アホヲタ元法学部生の日常

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ほむほむが縞パンを履いていない? こんなの絶対おかしいよ!?〜まどかと盗品運搬罪

コネクト(アニメ盤)

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1.ほむほむに自分の救済を託すまどか
第10話には多数の名場面があるが、そのうちの1つは、鹿目まどか(以下「まどか」)が、暁美ほむら(以下「ほむほむ」)に自分の救済を託すシーンだろう。
さやかの魔女化を見て、魔法少女の本当の意味を知った巴マミ(以下「マミ先輩」)。

ソウルジェムが魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃない!
魔法少女まどか☆マギカ第10話より

悲痛の叫びを上げるマミ先輩。魔女化を避けようとして、マミ先輩が杏子のソウルジェムを破壊し、次はほむほむというところで、まどかが矢を射てマミ先輩のソウルジェムを破壊する。
残ったほむほむとまどかでワルプルギスの夜に挑むが、ワルプルギスの夜は強大であり、二人のソウルジェムは濁り切る。まどかは、隠し持っていた最後のグリーフシードでほむほむのソウルジェムを浄化する。

「あたしにはできなくて、ほむらちゃんにできることお願いしたいから...。ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね、こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって言ってたよね...」
「うん」
キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな...」
「約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる」
魔法少女まどか☆マギカ第10話より

 まどかは、ほむほむに歴史改変を託す。ほむほむは、「守りたいものがある」と言って魔女化を避けようとするまどかのソウルジェムを泣く泣く破壊し、時間軸を移動する。


このシーンに、ボロボロ泣いた、まどマギファンも多いことだろう*1


2.ほむほむは窃盗犯
 ところで、ほむほむが窃盗犯というのは衆目の一致するところである。
 例えば、非常に人口に膾炙しているYahoo知恵袋の問答は、以下の通りである。

魔法少女まどか☆マギカのほむほむのパンツは縞パンですか?
(中略)
ほむほむのパンツは縞々ではなく、ピンク等の淡いパステルカラーじゃないかと思います。
なぜかといいますと、まずほむほむが心酔してる鹿目まどかですが彼女は部屋などを見る限り淡いパステルカラーが好みなのだと思われます。
そうなると当然彼女の下着類もそういったパステルカラーの物が多くなってくるかと思われます。
ここで重要なのがほむほむの能力(ネタバレを避ける為に明言は避けます)なのですが、彼女の能力であれば鹿目まどかの下着をそれと知られず盗む(あるいは着用時に抜き取る)事も容易な事でしょう
もちろんほむほむはそうして手に入れた下着をひとしきり堪能するはずです。
そして堪能した後、最終的には鹿目まどかのパンツを穿くことによって満足するはずです。
であるなら、ほむほむのパンツは鹿目まどかのパンツである事が多い、また、できれば鹿目まどかを連想しやすいピンク色のパンツを狙うであろう事から、ほむほむのパンツはパステルカラーの特にピンクが多いのではないかと思われます。
魔法少女まどか☆マギカのほむほむのパンツは縞パンですか? - はじめまし... - Yahoo!知恵袋

 圧倒的通説は、ほむほむがまどかのパンツを盗んでそれを履いているというものである*2


3.まどかは盗品運搬罪!?
個人的には、まどかはパステルカラーの縞パンを履いており、よって、ほむほむも縞パンを履いているのではないかと思っている。判決チックな言い方をすれば、

縞パンではなくパステルカラーと主張する)所論は,ほむほむのパンツの色が(黒やショッキングピンクではなく)パステルカラーであるという限りでは合理的であり,健全な社会常識とも合致する。しかしながら,あるパンツが縞パンであるか単色であるかは,そのパンツの色とは別個の問題であり,パステルカラーの縞パンも存在する。畢竟,所論はほむほむのパンツが縞パンであることを否定する理由にはならないものであり,にわかに肯認できるものではない。

ということである。
*3いつもまどかのパンツが見られるアングルで歩いているQBを証人尋問し、非縞パン説に一矢報いたいところであるが、これは本題から外れるのでひとまず置いておこう。


いずれにせよ、上記のシーンでは、まどかは、「盗品」であるパステルカラーのパンツを所持*4したほむほむにグリーフシードを渡して別の時間軸に移動させることで、盗品であるパンツを運搬しているのではないか!?


刑法第256条は、盗品等関与罪(昔の贓物罪)を規定する。

刑法第256条 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。
2 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する

盗品等関与罪は、要するに、窃盗等の犯人が盗んだ盗品等をもらったり、運んだり、保管した場合に、このような盗品に関与した行為そのものを罰する罪である。


ここでいう「運搬」は、典型的に言えば盗品そのものを持って移動することであるが、盗品そのものを持っていなくともよい(盗品の占有は要件ではない)とされる*5。例えば、窃盗犯と第三者が共同で運搬した場合、その第三者に盗品等運搬罪を認めた判例もある*6
本件でまどかは、ほむほむに違う時間軸に行くよう求め、そのためにグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化している。上記のとおり、ほむほむがまどかのパンツその他の何らかの盗品を持っているであろうことは容易に想像がついたであろう。そこで、まどかとしては、少なくとも、盗品を移動させることになってもかまわないと思いながら*7ほむほむを違う時間軸に送り出し、もって、ほむほむと共同で盗品を移動させたと言える。つまり、まどかの行為は、外形上は盗品等運搬罪にあたるのである*8


4.所有者と盗品等関与罪
 このように、外形上盗品運搬罪になるとはいっても、まどかは盗品であるパンツの所有者である。「盗品の所有者」が、盗品の移転に手を貸した場合に盗品等関与罪が成立するか?
この点は、なぜ盗品等関与罪が罰せられるかという、盗品関与罪の本質論と関わる。
なぜ、盗品等関与罪が罰せられるのか。ここでは、大きく2つ*9の考え方がある。
一つは追求権説である。 これは、窃盗犯自身が盗品を持っていれば、*10比較的容易に所有者が被害品を回復できるが、第三者が関与すると、取り戻し(追求権の行使)が困難になるという点に鑑みて盗品等関与罪を処罰するという考えである。これが判例のとる考えとされる(最判昭和34年2月9日刑集13巻1号76頁*11
ところが、この判例の考えである追求権説に対しては、批判説がある。最近有力に唱えられているもう一つの考えとして、庇護権説と呼ばれる説がある。慶応大学教授の井田良先生が中心となって唱えられているこの説は、盗品関与罪がなぜ罰せられるかという理由について、要するに窃盗犯への協力・庇護を盗品等関与罪として禁圧することで、窃盗犯を「孤立」させることで、ブラックマーケット形成等を阻止するものと捉える(井田良「盗品等に関する罪」*12)。近時、組織犯罪処罰法が制定され、ブラックマーケット形成等の防止のため、「犯罪収益」の授受を広く禁止した(組織犯罪処罰法第11条参照)。庇護権説は近時の立法とも整合的である*13

組織犯罪処罰法第十一条 情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。*14


このような、盗品等関与罪に関する考えの違いにより、まどかの罪責が異なり得る。
追及権説は、所有者の権利を中心に考えることになる。そこで、所有者であるまどか自身が別の時間軸に移転してよいと言っているのであれば、所有者の追及権への侵害はないから盗品等関与罪は成立しないことになる。まどか等の所有者が盗品を運搬した「ような場合には、盗品等の性格を相対的にとらえて、(盗品等関与罪の成立を)否定することになろう」と言われる*15。そこで、まどかは無罪である。
しかし、庇護権説は、上記のとおり、盗品等関与罪を窃盗犯を孤立させるための政策的なものと考える。そこで、井田先生は、盗品等の運搬や譲渡について「被害者の同意があった場合」でも「本罪は成立する」とする*16。この考えを押し進めれば、被害者自身が盗品等の運搬や譲渡を行った場合にも盗品等関与罪が成立することになりかねない。そう、まどかには盗品等運搬罪が成立し得るのである。

まとめ
 現在の判例の基本的な考え方からすれば、ほむほむと一緒になって縞パンを別の時間軸に移動させたまどかは無罪である。
 しかし、まどかを有罪にし得る「庇護権説」に近い考え方から、近日、組織犯罪処罰法等の立法がされている。
 確かに窃盗犯を孤立させブラックマーケット形成を防ぐ等の対応が必要であることそのものは否定できないだろう。
 しかし、まどかを処罰するのは行き過ぎであろう。盗品罪については判例である追求権説を基本的に維持すべき*17であろうし、組織犯罪処罰法等の解釈上も、処罰範囲が過度に広範化しないよう、注意が必要であろう。

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*1:かく言う私も見る度に目から水が…

*2:なお、具体的手法としては、まどかの着用時に抜き取る方が、まどかが知らないうちに「履いてない」状態を形成するという意味でほむほむらしいので、私見は着用時説(有力説)である。

*3:まどかと一緒に移動する時

*4:「自ら履く」という方法での所持

*5:大塚仁他「大コンメンタール刑法第13巻」496頁

*6:名古屋高判昭和30年9月26日高刑速報集134号等

*7:未必の故意

*8:なお、ほむほむについては、運搬行為は不可罰的事後行為、つまり、窃盗犯が盗品を運ぶのは当然のことであり、盗品等運搬罪は成立しない。

*9:実はもっとたくさんあるのですが、重要な2つに限定します

*10:窃盗犯を捕まえて取り戻すだけという

*11:但し、判例を追求権説だけでは説明できないとする例えば前田雅英「刑法各論」344頁のようなコメントもあることに留意されたい。

*12:芝原他編「刑法理論の現代的展開 各論」253頁以下所集

*13:そもそも井田説は、盗品罪の限界を指摘し、組織犯罪処罰法第11条のような立法を志向するものであった。

*14:但し書きは省略

*15:大塚他「大コンメンタール刑法第13巻」492頁

*16:井田前掲書261頁

*17:なお、盗品を取り戻すよう依頼され、被害者と盗犯の間で交渉をして有償で買い戻させこれを運搬した事案について盗品関与罪を認めた最決昭和27年7月10日刑集6巻7号867頁については、射程が難しいのでこのエントリでは論じない。