魔法銃士と銃刀法〜一人が有罪、もう一人が無罪！？訳が分からないよ？！

出版社/メーカー: アニプレックス
発売日: 2011/05/25
メディア: DVD
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１．魔法少女と銃刀法
魔法少女まどか☆マギカには、二人、銃を操る魔法少女がいる。

一人は巴マミ（マミ先輩）、もう一人は暁美ほむら（ほむほむ）。
この二人に迫る最大の脅威は魔女と思いきや、正義の味方が一転、犯罪者になりかねないのが銃刀法である。
剣士さやかと銃刀法〜刃物も、刀剣も、あるんだよ！？ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
では、さやかが剣を持って大丈夫かが問題となったが、マミ先輩とほむほむは大丈夫か？

２．マミ先輩の場合
（１）銃刀法の規制

銃刀法は、銃砲の所持を禁止する。その理由は、人を殺傷する危険があることから、これを禁圧するためである。

銃刀法第２条第１項この法律において「銃砲」とは、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃（圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。）をいう。

銃砲については、第２条１項が、拳銃、小銃等の例を引いて定義している。
一般には、「金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲」つまり、人を殺傷するに足りる程度の威力をもって金属性弾丸を発射できるものと解されている*1。この「人を殺傷するに足りる程度の威力をもって」金属性弾丸を発射できるというのは明文にはないものの、要するに、「人の生命身体への危険」という観点から銃砲の所持を禁止した以上、例えばコルクの弾丸しか発射できないもの等はいくら形が銃っぽくとも「銃砲」ではないということである。

マミ先輩のマスケット銃は、一見するとその他の銃砲*2、「ティロフィナーレ」に使う大砲は「砲」であって、いずれにせよ、マミ先輩は「銃砲」を所持しているように思われる。

（２）魔弾の射手と銃刀法
しかし、本当にマミ先輩はが持っているのは「銃砲」なのか。ここで考えてみたいのは、マミ先輩は魔女との戦闘中、金属性弾丸を発射したのかという点である。確かに、魔女には普通の金属性弾丸も効くらしい。しかし、普通の弾丸からリボンが出てくるだろうか？ やはり、マミ先輩は、魔女用に特化した魔法の弾丸を発射していると見るのが妥当だろう。
もし、マミ先輩の銃砲が、「魔弾」専用で、普通の金属性の弾丸ではうまく飛ばない、人を殺傷する威力がない場合には、「銃砲」ではない。

問題は魔弾の専用か、普通の弾丸もオッケーかをどうやって判断するかである。一般論としては「容易に修理して発射機能を有するようになるならば、仮に現時点で発射機能がなくとも銃砲といえる」というものである。この判断基準を各事件に適用するにあたり、判例は、 元々金属性弾丸を打つためのものが一時的にうまく打てるか微妙になっているものについては、危険な銃砲の所持禁止を徹底させるため、比較的簡単に容易に修理可能として、銃砲性を認める。例えば、撃針が短くてこのままでは撃てない拳銃で、銃砲店や熟練した旋盤工が、なんとか二三発撃てる程度に回復させるのでさえ概ね三日半かかるという場合でも、これを銃砲といって差し支えないとした*3。
しかし、本件は、元々魔弾を撃つためのものであり、金属性弾丸を使う具体的危険は低い。そこで、このような積極的な判例を適用する根拠は乏しい。反面、判例の中には、日本にない種類の銃で、遊床が正規の製造工程によらない不完全なものだから、金属性弾丸を撃とうとすると暴発して銃が壊れるかもしれないという事案において、日本にない銃であって、きちんと撃てるようにするための正しい遊床を作るのは難しいから、容易に発射機能を回復させられず、結局銃砲ではないとしたものがある*4。本件もこの判決と同じで、他に類似のものがない*5オリジナルの銃であって、これがきちんと金属性弾丸を撃てるかは不明だし、撃てない場合に撃てるようにするための修理もまた困難であろう。そこで、マミ先輩は、金属性弾丸を発射し人を殺傷する威力があるものを持っていたとは言えず、無罪である。

グリーフシードを落とさない、つまり、魔法少女側にとって戦うメリットがない使い魔でも、平和を守るためにこれを倒す、人の命を大切にするマミ先輩*6。そのマミ先輩の願いから生まれたマスケット銃や大砲なのだから、魔女用の弾丸しか撃てないもので銃砲ではないというのは実情に即していると言えるのではないか。

２．ほむほむの場合
（１）ほむほむは銃刀法違反！？
マミ先輩が無罪なら、ほむほむも無罪か！？
現実は甘くない。ほむほむは、ヤクザ事務所等から拳銃、ライフル、機関銃を調達しているが、これは全て実弾を発射して人を殺傷するための本物の銃器である。
これを所持しているほむほむは、銃刀法違反になりそうである。

（２）魔女への防衛用という抗弁は通用する？
ここで、これらの拳銃等の所持が魔女の攻撃や、QBの不当勧誘に対する防衛用で正当防衛（刑法３５条）という主張が考えられる。
確かにQBの不当勧誘からまどかを守るため、QBを穴だらけにすることの必要性、合理性はよく理解できる。
しかし、判例は、いついかなる場合でも銃の所持は正当防衛にならないという*7。大阪高裁は、「銃刀法に違反してけん銃を所持する行為は、けん銃所持の規制目的に照らし、所持の目的がたとえ外部から受けるかもしれない襲撃に備えて他人を護衛するためであっても、単に同法に違反するにとどまらず、およそ社会的に許容されない違法な行為である」とした*8。

ほむほむの銃器所持は正当防衛により正当化するのは困難であり、ほむほむは有罪と言わざるを得ない。

（３）えっ！？強盗罪？
しかも、銃砲のような禁制品でも、少なくともなんらかの所有権の目的になる限り、これを盗むと財産犯が成立する*9。札幌高判昭和２５年１２月２５日*10は、拳銃の窃盗罪を認めている。

そして、時間を止めて他人が（暴行によらず）意識がなくなった状態を生じさせてものを取るのは昏睡強盗罪というれっきとした強盗である（刑法第２３９条）。これまで、時間を止めた事案に関する判例はないが*11、意識作用に害を及ぼし物への有効な支配ができない状態を利用する財産権侵害を強盗とするという刑法２３９条の趣旨からは、かかる意識作用に害を及ぼす手段が時間停止であったとしても、昏睡強盗罪の成立は妨げられないだろう。

まとめ
マミ先輩は、マスケット銃を持っても何ら差し支えない。
しかし、ほむほむは、強盗罪と銃砲所持罪の罪責を負う。ほむほむが指名手配でもされて捕まりそうになったら、「私の戦場は、ここじゃない」と言って時間軸を移動するのがよいだろう。銃器犯罪へ極めて厳しい態度を取る裁判所に対して、ほむほむを弁護することは非常に困難なのだから。

*1:平野龍一他編「注解特別刑法第６巻」１８頁

*2:小銃である可能性はあるが、wikiの「人類が13世紀頃から利用し始めたマスケット(火縄銃)などは旋条が存在しない滑腔銃身だったため、15世紀中頃に発明された旋条（ライフリング）された銃を“ライフル”と呼んで区別していた。」を前提とすれば、ライフル（旋条）がない以上、小銃ではない。司法研修所「銃砲刀剣類所持等取締法違反事件の処理に関する実務上の諸問題」１３頁参照

*3:広島高松江支判昭和４３年１月２９日判時５２０号８３頁等

*4:京都地判昭和５７年４月１０日判時９１９号１２８頁

*5:普通リボンは出ません。

*6:あんこちゃんは、数人殺して魔女になるのを待つ

*7:江原伸一「警察官のための最新基本判例８０選組織犯罪対策」１２２頁

*8:大阪高判平成１３年１月３０日判時１７４５号

*9:川端他「裁判例コンメンタール刑法第三巻１３６頁

*10:高刑集３巻４号６８４頁

*11:もちろん、先例なんてあるはずがない