アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

著作権の世紀〜フィギュア利用実態についての高裁裁判官の洞察力

著作権の世紀 ――変わる「情報の独占制度」 (集英社新書)

著作権の世紀 ――変わる「情報の独占制度」 (集英社新書)

1.分かり易い例で著作権の問題を提起する「著作権の世紀」
骨董通り法律事務所は、 著作権等の分野で有名な弁護士事務所である。そして、同事務所の福井健策弁護士は、単に代理人として活躍されるだけではなく、「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム世話人等の積極的活動でも有名である。
 福井先生の前著著作権とは何か」は、ロミオとジュリエットやライオンキング等のイメージし易い題材を下に、著作権法の基礎を解説する良書であった。


 先般、この福井先生が、新作を出された。これが 「著作権の世紀」である。前著が比較的伝統的題材を使っているとすれば、本書は、最近のトピックを扱っている。
 著作権が「情報の独占制度」であるというポイントを抑えた上で、どの範囲で独占するのが望ましいか等につき、保護期間の延長論、DRM、アーカイヴィング、カバー・アレンジ等の最近ホットな話題について、福井先生の鋭い切り口で分析し、問題を提起する。
 最近話題の「擬似著作権」、つまり「撮影許可」等著作権がないのに、著作権らしきものがあるかのように主張される現象についても一章を割いて解説している。
 本作も期待に違わず非常に興味深いものであり、最近の著作権の話題を検討する上では、本書を読んで福井先生の問題意識を学ぶことは必須と思われる。


2.福井先生が判例を疑問視する「食玩事件」 
  本書において、著作権が情報の独占制度であることを説明するにあたり、福井先生は、「実用品」には著作権が成立する余地が狭いとする。著作権はその情報を独占させる。要するに、直立歩行する某ネズミに著作権が成立するということは、他人は保護期間中勝手に某ネズミを描いたりできないのである。すると、実用品、例えば、ボールペンの握り部分(グリップ)にゴムを使うデザインは、確かに格好良くまた長時間書いても疲れにくいという画期的なものであるが、これに「著作権」を与えるということは、最初に作った人が死亡後50年に至るまで、これを独占し続けることになってしまうが、ゴムのグリップというデザインは、多分に書き易さといった機能に異存している。実用品の世界では、「こうすると握り易く疲れにくい」という機能(アイデア)がデザインにも影響するので、著作権が制限されるのである*1
 しかし、実用品、例えば茶碗でも、楽吉左衛門の楽茶碗等の美術工芸品や、独立して鑑賞の対象となる程の高度の審美性がある場合には、実用品のデザインでも、著作権の対象となる*2
 本書は、この点を示す例として、一つの判例を挙げる。これが、食玩事件判決(大阪高判平成17年7月28日最高裁HP【リンク先PDF注意】)である。

事案
 海洋堂は、フルタ製菓に、妖怪シリーズ、動物シリーズ、不思議の国のアリスシリーズのフィギュア(食玩)を供給していたが、フルタが売上を過少申告したとして、不足分のロイヤリティ(著作権使用料)支払いを求めた。フルタは、フィギュアに著作権はなく、著作権がないならロイヤリティの額はもっと少ないはずと争った。

阪高知財集中部の裁判官は、「こうした食玩実用品であり、純粋美術と同程度の美術性がなければ著作物ではない」とした上で、妖怪シリーズのみ高度の審美性があり著作権は成立するが、それ以外には著作権は成立しないとした。


ここで、福井先生は、本判決を批判する。まず、通常はフィギュアは飾って眺めて楽しむものとし、

おそらく、フィギュア同士でごっこ遊びなどをした人も、中にはいるのではないか。「動物」シリーズを使って、ライオンとトラはどっちが強いか、ライオンは集団で行動するから、一頭同士だと実はトラが強い、とか言って戦わせた人もいるのではないか、という気もします
福井健策「著作権の世紀」38頁

とした上で、これらを例外として切り捨てこのような例外を除けばフィギュアは鑑賞目的であり、「鑑賞目的で実用品と言うなら、ゴッホの絵だって実用品です*3」として判決を批判するのである。


3.すごいぞ裁判官
 要するに、福井先生によれば、「玩具」等の実用的使途で用いられるのは例外であり、通常は鑑賞目的なのだから美術品として扱うべきということである。これは本当か?

 
 ここで、留意すべきは、フィギュアの購入者層がオタクだということである。福井先生は、子どもがフィギュアを遊びに使うという例を挙げているが、購買層にずれがありそうである。
 まず、発表時の記事や発売時にいち早く購入した人の速報レビューでは、縦横斜上下等の様々な角度から、造型、塗り、質感、パンツの有無等を眺めることが多いのは事実であり、これは「鑑賞」と言えるだろう。
 しかし、鑑賞という「誰もがすること」で満足しないのがオタクであろう

シチュエーションを創造する
http://tyo-dai.com/110207/110207.html
闇芥: ねんどろいど ○ッキーマウス
http://blog.livedoor.jp/hisabisaniwarota/archives/51769920.html
等参照

魔改造
ttp://makaizou.com/index3.htm
ttp://www.makaizoucollection.com/index.html
ttp://www.gssp.jp/best/wataoni3/index.htm
注:18禁のため、hを加えてリンク先に飛ぶ方は自己責任で

別の意味の「実用」
リアルラブドール オリエント工業
注:リンク先の商品をどのような用途で使うかはご想像にお任せします


このように、一通り鑑賞した後、もう一歩先に進むのが、オタクのオタクたるゆえんである! フィギュアについて、実用品とした大阪高裁の判断はまさにフィギュアの利用実態を忠実に反映したものだったのである!

まとめ
阪高知財集中部の裁判官は、フィギュアの利用実態を的確に把握し、適切な判決を下している。このような実務を踏まえた判断は、判決の納得性や裁判への信頼という意味でも極めて望ましい。福井先生も一本取られた形であろう。
裁判官がどのようにこのような利用実態を把握したのかを詮索するのは野暮というもの。流石は裁判官と言うべきだろう。

*1:詳しくは、本書32頁参照

*2:詳しくは、本書32頁参照

*3:38頁