まどかの武器が弓矢な理由〜銃刀法を回避せよ！？

アーティスト: Kalafina
出版社/メーカー: SME
発売日: 2011/02/16
メディア: CD
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１．まどかと銃刀法
これまで、さやか、マミ先輩＆ほむほむと、銃刀法に違反するかを検討してきた。
そこから導き出される教訓は、銃砲や刀剣類をもっていると、銃刀法違反として、逮捕勾留されるリスクが極めて高いということである。最終的に無罪になったとしても、身柄を拘束され、起訴されて長い長い裁判の末無罪というのでは、途中でソウルジェムが濁り切るのは容易に予想できるところである*1*2。
正義の味方が警察にしょっ引かれるというのでは、形無しである。何か、銃刀法違反リスクが低い武器はないか？

２．弓矢は銃刀法に違反しない！？
魔法少女まどか☆マギカでは、主人公*3のまどかは、変身すると弓矢を武器にする。なかなか主人公の武器が弓矢という魔法少女モノは聞かない*4が、なぜ、まどかは弓矢を選択したのだろうか？？ここで、まどかが弓矢を持つことが銃刀法に違反するかという観点を考えてみたい。

銃刀法第二条　この法律において「銃砲」とは、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃（圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。）をいう。
２　この法律において「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた、刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち並びに四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ（刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつてみねの先端部が丸みを帯び、かつ、みねの上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。）をいう。

銃刀法は、全ての武器を規制する訳ではない。法律によって、銃砲と刀剣を定義し、これらについて規制をしている。そこで、銃砲や刀剣類の定義に当てはまらなければ、銃刀法に違反しない。

まず、「銃砲」であるが、「装薬銃砲」、つまり、火薬の力で弾を飛ばすものか、「空気銃」、つまり、空気の力で弾を飛ばすものでなければならない*5。まどかはその手で弓を引いており、火薬の力も空気の力も利用していない。
次に、「刀剣類」であるが、「矢」は明文では規定されていないようである。そこで、列挙されたものを検討しよう。

「刀」とは、つばと柄をつけて用いる両刃の刃物である*6。つばも柄もない矢（鏃）は、刀ではないだろう。
「やり」とは、刺突に便利なように、長い棒状の柄に先端の尖った刃物をつけたもの*7である。矢は刺突のためではなく、発射のためであり、やりというのは辛い。
「なぎなた」とは、長い棒状の柄に幅の広い長い太刀のいうな刃物をつけたもの*8である。これもまた違う。
「剣」とは、柄をつけて用いる左右対象をなす両刃の刃物*9である。これも違う。
「あいくち」とは、短刀のうち、つばのない柄をつけ、懐中などに隠し持つのに便利な形のものである*10。矢は、魔法の力で隠し持たないと不便であろう。
「飛び出しナイフ」も明らかに違う。

要するに、まどかの弓矢は、定義にあてはまらないことから、銃砲でも刀剣でもないのである。

３．「刃物」として携帯が禁止される？
ここで、銃刀法２２条は、

第二十二条　何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。ただし、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、政令で定める種類又は形状のものについては、この限りでない。

つまり、六センチメートル以上の刃渡りの「刃物」を規制する。これは、刃物ならなんでも良い。切り出しナイフ、はさみ、包丁などもこれに当たる*11。
「鏃」も、刃物の一種であるから、六センチを越えれば規制対象である。

ところで、まどかの鏃が六センチを超えるか。これは、証拠写真から鑑定することになる。
本エントリ冒頭に掲載した「Magia」のほむまど絵では、鏃の長さがまどかの人差し指よりも短い。
成人男性が８センチ弱*12なので、女子中学生であれば、六センチ未満と推測される。つまり、矢じりは六センチ未満なので携帯しても銃刀法に違反しない！

４．最後に残った軽犯罪法
しかし、銃刀法に違反しなければ不可罰ということではない。軽犯罪法は、凶器を隠して携帯することを禁止する。

軽犯罪法第一条　左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二　正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

軽犯罪法第１条２号は、「　正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯」することを禁止する。ここで、「刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」の射程は広い。よく、性質上の凶器と用法上の凶器の双方が含まれると言われる*13。性質上の凶器は、人の殺傷等を当該器具の本来の用途とするものである。例えば、刃物、鉄パイプや木刀、ヌンチャク、メリケンサック、竹やり、特殊警棒等は性質上の凶器である*14。用法上の凶器は、本来は人の殺傷等以外の目的のものだが、使い方によっては人の殺傷等の用途に供され得るものであり、例えば、角材（ある程度の長さ・太さ）、のこぎり、千枚通し、爆竹（ある程度まとまった量）は、用法上の凶器である*15。一点、注意すべきなのは、用法上の凶器といっても、客観的危険性がないものは軽犯罪法が規制する器具ではない。例えば、手ぬぐいは、人の首を絞めるのに使えるが、客観的危険性がなく、手ぬぐいを隠し持っていただけでは、軽犯罪法に違反しないのである*16。。
弓矢は、矢の先に吸盤やコルクでもついていない限り性質上の凶器であり、凶器性を認めた判例もある*17。つまり、「刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に当たる。

では、まどかは、正当な理由なく、弓矢を隠して携帯したのか。
第１０話では、初っ端、ほむほむを助けた時は、戦闘中であり、魔女を倒すという「正当な理由」があったと言える。また、明らかに隠していない。そこで、このシーンでは、軽犯罪法に違反しないと言えよう。
委員長の魔女*18との戦いでは、魔女を倒し、ほむほむと抱き合ったその時は、私が見た限り、弓を外から見えるところに持っていなかった。ここで、まどかは変身中だから、魔法の力で隠しているだけで、すぐに弓を取り出せる状態であるところ、魔女を倒した後だから、もはや正当な理由はないとも思われる。しかし、魔女を倒した直後であり、変身を解く間を惜しんでほむほむと抱き合いたいという気持ちはよく理解できる。まあ、時間的な接続性から、未だに正当な理由が続いていると考えることができるだろう。

しかし、OPの変身後のまどかのシーンは、一場面*19を除いて魔女と戦っていないし、戦いの直前直後とも思われない。すぐに危険な凶器を取り出せる状態で隠し持つことができるのは、正当な理由がある、魔女との戦いの最中、ないし直前・直後に限られる。それ以外の時間は変身せず、見滝原中学の制服で過ごすべき*20であり、それにもかかわらず変身し、または、変身を解かないで、すぐに隠し持った弓矢を取り出せる状態になれば、これが、軽犯罪法が禁止する、正当がない隠匿しての携帯なのである。

追記：コメント欄のpatRIOT様のコメントが説得力があるので、最後の部分を若干修正いたしまた。コメントありがとうございました。

まとめ
まどかは、弓矢を選択したため、銃刀法違反を回避した。刑事訴訟法第６０条第３項により、定まった住所を持つまどかは軽犯罪法に違反しても勾留されない*21ことから、長期間身柄を拘束されてソウルジェムが濁ることもない。有罪でも、せいぜい、科料か拘留である（軽犯罪法第１条柱書）。まどかが変身後の姿をデザインした際には、きっと法務的なチェックもした上で弓矢を選択したに違いない！？

〔魔法少女まどか☆マギカ関係エントリ一覧〕

*1:魔女化すると、無罪ではなく、被告人死亡による公訴棄却なんでしょうね。刑事訴訟法３３９条１項４号

*2:刑事補償法等もありますが、事後的に金で代替できるものではない。

*3:ほむほむ主人公説が有力ですが。

*4:何か具体例が他にございましたら、ぜひご教授ください。

*5:平野他編「注解特別刑法６巻」２６〜２７頁

*6:平野他編「注解特別刑法６巻」２８頁

*7:平野他編「注解特別刑法６巻」３２頁

*8:平野他編「注解特別刑法６巻」３２頁

*9:平野他編「注解特別刑法６巻」３２頁

*10:平野他編「注解特別刑法６巻」３２〜３３頁

*11:平野他編「注解特別刑法６巻」３２３頁

*12:サンプルは筆者。

*13:警察実務研究会「『携帯』違反取締要領」５８頁

*14:警察実務研究会「『携帯』違反取締要領」６３頁

*15:警察実務研究会「『携帯』違反取締要領」６３頁

*16:警察実務研究会「『携帯』違反取締要領」５８頁

*17:凶器準備集合罪につき、洋弓を凶器とした千葉地判昭和５８年７月２１日。なお、東京高判平成４年１月１３日判例タイムズ７７４号２７７頁内で言及されている。

*18:洗濯物たくさんの人のこと

*19:マミられそうになる場面

*20:私服でもいいのですが、筆者的に制服が好きなので・・・

*21:三十万円（刑法、暴力行為等処罰に関する法律（大正十五年法律第六十号）及び経済関係罰則の整備に関する法律（昭和十九年法律第四号）の罪以外の罪については、当分の間、二万円）以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定（注：勾留）を適用する。