アホヲタ元法学部生の日常

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麻雀と賭博罪についての一考察

賭けマージャンはいくらから捕まるのか?―賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点

賭けマージャンはいくらから捕まるのか?―賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点

1.はじめに
 最近、当ブログの
賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜咲〜saki〜の「謎」解明にも示唆的な弁護士の研究 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
に、再度アクセスが急増した。その原因は、ご存知、フリー雀荘逮捕事件であり、多くの反響を呼んでいる。いろいろな界隈におけるいろいろな方向性の反応があるが、以下、
近代麻雀漫画生活:テンゴ雀荘で逮捕とかこの国の警察は何なの?バカなの?
等が代表と言える界隈の反応を法的に考察したい。なお、道義的にどうかといった、法的な問題以外の問題は多いが、この点については、本エントリの検討の対象外であることをご理解いただきたい。


 この問題は極めて根深く、先行研究も、津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」等があるので、筆者が屋上屋を架すことではないかもしれないし、完全な答えにはなっていないが、現時点の一応の考えを以下述べたい。


2.不公平捜査と裁判所の考え
 基本的に、上記のような反応の主眼は「多くの雀荘でお金のやりとりがされているのになぜここだけ強制捜査をするのか」という点であろう。
 ここで、不公平捜査については、「公訴権濫用論」刑事訴訟法学会で形成されてきた。
  これは、起訴をするかを決める検察官が裁量権を逸脱すれば、この起訴が無効になるという議論である。最判昭和55年12月17日*1チッソ川本事件)は、検察官は起訴するかどうかについて裁量があるが、「検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできない」とした。すると、捜査の問題が著しいものであれば、そもそも起訴して有罪にすることができない可能性がある。


 もっとも、この点はハードルが高い。同判決は、公訴の提起が無効になるのは「たとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」とされ、その後、選挙違反事件で、「接待した町長は送致すらされないのに、接待された側だけが起訴された」事案でも、公訴権濫用が否定された*2。その後公訴権濫用が認められたのは、山口簡判平成2年10月22日判例タイムズ752号251頁くらいである。


 そもそも、公訴事実を離れ、被告人以外の捜査経緯まで明らかにして不公平がなかったことを立証しないといけないのでは刑事裁判の自殺だ*3とまで言われており、「他の雀荘では問題とされていない」ことを理由に、法的に訴追できないとか、捜査が「違法」というところにダイレクトに結びつけるのは難しい*4刑事訴訟法的な捜査・(今後あり得る)起訴の違法性という議論には限界がある。


  もっとも、選挙違反事件の最高裁判決は、

被告人が、その思想、信条、社会的身分又は門地などを理由に、一般の場合に比べ捜査上不当に不利益に取り扱われたものでないときは、かりに、原判決の認定するように、当該被疑事実につき被告人と対向的な共犯関係に立つ疑いのある者の一部が、警察段階の捜査において不当に有利な取扱いを受け、事実上刑事訴追を免れるという事実があつたとしても(中略)そのために、被告人自身に対する捜査手続が憲法一四条に違反することになるものでない
最判昭和56年6月26日刑集35巻4号426頁

とする。*5本件につき、「メイド風なのがけしからん」といった、平等原則に反する差別的な理由で不当に取り扱われたというのであれば、これは捜査手続の違法(違憲)の可能性が出てくるだろう。本件における捜査関係者の意図が憲法14条に反するものなのかは、報道資料だけでは判断がつかない。


3.「一時の娯楽に供するもの」の解釈と社会通念
   上記の反応の根本原因は、少額の賭け麻雀がなぜ刑法犯なのかと思われる。
 この点は、刑法185条に関わる。

刑法第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。


 この「一時の娯楽に供する物」について、昔の判例は、「金銭は其の性質上一時の娯楽に供せらるる物に非ず」(大判大正13年2月9日大審院刑事判例集3巻95頁)として、いくら低額を賭けても金銭なら賭博罪になると判示した。
 しかし、近年は、国会で法務大臣が「社交儀礼の範囲」であれば賭博にならないと答弁する*6 とか、警視庁が「少額の賭けなら問題ありません。ただ、具体的な金額は言えません。娯楽の範囲内なら大丈夫ということです」と回答する*7 等、本判決が変更され、低額ならお金を賭けても「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」と解される余地はあるだろう。


 問題は「娯楽の範囲」「社交儀礼の範囲」の程度である。
 残念ながらクリアな回答は用意できていないが、ここで参考になるのが、津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」のアプローチであり、例えば、東風戦は東南戦よりもスピードが早いので、より低いレートでも問題になり易い等という分析は参考になる。



4.麻雀合法化の方策
 ここで、津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」は、麻雀合法化のため、フリー雀荘がレートも含めて営業許可を申請し、許可をもらうようにする*8という方法を提案される。
  確かに、上記のとおり一定以下のレートであれば、娯楽の範囲と判断される可能性があるところ、公安委員会が当該娯楽の範囲のレートについて、フリー雀荘の申請を許可すれば、いわば「娯楽の範囲」というお墨付きを得、安心して麻雀ができるようになる。  もっとも、国会公安委員会がこれに応じるかといった難しい問題はある。


 もう1つの考えは、映倫」のような自主規制機関による基準策定である。
 有識者が参加して、上記の「娯楽の範囲」「社交儀礼の範囲」の基準を定めて公表する。これを守らない「鉄火場」が規制されるのは止むを得ないが、これを遵守することで、「娯楽の範囲」「社交儀礼の範囲」と認められる可能性は高まる。
 これに対しては、裁判所は自主規制機関の判断とは別個に賭博罪該当性を判断するという批判がある。確かに、 黒い霧事件で、東京高裁は、映倫を通った映画は客観的に見ればわいせつだとした*9。そもそもその裁判所の判断の合理性・妥当性については議論があるが、自主規制機関ルールが裁判所に否定される可能性はある。
しかし、上記判例は、映倫に通ったから大丈夫だろうと思った上映関係者には故意(犯意)はなく、わいせつ物公然陳列罪は成立しないとした。権威ある自主規制機関の判断を信じることで無罪になる可能性という点を考えれば、自主規制機関という方向性は無駄な努力ではないと思われる*10

まとめ
 刑事訴訟法的には、仮に(当該雀荘でお金が動く速度等を総合して)「一時の娯楽の範囲」を超えているのであれば、検挙の不公正が違法捜査・違法起訴と言えるのは、差別的意図等が認められる場合に限られる。そこで、本件を超えて一般的な問題として考察するのであれば、刑事訴訟法ではなくむしろ刑法の問題として考えた方が生産的だろう。
 確かに、「ムダヅモなき改革」でタイゾーがやったような*11、高レート麻雀を認めることに社会的意義は少ないことから、賭博罪全面廃止まで行くことには躊躇を覚える。 しかし、健全な娯楽の範囲の麻雀が安心してできるようにする方向の議論をすることには社会的有益性が認められるのではないか。
  非常に難しいが、政治的解決が可能なら、津田先生のご提案のレート許可制度は魅力的である。
 それに対するオルタナティブになるかは分からないが、レート自主規制機関の設置も検討の余地があるのではないか。
 いずれにせよ、この問題は、国民的議論が必要な問題である。

*1:刑集34巻7号672頁

*2:最判昭和56年6月26日刑集35巻4号426頁

*3:渡辺咲子「判例刑事訴訟法講義」265頁。なお、「公訴提起を無効なら閉める(258頁)」とかの誤記は、しっかりしていただきたい。

*4:なお、本件以前に、都内で垂れ込みを原因としてテンゴフリー雀荘が検挙された事案があることは、津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」28頁参照

*5:この判例の射程は問題になり得るが、

*6:津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」57頁

*7:津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」36頁

*8:津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」163頁

*9:東京高判昭和44年9月17日判例タイムズ240号115頁。確定

*10:  なお、自主規制機関が幇助罪で検挙されないよう、自主規制機関は、「刑法185条の解釈を検討し、発表する」機能に純化すべきで、雀荘のレートの認証等はしない方がよいのではないだろうか。

*11:ムダヅモ無き改革〜小泉元総理の行為は合憲・合法! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常