アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

日弁連調査に見る弁護士の実態

自由と正義の法理念―三島淑臣教授古稀祝賀

自由と正義の法理念―三島淑臣教授古稀祝賀

  • 作者: ホセヨンパルト,竹下賢,酒匂一郎,田中成明,笹倉秀夫,永尾孝雄
  • 出版社/メーカー: 成文堂
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 10回
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
注:「自由と正義でAmazonを検索したところ、本稿で扱う雑誌が販売されていないため、止むを得ずイメージ映像となっている。なお、著者の一人であるホセ・ヨンバルト先生の本を昔レビューしたことがある*1


「自由と正義」という雑誌がある。日弁連の出している月刊誌である。懲戒の公告が載っているので、ここだけを読む人も多いのではないか*2
  さて、近時刊行された自由と正義臨時増刊号(第6巻6号臨時増刊号、通巻749号)は面白い。テーマは「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書」である。
 要するに、約1800人の弁護士*3にアンケートを取り、様々な実態を調査したデータが詰まっている。
 数字の細かいところを見るのもそういうのが好きな人にとっては面白いだろうが、一般向けの読み方は、色々な切り口からデータを分析したコラムを読むことだろう。もっとも、失礼を承知であえて感想を直裁に言えば、コラムの筆者の先生方は、いろんなところに遠慮しているのか、若干踏み込みが甘い感じを受けたので、代表的なコラムの内容を簡単に紹介し、独断と偏見で分析をしたい。


1.ノキ弁、即独の実態(本誌47〜48頁)
 まず、アンケート回答者数は少ないものの、いわゆる「ノキ弁」や即独・準即独弁護士の実態が調査されていることは特筆に値するだろう。
 ノキ弁は、事務所から給料をもらう弁護士(「イソ弁」)になれず、軒先(机)だけ借りて、固定給はなく、自分の個人事件収入と、事務所との共同受任案件の収入で暮らす弁護士である。
 即独は、弁護士登録して即時に独立した弁護士である。


 いわゆる60期代のノキ弁*4で、アンケートに協力したのは9人であった。まず、33パーセント(2人)は事務所との共同受任案件がない(66パーセント、6人は共同受任案件がある)というのは興味深い*5。同じノキ弁でも、共同受任して仕事を回してくれるのと、仕事をくれないのでは、大きな差があるだろう。あるノキ弁の方が、共同受任をして懇切丁寧に教えてくれる軒先の先生に感じ入り、他の事務所からの「勤務弁護士にならないか」との引き抜きを断ったという話を聞いたことがあるが、そういう「(固定給のない)実質イソ弁」と、まさに軒先を貸しているだけの場合では、レーニングという意味で全く違うだろう。軒先を貸しているだけだと、「安い家賃の即独」みたいなものになるが、即独と違ってあまり弁護士会等からの支援も受けられず、辛い立場にあるのではないかと想像してしまった。
  本件調査によれば、ノキ弁の職業生活への満足度は、その他の弁護士より低い*6そうであり、世間のイメージと合致する結果となったそうである。
 

 また、即独・準即独者のアンケート回答者は15人であった。これもサンプル数が少ないが、即独者のアンケート分析は貴重である。15人の中の、いわゆる会社員経験者が8割であり、これを「社会経験を生かしてすぐ独立した」とみるか、「比較的年齢が高く、就活で不利に扱われた」と見るかは見方が分かれるところだろう。
  即独者の80パーセントが広告を出している。なお、広告のメディアについて「ホームページかブログ」が40パーセントとあるが、質問項目に「Twitter」「フェースブック」はなく*7、現代的なSNSを活用した広告手法へのフォローが甘いのは、悔やまれる*8
  即独者が情報を得る経路は、「書籍・雑誌」が有意に高く、「判例・文献検索ソフト」が有意に低いそうである。判例・文献検索ソフトを揃えるのは相当多額の支出が必要なので、初期費用が安い書籍雑誌を活用しているものと理解できる。
 なお、本調査とほぼ同時期に行われた62期修習弁護士の就業調査によれば、「大学院の講師をしたかった」「別の収入源がある」といった、前向きな理由の即独もあるそうであり、この点、「かわいそうな人」という即独者への*9一般的見方が偏見の可能性があることを示唆している。


2.ロースクール出身者(本誌210〜211頁)
この調査は 10年毎の調査*10であるが、十年前のアンケート回答者にいなくて、今回の回答者にいるのが、法科大学院出身者である。
   まず、本誌コラムは、法科大学院出身者と、旧試験合格者*11男女比に有意差があり、法科大学院出身者が女性が多いと分析する*12。ただ、本誌も認めるとおり、「若い人は女性が多い」というだけという分析もでき、必ずしも、法科大学院制度により女性法曹が増えたということではないだろう。
 また、30代以下の回答者中で、法科大学院出身者(62.7パーセント)が、旧試験合格者(68.1パーセント)より、弁護士への志望動機が「経済的動機」である人の割合が有意に少ないと分析されている。経済的目的で弁護士になるのではなく、お金にならなくともやり甲斐がある仕事をしたいのが法科大学院出身者ということだが、奨学金と修習時代の貸与金の返済を考えると、単なる動機・目的に留まらず、「本当にお金にならないがやり甲斐がある仕事ができているのか」が大事だろう。
  本誌は、「社会的弱者や少数者のために仕事ができる」という項目について「不満である」とした人の割合において、法科大学院出身者の方が旧試験合格者よりも多いことを指摘しているが、「なぜ、法曹になった動機・目的はお金のためでなく、やり甲斐がある仕事のためという人が多い法科大学院出身者が、社会的弱者や少数者救済の仕事ができず不満な割合が多いのか」を掘り下げて分析する必要があると思われる。
 なお、本誌の分析が甘いと思われるところを1つ挙げよう。「他から干渉されずに自由に独立した仕事ができる」という点においても、30代以下の弁護士のうち、法科大学院出身者の場合の「不満」と感じている割合が、旧試験出身者より高い。本誌はこれを「(法科大学院出身者が)仕事の独立性の確保について、不満を抱えている姿も明らかになった」と評している*13。しかし、旧試に大卒後早々と受かる人だと、30代後半なら既に10年以上弁護士をしててもおかしくない。これに対し、法科大学院制度ができた時期に鑑みると、法科大学院出身の回答者はせいぜい数年しか弁護士をやっていない訳である。10年以上弁護士をやっている経営者弁護士と、数年目の新人について「仕事の独立性」を比較しても意味がないだろう。ロースクール出身の5年目未満と、旧試験出身のうち弁護士経験5年未満の者同士で比較しないと意味がなく、「30代以下」で比較するという手法自体が統計的に問題があると思われる。


3.その他
 その他、タイム・チャージの額の平均が3万3860円*14で、最も多い(36.5パーセント)のは2〜3万円ということであった*15
ただ、刑事弁護や法律扶助案件、それに近いあまりお金がとれない案件では、タイム・チャージ制度は取れない*16
 その意味で、「裕福なお客さん相手」という前提がある金額であって、一般化できる数字ではないだろう。


 また、経営者弁護士になるまでの平均は、全体で6.7年だが、東京だと7.8年で、地方*17は5.4年だそうです*18。東京の競争が*19激しく、なかなか簡単に独立できない状況が数字に現れたのでしょうか。


 更に、日本の弁護士のキャリアパスは、3分の2以上が5人以下の事務所からスタートし、移転回数は0.7回。概ね小規模一般事務所の枠内で多数回移動することなく、勤務弁護士から経営者弁護士に移行すると論じられている*20

まとめ
本調査は60もの細かい質問を忙しい弁護士先生に投げかけたため、回収率が18パーセント弱となっており*21、属性の偏りが懸念される。また、分析にやや甘いところが見受けられる。
このような限界はあるものの、本調査は現代の弁護士の実情を推測する上では興味深い資料を提供しており、ロースクール生や弁護士を考えている法学部生は必見であろう。

*1:「とある教会法のインデックス」〜カノン法の概要 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*2:コンテンツの平均的な面白さという意味では、個人的にはマニアックな「裁判所時報」を押したい。次は「家裁月報」(美味しんぼと家族法〜山岡士郎が「法律的」に「山岡」と名乗る方法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常参照)か。

*3:有効回答数

*4:つまり、「学者出身で今も大学を本拠とし、事務所に席だけ置かせてもらっている」といった形式的意味のノキ弁だが、実質的意味のノキ弁ではない人等を除くということ。

*5:ここの数字が間違っている気がするのは気のせいだろうか・・・。

*6:なお、「有意に低い」のだろうか。この部分だけは「有意」性の話が書かれておらず、若干怪しい。なお、これ以外のコラムの多くの分析においては、1パーセント基準や5パーセント基準で「有意に◯◯」という比較はされている。

*7:53頁参照。「その他」なんでしょうね。

*8:Twitterフェースブックを使って一年目から大幅な黒字を達成した若い即独者の事例」とかがあってもおかしくないが、「その他」にいっしょくたにされているため、浮き上がってこない。

*9:結構

*10:毎回回答率が減っている傾向にあるのはなんででしょう?

*11:正確には「法科大学院出身者以外」だが、分かりやすくするため、以下こう書く。

*12:本誌210頁

*13:本誌211頁

*14:時給という意味ではない。請求の基準値という意味で、そこから経費等を引いたのが実質的実入り。

*15:本誌108頁

*16:刑事弁護をタイム・チャージでやる事務所はあるんでしょうか?強制わいせつで2000万円取って懲戒になった弁護士がいると聞きましたが、1時間5万円(パートナークラス)で400時間(否認だと、この位になるのは十分あり得るそうです。)やれば2000万円ですよね・・・。そもそもタイムチャージは企業法務だけで、企業法務事務所は刑事をやらないってことかな。

*17:高裁不在地

*18:本誌216頁

*19:相対的に

*20:本誌228頁

*21:本誌7頁