アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

商品スポーツ事故の法的責任

商品スポーツ事故の法的責任―潜水事故と水域・陸域・空域事故の研究

商品スポーツ事故の法的責任―潜水事故と水域・陸域・空域事故の研究

1.実は危ないスクーバダイビング
 スクーバダイビング*1は、一般に、「やり方を間違えなければ安全で楽しいスポーツ」というイメージが広まっている。


 ところが、東京大学農学部潜水作業事故全学調査委員会の委員等も務めておられ、スキューバダイビングの安全性の専門家である中田誠先生によれば、

*2約2760回に1回の割合で(事故が)発生し、約3221回に1回の割合で*3死亡している
中田誠「商品スポーツ事故の法的責任」111頁

この割合が、スクーバダイビング一般について言えるとすれば*4500本潜ってベテランダイバーになるまでに、6人に1人は死亡しているということになる。この割合は、かなり高い事故率ではないだろうか。


 自らもスクーバダイビングで事故にあった経験をお持ちの中田先生は、このような実はかなりの危険を伴うスポーツであるスクーバダイビングが、一般に安全と認識されている理由は、正常化の偏見にあると説明する。スクーバダイビングの業者が、「スクーバダイビングは本質的に安全ですよ」という宣伝を行う反面、事故による情報を隠し、場合によっては「事故者が悪かった」「自己責任」とコメントすることで、自分さえ変なことをしなければ、ダイビングは安全というイメージを形成してきた。そこで、「自分が事故にあうことはないだろう」という誤った認識を、ダイバー達、特に、経験の浅いダイバーが持つようになったのである。
 そして、ダイビング業者は、このような認識を利用して、ひどいときにはガイド一人にダイバー8人*5といったおそろしい人数比のダイビングを行い、ガイドがダイバーの状況を把握できず事故が発生するというような状況も起こっている。
 


2.ダイビングの安全確保と責任
 ガイド側が、ダイビングの安全確保確保のための義務と責任としては、主に以下の3つがある。


(1)潜水計画責任
 ガイドには、事前にダイバーの能力、海の状況等を適切に把握し、適切妥当な潜水計画を策定する義務がある*6
 例えば、これに反して、ガイドとダイバーの人数比が、当該ガイド・ダイバーの能力や海の状況に鑑みて不適切であれば、いくら事故時にガイドが一生懸命対応していたとしても、潜水計画策定義務違反として、責任を負う。中田先生によれば、ガイドとダイバーの割合は1対1でなければ、通常は適切な対応は困難だろうとする。例えば、1人が行方不明になった場合、1対2であれば、「もう一人のダイバーを連れて行くかどうか」という問題が発生し、適切な対応ができなくなる可能性があるのである。


(2)動静監督注視義務
 たとえCカードを持っている人であっても*7、ガイドはダイバーを監督下において、その動静を注視しつつ引率し、不測の事態が発生すれば、ただちに適切な救助ができるよう*8注視し続ける必要がある*9
 自分の趣味の写真撮影でガイドが目をそらした等は論外であるが、ダイバーが、気分が悪くなる等の場合に、ちょっとでも目をそらして、その隙に状況が悪化すれば、法的責任を問われる。ガイドは、ガイド中は、一瞬でも気を抜けないのである。


(3)説明義務
 ダイビング業界は、一応「安全とはいえない」旨をCカード講習等で教えているが、判例は、少なくとも現在の説明内容では、業者が「自己責任!」と言える程度の説明はされていないとしている。例えば、業者が「ダイビングの危険性を説明しており、自己責任だ」と主張した事案において、判例は、確かにダイビング自体が危険を内包することをダイバーは理解していたが、本件ツアーにおいて特別の危険性が警告され留保されていたと認めうる証拠もないことから、これをダイバー側の過失として損害の減額事由とすることはできないとしたのである*10


3.インストラクター・ガイドが安全を確保すれば、事故の可能性は減る
 ここで、中田先生は、指導団体の責任を問題とする、すなわち、Cカード発行団体(PADI等)は、事故情報を取得して、安全対策をとることができる立場にあり、かつ零細業者は、複数回事故の経験をしているところがあまりないので、事故の経験を学ぶことが困難なのだから、きちんと、上記のような点を加盟業者とダイバーに周知させ、業者が利益のために経験不足のインストラクターをつけるとか、1人のガイドが多すぎる人数のダイバーを引率するといった問題をなくす方向に働き、ダイバー側も、そんなに危ないなら、ガイドに対するダイバーの人数を確認しよう、保険に入っているか確認しよう等の「自衛」ができる*11
 中田先生は、東京地判平成18年4月21日等を根拠に、指導団体がその義務を果たさなければ指導団体が事故について責任を負うとも主張される*12
 インストラクター・ガイドが安全を確保すれば、事故の可能性は減る。業者側が、上記のような法的責任を十分に理解した上で、ダイバーの安全確保に全力を尽くすとともに、ダイバー側も自衛する。これによって、事故の可能性は減らせるのだ

まとめ
 本書は、これまでほとんど一般に明らかにされていなかった、スクーバダイビングの危険性について詳細なデータを元に注意喚起するという意味で、非常に優れている。
 しかし、文章が相当程度難解で*13、しかも、専門用語を説明なく使用するという点は、ダイビングを頻繁にしている人以外にとってのハードルを高くしているという意味で、改善が期待されるところであろう*14
 おすすめとしては、まずは、あまんちゅ!(1) (BLADE COMICS)を読んで*15、ダイビングとはどういうものかを理解した上で、本書を読むと、理解がすすむだろう。

*1:キューバダイビングという方が日常よく使われるが、本当はSelf Contained Underwater Breathing Apparatusの頭文字をとって「スクーバ」らしい。

*2:初級者の講習について平成11年のデータで推計すると

*3:講習生が

*4:講習生レベルだから死亡率が高いという主張もあり得るが、レベルが高い人は、洞窟ダイビング等、危険なダイビングをするので、あながち、上級になるほど安全とも言えないだろう。

*5:本書86頁等

*6:東京地判平成16年7月30日判タ1198号193頁等

*7:判例はオープンウオーターのCカードを持っている場合についてしかないが、それ以上であっても、一定程度はあてはまるだろう

*8:ずっと

*9:刑事事件であるが那覇地判平成18年3月28日

*10:東京地判平成16年7月30日

*11:中田先生は、

誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル

誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル

等において、ダイビングの種類が自分にあってるか、いざという場合に保険に入っているか、器材は新しいか、一人のガイド・インストラクターは何人を担当するのか等から、良心的業者を判別し、自衛するように言う。ここで、PADI等の指導団体がいくら優良業者といっても、それはあてにならないというのが、中田先生のご主張である。

*12:東京地判平成18年4月21日は品質認定及び指導の契約に違反した場合の品質認定団体の責任であり、判例の射程という意味ではかかる見解に疑問がないわけではない

*13:たくさんの情報を詰め込もうという意欲はわかるが

*14:なお、「商品スポーツ」として、本書はパラグライダー、熱気球等も挙げているが、ダイビングと比べると、記載が極端に少なく、ダイビング以外の商品スポーツを期待したユーザーはがっかりするのではないだろうか。

*15:あまんちゅ!は現在2巻まで出ておりますが、両方とも読んでおくべきです。そのストーリーの素晴らしさという意味でも。