アホヲタ元法学部生の日常

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まどマギと税法〜「宇宙の会社からも税金が取れる法人税法を作るなんて、日本人は訳が分からないよ!?」

魔法少女まどか☆マギカ 3Dマウスパッド キュゥべえ

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1.QBはぼろ儲け?
  いたいけな少女を騙くらかして、魔法少女にさせ、魔女に落とす際のエネルギーを得る*1
 QBは、様々なエネルギー発生源を調査し、その上で、第二次性徴期の少女の希望が絶望に相転移することが、最も効率よくエネルギーを生み出す方法だとの結論に至った。そして、世界中で魔法少女契約を結びまくっている。魔女図鑑に乗っている魔女は、その被害者の極一部に過ぎない。
  つまり、QBは、魔法少女契約によって、莫大な利益を上げている。財政難の日本政府は、QBに課税することで、一気に負債を帳消しできないか?


2.課税すべきは、QBではなくその裏にいる「一番悪い奴」!
 しかし、QBは、「僕らのエネルギー回収ノルマは、おおむね達成できたしね」 と言っているように、単なる営業マンに過ぎない。
 営業マン個人に対して課税できるのは、所得税であるが、その対象はQB個人の所得、つまり月給や、宇宙赴任手当*2、ノルマ達成ボーナスくらいである。この程度では、日本政府の負債を帳消しにすることはできない。
  やはり、QBにノルマを課して、エネルギーを吸い上げている主体が問題だろう。いってみれば、目的実現のためなら平気で人倫にもとるような行為をする電力会社が莫大な利益を上げているのであり、これを便宜的に宇宙電力株式会社(TEPCO*3と呼ぼう。


3.税法の基本的な考え方
 法人税法は、「益金」と「損金」と「所得」という3つの概念で税金を計算する。
 益金というのは別段の定めがなければ、会計上の収益である*4。収益は、魔法少女から得たエネルギー等であろう。
 損金は、別段の定めがない限り、原価、費用、損失である*5。奇跡を起こすのにかかったエネルギーや、ほむほむに殺されたQBへの*6補償が考えられる。
 そして、益金から損金を引いたものが所得とされる*7
 魔法少女からの莫大なエネルギーを日夜獲得している宇宙電力株式会社の所得は莫大だろう。
所得に税率を掛けたものが*8納めるべき税金ということになる。日本の法人の実効税率は約40パーセントと言われるので、QB達が得た莫大なエネルギー相当額の40パーセントは税金でもっていける。


 4.犯罪で得た収益でも良いか
 ここで、宇宙電力株式会社は、いたいけな少女を騙して魔女に落とすという犯罪行為でもって、収益を上げている。犯罪による収益も課税していいのか


この点、昭和17年頃の通達では違法収益には課税していなかったが、*9昭和23年の通達で方向転換し、違法収益にも課税するようになった*10現在は違法な利得も所得であることにほぼ異論はないとされる*11


 そう、思春期のいたいけな少女を食い物にして得た違法な収益も課税の対象である。


5.QBはPEである!
 ところで、宇宙電力株式会社は、宙の会である。こんな会社から法人税をぶんどれるのか?
 ここで、法人税法は、「内国法人」という概念を設ける。いわゆる日本の会社とイメージしてもらえば良いだろう。「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」が内国法人である*12
 そして、法人税法2条1項4号は「内国法人以外の法人」を外国法人と定義する。そう、アメリカに本店がある会社はもちろん、宇宙に本店がある会社も、法人税法上は「外国法人」である。


 ここで、外国法人については、そもそも「国内源泉所得」つまり日本で得た収入しか日本は課税できない。二重課税を防ぐためである*13
 しかも、国内源泉所得のうち、事業所得、つまり、エネルギー収集等の事業によって得た所得の課税に関してはPE(恒久的施設)なくして課税なし*14という原則がある*15
 結構分かりにくいが、要するに、たまたま従業員が日本にやってきて契約を結んだだけで課税するのはひどいじゃないか、日本に支店等の恒久的施設(Permanent Establishment)がある場合にはじめて課税しようという原則である。


 宇宙電力株式会社は、QBがいるだけで、日本に支店はない。そこで、PEがないようにも思われる。
  しかし、法人税法は課税するために広い網を張っている。まず、QBが営業マン、つまり宇宙電力株式会社の従業員であれば、QBがまどかの家に泊まり込み、契約を勧誘するのは、まさに、アメリカの会社が日本のホテルに営業マンを泊まり込ませて営業をかけているのと同じである。所得税法基本通達164ー3は、アメリカの会社がホテルに営業マンを住みこませる場合のホテルは支店と同視できるとした*16
 鹿目家は、宇宙電力株式会社のPEだったのである!


 また、QBが、従業員ではなく、代理人として活動している場合も、PEに当たる。
 これを代理人PEというが、外国法人のために、その事業に関し契約を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する者は、PEにあたるのだ*17
 QB自身がPEになり得る!


 そして、PEがあれば、日本における事業所得は全て課税対象となる*18。外国で魔法少女から奪ったエネルギー分は課税対象にならないが、まあ、それは魔法少女の属する国が課税できるはずなので、やむを得ないだろう。
日本は現行法を正しく解釈適用することで、宇宙電力株式会社から、大量の税金をぶん取れるのである!

まとめ
法人税法は、宙の会社からも税金をぶんどれる素晴らしい法律である!
かわいそうな被害者である魔法少女の救済のためにも、日本の財政の立て直しにも、莫大な収益を上げている違法団体を野放しにする訳にはいかない。
まさに、魔法でも、奇跡でも、利益が出たら「税金」があるんだよ!

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*1:いわば、奇跡を売ってエネルギーを代金としてもらう悪徳商法ですね。

*2:いい会社だと、結構な額の外地赴任手当が出たりしますが、最近は経費削減のしわ寄せが来ているようです。

*3:Taking Energy from the Pubescent COmpany, Inc.、直訳すれば「思春期の少女からエネルギーを取得する会社」

*4:法人税法22条2項

*5:法人税法22条3項

*6:労災?

*7:法人税法22条1項

*8:基本的には

*9:戦後の混乱期で税収が欲しいので、闇市等からでも税金をとりたかった

*10:行政法的には、「通達でいいんか?」という点が問題になるが。

*11:三木義一「よくわかる税法入門」70頁

*12:法人税法2条1項3号

*13:法人税法138条1項、141条

*14:法人税法141条4号

*15:三木義一「よくわかる国際税務入門」90頁

*16:法人税法施行令185条1項3号

*17:常習代理人法人税法施行令186条1号

*18:法人税法141条1号、3号イ