 単行本
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注:本エントリは、架空の事例を扱っており、実在の人物、団体とは一切関係ありません。
1.H首相は、インド人占い師に損害賠償を請求できるか?
20XX年X月、極東の某国のH首相は悩んでいた。妻が頼んだインド人の占い師が、「F天間基地の問題はアメリカが必ず譲歩するから大丈夫です。」といって問題解決を請け負ったにもかかわらず、アメリカは譲歩せず、むしろ、「海兵隊とヘリコプター部隊の距離は120キロ以内」等と厳しく条件を付けてきたのである。
さて、このように、インド人の占いが当たらない場合、H首相は、占い師に対して損害賠償を請求できるのだろうか?
2.コンサルタントの責任に関する判例の検討
残念ながら、占いが外れたことによる占い師の責任に関する判例は見当たらなかった。
ここで、占い師もコンサルタントも、「将来について何らかの予測を示してアドバイスする」という点では共通している。違いは、科学的方法論によるか、それとも、未知の非科学的方法論によるかという点に過ぎない。
そこで、コンサルタントの責任に関する判例を検討しよう。
(1)コンサルタントは原則として結果責任を負わない
コンサルタントが予想するのは、未来のことについてである。未来の事項については、当然に不確実性がある。また、コンサルタントにはどうしようもできない事情によって、予想がはずれることもある。
そこで、コンサルタントは原則として結果責任を負わず、予想が外れたからといって、必ずしも責任を負うものではない。
例えば、飲食店の運営指導を内容とするコンサルティング契約を結んだところ、コンサルタントの予想に反し、売上は上がらず、目標売上に遠く届かなかったという事案について、裁判所は売上目標を達成しなかったからといって、それだけでコンサルタントが責任を負うというものではないという見解に立った*1。
(2)結果の実現が契約内容となっている場合
稀ではあるが、コンサルタントが結果の実現を契約内容とする特約を結ぶんだという場合には、結果を実現しない場合には報酬がもらえない等の効果が発生する可能性がある。しかし、それを示す明確な書証でもない限り、裁判所はそのような認定には慎重である。
上記の飲食店の運営指導の事案において、飲食店側は、コンサルタントが「まかせてください」と発言したことを根拠に、コンサルタントが売上目標を達成することを約束したと主張したが、裁判所は、そのような発言があったことは認められるが、飲食店側の主張するような法的な義務を負担する旨の意思表示とは考えられないとして、飲食店側の主張を排斥した*2。
やや事案は異なるが、弁護士が訴訟受任の段階で「高い確率で勝訴できる」と述べたので委任したところ、勝訴できなかった*3ことを理由に、弁護士の債務不履行責任が追求された事案について、裁判所は、高確率で勝てるとの説明があったことは認められるが、これは弁護士としての訴訟の見通しを述べたものであり、これをもって直ちに勝訴を請け負うという内容の契約が締結されたとは認定できないとして、依頼者からの請求を排斥した事案もある*4。
(3)コンサルティング自体を一生懸命やらなかった場合
コンサルタントが、コンサルティングを一生懸命やらなかった場合には、債務不履行として責任を負う可能性がある。
例えば、T市が、某W大学に対して、X社製の風力発電機を利用した小型風力発電プロジェクトの実現可能性(どのくらい風が吹くか、どのくらい発電できるか等)に関する調査を依頼した事案で、W大学が、X社製の小型風力発電機の実現可能性ではなく、別の大型風力発電機の発電量を計算して、「風力発電機を導入すれば期待された発電量を確保できます」という報告書を提出したという事案がある。結局X社の小型風車は回らず、回っても消費電力が発電量を上回わったために、T市がW大学を訴えたところ、裁判所は、W大学は、X社製の風力発電機の利用を前提に発電量を試算する義務があったのに、それをせず、むしろX社製風力発電機では期待された発電量が得られないにもかかわらず、「大丈夫、期待された発電量を得られます」という報告をしたことには、債務不履行があるとして、T市の損害賠償請求を認めた*5。
コンサルタントが、コンサルティングだけを目的とするのではなく、その後の製品の導入等を狙っている場合には、担いでいる製品の導入に都合のよいことだけを言って、それ以外の事実を隠すといった事態が発生する可能性がある。本件は、まさにそのような事案と言え、しっかりとコンサルティングをやらず、不正確な情報をあえて流したことを違法として責任を認定されているのである。
3.責任の追及の困難性
上記のようなコンサルタントの責任についての判例は、占い師にも適用されると考えられる。そこで、基本的に占い師への責任の追及は困難であり、契約上占いの結果を保証する旨が約束されている場合*6や、占い師がまじめに占わなかった場合といった極例外的な場合についてしか責任を追求できない。
今回、インド人占い師が「大丈夫です」と言ったとしても、上記の飲食店コンサルタントの事案と同様に、それをもって結果を請け負ったとは言えないとして排斥されるのが落ちだろう。
更に、占い師とH首相の間に、直接的契約関係がないことも問題となる。すなわち、占い師は、あくまでも「H首相夫人」との間でしか契約をしておらず、H首相に対しての契約上の義務を負わないのである。
このような場合には、不法行為により責任を追求する必要があるが、仮に契約違反があっても、それが第三者との関係では必ずしも不法行為にはならないというのが判例である*7。この意味でも、H首相はインド人占い師に対して責任を追求することは更に困難と言えるだろう。
まとめ
H首相がインド人占い師に対して責任を追及することは困難である。
孤独な政治家が占い師の言葉にすがりたくなる気持ちは全く分からない訳ではないものの、
すがって失敗しても占い師は*8責任を負わないということを理解した上ですがるべきだろう*9。