- 作者: フランツカフカ,Franz Kafka,丘沢静也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/10/08
- メディア: 文庫
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1.訴訟に負けて後悔しないために
訴訟への勝敗は、多分に「事実」に左右される。そこで、弁護士の腕がどんなによくても勝てない事件、敗訴的和解か敗訴かを選ぶしかない「筋が悪い」事件があることは事実である。
しかし、代理人の「腕」が事件を左右することがあることもまた事実である。一審で負けた後、代理人を変えたら逆転したといった話は頻繁に聞く。特に弁護士の数が急激に増え、反面、法律事件の専門化も著しい現在、弁護士の腕が結論に影響を与える度合いは、昔よりも増えているといって差し支えないだろう。
依頼者が個人であれば本人、会社であれば法務担当者としては、良い代理人、少なくとも、「勝てる事案で負ける」ことにはならない代理人を選ぶ「目」が求められている。
しかし、訴訟経験というのは、弁護士の方が本人(会社)よりは圧倒的に多い。訴訟事件を法務の中の一部のセクションに集めて経験を集約する大企業であるとか、簡裁の訴訟は法務部員にやらせる企業*1等の例外を除けば、上場企業であっても、法務部員が経験する訴訟の件数はかなり少ないのではないか。
これに対し、*2一度に訴訟を十件抱える弁護士なんてのは普通にいる。訴訟の経験、場数は圧倒的に弁護士が多い。そこで、本人が訴訟のやりかたがおかしいと思っても、弁護士が「こういうものですよ」といえば、それ以上的確な反論ができない場合が多い。セカンドオピニオンを求めるほどのことではないと思って不安を水面下に隠しているうちに、「敗訴判決」「敗訴的和解勧告」が出ては取り返しがつかない。
2.弁護士の訴訟活動について裁判官がどう思うのか?
ここで、興味深い本がある。それが、「別冊二弁フロンティア」であり、オンラインで注文ができる。
これは、109人もの現役裁判官に、弁護士の「よくある」訴訟方針をぶつけ、これが裁判官の目からどう見えるかをアンケートしたという一大プロジェクトである。第二東京弁護士会が東京地裁と協力し、弁護士業務をよりよくしようと、このアンケートをとったのである。この志は素晴らしい!*335の質問に、裁判官が率直な回答を寄せている。
3.裁判官からの厳しいツッコミ
具体的な質問と回答を見てみよう。なお、アンケートの回答は適宜抜粋させていただいている。
反対尋問こそ弁護士の腕の見せどころ。自分くらい経験豊かな弁護士であれば反対尋問で十分証人を崩すことができる
賛成の裁判官:10人
反対(有効な反対尋問は稀)の裁判官:54人
「そんな尋問見たことない。」
「???????????????」(ママ)
「そんなことは考えない方がよいと思う。人証調べに至るまでの立証活動をまじめにやるべきだ。」
「結論を変えるような反対尋問は、ほとんど経験したことはない。どうでもいいいうな枝葉について、溜飲を下げている程度である。」
本書29頁
裁判官が機嫌の悪そうな顔をしているのに、「なぁに、反対尋問でひっくり返せますよ」といっている弁護士は、よほどの傑物*4か、その反対であろう。
依頼者との関係からも、準備書面の分量は多い方がよい
賛成の裁判官:0
反対の裁判官:96人
「要点を衝いてさえいれば、分量は少ない方がよいと思う。冗長な書面は逆効果。依頼者もそんな表面的なことで評価するとは思えないのだが。」
「反対。分量は、少ないほど良い。中身を濃く、簡潔にして、書証を括弧書きにして主張してほしい。」
「長大な準備書面は裁判所の読む気を殺ぐし、読み方も散漫にならざるを得ない。多くの場合、準備書面は10ページ以内にまとめられると思われる。20ページを超える準備書面で、良くできた準備書面であると感じることはないといっても過言ではない。裁判所に自分の主張を充分に理解させようとするならば、分量が多いことはマイナスである。」
「論外。当事者がそのような誤解をするのであれば、その誤解を解いてこそ専門家といえるのではないか。」
本書13頁
ものの本では「5ページの準備書面を書いてきた若手を叱り飛ばして30ページにさせた」武勇伝を語っている弁護士もいると聞くが、裁判所にどう評価されるかはこのアンケートに示されている。
人証調べのための準備をする段階で、新たな証拠の提出の必要性についてよく吟味して、当日に提出しよう
賛成の裁判官:0
反対の裁判官:102人*5
「21世紀になってこんなことを言わないでほしい。」
「新民訴の趣旨に反する。むしろ、今までどうしてその書証を出せなかったかを釈明する。そのようなアンフェアなやり方は出来る限りやめてもらいたい。」
「全く無意味。このような提出の仕方は、許さない。」
「出せるものは早く出せ」
本書22頁
裁判官の多様かつ多彩な罵倒表現に、どれだけ裁判官が適時に証拠を提出しない代理人にイライラしているかが分かるだろう。
もちろん、全ての質問がここまで綺麗に答えが分かれる訳ではなく、「場合による」という回答も多い。しかし、裁判官の考え方の傾向を知っているのと知らないのでは、ダメ弁護士を見抜けるかに大きな影響を与えるし、上司に対し別の弁護士のセカンドオピニオンを求めるよう説得する際に、「なんか違和感あるんで」というのと「裁判官の89パーセントがおかしいと言っています」というのでは説得力が違うだろう。
まとめ
弁護士と依頼者の間は、信頼関係が大事であり、「日頃から弁護士を疑え」というつもりは微塵もない。
しかし、いざ弁護士に「怪しい兆候」が見られた場合、これに適切に対応しなければ、法務部員としての善管注意義務に反する可能性もある。
後で「あたしって、本当バカ」と後悔しないため、本書を読んで事前に弁護士の訴訟活動に対する裁判官の考え方を知っておくことは、訴訟を担当する可能性がある法務部員にとって有益ではないだろうか。