アホヲタ元法学部生の日常

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魔法少女契約からの離脱の法理〜魔法少女まどか☆マギカの法的考察

注:いつものことながら、本エントリは魔法少女まどか☆マギカのネタバレを含んでおりますので、ご注意下さい。

魔法少女まどか☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

魔法少女まどか☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

1.魔法少女まどか☆マギカとは
 魔法少女まどか☆マギカとは、普通の女子中学生等として日常生活を送っていた少女が、キュウべぇと称する不思議な生物(以下「QB」と呼ぶ)と出会い、巧みな勧誘により魔法少女契約を締結させられ、願いを叶えることと引き換えに、魔女と戦うこととなる物語である。
 蒼樹うめ先生のほのぼのとしたキャラデザインなのに、ストーリーはダークということで某界隈の強い関心を呼び起こし、俗にちだまりスケッチ等とも呼ばれる。


2.魔法少女契約の解消
 さて、魔法少女契約締結に向けたQBの巧みな勧誘っぷりは悪徳商法もびっくりである。その狡猾さについては、

キュゥべえ先生から学ぶ交渉術(魔法少女まどか☆マギカ - ほわいそーしりあす::ヴァンガードメモ帳

等の優れた研究がなされている。


 さて、問題は、QBの勧誘に乗って魔法少女契約を締結した場合の当該契約解消方法である。
 この点は、学説上未成年取消と公序良俗違反が有力である*1
 民法5条1項は、未成年者が契約する時には親権者の同意が必要とし、民法第5条2項は、親の同意なき契約を取り消せるとする。魔法少女契約の本質上、契約当事者は少女、つまり未成年者であり、未成年取消が可能だろう。
 また、民法90条は、公序良俗に違反する、要するに反社会的な契約を無効とする。純粋無垢な少女が魔女と戦うことを内容とする契約は、その内容及ぼび性質から、反社会的として無効とされるだろう*2


3.従来の説の大きな問題点
 従来の説による解決は、一見魔法少女契約の軛(くびき)から離脱する上で有効のように思われる。しかし、取消や無効は、「契約前の状態に戻る」こと(原状回復)を内容とするところ、QBは最初に「願い」を叶えてしまっている。例えばさやかの場合には、上條君の怪我が治っている訳である。
 すると、この場合に「元に戻す」というのはどういうことか


 (労務契約の解除を念頭に置いているが、)代表的解説書は、サービスが提供された後で契約が巻き戻される場合*3そのサービスの「客観的に相当な価格を返還すべき」とする*4消費者契約法による取消についてだが、役務の客観的価値を金銭で返還するべきことを前提に、例えば塾の実績や授業内容が説明と異なれば学力を伸ばせず客観的価値はないと説くものもあるが*5、本件では確かに治癒し、またバイオリンが弾けるようになっているので、客観的価値の存在自体を否定するのは困難である。
 そこで、さやかは怪我を治すことの客観的相当な価格をQBに返さないといけない。保険医療ではないので、客観的対価算定は困難だが、例えばバイオリニストになることにより年間1000万円の収入増が見込めるという場合にかかる収入増分が「客観的対価」となれば、約1億5000万円である*6。そう、さやかは*7魔法少女契約解消の暁には1億5000万円を返さないといけない*8

 しかも、これを同時履行しないといけない、つまり1億5000万円を払うまで、魔法少女契約を続けないといけない可能性が高い。未成年取消について、最高裁は同時履行を定める民法533条を準用し、一方が返還義務を履行するまで他方も拒めるとした*9。要するにQBは「取り消すのはいいけど、願い、もう叶えちゃったんだよね。願いを叶えることの対価を返してもらうまでは、魔女と闘ってもらうよ」と言えるのである。ケースによっては信義則によりこのようなQBの主張を制限することもあり得る*10が、未成年者保護や詐欺被害者保護の要請にもかかわらず、同時履行をさせる最高裁判例があるので、本件で信義則が認められるかは不確実性がある*11
 そう、さやかは、1億5000万円を払うまで、魔法少女契約を続けないといけない可能性が高いのである


 これが、従前の理論の最大の問題だろう。


4.特商法による解決
一つだけ、この問題を解消する方法がある。

 特商法第9条第1項は、クーリングオフを規定する。

特商法第九条
1項 (中略)役務提供事業者が営業所等以外の場所において(中略)役務提供契約の申込みを受けた場合(中略)役務の提供を受ける者(中略)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(中略)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(中略)から起算して八日を経過した場合(中略)においては、この限りでない。
(中略)
5項 役務提供事業者(中略)は、役務提供契約(中略)につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該役務提供契約に基づき役務が提供され(中略)たときにおいても、申込者等に対し、当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭(中略)の支払を請求することができない。

クーリングオフは、特定商取引法特商法)が定める救済制度であり、訪問販売等で契約を結んだ場合に8日以内なら契約を解消できるという制度である。
 ここで重要なのは、「自宅で勧誘される」ことは要件ではなく、例えば喫茶店や道端で契約の申込をしたような場合でもクーリングオフの要件に該当する。店や事務所といった「営業所等」以外で契約を締結すればよい*12
 また、クーリングオフ期間である8日の起算点は、「クーリングオフできる」という書面を渡してからであり、クーリングオフの書面をもらっていない限り永久にクーリングオフできる*13


 ここで、契約の相手が「役務提供事業者」、つまり反復継続的に役務(サービス)の提供を行なう者(特商法第2条第1項第1号)である必要があるが、QBは、「それ(奇跡)を売って歩いているのがあいつ」*14とほむらに言われるように、いろんなところで奇跡を「売って」魔法少女契約をさせては「被害者」を出しており、既に社会問題化して報道もされている(http://bogusne.ws/article/185616020.html)。QBは、グリーフシードを食べる*15ために反復継続的に願いを叶えるという役務を提供する契約を締結していると言え、事業者性には問題はない*16


 なぜ、クーリングオフで解決をするのか。 
 クーリングオフの最大のメリットは、すでに受けた役務の対価を一切払わなくてよいということである。
 特商法第9条第5項は、クーリングオフ時点で「既に当該役務提供契約に基づき役務が提供され(中略)たときにおいても、申込者等に対し、当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭(中略)の支払を請求することができない」とする。この趣旨については、立法担当である経済産業省が、解説書で以下のように述べる。

役務提供契約のクーリング・オフについては、役務の提供がなされた後にクーリング・オフが行使された場合には、役務の提供そのものが不当利得となるため、上記のように役務提供事業者からの不当利得返還請求を認めると、役務の提供を受けた者は、原状回復義務として提供された役務の対価相当額を役務提供事業者に支払わねばならなくなり、実質的な消費者保護にならない
経済産業省「平成21年版特定商取引に関する法律の解説」85頁

このような趣旨から、他の契約解消方法とは異なり、クーリングオフには明文で特則が置かれ、役務提供者、例えばQBからの請求を一律に封じているのである。
 さやかは安心してクーリングオフにより、魔法少女契約を解消できる


5.平成20年改正法の有効性
 実は平成21年12月までは、このような解決は不可能であった。
 改正前の特商法は、指定役務制を取っており、エステや結婚相手の紹介等、頻繁に問題になるサービスのみを列挙していた。
 しかし、これでは、指定されていないサービスで消費者からお金を巻き上げる悪徳業者を規制できず、「規制の後追い」が問題視された。
 そのため、平成20年改正により、勧誘・契約締結方法が特商法の規定する方法である限りおよそサービスであれば全て特商法の対象とした*17
 「願いを叶える」というサービスは、指定役務には入っておらず、平成20年改正前では、QBによる問題行動をクーリングオフにより解決することができなかったのである。
 本事例からは、「新規の悪徳商法に包括的に対応する」ための平成20年改正が有効に機能していることが浮かび上がると言えよう

まとめ
 未成年取消等の解決は、単に不要な商品を買ってしまったというような事例では有効なことが多い。しかし、先に役務の提供を受けてしまったという場合には、サービスの相当額の返還という難題が待ち構える。
 これをクリアに解決するのが平成20年改正特商法である。
 「新規の悪徳商法に包括的に対応する」ための平成20年改正は、魔法少女契約解消の秘策となり得るのである。

〈参考〉
スール契約の民法学的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

追記(2/18):まどマギは、現代の法学界において話題沸騰中である。本エントリ脱稿後に触れた*18が、RPガス様は、
マンガと法律 36th 魔法少女まどか☆マギカ 魔法少女契約について | RPガスのブログ
との分析をされている。十分にあり得る法解釈*19であり、また説得性も相当ある議論である。本エントリと結論は真逆だが、それは、「やらずぼったくり」現象を「悪徳業者QBが悪いのでそれは自己責任*20」と考えるのか、それとも、「対価なく利得することを正当化できない」と考えるかの問題であり、両論があり得るところであろう。今後更に法学会の議論が活発化することを期待する。


魔法少女まどか☆マギカ関係エントリ一覧〕
魔法少女契約からの離脱の法理〜魔法少女まどか☆マギカの法的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
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Twitter@ahowotaでもまどマギ中心につぶやいております。

*1:未成年取消の通告書http://inocybe.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-2277.htmlや、公序良俗違反http://inocybe.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-4334.htmlとした先行研究が存在する。

*2:個人的には、憲法18条の奴隷的拘束禁止の間接適用として民法90条に読み込んで無効とする議論にシンパシーを感じる。

*3:悪意の場合には別途検討だが、未成年取消は民法121条で善意とされる。以下善意を前提。

*4:谷口他「注釈民法18巻」468頁

*5:日弁連消費者問題対策委員会「コンメンタール消費者契約法」103頁以下

*6:赤い本65頁以下による。上條君が15歳として、67歳までの収入増分を現在価値に引き直すため、ライプニッツ係数15.6959を1000万円に乗じることになる。なお、なぜライプニッツ係数が15.6959かは、赤い本66頁を参照されたい。

*7:正確には第三者のためにする契約と思われる(受益の意思表示の解釈によってはQBが単なる履行補助者という場合もあり得るので、その場合は直接契約)ので本来の支払義務者は上條君だが、さやかは上條君に請求書がいくのをよしとはしないだろう。

*8:なお、解決として不法原因給付もあるが、必ずしも公序良俗違反だとそのまま不法原因給付にはならずケースバイケースの解決なので、解決策としての信頼性、結論への予測可能性は低い。そこで、訴訟をしても長引くし、後述の同時履行が認められれば、事実上

*9:最判昭和28年6月16日民集7巻6号629頁。なお、学説の批判はあるが、その後詐欺等にも拡張される。詳しくは谷口他「注釈民法13巻」569頁以下参照。

*10:例えば2台分の車台が不法に連結され、容易に登録移転ができない車の売買契約の錯誤無効について、代金返還請求と登録移転義務の同時履行を否定した最判平成21年7月17日判例タイムズ1307号113頁等

*11:なお、第三者のためにする契約でも同時履行があるのは平野裕之「契約法 民法総合5」95頁参照

*12:正確には契約の申込をするだけでよい

*13:クーリングオフ権の時効消滅の論点はここでは考慮外に置く。

*14:第7話

*15:背中ですけど

*16: なお、http://inocybe.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-4334.htmlにおいては、対価が現金でないという点を問題視されている。確かに対価が現金でないのはあまり例がないのは事実である。しかし、特商法は、「役務の提供」が営業所等以外で勧誘され契約が締結されるという「攻撃性」を根拠にクーリングオフ等を認めており、対価が現金でないという点は、否定の理由にはならないだろう

*17:その上で、弁護士業務、金融機関業務等の例外を定める。

*18:アンテナの張り方が下手ですみません。

*19:なお、受益の意思なく受益があった場合と解すべきかは事実認定上の議論があり得るだろう

*20:やらずぼったくりを避けたければQBは営業所に来た少女のみと魔法少女契約を結ぶとか、クーリングオフ期間満了後に願いを叶えるべきであった