四百年前に、出会った、ような・・・「魔女狩り」の歴史からまどマギの結末を予想する！

アーティスト: ClariS
出版社/メーカー: SME
発売日: 2011/02/02
メディア: CD
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本エントリ脱稿後、魔法少女おりこ☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックスフォワードシリーズ)魔法少女おりこ☆マギカでは、「魔法少女狩り」が物語の中心となっているとの報に触れたが、この点は反映されていないこと、ご理解いただきたく存じます。

１．魔法少女まどか☆マギカの魔女退治は４００年前に行われていた！
ソウルジェムが魔女の存在を探知する。見敵必殺（サーチアンドデストロイ）！変身した魔法少女は、魔女を殺し、グリーフシードを奪う。
このように、魔法少女まどか☆マギカにおいて、魔法少女による魔女退治が行われている。

ところで、魔女退治は、現代に始まったものではない。１６００年を中心にした１００年間、ヨーロッパを魔女狩りの旋風が吹き荒れた*1。

２．森島恒雄著「魔女狩り」に見る魔女狩りの「魔女」とまどマギの「魔女」

魔女狩り (岩波新書)

作者: 森島恒雄
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 1970/06/20
メディア: 新書
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このような「魔女狩り」の実態に迫った傑作が、森島恒雄著「魔女狩り」である。わずか２００頁余りの岩波新書だが、事実を積み重ねて真実をえぐるその筆致には感服した。何しろ１９７０年の初版以降、五十以上も版を重ねているのである。

本書によれば、魔女は人間の歴史が始まった頃にはすでに存在した*2。当初は民衆が魔女の行為そのものを問題視し、敵視することがあっても、組織的に魔女を抹殺することはなかった。しかし、中世ヨーロッパにおいて、「政治的目的」つまり、社会不安の中で、対立する者に「魔女」のレッテルを貼って抹殺したり*3、大きな権勢と財産を誇る集団（例えばテンプル騎士団）を弾圧し、財産を自らのものにするためといった目的*4で教会が魔女を裁くようになる。ヤーコプ・シュプレンゲルとハインリヒ・クラーメルが著した「魔女の槌」に象徴されるように、魔女は異端であるから、*5魔女であるというだけの理由で異端審問官が誅殺すべきという考えが発展し、大規模な魔女狩りが行われるようになった*6。

このような魔女狩りの時代、魔女は、異形をしており*7、使い魔を操って*8、人畜への加害等の諸悪をもたらす*9。よって、問答無用で異端審問官に誅殺され、財産を没収されなけらばならない*10とされていた。
まどマギでは、異形の魔女が使い魔を操って人を殺したりするのを、魔法少女が、魔女側の言い分を聞かずに退治し、残された財産であるグリーフシードを得る。魔法少女を、魔女を退治する異端審問官と見れば、まどマギは魔女狩りの歴史をなぞっていると言える。

興味深いのは、魔女狩りで魔女の財産が没収されるところ、その財産の奪い合いが発生したことである。

異端者の死骸に付随する財産没収権を獲得するため、すでに腐敗しかけている屍体を聖職者同士が奪い合うことは珍しくなかった。
本書１６３頁

魔女の落としたグリーフシードを魔法少女が奪い合うこともあるというのは、魔女狩りの歴史を繰り返していると言えないだろうか。

なお、魔女狩りでは、「異端審問」というある種の裁判の形を取ったため、一応魔女本人の言い分を聞く形にはなっていた。しかし、過酷な拷問により自白が強要され、「密告」「うわさ」によって一度魔女と目されると、事実上助からないことは、森島氏の「魔女狩り」が詳細かつ具体的に説明するとおりである。

３．魔法少女と「魔女」の共通点
ところで、魔女狩りで狩られた「魔女」について仔細に検討すると、魔法少女と「魔女」の共通点が浮かび上がる。

少女が魔法少女になるのは悪魔の手先のセールスマン、きゅうベェと契約したからであった。それにより、現実世界の願望をなんでも１つ叶えてもらえる。
魔女狩りで狩られる「魔女」は、その欲望の充足のため、悪魔と契約を取り結ぶ。

魔女は、悪魔と結んだ力によって、常識では理解できない不思議を行う者。（「妖術論究」１５９９年）
その他のどの定義を拾ってみても、魔女の本質が「悪魔との結託」にあることを明らかにしている。
（中略）
心身共に悪魔に捧げ、悪魔を神として臣従。その代償として魔力享受、あらゆる現世的欲望の充足。ーこれが悪魔との契約の基本条件であった。
本書６４頁〜８６頁

願い事を叶えることを代償に悪魔と契約する魔法少女の姿は、魔女狩りで狩られた魔女と重なりあう。

また、魔女が作り上げられる、仕立て上げられる目的は、財産を得たいといった政治的目的であった*11が、魔法少女が魔女に落ちる時のエネルギーを得たいというのも立派な政治的目的である。

更に、魔法少女は、痛覚を遮断することができるが、これは、魔女狩りで狩られた魔女も同じである*12。

魔女の行動について本書は以下の例を引く。

「（魔女集会の）会場に一匹の猫が現れ、会衆（魔女）はそれを礼拝した。」
「邪淫は合法とされ、団員（魔女）は淫行をほしいままにした。」
本書５６頁

い、淫キュベーター！？

そして、異端審問官自身が魔女とされて狩られる例も存在したという。エセックスに伝わる古い伝承によれば、「魔女狩り将軍」を僭称し、1645年から47年にかけて魔女の摘発に血道をあげたマシュー・ホプキンスは、ホプキンス自身が魔女として告発され、自ら考案した水責めにかけられた後、絞首されたとされる。
魔女を発見し、抹殺しながらも、ソウルジェムが濁り切ると魔女に変わる魔法少女の姿は、さながら、魔女として狩られる異端審問官と言えよう。

まどマギの「魔法少女」は、魔女を狩る異端審問官のように見せかけて、むしろ魔女狩りで狩られる「魔女」の方だったのである！！

４．魔女狩りの歴史が教える「最後にのこった道しるべ」
どんな弁解をしても、自白するまで拷問にかけられ、拷問で死ぬか、魔女として死ぬかのどちらかの運命を持つ魔女。魔法少女が「魔女」ならば、歴史の教える魔法少女の運命は、理不尽な死、つまり、虚淵玄先生お得意のバッドエンドである。

こんなの、絶対おかしいよ！？

歴史を紐解くと、極めて限られてはいるものの、魔女狩りに異を唱えた市民がいた。
例えば、ヤン・ヴィーアという医師は、魔女狩りの欺瞞的手法に激怒し、「悪魔の欺瞞」を著した。もちろん、「名も無い一医者の分際で、古今の権威に反抗するとはなにごとぞ。」と激怒された*13。
例えば、神父コルネリウス・ルースは、「悪魔との契約などありえない」とした「妖術の真と偽」を著し、監禁・自説撤回を命じられた*14。
これらの魔女狩りに抵抗した市民は、ほとんどが否定・弾圧され、投獄等の惨めな目にあった。しかし、絶対に諦めず、魔女狩りに異を唱え続けた。コルネリウス・ルース神父は、二度の投獄を経て、三度目の告発を受けたところで死亡するまで、自説を曲げなかった。

これらの「無名戦士」の累々たる屍の上に、ついに正義が実現される日が来る。
それは、１６９６年１月１４日のことだった。セーレムの魔女裁判といわれる魔女狩りについて、全陪審員がその評議を修正し、被告を無罪と評決した。裁判官は全判決を撤回した。「魔女」とされた者は無罪となった。この成功をもたらしたのは、無名のボストンの商人、ロバート・カレフである。彼は、魔女裁判の不合理の核心をつく抗議文を書き、世論の支持を集め、四年の年月を経て、正義を実現させた*15。
このように、魔女狩りに抵抗する無名市民の不屈の活動が、最後には実を結んだのである。

まとめ
魔法少女まどか☆マギカは、中世ヨーロッパの「魔女狩り」の再現である。魔女狩りでは、不屈の精神でこれに抵抗した市井の民衆の執念が最後には結実した。
「絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても」という強い約束を胸に、「同じ時間を何度も巡り、たった一つの出口を探る」暁美ほむら。確かに、何度も何度も壁に跳ね返されるだろう。しかし、 ほむほむのこの絶対に諦めない精神があれば、必ず最後には、まどかとの、ハッピーエンドが待っている。四百年前の魔女狩りの歴史は、ほむほむが諦めない限り必ず成功すると教えてくれているのだ。