アホヲタ元法学部生の日常

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マミ先輩の死亡についてのQBの罪責〜正義も、理屈もあるんだよ!

毎度のことながら、本エントリは、基本的にまどマギの第8話までのネタバレ全開ですので、この点予めご了承下さい。

1.はじめに
 魔法少女まどか☆マギカは、蒼樹うめ先生のほのぼのした絵柄とは裏腹なブラックなストーリーで、一部界隈に熱狂的反響を呼んでいる*1
 第8話に至っては、その内容の凄惨さと、「魔法少女」や「QB」の意味等が次々に明らかになるということで、精神的ショックを受けた視聴者も多いものと思われる。
 既に、RPガス様が、第八話の、魔法少女契約の成否や、ほむらの行為の法的評価を考察されているところ、
マンガと法律 40th 魔法少女まどか☆マギカ 「あたしって、ほんとバカ」より | RPガスのブログ
 個人的にはまだ第8話を総括できるほど精神的ショックから回復しておらず、また、第8話終了時点では多くの「謎」が残っている段階であることから、第8話の法的考察にはまだ触れず*2従前から残された法的論点である、巴マミの死亡についてのQBの責任を考察したい


2.巴マミ殺人事件
 巴マミ殺人事件は、巴マミが、まどか、さやかの目の前で、魔女に惨殺された凄惨な事件である。
 まどか、さやかに、魔法少女の生活を教えようとする巴マミ。まどかは、正義のため、人助けのため、魔女と闘うマミの姿に憧れ、魔法少女として闘うこと自体に憧れを抱いた。そんなある日、上條君の入院していた病院でグリーフシードが発見される。マミは、グリーフシードから生まれた魔女、シャルロッテを瞬殺しようとするが…
戦い前から、死亡フラグを立てまくっていたことから、視聴者は強い不安感を抱いていたが、マミが、頭を魔女に噛まれ、まどからの目の前で変身が解け、死んでいった姿は、多くの視聴者に消し難いトラウマを残した


3.魔女の罪責
 刑法的に検討すると、まずは自ら手をかけた存在(実行行為者、正犯)である魔女シャルロッテの罪責から検討することになる。


ア 魔女は刑法の対象たる「人間」か
 ここで、魔女が「人間」かが問題となる。つまり、動物や死体のような、生きている人間以外は刑法上の責任を負わないのである。
 まず、魔女は、魔法少女から生まれ、魔法少女は少女から生まれるというところまでは第8話までに既に明らかになった。すると、論理関係から、魔女は(人間たる)少女の変化形に過ぎず、人間という評価が可能という説もあるだろう(人間説)。
 これに対し、魔女は異形の存在で人間には知覚できず、既に「死体」のように人間ではないという説も十分あり得る(非人間説*3)。
 個人的には魔女のグリーフシードってのは(魔法少女時代の)ソウルジェムのことではないかと思っている*4。ので、ソウルジェムが「魂」ならグリーフシードもまた「魂」であり人間として評価可能とする人間説に与するものである。
 しかしながら、クリアな答えはないので、以下では、人間説と非人間説で場合分けをしたい。


イ 非人間説
 非人間説に立てば、魔女は、刑法の適用される存在ではないから魔女の行為自体は殺人罪にならないということになる。


ウ 人間説
 人間説の場合、まずは、因果関係が問題となる。要するに、魔女の弁護人*5から、契約して魔女と闘って死ぬことを選ばなければ巴マミはどうせ自動車事故で死んでいたのであり、また、シャルロッテが殺さなくとも他の魔女が殺していたのであって、シャルロッテの行為がなくともどうせ死んでいた(シャルロッテの行為とマミ死亡との因果関係がない)という主張があり得る。しかし、裁判所はそのような「抽象化されたマミの死一般」を考えるのではなく、「何時何分どこそこでの具体的な死」を考える判例は、「猟師が熊と思って人に二発鉄砲を打ち、既に致命傷を与えていた。その後、苦しむ被害者を見て早く楽にしてやろうと三発目を打ち、死亡が10〜15分早まった」という事案で、誤射による業務上過失致死ではなく、三発目の銃弾による殺人罪の成立を認めた*6。そこで、「病院でシャルロッテに噛み殺される」という具体的なマミの死について、シャルロッテは責任を負う。


 次に、シャルロッテの弁護人からは、シャルロッテが何もしてないのにマミが使い魔を惨殺し、シャルロッテ自身をも殺そうとしたから止むなく自己の身を守ろうとしたという主張があり得る。
 刑法36条は正当防衛を定める。

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 
 つまり、自分が殺されそうになったから身を守るという場合には、正当防衛として行為の違法性が否定されるのだ。マミを殺したのは正当防衛という主張は、あながち根拠がない訳ではない。
 しかし、重要なのは刑法36条で正当防衛ができるのは不正の侵害に対する場合だけだということである。正当な侵害には正当防衛できない*7。例えば警察官の正当な逮捕行為から逃れようと警察官に暴行をすれば、公務執行妨害罪であって、正当防衛ではない。
 魔女はキスをしてたぶらかした多くの人を平気で殺し、だからこそ、魔女退治のため、QBと正規の契約を結んだ由緒正しい魔法少女が存在する。つまり、魔法少女が魔女を殺すのは、警察が犯人を捕まえるのと同じ正当な業務なのである*8
 よって、シャルロッテはマミに対し正当防衛はできず、マミを殺したことはやはり違法である。
 よって、魔女は殺人罪の罪責を負う*9


4.QBの罪責
 さて、重要なのはQBの罪責である。第7話までの情報では、QBは、単なる「魔女に殺されるかもしれない地位(魔法少女)に引っ張り込んだ者」に過ぎず、いわば危険な職業へのリクルーターみたいな位置づけなので、QBにつき殺人罪の責任を肯定するのはかなり難しかった*10
 しかし、第8話におけるQBの自白により、QB自身が魔法少女契約を通じて魔女を製造(インキュベート)していることが発覚した。かかるQBの積極的関与から、QBを殺人罪に問えないか??


 ア 非人間説
 非人間説であれば、魔女による殺人についてQBの責任を認めるのは比較的容易である。
 人を殺す人間でないものを製造・起動し、結果的に人が死んでいるのであって、爆弾をしかけたテロ犯と同様、QBは殺人罪の罪責を負う*11


イ 人間説
 シャルロッテが人間である場合には、直接手を下していないQBが責任を負うのは、魔女と「共犯」関係にある場合である。

(共同正犯)
第60条 2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
(幇助)
第62条 正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

 
 刑法は第60条で共同正犯を定める。これは、複数人が共同で犯罪をすると危険が増えるので自己がやっていない部分も正犯としての責任を負うと定めたものである。要するにさやかが魔女を切り刻み、杏子が魔女からグリーフシードを奪った場合、これがてんでバラバラな行動なら、単なる殺人と窃盗である*12。しかし、さやかと杏子が「一緒にやろう」と協力する場合には、2人の連携プレイによって、魔女を倒すのが容易になる、つまり、犯罪の遂行可能性が高まるのである。そこで、刑法第60常は、「すべて正犯とする」、つまり、別の人の行った部分も正犯としての責任を負うとされた。さやかは杏子の行ったグリーフシードを盗む行為も責任を負い、杏子はさやかによる魔女を切り刻む行為にも責任を負う。つまり2人とも強盗殺人罪になる訳である*13
 QBは直接手を下していないが、刑法60条の「2人以上共同して犯罪を実行した者」に該たれば、殺人罪の罪責を問える。


 問題は、QBが手を下していないところであり、このような人も刑法60条の「2人以上共同して犯罪を実行した者」に該たるのか。これが共謀共同正犯である。
 最高裁は、練馬事件大法廷判決*14にて、「二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し」「て犯罪を実行した事実が認められなければならない」とし、通常はそのためには謀議、(ハカリゴトの打ち合わせ)が必要とされた*15
 魔女が活動をする際に、個別にQBとの間で打ち合わせ等をしている訳ではなさそうなので、問題は契約時である。契約時に「魔女になって殺人をすること」の謀議はあるか。 
 この点、周到なQBのことだから約款の最後の方に分かりにくい形でそのような内容を盛り込んでいる可能性もあるが、さやかの例でもそうだったが
シャルロッテとしても魔女以外を退治するつもりなく魔法少女契約を結んだものと思われる。すると、QBの一方的な意向であってシャルロッテとの「共謀」はないから、共謀共同正犯は成立しない。


 普通の共謀共同正犯が成立しないとすれば、QBのみが一方的(片面的)に魔女による殺人を助けたいと思って魔女に力*16を与えたということが、法的にどう評価されるかであろう。これを一般に「片面的共犯」という。
 通常の共犯は「一緒にやろう」「うん」という意思の連絡があるが、片面的共犯はこれがない。それでも共犯たり得るか。
 判例は、お互いに犯罪をやろうという共同の意思がない場合、幇助犯、つまり主犯を助けた人にはなっても、共同正犯にはならないとする*17。大判大正11年2月25日は、Yが被害者を襲ってるのを知り、Yの知らないところで加勢しようと被害者宅に煉瓦を投げ入れた事案で片面的共同正犯は成立しないとした
 判例によれば、QBは、刑法第62条の「正犯を幇助した者」にしかならず、従属的関与に過ぎないとして、刑がシャルロッテより軽くなってしまう*18
 そもそも、QBが魔法少女が殺されていくのを知りながら魔法少女、ひいては魔女をインキュベートしたからこそ、マミは死んでしまったのである。QBが魔女の裏で糸を引く「首謀者」であり、これを、従たる存在としてしか裁けないのはおかしい。 


 そもそも問い直すべきは、シャルロッテにおける規範意識の存否であろう。つまり、シャルロッテも、魔法少女だった時代にはまだ「これはしていい」「これはだめ」という分別がついていたはずである(刑法的に言えばこれを「規範意識」があるという)。しかし、魔法少女が成長して魔女になる時、第8話のさやかのように精神的に異常が生じ、もはや「何が正しく何が間違いか分からない」状態になっているのではないか
 このような場合には、刑務所に入るのではなく、病院で治療を受けるべきである*19。そこで、刑法第39条は、このような心神喪失者には責任はなく無罪とした。

第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。

 シャルロッテもこの要件に該当する可能性が高い。
判例は、責任なき行為者を利用して自らの犯罪を実現した者を「間接正犯」の理論で正犯とする。つまり、何らかの理由で「悪い」と思っていない人を利用して自らの犯罪を実現した場合には、原則として背後者が主犯としての責任を負う*20
 例えば、悪いと思わない理由が、「悪いと知らなかった」という事案がある。選挙当選のため、被告人が虚偽の記載された選挙広報を、虚偽とは知らない選挙管理委員会を使って配布させた事案で、「虚偽との事情を知らず、それが真実と誤信している者をいわば被告人の手足ないし道具として利用した」として間接正犯の成立を認めた名古屋高判平成6年4月26日*21等がある。
 本件でも、QBは、シャルロッテ魔法少女生活の中で精神を変容させ、是非善悪の判断がつかなくなったのを利用して、魔女として活動させ、他人を殺させたりしている。シャルロッテは、QBの勧誘により、QBの手中に陥り、QBの道具となって魔女として人を殺すに至り、その一環としてマミも殺している。これはまさに、QBはシャルロッテを道具として使っていると言えよう。QBには、殺人の間接正犯が成立する
 
 

まとめ
 巴マミの死亡について、魔女が人間でも人間でなくともQBに殺人罪の正犯としての責任を認めることができる
 刑法理論は時として常識と乖離することもあるが、通常はこのように適切な事実認定により正義を実現できるのである
 なお、上記はあくまでも私見であり、いろいろな考え方があり得ることを付言する。


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*1:前は「ブラック」ではなく「ダーク」って言っていたような気もしますが…

*2:なお、第8話にみるQBの勧誘手法については、ツイッターで若干つぶやきました。

*3:なお、非人間説には、魔法少女の時点で人間ではないとする魔法少女非人間説と、魔女になってはじめて人間でなくなるとする魔女非人間説に分かれる。なお、魔法少女非人間説を取ると「マミる」は「殺す」という意味を持たなくなってしまうので、仮に非人間説を取るとしても魔女非人間説で検討する。

*4:第8話視聴段階の一視聴者の勝手な予想です

*5:弁護が大変そう…

*6:最決昭和53年3月22日刑集32巻2号381頁

*7:西田他編「注釈刑法第1巻」439頁参照

*8:なお、杏子のような利己的な目的の場合には、別の扱いもあり得るが、マミについてはそれはないだろう。

*9:一応、但し責任は4.で扱う

*10:例えば、スタントマン業のリクルーターは、仮にスタント行為は危険なので多少怪我はするだろうがかまわないと考えていた場合でも、リクルートしたスタントマンが怪我をした際に傷害罪の罪責は負わないだろう。

*11:因果関係については3.ウ参照

*12:但し、さやかは正当業務行為だろう、杏子は怪しい。以下同じ。

*13:繰り返しになるが、さやかは正当業務行為で無罪。杏子は正当でない可能性があるので、その場合は無期懲役か死刑。

*14:最判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁

*15:QBがインキュベートするだけか、魔女を操っているか、現時点では十分な情報がない。そこで、いわゆSWAT事件等は本エントリでは問題にしない。

*16:例えばマミのマスケット銃に耐える防御力等

*17:注釈刑法852頁

*18:刑法第63条による必要的減刑

*19:批判はあるが、一応医療観察法がこの場合に対応している。

*20:なお、刑事未成年の場合には、特殊な判例法理があるが、ここでは扱わない。

*21:判時1492号61頁