アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

同人の同人による同人のための「確定申告マニュアル」〜のうぜい!

のうぜい! ~同人作家のための確定申告ナビ~

のうぜい! ~同人作家のための確定申告ナビ~

1.確定申告の救世主
 今年も確定申告の季節がやってきた。
 同人活動をされている方は、思ったより儲かったけど、やっぱ申告しないとだめなんかなぁ?赤字サークルに確定申告は関係ないよね?申告の方法がわからない等、頭を悩まされているだろう。
 そんな時はまことじさんの「のうぜい!」である。
 本書は、同人作家で元税務署職員のまことじさんが、漫画で、確定申告のやり方や申告すべきかについてわかり易く解説してくれる。


2.「同人関係の所得税」のみの考察という潔い割り切り
 本書の特徴は潔い割り切りである。
 税法全てを漫画にすれば、何万頁にもなるだろう。確定申告ということで所得税に限定しても、「山林所得」「退職所得」等いろいろある所得の種類全てを漫画にし、「勤労学生控除」「雑損控除」等全ての所得控除を解説していたら、間違いなく「全十巻」等になるだろう。特に、税法は例外の多さを特徴としており、原則がたくさん出て来ると、その何倍にもなる例外の解説が必要になって、読者が混乱する可能性も高い。
 本書は、「同人関係の所得税」に限定し、よくあるパターンのみを考察の対象とすることで、比較的コンパクトな一冊にまとまっている*1
 このような割り切りの結果、記述は「同人収入のみ(学生等)パターン」と、「給与所得と同人収入(会社員等)パターン」に限定されており、記述は非常にわかりやすい。
 内容も、「そもそも申告しないとまずいのか」を収入別に解説し、「申告するとしてどう計算するか」や、「申告しなくともよい人でも、申告した方がよいのか」等が説明されている。
 同人をする場合によく問題になる、「自宅兼作業場」の家賃が経費になるのかや、「趣味と実益を兼ねる買い物」の扱い等が具体的に説明されており、「怖いから売上マイナス印刷代を所得にしちゃえ」としている人は、本書を読めばもっと税金が減るかもしれない
 また、仮に利益が出ておらず、申告義務がない場合でも、「同人の損で他の所得を減らす」ということができる場合もある*2。同じ申告しない人でも、こういうやり方を知った上で「税金が減る額と、申告の労力を比較して申告しない」のか「よくわからないけど申告しないでいいらしいから申告しない」のかは大きく違うだろう。
 本書は、このように、よくあるパターンの同人関係の所得税に限定したおかげで、「有益な情報をわかりやすく伝える」という目的をうまく達成している
 漫画は基本はギャグ漫画であり、先生役の「税野教子」が、生徒(ボケ)の「金森納」と、ツッコミの「同人美」 に解説するという筋立てである。名前の付け方がお役所にありそうなベタな付け方なのは、やはり作者が元税務署職員だからだろうか。
 オリジナルキャラ、オリジナルストーリーだが、昨今のアニメ漫画ネタも含まれているので、「分かる人には分かる」。
 個人的には、人美と納の二人で税金について検討したがうまくいかなかったという状況で登場した教子の「やっぱり 私がいないとダメねえ」という台詞は、顔の表情とあいまって面白かった*3
 また、なぜ「青色」申告なのか等、元税務署職員ならではのうんちくも面白い*4


3.一点心残りなこと
 このように、本書は良書であるが、一点心残りがある。
 同人活動をされている方の中には、このことを勤務先に伝えていない方もいるだろう。その理由も、「隠れヲタク」だったり、「会社が副業を禁止している」だったり様々であるが、重要なことは、確定申告をすると通常は所得額が変わるということである。増える場合もあれば減る場合もあるが、いずれにしても変わる*5
 そして、重要なのは所得が変わると住民税も変わるということである。住民税には所得割があり、所得が違えば、金額も変わる。
 そして、会社員は通常は勤務先が住民税も払うのである。給与明細を良く読むと、所得税だけではなく住民税とも書いているのではないか。これを特別徴収制度という。
  特別徴収制度は便利だが、住民税額を勤務先に把握される。そこで、勤務先が調べようと思えば、税額が違うことから同人活動その他の副業の疑いを発見することができる
  ここで、自治体が自宅まで請求書を送付し、納税者自身が支払手続きを行う形式(普通徴収)もあり、特別徴収を選ぶ義務はない。つまり、普通徴収を選ぶこともできるのである。
  そこで、ものの本等は「普通徴収で副業し放題」とするものもある。
  しかし、特別徴収をしないことに社員側のメリットは通常はないはずで、あるとすれば、「会社に副業を知られない」だけである。そこで、普通徴収は逆に怪しいという考えもあり得る*6
  この意味で、普通徴収にすべきか、特別徴収のままかは、同人活動で確定申告する際に重要かつ難しい問題であり、本書が「所得税」の本であったとしても、住民税の処理について指針を示していただければ、もっとよかったと思われる。

まとめ
 「のうぜい!」は、確定申告に悩む同人界の救世主になり得る、わかりやすい良書である。
 ただ、「隠れヲタクが住民税についてどうすべきか」について、所得税の枠を越えて解説してもらえればもっとよかった。

*1:フルカラーということも考えれば1500円は安いと思います。

*2:知り合いのイソ弁に、給与所得貰ってる人で「事業収入0、弁護士会費数十万で赤字なのでマイナスの所得」といって申告して税金を減らしている人がいる。収入ゼロの事業が事業といえる疑問がないでなないが、発想は同じ。

*3:本書61頁

*4:120頁。シャウプさんが関係していたとは!

*5:プラマイゼロも理論的にはあり得るが、「行って来いでだいたい同じになり」ことはあっても、ピッタリゼロには通常はならないはずで、感覚的には半荘終了時点でプラマイゼロにするのと同程度の難易度ではないだろうか。

*6:なお、フォロワーさんから、資産運用クラスタにとっては、「どうせ確定申告するのだから、その時に自分でやります」という形で特別徴収を断ることには正当な理由があるとのコメントを頂いた。確かに資産運用クラスタの方であれば、そういう意味はあるかもしれないので、この点については、「資産運用クラスタ以外」という趣旨ということでご理解頂ければ幸いである。